「おいアスナ」
リーダーの声が耳に入り、私は黙って顔を向ける。
私のその様子にリーダーは呆れながら苦言を制した。
「ハァ…お前なぁ。アカネの話聞いていたのか?」
「……ううん。聞いてなかった」
私はリーダーの言葉に正直に返すと、リーダーの隣にいたアカネちゃんは苦い顔を浮かべていた。
C&Cの部室。私達は今度の任務での作戦を確認していた。
「アスナ先輩…大丈夫?」
上の空だった私を心配してかカリンちゃんが声を掛けてくれる。
「うん…へいき」
そんな心配の声も私は適当に聞き流した。
「…また話し合いは今度にしますか。幸い今回の任務は急を要するものではありませんし」
アカネの言葉に、リーダーもカリンも納得したようで話し合いは延期になる。
「…そっか。じゃぁ私、帰るね」
だったら私はここにいる必要はない。
私はみんなの様子を確認することもなく、部室を出た。
外に出た私は、自分の寮には帰らず、あてもなくふらふらと街を彷徨う。
作戦会議は遅くから始まった為、こうして外に出た時には、すっかり空は暗闇に覆われていた。
あるカフェの前、河原に面した道、神社の前の階段。
私はまるでパトロールするかのように歩ていった。
ただ無心で、たまになにしてるんだっけ?と思いながらも歩き続ける。
暗闇を歩き続け、自分の足取りもわからなくなりながらも歩き続ける。
しばらく明かりもない道を歩き続けると、大きな公園に出た。
こんな夜中に遊んでいる人はいなくて、でも誰もいなくても公園の街灯は辺りを明るく照らしていて。
まるで夜空のシリウスのように輝く街灯に、目がくらみながらも私は近づいた。
そこで私はようやく思い出す。
私は光を探していたんだと。
アカネやカリンより大きく、リーダーみたいに私に必要な光。
街灯に群がる虫たちと同じく私は、その輝きに手を伸ばす。
しかし当然届かない。
街灯の輝きにも、貴方の輝きにも。
手が…届かない……。
「……………あれ…わたし、なにしてたんだっけ?」
何かに手を伸ばしたポーズで固まっていた私。
「………なに…してたんだっけ…。…………なに、探してたんだっけ?」
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「さぁこれで名実共に、ミレニアムの生徒になったわけだが」
「可愛い顔してますが、中身はおじさんが入っているんですよね」
「まだおじさんじゃないから。お兄さんって年だったから!?」
イロハの小言に反論しながら、ミレニアム内を堂々と闊歩する。
「もうだいぶ学区内入ったから、人通りも多くなって来たかも」
「そうだね。前と変わらずに忙しそうにしてるね」
「ではアイ。今後の方針は?」
「そうだなぁ。みんなはミレニアムのことをどこまで知ってるんだっけ?」
「私のとこは前に交流もあったけど、私が知ってるのはセイアちゃんが書いた報告書の情報ぐらいかなぁ」
「ゲヘナは代表的な部活ぐらいですかね」
「うちは特に関わりないからあまり」
「そっか…。だったらC&Cに行くついでに観光がてらミレニアムを案内しよっか」
「案内してくれるのアイちゃん!?楽しみ~☆」
「じゃぁ最初は、私が生徒と協力して作った百葉箱を見に行こっか」
「アイ、いつもミレニアムで何やってたの?」
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「撤去されてる!?」
「見事に何もないですね」
ミレニアムの小さい空地。
そこで生徒と一緒に作った、百葉箱が悲しいことにまるで元からなにもなかったかのように、跡形もなく撤去されていた。
「せっかく作った自動迎撃システム搭載の百葉箱が……!」
「危ないから撤去されたんじゃない?」
くそぅミカがまっとうなこと言いやがる…。
「気を取り直してさ、まだなにかあるんでしょアイ?」
「うん…そういえば、この裏手に生徒と一緒に描いたグラフィティアートが……」
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「真っ白に塗り直されてる…!?」
「ほ…ほら!ミレニアムって広いから!まだ色々あるでしょ!?」
「ミカ…。うん…ミレニアムにでっかい花壇を作ったんだけどさ……」
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「土じゃなくてコンクリートが詰められてるんだけど」
