自由と混沌を校風にするゲヘナ学園。
立派な校舎や広いグラウンドなどを保有しているが、学園はほとんど管理されておらず荒れているところも多い。
そんな学園から少し離れ、自治区にある街では挨拶代わりに銃弾が飛び交う大変スリリングな街並みであり、落書きが満載の壁、爆風で朽ちた街路樹、治安の悪さが目立つ。
ゲヘナとは、そんなストリート、または荒廃した世界1歩手前の地域なはずなのだが。
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駅の電車の扉が開く音に合わせ、私は電車を降りる。
春葉原から駅を乗り継ぎ、私はゲヘナの自治区に到着した。
「は~長かった~」
駅構内を歩きながら長時間座っていた為、凝り固まってしまった身体を伸びをしてほぐす。
「なんだ、黒服のやつ…。驚く変化なんて言ってたがそこまで変化ないじゃないか」
ぐるっと駅内を見渡しても、特に以前の記憶と大差ない。
しいて言えば少し綺麗になっているぐらいか?
「もっと荒れ果てているのかと思ったけど……」
もともと荒れている所があれ以上荒れることはそうそうないと思うけど。
そう考えながら改札を通り、外へ出る。
「あれ?」
駅外に出て最初に目にした光景に驚く。
私が知っているゲヘナは、ならず者がうろつくスラムなような街だった。
だが私の前に広がるのは、
銃弾や大砲で荒れた道路はなく、それどころか落書きやポイ捨てのゴミもない。
まさにオシャレな街が広がっていた。
「……降りる駅を間違えたかな」
私はそうだと思い、視線をあげ背後の駅の看板を見てみる。
『ゲヘナ』
そう淡々と告げる看板の上には、『目指そう!犯罪0の街!』とキャッチコピーが日差しで輝いていた。
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街を散策しつつゲヘナ学園に向かう。
しかし向かう最中も違和感を感じまくりだ。
まず凄く静かであった。
いつも聞こえてた銃声などは一切聞こえず、車や生活音がただ響くのみである。
あんなに活気なあふれていた(悪い意味で)生徒たちはどこに行ってしまったのだろうか。
そんな変わり切った街を見渡しながら歩いていると、何かの作業を始めようとしているスケバンが目についた。
「あの~すいません……」
丁度いいのでに話しかけてみると。
「はい!おはようございます!なんでしょうか!」
話しかけられたスケバンはわざわざ作業の手を止め、こちらに向き直り答えてくれる。
「………今、何をしてるんでしょうか?」
その圧に押され本来聞きたかったこととは別の質問をしてしまう。
「はい!今私は、汚れていた壁を綺麗にしています!」
「……そうですか。いつもありがとうございます」
「はい!ありがとうございます!それでは失礼します!」
会話が終わるとすぐに作業に戻るスケバン。
あんなにヒャッハーな連中がこんなに変わり切ってしまうなんて、今ゲヘナに何が起こっているのだろうか?
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その後も街で、
『掃除っていいよなぁ』『綺麗になると心が洗われるようだ…』『綺麗になるの楽しい!綺麗になるの楽しい!』
などと言い清掃活動をしている生徒を見かけながら無事ゲヘナ学園へ。
このゲヘナの惨状を聞こうとヒナのいる風紀委員会本部に向かう。
まぁ普通の学校としたら惨状ではないのかもしれないが…。
校門を抜け噴水を通り、風紀委員会本部にたどり着く。
いざ風紀委員会へ!
と、足を踏み入れようとした瞬間。
「止まれ!そこのオマエ!」
急に声を掛けられ後ろを振り向く。
「そっちは風紀委員会の本部だ。何の用だ?」
「イオっ……!?」
そこには褐色の脚を持つ生徒、銀鏡イオリが立っていた。
久しぶりの脚…じゃなかった、生徒に会い名前を呼ぼうとしておっとと口をつぐむ。
「怪しいヤツ…誰だお前は」
「ちょっと風紀委員に用があって…」
脚が近づいてきた。良い脚だ。
「なんだと…?今日はどこともアポはとられてなかったはずだが…。…それとどこを見ているんだ?」
あーそうじゃん。アポ必要じゃん。すっかり忘れてた。それにしてもナイスな脚だな。
「何者だオマエは!?さっさと答えろ!…それと脚をガン見するな」
「えーと別に怪しものじゃないんだけど(ジッ…!)」
「目線を上げろ!!!」
「ごめんごめん…」
「まったく…、しかしその視線アイツを思い出すな…」
おぉ覚えてくれてるんだねイオリ…。
だけどこの身体で説明するのは難しいよな…。
用件だけ言って出直してみるか…?
