マテリアル・ツインズ 《Material・Twins》 作:グラタン二世
青年は軽い口調でやるべき事を話していく。それはまるでゲームで遊ぶ約束をするみたいであった。
「活動すべきクニは後3つ。キタ・ニシ・ヒガシのクニだ」
「正確に言えば少し違うが。まぁ一番大変なところだな」
「正直他の場所はあちら側の人手が足りていないおかげでバレていない」
椅子は7つあるが現在座っているのは3人。その中でちゃんと話しているのは2人。この場にいる者たちの共通点はマントを羽織っていることだ。そこにワンポイントで動物が描かれていて全員別々の動物だ。
1人目はかなり若そうな青年。端正な顔立ち。白と黒が混じった髪に、赤色の目をしている。あまりにも優しそうな雰囲気で、戦闘などしそうには見えないが傍らには剣がある。
彼のマントには
2人目は先ほどフラスが戦った緑髪の少年──ベル。この場にいる誰よりも身長が低く幼さを感じる。髪で顔の大半が隠れているのでフラス達との戦闘中は見えなかったが、青色の目をしている。
リーダーらしき青年の近くの位置に座っているので、それなりの地位なのだろうか。
3人目は白髪で顔に大きな傷跡がある老人。この中だとどう見ても一番年上だろう。師匠とこの場にいる面々から呼ばれていたので彼らに戦闘を教えたのはきっとこの老人なのだろう。
いかにも戦闘経験豊富ですみたいな雰囲気を醸し出している。今のメンバーで唯一黒マントであり、そのマントには虎が描かれている。
「今回は珍しくベルが危なくなったな。初めてじゃないか?ああいった感じに師匠を頼ったのは。」
「まさか、あそこに人がいるなんて思わなかったし…しかも魔獣専門っぽい感じの奴らだったし…」
「不運だったな。後でご褒美やるからな〜」
「やったー!」
「ほどほどにしとけよお前ら」
「分かってるって。師匠も酒飲みすぎんなよ?」
「………そろそろ親父って呼んでもいいんじゃないか?」
「それはまたいつか、かな」
少しだけ空気が淀んだような気がした。老人と青年は家族関係ではないが、長い付き合いなのだろうか。それを青年は理解をしているがしっかりとは踏み込めてないようだ。
「あぁ、そうだ。ベルにご褒美をやってくる」
「わーい!」
「……あぁ」
そう言って青年とベルは別の部屋行ってしまった。その場に残ったのは老人だけ。先ほどの発言を少し後悔したのか、溜息を吐き、生活感のあるリビングルームに独り言が響き渡る。
「…ミスだったか」
思えばここ最近は作戦が上手く行くかどうかでピリピリしていた。あんな発言をすべきではないと、分かっていたはずの老人は今後はさらに言葉には気を付けようと気を締め直す。
そんな良く分からない決意をした途端、少女から声を掛けられる。いつの間にかいたので老人は声が大きくなってしまう。
「どうしたの〜そんな顔して」
「うぉ!起きてきてたのか…」
「なに?その反応。イライラするんだけど?」
「あぁ…すまない…」
起きたなら早く言えと老人は思う。彼女は寝起きだからかマントも羽織っていない。黒髪に青のメッシュでいつもの髪型であるウルフもボサボサだ。寝起き数分だろう彼女にこれを言うのはとても怖いが言っとかないともっと面倒くさいが青年が今はベルに
「
「なに?」
「次の仕事はお前が担当だ」
「え〜?1人?」
「1人が嫌なら他のやつもつける」
「なら、いいよ」
「そうか。頼んだぞ」
思ったよりは問題がなかったことに老人は安堵する。もし機嫌を損ねたらかなり面倒臭い事を知っていたからこその反応だ。
これで次の作戦も進むだろう。運命の日まではまだまだだがようやく一歩ずつ近づいて来ている事をひしひしと感じる。
「さて、あいつにも言わないと…」
少女が顔を洗いに、洗面台へ向かった後、老人は椅子から立ち上がり歩き出す。そして一つの部屋をノックした。
今日も彼らは自由に、奔放に、生きていく。
これはあの時、黒く暗くなっていた時に彼に話してから始まった。後悔は一切していない。それどころか仲間が集まる度にここは安心する場所になっていった。
────これは一体誰の物語なのか。
────それはもう誰も分からない。
「じゃあお前らは風呂上がったら部屋で待機しとけよ」
「分かってるって」
「じゃあ行ってくる」
本部に着いてからフラスとホムラは休む間もなく司令達に諸々を報告しに司令室へ向かって行った。そこに行く前に技術室にも立ち寄るらしく、かなり時間が押しているのか早歩きで向かって行った。
「大浴場行くか」
「よし」
久しぶりにちゃんと動いたので結構疲れた。風呂に入ってさっぱりしたいと2人は汚れた制服で大浴場へ向かう。本部にはかなりの大きさの大浴場があるのすごく良いな。
ここの部分だけはWALLに入って良かったと思う2人は、大浴場に着いた途端制服を脱ぎ捨て、制服を入れとけば勝手に洗濯してくれる機械にそれを押し込む。
さぁ、風呂の時間だ!
