マテリアル・ツインズ 《Material・Twins》   作:グラタン二世

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Episode.2

 

 数メートル程離れた所にいるのは2人の男達。名前を叫んできた方は茶髪で長髪なのか髪を結っている。何も知らず遠目から見ると女性に見えてしまうほどスラッとしており、剣を既に構えている。

 もう1人は見るからに短気そうな赤髪で短髪の男だ。見た限りだと武器を持っておらず先の攻撃で魔獣を吹き飛ばした事から《幽術師》であると推測されるだろう。

 2人はどちらもWALLの象徴である白い壁が描かれているマントを羽織っている。それに加えて、どちらも腕にリングを付けており、まさしくWALLの者たちというような風貌だ。

 

「ちっ…!本業かよ…!」

 

 現在、魔獣に有効な攻撃として《幽力(ゆうりょく)》がある。これは身近にいる精霊を使役し、その精霊の力を使役した者が使えるというものだ。これができる者を《幽術師(ゆうじゅつし)》と呼ぶ。

 多くの精霊が確認されており、精霊達は人類に友好的である。特に友好的なの精霊は紫、輝、玄だ。これらはかなりの昔から人々と交流していて、契約人数も多い。

 

「カイト、どうする?」

 

「どうするかって?そりゃ逃げるしかないだろ」

 

「まぁ、そうだよな」

 

 相手は確実に魔獣と数年近く戦っているような奴らだ。2年程度しか鍛錬を続けていない自分達では勝てる理由が無いと、カイトは判断する。

 それに加えてカイト達は魔獣絡みの戦いは多く経験しているが、人との戦いは経験はゼロに等しい。強いて言えば子どもの頃に大喧嘩して取っ組み合いになったことだろうか。

 

「…メガロ。俺が時間を稼ぐからアレの発動を頼む」

 

「正気か?成功するとは限らないぞ」

 

「失敗したら失敗しただな。やる価値はある」

 

「……やってやるよ」

 

「そうこなくちゃ」

 

 彼らはこの場から逃げることを決断する。そのためにはメガロの力が必要なのだが、発動には少しだけ時間がかかるため、カイトはそれから目を逸らすために1歩前に出て声を張り上げる。

 

「お前ら!何で俺達の名前を知っている!」

 

 突如として声を張り上げたカイトに、茶髪の男はこちらに向かいかけるが、叫んだ言葉が質問だと分かるとすぐに答えてくれた。

 

「…ある所から情報提供を受け名前を把握した。詳細は伏せるがな」 

 

「そうか!じゃあお前達の名前も教えろ!フェアじゃないだろ!」

 

「俺はフラス・ブライト。そっちの幽術師はホムラ・ラスノートだ」

 

「ありがとな!把握したぜー!」

 

 精一杯声を張り上げる。目を逸らすついでにWALLに所属している者の名前も知れて一石二鳥だ。能力の発動にはあと数秒程かかりそうなので、また息を吸い質問を続ける。

 

 「なんで俺たちを見つけられた!」

 

 2年前の災害が起きてからミナミのクニでは特に魔獣の発生が増加していたためか、WALL本部は《センターマリア》からここへ移転していた。

 ミナミのクニは他のクニに比べると広大なので、人1人を見つけようとするのは困難であるはずなのだが、彼らはカイト達をピンポイントに見つけだした。

 もし、今の今までずっと監視されていたのなら相当な尾行スキルを持っている者がいることになる。

 

「言えない。が、お前達を捕まえる必要はある」

 

「その理由はなんだよ」

 

「………さっき言っただろう?」

 

 無許可での魔獣狩りで拘束する、とフラスは言っていた。いくらWALL本部があるミナミのクニと言えどこんなにピンポイントで出会ってしまうものなのだろうか。どうにも不可解だとカイトは少しだけ顔をしかめながら口を動かす。

 

「俺達を探ってたのか!いつからだ!」

 

「言えない」

 

 この時点でカイトは、彼らが情報を落とす気は無いと確信した。いくら質問をしても返ってくる答えは同じだろう。

 次の行動はどうしようかと思考していると少しだけ後ろにいるメガロから話しかけられる。

 

「…準備できたぞ」

 

「了解」

 

 すぐに手を後ろに回し、彼らにバレないように幽力を使う。カイトが使役できている精霊は玄、輝。今から使うのは輝の精霊の力。輝の精霊は光を司る。かなり便利な力だ。

 

「最後の質問だ!」

 

「早く言え」

 

 最後は今までよりもさらに声を張り上げる。まだこの作戦がバレていないと信じて続行する。

 

「じゃあな!『ルクサ』!」 

 

「『ワープ』」

 

 後ろに回していた手を思いっきり前に出して技名を叫ぶ。カイトが使用した技は至極単純で光の玉を生成し、それを投げて目くらましができるもの。

 メガロが使用したワープは紫の精霊の力だ。紫の精霊は空間を司る精霊であり、他にもポータルの生成などができる。

 本来技名は叫ばなくても良いが、叫んだ方が精霊達が何をするのかより理解してくれて出力が上がるために技名を叫ぶ者が多い。

 

───頼む、成功しろ

 

 技名を叫んだ後、メガロは心で願うしかなかった。ワープはまだまだ未完成。成功する確率はたった10%程。こんな土壇場で成功するとは到底思えない。

 

「そう来ると思ったよ」

 

「あ、」

 

 ワープは失敗した。しかも相手は目くらましが来ることが分かっていたかのように目を手で隠しながらこちらへ向かってくる。

 

「クソッ…!」

 

