マテリアル・ツインズ 《Material・Twins》 作:グラタン二世
───訓練開始から1週間。
「そこそこ形になってきたな」
「だが、カイトは対人戦闘が下手だ」
「下手だが幽力の使い方だけは良い。目眩まし等も十分戦闘では力になる」
訓練はカイトをフラスが。メガロはホムラが見ることになった。 下記のレポートは訓練開始1週間時点でのものである。
【レポート1】
数回程手合わせした結果カイトは剣技の才があることが分かった。だが、まだまだ粗い部分が多い。もっとその才能を伸ばすために1日での指導回数を増やすことにする。
【レポート2】
メガロは幽力を使う才がある。しかし、武器の使い方があまり上手いとは言えないので 戦闘した時に使おうとしていた『ワープ』の成功確率をほぼ100%にしたい。
そのためには紫の精霊との触れ合う回数を増加させる必要がある。戦闘よりも戦闘補助の方が向いている可能性が高い。
【レポート3】
両名とも対人の戦闘に慣れていなかっただけで、魔獣との戦闘に関しては才が多大にあり対魔獣訓練に於いては何ら問題なさそうである。これからの成長によっては多くの仕事を任せられる。期待大である。
───訓練開始から2週間。
「これいつまでやるつもりなんだ」
「分からん…」
訓練の内容は大体が基礎訓練。正直言えばつまらない。今すぐにでも逃げてやりたいけど、逃げたら逃げたで面倒なことになるので訓練が始まって逃げることはしないと決めた。
食事も満足に出るし、睡眠・休息もしっかり取れる環境なので大きな不満は無いが、彼らにとって1つだけ大きな不満がある。それは魔獣を狩りに行けないことだ。
いくらWALLに入れたところでまだ訓練生としての扱い。許可無しで本部の外には出れない。
「まぁ今日は本格的な戦闘訓練だし退屈はしないだろ」
「あれは楽しいから良いけどな」
週に3回、仕事で忙しいフラス・ホムラと戦闘訓練ができるが、2人は仕事が多いらしく合間を縫って訓練を行っているので訓練時間はそこまで長くない。
その少ない訓練時間で多くの知識を吸収し、カイトとメガロは新技も覚えることができた。たった2週間だがかなり実力が伸びたと2人は自負している。
「始めるぞ」
「「おう」」
この2週間でそれなりに4人は仲が良くなったように思える。中々全員で食事をする場面などはないが、内面を少しだけでも知れたような気がするのだ。
───訓練開始から3週間。
───訓練開始から1ヶ月。
───訓練開始から2ヶ月。
もうそろそろ訓練自体が面倒くさくなってきた頃。ついにその時は来た。朝、いつも通りに訓練場に集まったところフラスの口から嬉しい言葉が出てくる。
「仕事が回ってきた」
「え、マジか!」
「いつからやるんだ?場所は?」
「明日からだ。…場所は──」
オリングラ森林
「は、またあそこかよ。今度は嘘じゃないよな」
「今回は何も仕込んでない。本当の仕事だ」
「まぁいい。内容は?」
「前と同じだ。魔獣が発生しているらしい。このままだと近場の村を襲う可能性があるから対処しろと」
「なるほど…」
魔獣を狩れる。この長い訓練の中で手に入れた新技をようやく使うことができる。 その高揚感が2人を支配した。
「今日は早く寝て明日に備えろ」
「はいはい。了解」
やっと、魔獣狩りが出来る。自分達の夢がまた動き出す。早く寝るつもりだった彼らだが、興奮のあまりに寝つきは悪かったらしい。
WALLに入ってから初の仕事の時間がやってきた。場所はカイト達が捕まったオリングラ森林。馬車に乗りながら2人は文句を言う。
「もう来たくなかったぜ…!オリングラ森林…!」