「やっほー!」
「最高!」
爆速で身体を洗い、湯船に思い切り浸かる。なんて気持ち良いんだ!!心が浄化される!!蕩けきったような顔で2人は風呂を大いに楽しむ。
「あ〜さっぱりする〜」
「風呂って人類の宝だろ」
「そうに決まってる」
割と本当に風呂がなくなったらキツイと、既に思ってしまっている。WALLに入る前は2日か3日に1度だけだった彼らは本当に風呂は染み渡るようだ。
「無限に浸かれる…」
「流石にのぼせる前には上がるぞ…?」
気持ち良いには気持ち良いが流石にのぼせるまで浸かれるまでいるのは問題な気がすると感じるカイトは一応忠告はしておく。
この後、そんなすぐに風呂を上がれない事が起きるのを知っていたら今上がっていたかもしれない。
「あれ?カイトくんとメガロくんじゃん」
「あんたは…!」
後数分で上がろうと思っていたらWALL内で2人が知っている希少な人物が湯船に入ってきた。彼は風呂でも仮面を付けているのかと驚愕するが、何か事情があるのだろうと勝手に納得し深くは聞かないようにする。
「一緒に入らせて貰うよ〜」
「え、上がりますけど」
名前も知らないのに一緒に入れるか!俺達は風呂から上がらせてもらう!そんな勢いで湯船から出ようとするがもちろん引き留められる。
「待て待て!少しぐらい話そうよ!」
「……なんの用なんすか」
「用は風呂に入りに来ただけなんだけど!たまたま君たちがいたからさ!話したいの!」
「まぁ少しだけなら…」
「よし来た!じゃあ……」
「待ってください」
「え、なになに」
「そろそろ名前教えてください」
「……言ってなかったっけ」
2人は縦に首を振る。フラスやホムラに聞いても問題ないじゃないかと言われそうだが、訓練が始まってからは会っていなかったので純粋に聞くのを忘れていたのだ。2ヶ月振りに会ってようやく名前を2人は得ることが出来た。
「じゃ、自己紹介。僕はフェル・ギリウス。色々とあってよく《赫》とか《英雄》って言われる。そんな大層なものは付けなくて良いんだけどな」
「《赫》って…」
「あぁ。僕は朱の大精霊と契約していてね」
「だからか…」
大精霊との契約。それは他の精霊の力が使えなくなる代わりにその色の力が極限まで使える契約。だが滅多に大精霊と契約することはできない。契約の条件は大精霊によって変わるらしい。
「2年前のあの時……」
「あ、」
「…話さない方が良いかな?」
「……できれば」
「分かった。やめとくよ」
2年前、彼らが故郷を奪われた時、WALLは彼らを助けなかった。いや、助けれなかったのだ。多くの街が、村が被害に遭い命の分別をつけている暇なんてありもしなかった。
「とても苦しかっただろ?あの時は…」
「まぁ、な」
「すまなかった。手が回らなかったんだ」
「………謝るなよ」
「許さないでくれよ?アレは戒めにしてる」
「そうか…」
風呂場とは思えないほど雰囲気が暗くなったが、その話題を変えるためにフェルはいつも明るい声質だが、さらに声を明るくする。
「ま、暗い話はこれくらいだ。君たちのこともっと教えてくれ!」
「はぁ」
正直のぼせそうだが、もう少し付き合ってやろう。
「入れ」
低いがよく通る声が扉の奥側から聞こえてくる。司令に直接会うのは久しぶりだな。そんなことを思いながらフラス達は重い扉を開ける。
「司令。今回の件で報告が」
「話してくれ。その内容次第ではもっと上に報告しなければならない」
「では、報告します──」
報告会が始まる。