マテリアル・ツインズ 《Material・Twins》   作:グラタン二世

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Episode.7

 

 薄暗い司令室は2人の青年の声が響いている。目の前の小さなテーブルには手を前にして司令が報告を聞いている。

 

「───報告は以上です」

 

「そうか。魔人が現れたか…」

 

 そう言ってWALL本部司令トーマス・アドランテは天を仰ぐ。司令は手袋を常に着けている中年の男性だ。しかし髪は既に黒から白に染まっていて、それは激務をこなしているからか、ストレスからかは分からない。だが年齢以上には老けていることは分かる。

 隣にはWALL本部副司令カレイド・カールセルが腕を後ろに組み静かに立っている。おそらく司令であるトーマスと近い年齢であるのにこちらも黒髪に白髪が混じってきている。穏やかなそうな顔立ちをしているが、彼と同じく相当な激務なのが伺える。

 

 報告を聞き終えた司令は、もう疲れたような顔で重く重く言葉は弾き出す。このようになってしまうのを見てしまうとWALLの仕事量の多さが透けてしまう。司令達もこうなのだから他の職員も相当な仕事を行っているのだ。

 

「これも試練なのだろうか」

 

「これは何かの前兆…そうだろう?トーマス」

 

「きっとそうだ。私達は…魔獣対策組織を名乗っているのに救える人間が限られすぎている…。その罰が来たのだ」

 

 WALLには第3支部まであるが人員の不足はずっと続いている。戦える人が中々いないのが主な理由だ。他にもWALLに入ったが怪我で戦えなくなった者は裏方に回されたりしている。だから頼れるのはWALLが昔から運良く育ててこれた人材か、純粋に戦闘の天才か。

 

───もしくは何か特別な力を持つか

 

 

「今回の魔人の特徴は異常なスピード、か」 

 

「戦った限りではですね。他にも持っているかもしれません」

 

 魔人には特殊な体質があると言われ、例えば身体が異常に硬いだったり、人間より数倍も大きかったりする体質を持っていることが多いらしい。これはフラスがWALLに入る前から伝わっていることだとか。

 魔獣とは違い、角などもないので判断がしにくく、迂闊には手を出せない。推測だけで攻撃は本来やってはいけない事だからこそフラスはそれを話さなかった。

 ただ魔人と遭遇しただけだと司令達に話したのだ。実際、彼らが魔人に出会ったのは、WALLに所属してからの16年間で初めての事だ。他のWALL職員が居たわけでもないのだから言わない方が妥当だろう。

 

「それ以上に危惧すべきは…空間の歪みか…」

 

「アレは…どういった原理なんでしょう?」

 

「お前たちと違ってこの目で見れていないから何ともいえないな…だが、かなり危険だ」

 

「そんな使い方があったのか…」

 

 空間の歪み。あそこに少年は消え、そこから魔獣が現れた。あまりに不可解だ。ワープのようなものなのだろうか。1度見ただけではフラス達は何も分からなかった。

 もし、紫の精霊の力だとしたら相当な実力者だとカレイドは警戒する。彼自身も紫の精霊を使用する事が多く、これは1種の大事件なのだ。

 

「ソレが複数展開できるのだとしたら、瞬時に魔獣の洪水になりかねない。───2年前と同じように」

 

 2年前。突如として発生した、魔獣の大発生。多くの被害者を出し、爪痕を残しっていた災害。

 

《ディアーボルス・フラッド》

 

 これはミナミのクニを中心に全てのクニで起こった。これの原因を追究する情報はたった1つしかない。それは災害発生数時間前に謎の光を複数見たという証言だ。

 それを辿って原因を探るもこの2年間何も確信となるモノは得られなかった。現在ミナミのクニにWALL本部があるのもこれが原因だ。

 

「アレをもう一度起こしたくはない。もし起こっても今度こそは全てを──全てを守りたい」

 

 トーマスの声は震えていた。WALL本部司令としてあの災害は記憶に刻み込まれているのだろう。  

 

「えぇ、そのために俺たちがいる」

 

 2年前とは違い俺たちもさらに強くなった。他のメンバーも段々と力をつけている。あの時からは状況が変わった。

 

───きっと前と同じようにはならない。

 

そうフラスは感じている。必ずあの時の二の舞にはならない。

 

「…報告ありがとう。フラス。メガロ。戻っていいよ」

 

 司令は少し暗い顔をしながら言葉を紡ぐ。

 

「「…失礼しました」」

 

 少し長い報告会は終了した。司令室から出たフラス達は自分達の部屋へと歩き出していった。

 