「本当にな…」
仕事だから仕方がないが2人にとっては思い出したくないレベルの場所だ。後何十年かしないと忘れることはないだろう。なんならもう忘れないかもしれない。
「仕事依頼は近隣の村から。数名が森に入った瞬間から魔獣の気配があったそうだ」
「前はいなかったのにな」
「魔獣はいつ現れるか分からない。知ってるだろ」
「まぁ、な…」
魔獣は突然現れることが多い。突然目の前に現れ攻撃してくるものもいる。長い間魔獣研究を行っているはずだが、魔獣の習性を完全に把握することは困難だ。
「WALLでも分かってないのか?」
「中々、な。現れる可能性の高い場所に人を設置しても理解が及ばない」
「それを研究しろよ」
「……宗教の方が絡んできてな」
「あぁ…」
「曰く魔獣は《神》が遣わすナンチャラと言っていた。何を言っているのか本当に分からない」
「本当に意味が分からないな」
ホムラとフラスが頭を抱えて話す。この世界で《宗教》と言われるのは1つしかない。(それ以外にもあるにはあるが信者数がかなり少ない) それは《ネオ教》この世界を生み出したと言われる唯一神《ネオ》を信仰する宗教。
キタのクニに大教会があり、他のクニの有力者でも信仰する人が多い。 ネオからの教えは複数あるが一番有名なのは───
───全ては神からの贈り物
「着いたぞ」
本部からどれぐらい馬車で揺られたか分からないがオリングラ森林に着いた。馬車から降り森林の方を向くと確かに前とは違い魔獣の気配がする。
「さて仕事するか」
「了解」
森林へ足を踏み入れた。久しぶりの魔獣狩りだ。心が躍る。そして期待の応えてくれるのは魔獣だ。 目の前にいるのはチーターのような形をした魔獣。大きさだけがあるので素早く動くなどできなさそうだ。
「グルッ…」
「よう。久しぶり。殺しにきたぜ」
「グギャ…!」
剣を振るい魔獣の身を削る。傷口からは血を吹き出し少しだけ身体に付着する。 久しぶりに暖かさを感じる。今日からWALLの制服である白の制服と黒のマントを着ているが最初の仕事から汚してしまった。
「結構いるな。手分けしよう」
「俺とカイト。フラスとメガロで良いか?」
「あぁ」
4人が思っていたよりも森林内に魔獣がいた。何体かと数えると…1、2、3……大体10体ぐらい。手分けした方が効率が良いな。 奥側にいる魔獣はフラスとメガロがやってくれるらしいので手前側にいるのはカイトとホムラでやることになる。
「カイト。そっちは頼むぞ」
「任された」
近くには4体ぐらいなので数分で終わるはずだ。これが終わればメガロ達の増援に行こうと心の中で思う。
「よっと」
「ふっ…!」
朱の精霊を使役しているホムラが火を手から起こし、魔獣にぶつける。するとみるみる魔獣は身体が燃えていき最初の内はもがき暴れていたが次第に動きはなくなり燃え尽きた。
「カイトそっちにもう1体!」
「おけ」
実戦では久しぶりな輝彩を振るう。輝彩も魔獣を切れて嬉しそうだ。そして訓練の間に習得した新技をやってみる。玄の精霊を使用して──
「『
剣を横に振ると剣の軌跡が実体化する。それが魔獣に飛んでいき魔獣の身体に深い傷が刻まれる。 それを数回繰り返すと相手の身体はもうグチャグチャだ。
「はい、トドメ」
最後に1発押し込みこちら側にいた魔獣は全滅する。 玄の精霊は武器に付与するタイプの精霊。これを使用するとその武器専用の攻撃が出来るようになる。
「さて、あっち側助太刀するか」
「おぉ…そこそこいるなこっち側」
愛銃を手に取りながら意外と数がいた魔獣に少し面倒くさくなる。
「右側にいるのを俺がやる。左側はメガロがやれ」