せっかく生徒たちと汗水流し作った大花壇が、コンクリートによって埋め立てられてた。
「あの…言いたくありませんがアイ、貴女ミレニアムで嫌われてたとかありませんよね?」
「なんてこと言うんだイロハ。今生徒が結構いる中で泣きわめいてもいいんだよ?」
「で…ですよね。すみません失言でした」
「うぅ…イロハお姉ちゃーん…」
「ン゛…ンン゛。やめてくださいアイ…」
私はイロハに慰めて貰おうと近づくも手で制止されてしまう。
「……ねぇカヨコちゃん。これって」
「うん。あきらかに先生の痕跡を消してる…」
「先生がいなかったことにしているってことだよね?」
「まだわかんないけど、ここでは先生の存在自体が何かのタブーなのかも」
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「ほら!もう悲しんでいてもしょうがありません。お昼も近いことですし…あそこの移動販売車で何か買いませんか?」
イロハの提案を聞いてそちらを見ると、クレープの移動販売車があり、そこでは生徒達が並びクレープを買っていた。
「クレープなんて久しぶりかも!行こうアイちゃん!」
移動販売車にミカも気づくと、私の手を引いて走り出した。
遅れてカヨコとイロハも続き、私が先頭で並び始める。
私の注文の番になり、注文すると店員の子は手際よくクレープを作り始め、3分もしないうちにクレープを手渡してきた。
クレープを受け取り、代金を払って空いているベンチを探していると、あるベンチに見知った顔の生徒を見つけた。
その生徒はメイド服を着ており、まるで光合成をするかのようにベンチに無気力そうに座っていた。
光がさすことなく、目がよどんだその生徒が心配で私は思わず声を掛ける。
「あの…大丈夫?」
私の声に目を向けるだけで対応するその生徒は、私を視認するとよどんだ目がどんどん光に満ちていき。
「ご…主人…様…?」
私を抱きしめると、
「お待たせ~アイちゃん☆……てあれ、どこ行ったの?」
私はアスナに有無を言わさず、連れ去られた。
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「これからどうしましょう、ネル先輩…」
「先生が亡くなってからアスナ先輩の様子がおかしくなっていってる…」
「わかってるよ。だけどあの状態でも特に任務に支障を出さねぇから、休めとも言えねえんだよ」
「ご主人様が帰ってきてくれたら…」
「アカネ、ありえねぇ話をすんな。死人は帰ってこねぇ。それこそうちの科学を総集したってな」
「……ネル先輩。そうでしたね、すみません」
「……いや、いい」
バタン!!
「みんなーー!!聞いて聞いて!!さっきそこでご主人様拾ってきちゃった!!」
「………どうやらご主人様帰ってきたみたいだけど。ネル先輩どういうことだろう?」
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プロ拉致ラレイヤーのフウカさん曰く、拉致られの極意とは抵抗しないことらしい。
抵抗せず、流れに任せ、大人しく物事が過ぎ去るのを待つ。
それが一番被害を拡大させない手段なのだとか。
私もフウカさんの極意に倣い、アスナに抱っこされ、風を切るようにC&Cの部室に拉致られている間、抵抗せずなすがままの状態でいた。
先ほどまで沈んだ目をしていたアスナの笑顔を、陰らせたくないという気持ちもある。
そんなこんなで無事に、C&Cの部室まで拉致られると私は、
「アイちゃん。紅茶が入りましたよ」
「ねぇねぇご主人様!アスナね…!」
「可愛い…、アスナ先輩私も抱っこしたい」
アスナの膝の上に座らされ、アカネから紅茶とお菓子のもてなしを受け、カリンから怪しい手つきで近づかれる。
つまり手厚い歓迎を受けていた。
アスナを心配して声を掛けた数分後、どうしてこうなった?としか言いようがない。
幸い、アスナが私のことをご主人様と言っているが、他の3人は私が先生だとは思っていないようだ。
なぜアスナにバレてしまったのかは………まぁ彼女が一之瀬アスナだからとしかいうことができない。
彼女の存在は、コユキのロック解除、ユウカの太腿に続き、ミレニアムの3大神秘に数えられているからだ。
とゆうか部員が誰か拉致った時の対応これであってる?
「なぁあんた」
私がもてなされていると、ネルがこちらにガンつけながら近づいてくる。
ネル先輩!今この状態をまとめてくれるんですね!