 

   ◇

 

 フラス達が出た後の司令室は数分の静寂が続く。次にやらなければならない事を考えると口も動かしたくないレベルだからだ。しかし、それは必ずやらなければいけないのでトーマスは隣にいる友人に声をかける。

 

「カレイド」

 

「どうしたトーマス」

 

「あっちに報告しないとな…」

 

「了解だ。ポータル室へ向かおう」

 

 心底面倒臭そうにトーマスは言った後椅子から立ち上がり、カレイドと共にポータル室へ向かう。

 遥か昔、紫の大精霊と契約した者が作り上げたワープの力と子どもの時、トーマスは父に聞いた。

 複数のポータルを作れるのは流石、紫の大精霊の契約者だと思ったが正直言えばもっと多く作って欲しかったりしている。これがもっとあればさらに多くの人を救えるのだから。

 

「カレイド。お前ならポータル作れたりはどうだ」

 

「数分程度のものならできるが…これのように半永久的なものは流石に無理だ。」

 

「そうか」

 

 ポータル室まで歩きながら話す。カレイドは紫の精霊を使役する者の中ではかなりの実力者だ。そのような者ですら出来ないのならトーマスも諦めがつく。

 そんな他愛もない話をしているといつの間にかポータル室まで着いていた。中に入ると4つのポータルがあり、それが厳重に球体のようなモノに守られている。その中心にある1つのポータルの上にはこう書かれていた。

 

『移動用ポータル1。《センターマリア》』

 

 彼らが報告に行く場所は権力の中枢、《センターマリア》である。トーマスらがポータルを通るとすぐにWALL本部とは別の場所に移動する。

 その場所は暗く、広く、あるものは他のクニに繋がるポータルと2人の青年だけ。その2人はおそらくこの部屋を護る門番なのだろう。

 

「何の用ですか?」

 

「……WALL本部司令トーマスだ。中央政府重要な報告がある」

 

「…分かりました。伝えてきます」

 

 自身の肩書を言いライセンスも見せた。これで中央政府の方々に報告ができる。本当は彼らには会いたくがないが仕方ない。これは報告しなければ世界が壊されかねないからだ。

 

「許可が出ました。入ってください」

 

「あぁ」

 

 少し歩くと巨大な扉が現れる。コンコンと扉をノックしてみると中から「入れ」と声が響いてくる。それを聞いて扉を開く。

 

「よく来たな。報告があるんだろう。言いなさい」

 

 だだっ広く、無駄に豪華な部屋。正面には中央政府の重鎮である5名の老人…英雄達の子孫が座っている。トーマスに話しかけてきたのはこの中での防衛担当。

 

「では報告を───」

 

 

 

「魔人がまた、現れたか」

 

 最初に口を開いたのは、かなり痩せ型な体型の防衛担当の男性。おそらく重鎮の中では最年長だ。魔人という存在が表れた事を疎ましく思っているような声だった。

 

「今度は複数いるのか?なんと面倒臭い」 

 

 次に口を開いたのは小太りの男性。彼は農業などの担当だ。魔人が現れた場面を見た事があるらしく、顔をしかめる。

 

「確かに面倒ですね。早く討伐しなくてはいけない」

 

 それに同意したのはこの場で最年少の女性。彼女は環境担当。魔獣・魔人が環境に多大な悪影響を及ぼす事を知ってるからこそ魔獣の討伐にはかなり積極的だ。しかし、他の者に影響されたのか年々その意欲が薄れていっている。

 

「今の戦力では中々難しいのではないか?」

 

 次に言葉を紡いだのは総務担当のメガネをかけた老人。痩せてもなく。太ってもなく。まさに普通の老人はWALLや他の公認戦闘組織などの戦力不足を指摘する。実際にその通りで現在の戦力だと複数の魔人には対応出来ない可能性がある。

 

「だが、このままでは我々の理念が崩れる」

 

 最後は、財政担当の嫌味ったらしいちょび髭が目立つ老人。彼はWALLに対する資金を出し渋ったりと魔獣対策には消極的な面が目立ち、自身の権力についてしか考えていないような振る舞いばかりしている。

 

 報告が終わった途端、彼らは口々に話しだす。トーマス達は置いてけぼりだ。ここまで話し合ってくれるのだから、良い返事が聞けそうだと勝手にカレイドは思っていたが、次に防衛担当の老人から出てきた言葉はあまりにも軽く、民の事を考えていなかった。

 

「まぁ、とりあえず、警戒をしろ。動きがあれば逐一報告をしろ。対策はこれで問題ない。話は以上だ。戻れ」

 