比重は右が5。左が3。フラス側が少し重いがフラスは普通の魔獣には殺られない。 彼はカイトに教えた技『剣軌創生』の達人なのだから。
「初っ端から新技、披露してやるよ」
銃を構えて玄の精霊に技名を叫ぶ。
「『ランドロスビート』!!」
銃弾を一発放つと、その弾丸が玄の幽力を纏いながら数発に分けられ無軌道に魔獣に向かう。 逃げ惑う魔獣に2発程度が直撃。動きが少し止まったその瞬間に間合いを詰め、幽力を纏った拳で魔獣の身体を抉る。
「1体目…!次こいや…!」
残っている魔獣に銃を向け、すぐに技名を叫び弾丸を放つ。わざわざ技名を叫ぶ理由が威力が上がるからだ。
「おーいお助けマン来たぜ」
弾丸が直撃する前にあちら側で魔獣を倒し終えたカイトが飛び込んで来て魔獣の身体を裂く。
「はっ、いらねぇよ…!」
「嬉しそうな顔だけどな」
「うっせ」
フラスの方にはホムラが向かったらしく、すぐに魔獣が壊滅していた。
「フラス!ホムラ!終わったぞ!」
「こっちも終わった。一度集合しよう」
「合計で12体だな。討伐は完了したがまだ周りに残っているかもしれない。もう少しだけ周りを歩き確かめるぞ」
「了解」
戦闘時間は大体20分ぐらい。なんならそれより少ないかもしれない。快適な魔獣狩りだった。
「一応数日程度の監視も依頼されているから後で村まで向かう。宿は用意してくれている」
「最高。ついでに風呂も入りたい」
「分かる。さっぱりしたいよな」
「仕事が終われば待ってるのは事務だぞ。資料書かなきゃならん」
「聞いてない!」
「そりゃ今言ったからな」
「そういうのは最初の方に言うべきだろ」
「……伝えたと思っていた」
「嘘感すごいな」
仕事が終わった後も仕事かよ。魔獣を狩るのは良いけどそれ以外はクソか。もうWALL辞めたい。と2人の頭に面倒臭いが残る。魔獣狩りが終わった後報告書を書くなんて信じられない。なんて非効率な仕事なのだろうか。
「飯ぐらいは奢るから許せ」
「俺ら金ないから当たり前だろ」
WALLに入った時に持ってた金は全部没収された。金なんかあるわけないだろとカイト達は憤慨する。没収された理由としては犯罪で稼いだ金だからとのこと。かなり理不尽なようだが、そのお金はWALLにて正当に使われている。
「とりあえず周りを回るぞ」
「はいはい」
───歩き始めてから数分、それは突如現れる。 そこはかなり開けていて木が生えておらず空もはっきりと見えた。そこに少年のような人物がしゃがんでいる。
「……フラス。あそこにいるのはなんだ」
「……分からん。流石に魔獣ではないことは確かだが──」
あまりに普通の人とは雰囲気が違う。 武器も持っているようで彼も無許可での魔獣狩りを行っているのかとフラスは思い始める。だが、証拠はないので捕まえることはできない。
「とりあえず話かけるか」
そう言って近づくフラス。近づくと鮮明に彼の身体が見える。緑色の髪に黒いマント。マントに描かれているのは熊…だろうか。あとそこまで身長は高くないように見える。
「おい、あんた───」
「は?誰だ───ッ…!」
返答しようと緑髪のやつは顔を上げたが、瞬間驚異的なスピードで動き、鞘から剣を抜き出す。
「まさか…?」
少し遠くに行った緑髪にフラスは届いてない問いを問いかける。 ───この時フラスは1つ疑念を持った。 これは、もしかしたら
そうなったらやるべきことは明白だ。簡単な命令を他の3人に出して自身も剣を抜く。
「俺が戦う。ホムラは俺のサポートを。カイトとメガロは万が一に備えとけ」
「「「了解」」」
────これが未来に影響を及ぼすなんて1人を除いて知らなかった