「なかなか活かすもん着てんじゃねぇか…!どこで買ったんだそれ?」
どうやらネル先輩は、私の着ている彼岸花の法被に興味があるようだ。
……そうか。流れに身を任せよう。
再び私はフウカさんの極意を実行し、皆が落ち着くまで大人しくしているのだった。
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「あ、そうだネル先輩。これ」
「あ?手紙か?」
やがて皆落ち着いたため、私はセイアから預かった手紙をネルに渡す。
「いったい誰から…またセイアか!?今度はなんだよ…………」
最初はセイアからの手紙にキレていたネルだったが、読み続けるうちに部長としての顔つきに戻っていく。
「………そうか。あんたが」
「ネル先輩、手紙にはなんと?」
「は!セイアのやつには散々迷惑かけられたからな!トリニティの問題が解決したからそっちもあたしたちに協力しろって言ったんだ」
「では彼女が…?」
「ああ、トリニティのからの助っ人だ」
「ご主人様が助っ人なの?やった~!」
「よろしくねみんな」
セイアの手紙のおかげでどうやら、C&Cの協力は得られそうだ。
「そしたらしゃーねぇ。あたしたちだけじゃ説明しきれねぇからな。ちょっとセミナーんとこ行ってくるわ。アイ、お前も来い」
「アスナもいくー!」
「お前は留守番だアスナ!」
「えー!?なんで!?私もご主人様と行きたい!!」
「お前この間の作戦会議上の空だったろ!?留守番している間頭に詰め込んでもらえ!」
「やだー!私も行く!!」
「ちっ!相手してらんねぇ!アイ!さっさと行くぞ!」
ネルに促され、部室を出る間もアスナは駄々をこねて不満をあらわしていた。
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「ったく!沈んでたと思えば、急に元気になりやがって…」
部室を出て、セミナーに向かう際中、そうネルは一人ごちる。
「沈んでたって?」
「あぁ…。先生が死んでからずっと死んだような面しててよぉ。C&Cの活動が終わったらすぐに消えやがる。そのくせ寮には帰らずふらふらしてやがるし。ったく本当にあいつは……」
「…心配だったんだね」
「はぁ!?心配なんてしてねぇよ!?もしあいつに何かあったらあたしらの仕事が増えるだろうが!?」
なにこの子、可愛よ…。
「まぁそんなあいつが、こうしてウザイぐらいに元気になったんだ。なんかあったんだろ」
「アスナが私のことご主人様って呼ぶのは?」
「それはマジでわかんねぇ。もともとシャーレの先生が言われてたんだが…。あんたに似たところがあったのかもしんねぇな」
ネルは不思議そうにしているが、最後にいつもわかんねぇ奴だが、と締めくくる。
「でもアスナがあんたをご主人様って認めたんだ。それにセイアからの紹介もあるしな。てことは。あんたもなかなかやるやつなんだろ?頼りにしてるぜ」
そう言うと、こちらにニカっと笑いかけるネル先輩。
やだ、イケメン…。
私がネルパイセンかっこいいっすと思っていると。
『キャー!!』
っと遠くで叫び声が聞こえた。
「っ!?またか…。行くぞアイ!!」
ネルについて行き現場に向かうと、そこには人だかりが出来ていてその中心では、スパナを振り回しながら通行人を襲っている一般ミレニアム生徒。
「何あれ!?修理中だったりする!?」
「するわけねぇだろ!?あいつ鎮圧させんぞ!!」
ネルが自分のツインドラゴンを出し、暴れてる生徒を狙おうとするが、
「ちっ!!とっとと避難しろっての!!」
どうやら人だかりのせいで撃つのを躊躇っているようだ。
いつものようにネルが撃ったのなら、周りの生徒まで確実に巻き込まれるだろう。
「まかせて」
私はネルの横を通りすぎ、人だかりに突っ込む。
上手くこの小さい体を活かして素早く抜けると、暴れてる生徒の目の前に出た。
一般のミレニアム生徒。白衣を着て、何かの作業中だったのだろう白衣の端が少し汚れている。
それ以外に特筆すべき特徴がないが、どうやらご乱心のようだ。
暴れている生徒は、突然出てきた私にたじろぐことなく見据えると、私に狙いを定めそのスパナを振り下ろす。
「今直してあげるよ」
振り下ろされるより前に、私は十手を逆手に持って柄の部分を相手のみぞおちに沈ませた。
暴れてた生徒は小さく息を吐くと静かに意識を失い、私はその生徒を抱きとめる。
「わりぃ。助かった」
「平気よ。…もしかしてこれが今ミレニアムで起こっていること?」
「ああ。そいつ今、イヤホンしてるだろ」
ネルの言葉を聞き、抱きとめた生徒の耳を確認すると、そこにはワイヤレスタイプのイヤホンが入っていた。
私はイヤホンを耳から取り、確認する。見たところ普通の市販品だが…。
「間違っても流れてる音楽を聞くなよ?そいつが今ミレニアムで流行ってる音楽、Music Drag。通称MD。聞いたやつを狂暴化させる音楽だ」
転生先生、嘯く 17話目
スズミマジカル…だと!?
運営…貴様ァ!!なぜあと2ヶ月ぐらい早く通告しない!?
してたら仲間に入れてたわ!!
引いてやるからな…!絶対引いてやるからなぁ!!