マテリアル・ツインズ 《Material・Twins》   作:グラタン二世

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Episode.5

 

 人は何かを怠ることが多い。それをいつしか『怠惰』と呼んだ。 その何かは人によりけり。だがやるべきことは変わらない。

 

───目を逸らすな。前を向け。停滞するな。

 

───さぁ、動け。さすれば道は開くだろう。

 

 そう教えてくれたのは()だった。

 

 

   ◇

 

「来ないならこちらから行くぞ」

 

 緑髪の男…。身長的には少年なのだろうか。彼はおどおどして一向に攻撃はしてこない。 普通なら抵抗しない相手に攻撃なんてしないが、こいつは異常な雰囲気がしたのをフラスは感知した。今ここで倒さなければならない。そんな雰囲気だ。

 

「ク…ッ…!」

 

 フラスがそいつを斬りつける。だが攻撃は当たらなかった。その理由は相手も剣を構え受け流したからだ。 

 

「こいつ…!」

 

  強い。普段のホムラ達よりもよっぽど強い。ここで負けるなんてことはできないので使えるものは使うために手を伸ばす。フラスが使役している3体の精霊の内の1体、翠の精霊を呼び出す。同時にメガロも能力を扱う。

 

「『フリーラ』」

 

「『カーテン』」

 

 翠の精霊は自然──風などを司る。対して朱の精霊は火を司る。フラスが翠の精霊を呼び出すのは、ホムラと協力してこの技を使う合図。

 

「…こ、れは」

 

「逃げ場はないぞ?」

 

 一定範囲に炎のカーテンができる。それが『フリーレ』の力でさらに広がっていく+相手に熱風が突き刺さる。 森林で炎を使う技を使うなって?燃え移らないようにもちろん対策している。翠の精霊の力で、木々に移る前に敵に飛ばすように設定している。

 

「グッ…!」

 

「さぁどうした」

 

 急に環境が変わったからなのか、中々こちらが倒れないからか元々おどおどしていた相手はさらに顔が青白くなっていき、少年は焦っているような気配がした。そろそろ決着をつけてやる。と、さらに攻撃のスピードを上げる。

 

「『剣軌創生』」

 

 フラスが最も得意な技をここで繰り出す。カイトにこの技を教えたのはもちろん彼だ。剣技だが遠距離でも攻撃の届く便利な技。剣使いなら知ってて損は無いがあまり知られていないようだ。

 使用者が少ない訳として、技を出すタイミングが難しいからという理由もあるだろうが、剣を戦闘で使う者が減少している事も挙げられる。

 

「ふっ…!」

 

 ずっと競り合っていたがようやく相手が崩れた。そのまま身体を真っ二つにするために剣を振り上げ、降ろす。

 

「痛ッ……」

 

 本当に少しだけ剣先が掠った。ようやくダメージを与えた。押し切れ。倒しきるんだ。と、前のめりになった瞬間緑髪の彼は目の前から消えた。

 

「う」

 

 気付いた時には後ろに奴は来ていた。もし一瞬でも遅れていたら大技を喰らいフラス死んでいた。

 

「お前そんな感じだったか?」

 

  さらに雰囲気が変わる。おどおどしていた感じはなくなり吹っ切れたような。その気配は殺気のような…それ以外にも形容できるような…。

 

「危ないな」

 

 突如として攻撃のスピードが増した緑髪の少年はフラスに防戦一方の態勢を取らせる。その状態では危険であるともちろんフラスは分かっている。

 

「来い」

 

「───」

 

 少年は何も声を発さず、ただ剣を構える。彼らには言葉など無くともする事は分かった。2人は同時に走り出し──

 

──一閃

 

「ッ…!」

 

「…いっ…っ」

 

 両名とも今回の戦闘初の明確な大きなダメージ。少年は腹を切られ片膝をつき、マントは破れ落ちた。対してフラスは肩を切られ血がポタポタと零れ落ちている。

 この程度なら幽力でなんとかなると、もう1度フラスは剣を構えたが少年は身体を動かさない。今なら拘束出来ると、少年に向かって痛みを抑えながら走り出す。

 だが、ほぼ喋らなかった少年が急に声を上げる。

 

「……これ以上は問題。仕方ない、か」

 

「…!」

 

  彼は不意に手を空に向け叫ぶ。 新しい攻撃をしてくると感じたフラスは1度止まり、防御態勢を取る。

 

「師匠…!」

 

  空間が歪む。それはこの場には全くそぐわない力だった。

 

──なんだ、これは。紫の精霊の力?にしては規模が大きすぎる。大精霊との契約クラスの力だ。まさか、相手には紫の大精霊との契約者がいる?だが、それは《センターマリア》の重鎮が契約しているはずで───

 

 色々な思考がフラスの頭を巡る。身体も頭も一時停止してしまったのが彼を逃す原因であった。

 

「あ」  

 

 声が漏れた時には遅く、少年は既に空間の前に居た。

 

「すみません…ミスです…」

 

彼はそれを言い残し歪んだ空間に入って消え、代わりに現れたのは数体の魔獣だった。

 