 フラスは数メートル離れた所から一気に距離を詰めてきた。彼は既に剣を抜いていたので、少し前に出ていたカイトに斬りかかる。

 カイトはすぐに作戦が失敗した事が分かったのでなんとか剣を鞘から抜き、迎撃に成功する。少し遅れてたら負けていたかもしれない。

 

「今ので剣を抜けるか。素晴らしい反射速度だ」

 

「そうか!ありがとうな!」

 

 フラスから出た言葉は純粋な賞賛だった。ここまでの速度で剣を抜けた者を彼は見たことはない。フラスはカイト・ミラエルに興味を持ち始めていた。

 

「ふっ…!」

 

 カイトはフラスに斬りかかった後、少し離れてしまっていたメガロの方へ行く。

 

「チッ…!」

 

 メガロを捕まえようと動いていた赤髪の男を斬りつけると舌打ちだけしてフラスの方へ戻って行く。これでカイトとメガロは合流できた。

 

「カイト…助かった」

 

「いや、まずいぞ。逃げる手段が無くなっちまった」

 

「…すまない。俺がミスったから」

 

「仕方ねぇよ。もう戦うしかないな」

 

「……クソッ」

 

 戦う選択をしなければならないと彼らは思い込んでいる。対話だって出来たかもしれないけれど──

 

「……お前ら、武器を捨てろ」

 

「は?無理に決まってんだろ」

 

「お前達には話すことがある。だから着いてきてくれ」

 

「無理」

 

 突然武器を捨てろと言われても捨てられる訳がない。着いてきて欲しいなんて言われても怪しい所が満載すぎるのだ。

 

「頼む。こちらも武器を捨てよう」

 

「だから無理に決まってんだろ!」

 

 そう言ってフラスは武器を土に置く。本当に彼は戦う意思は無さそうだ。しかしカイト達に戦わない理由は無い。彼が武器を置いた瞬間、カイトは思いっきり走り出しフラスに斬りかかる。だが、『ルーベス』という声が聞こえ、朱いボールのようなものがカイトに直撃する。

 

「熱っ!」

 

「お前、馬鹿かよ」

 

 その剣が当たる前に、ホムラが朱の精霊──炎の力を使ったのだ。出力をしっかり調整しなかったのかかなりの温度に見える。

 

「痛ぇな、おい。熱ぃし」

 

「戦う意思が無いのに攻撃したからだろうが」

 

「お前達など信用できない。だからここで倒れて貰う!」

 

 そうだ。WALLの奴らなど信用できない。2年前、故郷に救助すら来なかったのだ。俺達のことなんて考えたことがないに決まっているとカイトは結論づける。 

 

 「メガロ。やるぞ」

 

「あぁ」

 

 2人は話し合わなくても同じ結論に至った。それを行動で表すために動きだす。

 

「俺達はお前らに捕まる訳にはいかない!」

 

「そう、か。残念だ」

 

 言葉を発した瞬間、2つの剣は火花を散らし、幽術師達は自身が使役している精霊の力を存分に引き出すために叫ぶ。

 

───こんな所で終われるか。

 

 それが今のカイトとメガロ2人の行動理由だった。

 

 

   

 

 

「……危なかったな」

 

「肘打ち食らったんだが。あり得ないぐらい痛い」

 

「はは。不意を突かれたか?」

 

「確実に倒したと思ったらまだ意識があった」

 

 森の中での戦いは数分で決した。勝利したのはフラス達、WALL側である。カイト達はかなり善戦した様子だったが既に意識を失っているらしく土の上に転がっている。

 

「終わったか〜?」

 

「何しにきた。フェル」

 

「勝てたか確認に来ただけだよ」

 

「そんなに弱く見られてたか」

 

「それよりも聞きたいことがあるんだよね」

 

 フラス達の前に現れたのは仮面を付けた白髪の老人。その老人は口を開きながら頭にも手を伸ばし──

 

「僕の演技どうだった!?」

 

 カツラを外すと白と赤が混ざった髪が現れる。

 

「良かったんじゃねぇの」

 

「通信機で聞いてても正に老人って感じでした」

 

「そうか!?そりゃ良かった」

 

 その老人──いや、青年は演技が上手くいったことが余程嬉しかったようで少々興奮気味だ。こんなノリでも実はフラスやホムラよりも年上らしいのが若干の気まずさを醸し出す。

 

「このまま本部に行くのか?」

 

「そりゃ行くだろ」

 

「一旦小屋に寄らないか?せっかく飯も作ったし」

 

「……却下で。行くぞホムラ」

 

「分かった」

 

「はぁ?お前らせっかく作ったんだから──」

 

「近くにいるお前の弟子にでも食べさせておけ」

 

 そう言ってフラスとホムラは目標(カイト・メガロ)を担いで走り出した。帰りは馬車を用意しているのでそこまで持って行けば安泰だ。取り残されたフェルはポツンと呟く。

 

「え、僕は…?」

 

 悲しいかな。彼は暗い森の中で1人になってしまった。そこに偶然運悪く数体程魔獣が現れる。普通の人間ならここで魔獣に食い殺されて終わりだろう。だが、彼は違う。

 

「は〜ダルいって」

 

 本当に本当にダルそうな顔を仮面の奥でしながら呟く。

 

「『ルーベス』」

 

 運が悪いのは彼ではなく──この場に居合わせてしまった魔獣達である。その言葉が聞こえた直後、襲いかかってきた魔獣は塵と化す。

 

「ふぅ…。あいつらに飯奢るか…」

 

 彼──フェル・ギリウスの肩書きは《赫》。

 

現在は朱の大精霊と契約し、2年前の大災害《ディアーボルス・フラッド》を終結させた紛うことなき英雄である。

 

 

 

   第2話 未熟

 

 

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