「え?」

 

 その発言に思わずカレイドは声が漏れてしまった。なんだ?それだけなのか?他にも対策はあるのではないか?そう思ったのはトーマスも同じらしい。

 

「し、しかし…」

 

「なんだ。我々は忙しい。とっとと失せろ」

 

「もっと詳細に対策をしなければ──」

 

 

      

 「「「「「は?」」」」」

 

 

 あり得ないほどに空気が凍った。極寒の地であるキタのクニの方が暖かいのではないかと2人は感じる。

 

「お前は我々の理念を知らんのか?」

 

「……」

 

「良いか?良く聴いておけ。我々の理念は───」

 

 

    ◇

 

 

「……ベルは?」

 

「今は寝ているよ。かなり疲れていたっぽい」

 

「そうか」

 

 ご褒美タイムが終わり、ベルは眠ってしまったらしい。そこまで頻繁にはしていないから許しているが、これから少し頻度が増えるかもしれない。忙しくなってしまうからな。と老人は考える。

 

「あいつらに伝えてくれた?」

 

「マキナには伝えた。後は勝手にしてくれる」

 

「そっか。ありがとう」

 

 次の仕事の準備は整いつつあった。これからどうなるかはまだ検討がつかないが目指す所は一切変わらない。

 

「……ここまで来れたのは師匠がいたおかげだよ」

 

「そんなことはない。お前たちがしっかりと鍛えたからだ」

 

「もし、あの時師匠がこの話をしてくれなかったら俺達は死んでいたんだよ。だから、ありがとう」

 

「なんだ急に」

 

「あの時、俺達の夢は決まった。今改めて師匠に言っておこうと思う」

 

 1拍置いて青年──アモンは口を開く。何度か聞いたことのある宣言だが、聞く度に感情が強くなっている気がする。この言葉を聞くのはいつ振りだろうか。

 とても久しぶりな宣言なのではないか。もっと昔は毎日のように言っていたのに。段々と大人になったんだな。と老人は懐古する。

 

 

「俺の、俺達の夢は───」

 

 

   

 ◇

 

 

 風呂場から出て、ようやく部屋に戻れたカイト達。フェルとの雑談が思った以上に長く、のぼせかけた。というかのぼせた。話は長いけれど思ったよりも彼は良い人なのかもしれいと彼らは感じた。

 風呂が終わった後はもちろん夕食を食べて休息の時間を満喫し、気付くともう夜は深くなりかけていた。

 

「さて、どうしようか」

 

「フラス達が帰ってくるまで待つしかないだろ」

 

 時刻は既に21時を回っている。余程報告等に時間がかかっているらしい。ここで休んでるのが申し訳なくなってくる。

 

「…暇なんだよな」

 

「そうだな…」

 

 この部屋にあったのは新聞と雑誌。どちらもあまり面白いことは書いていなかった。それ以外には一応ボードゲームがあったがカイト達は何戦もやり過ぎて飽きた。ちなみに大体メガロが勝っている。

 

「もっと修行しないとな」

 

「てか剣でも振れば良いんじゃねぇの」

 

「ここで振れるかよ」

 

 確かに修行はしたいが俺達はこの時間だと外出するには許可がいる。部屋で剣を振るのは広さ的に無理だ。手入れぐらいならおそらくできるだろう。

 

「手入れ、するか」

 

「何回目だ?今日」

 

「細かいことは気にするな。愛武器は綺麗にしとくのが一番なんだよ」

 

 本日仕事が終わってから武器の手入れは何回目だろうか。しかしやることもないので必然的にこれをやる方が有意義だ。

 

 始めてから数十分後。ようやく部屋の扉が開いた。

 

「よう。遅くなった」

 

「いや本当に遅かったな。飯は食べたのか?」

 

「少しだけ食べた。突然で悪いがお前らに次の仕事だ」 

 

「「早く話してくれ」」

 

「……お前ら元気だな。俺たちとは体力が違う」 

 

 体力?そんなのはそっちの方が多いに決まっている。カイト達が元気な理由は一つしかないだろう。2ヶ月以上の訓練で魔獣を減らせていなかったのだから。

 

 

「そりゃそうさ。フラス達は俺達の夢、忘れたのか?」

 

「忘れたというより知らないが。聞いてもない」

 

「そうか。じゃあ教えてやるよ。俺達の夢は───」

 

 

 

 

 

────現状維持だ。

 

 

────世界を変えることだ。

 

 

────魔獣を滅ぼすことだ。

 

 

 

 

        

 第7話 夢

 

 

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