「クソッ」

 

 フラスが戦っていた炎のカーテンで包まれた場所に突如として魔獣が現れたのが見えた。それも1体ではなく複数体。

 

「ホムラ!!解除!!」

 

「了解!」

 

  フラスの叫び声で炎のカーテンは消滅。全体像がようやく見える。そこには何体もの魔獣が佇んでいた。

 

「魔獣だ!複数体!討伐せよ!」

 

「「「了解!!!」」」

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…疲れた…」

 

「何体いたんだよ…」  

 

 2回目の魔獣戦は一体何分戦っていたのだろう。かなり長い間戦闘していたような気がする。これが当たり前にある仕事なのかとカイト達は溜息を吐く。

 

「お疲れ。お前らがいて助かった」

 

  珍しく息切れしているフラスから労いの言葉がかけられる。それもそうだろう。彼は肩を切られているのだから。だが、もう幽力を行使しているのか傷を少しずつ癒やしていた。

 

「あいつはどうなったんだ?」

 

「…魔獣が出現した時に消えた」

 

「え?」

 

()()は──諸々からの推測になるが…《魔人》なんじゃないかと思った」

 

「《魔人》…?それはなんだ…?」

 

 真っ当な疑問をメガロはぶつける。知らないことが多すぎて、情報を伝えられる旅に頭がパンクするかもしれない。

 

「魔獣は大体の個体に知性はない。それは知ってるだろ?」 

 

「あぁ。それは一般常識だな」

 

「その魔獣の中に稀に知性を兼ね備え、人型の奴がいる。さらに幽力を持つのが《魔人》だ」

 

「そんなのがいたのか…知らなかった…」

 

「これは知らない方が普通だ。一般人にはこの情報は伝えられていないからな。WALLの所属か《センターマリア》周辺の者たちは伝えられてるが」  

 

 そんな重要な情報あるなら渡せよ。と彼ら2人は思う。情報を隠されるのは仕方無いことだがいくら何でも伝えるべき情報もあるはずだ。

 

「魔人が出現するのは稀だ。一般人に伝えていても忘れるだろう。魔獣の方が当たり前すぎてな」

 

「まぁ、確かに」

 

「だけどあの魔人は何かおかしかった」

 

「おかしかった?何が?」

 

「消える間際に「師匠」と言っていたんだよ」

 

「……?」

 

「まさか、それって…」 

 

「2体が、いや、それ以上の数が協力をしている可能性がある。あくまで全ては推測だけどな」

 

 魔人達がWALLの組織のようなモノを作っている可能性がある。しかし、これだけで判断するのは難しい。

 

「……村に行くのは中止。諸々を報告するために本部に戻るぞ」

 

「え、飯は?」

 

「本部に着くまで我慢しろ。報告は俺達がするからお前たちは先に休んどけ」

 

時刻は昼飯時を過ぎているぐらい。当然朝は食べたが仕事をしたあとはお腹が空く。

 

「村への報告は?」

 

「他の人員に任せるように伝えといてくれ。それと──」  

 

「…あぁ。分かった」

 

 目の前では良く分からない会話が行われている。正直めんどくさいと思いながら走り、馬車を待たせていた場所へ向かう。  

 

「さて、昼と夜は飯抜きだな」  

 

 フラスは先の戦いのマントを手に持ちながら呟きは森林内に小さく響いた。その頭の中は別の事柄で支配されていたのはこの場にいる誰も分からなかった。

 

───あれは、何なんだ

 

フラスはカイト達には言わなかったがもう1つ気付いていた事があった。緑髪の少年が、何かをしていた所には見慣れないモノがあったのだ。

 

 独特な形をした奇妙な物体。1番似ている形のモノは釘、だろうか。釘にしては異様に大きく、重そうに見える。とてもじゃないが触れたら呪われてしまいそうな禍々しい物体。

 それを完全に記憶したフラスはこれもWALLでの報告後、調査依頼をする事を決めた。

 

だが、この時フラスも気付かなかった事があった。それが判明するのはもう少しだけ先の話。

 

 

 

 

 

───未だ誰も知覚していない場所。

 

 

「よぉ、危なかったな()()。師匠に感謝しとけよ?」

 

「助かりました。ありがとう、ございます。あと、すみませ ん…」

 

「仲間を助けるのは当たり前だろ?というか仕事は完遂してるから謝るな。お前が一番働いてんだから」

 

「…はい…!」

 

 狭くもなく、広くもない。真ん中にテーブルと()つの椅子が置かれたシンプルな空間。

 

「もうすぐしたらみんなも来るでしょ」

 

「こういう会議で全員揃ったことあるか?」

 

「……さぁ」

 

  思いの外ほんわかした空間のようだ。そこに居るのはたった3人だけだが何やら会議が始まるらしい。

 

 

──待つこと数十分。もちろん誰も来なかった。これが当たり前のチームなので気にしないと言う風にこの場で1番リーダーっぽい青年は口を開く。

 

「まぁいいや。これからの行動について先に話そう」

 

 青年はテーブルに手を置きながら話し出した。

 

 

  

 第5話 魔人

 

 

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