「用だったね…風紀委員長に会いたいんだけど」
「………ッ!?」
ヒナの話で顔が曇るイオリ。
「委員長は今不在だ……」
「……そうなんだ」
絞り出すように声を出すイオリ。その姿を見てヒナに何かあったのかと考えるが、部外者の私には知らせてもらえないだろう。
「もう要件は終わっただろ!ここには入れないんだ!もう帰れ!」
「じゃぁ伝言だけでも……」
「くどい!それに委員長は今…!」
「うわぁー!すごーい!」
ヒートアップするイオリをなだめながら会話していると、ふいに背後から驚きの感嘆の声が聞こえた。
それと同時に私の羽織っていた、彼岸花の法被がグイッと引っ張られる。
何事かと背後を確認するとそこにはブロンドでリボンのついた軍帽を被り、天真爛漫な少女。
「これなんのお花?イブキに教えて~」
丹花イブキが私の法被を掴んでいた。
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「これなんのお花?イブキに教えて~」
突然のイブキの登場に驚きながらも、私は屈み笑顔で答える。
「これはねぇ彼岸花ってお花だよ」
「そうなんだ~!どこで咲いてるの!?」
「あ~どこで咲いてるんだろ…。図鑑とかあれば確認できるんだけど…」
「イブキの図鑑あるとこ知ってるよ!一緒に見よ!」
「おい!?待てそいつは不審者で…!?」
私の袖を掴み連れて行こうとするイブキに慌ててイオリが待ったを掛ける。
「え~?でもイブキが連れてくから大丈夫だよ?」
「いや…そういう訳じゃなくてな……」
「ほら行こ!私イブキ!え~っとあなたのお名前は?」
「え!?あ~名前ね!えっと…私の名前は……『アイ』」
「アイちゃん!じゃぁパンデモニウムにゴ~!」
「あっ!こらイブキ!」
走り出すイブキに手を伸ばし止めようとするイオリ。
そんなイオリに、私は腕をイブキに腕を引かれながら振り向き不敵な笑みでニヤッと笑う。
「はぁ!?なんだアイツは!?」
遠くでイオリのムカつく!という声を無視してイブキとパンモデモニウムに向かうのであった。
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我ながら不忠義な生徒だと思う。
パンモデモニウムの業務中。いつものようにめんどくさい仕事と、マコト先輩の無茶ぶりに対応していると急にサツキが大きな音を立て部屋になだれ込んできた。
「せんせい…が…、先生が…!」
突然の先生の訃報を聞いて、私の視界は暗くなった。
ふと気付くと、私はいつもの休憩スペースにいた。
どう移動したのかもわからないが、この場所は私とイブキ、そして…先生しか知りえない場所だ。
いや、ここは休憩スペース。きっと質の悪い夢を見ていたんだと、さっきまでのは夢だったと自分を納得させ、自分の携帯からモモトークを開く。
「『先生、まだ仕事していますよね?前回こちらに来た日から日も空いてますし、またサボりに来ませんか?』」
1分2分と時計は規則的に動いていくが、その時間が私には何時間もの長さに感じられた。
「『もしかして前回無理やりサボらせたこと怒ってるんですか?でもそのあと仕事手伝ってあげたじゃないですか?今回も手伝ってあげますから』」
あの人も暇ではない。いつも抱えてる業務、他の生徒からの頼み。いつでも返信ができるわけじゃないだろう。
でも今は早く、早くと返信を待つ。
「『そういえば先生の気になっていた小説。私も気になったんで買っておきましたよ。もう買ってしまいましたか?こっちで読んで感想会をやりましょうよ』」
つかない既読に私はついに限界を感じた。
「『へんじ して』」
お願い、それだけでいいから
そしていつまでも来ない返信から私は先生の死を実感した。
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あれから数日。私は車庫の休憩スペースから出られずにいた。
だってここが一番あなたを感じれる場所だから。
空腹を感じたらお菓子を開け、なんとなくニュースサイトを巡る毎日。
どうやら先生を撃ったカイザーの企業は潰れたらしい。
しかし仇であるカイザーが潰れてもどこの学園もてんてこまいだ。
幸い普段から慌ただしいこのゲヘナではあまり影響はないらしい。
マコト先輩もゲヘナの統率で大忙しだが、もともとあまり知名度がないため、いてもいなくても一緒だろう。
私は壁に持たれながら、手探りで新しいお菓子の袋を探し、手に取る。
中身を開け、中身を確認する
「わさび…ですかね」
あれは何日目だったか…気付くと先生がこの世から消えてしまったことを実感してから、私の世界からイロが消えてしまっていた。
私の中はそんなにもあの人でいっぱいだったのかと、驚く。
正直な話マコト先輩がどんな目にあっても2、3日でケロッと忘れてしまうだろう。
「初めは仕事のうち…だったんですがね…」
しかし彼に会うたびにこの気持ちは強くなった。
彼は私の世界を変えてしまったのだ。……それは今も。
たった1人に何度も変えられてしまう自分の世界の狭さに呆れながら袋の中のお菓子を口に運ぶ。
「コンソメ…じゃないですか」
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「はぁ…ついに食料も尽きてきましたね…」
当然だ。もともと何日もいるために買ってきたわけじゃない。
ただひと時サボるために用意したものだ。そう長く持つわけじゃない。
お菓子のストックの箱を漁るも、まともな食料は出てこない。
「めんどくさいですね」
一応パンデモニウムのジャケットを着て出かける用意をしたが、どうしても出かける気分になれず、また壁にもたれかかる。
意地汚く制服の中に何かないかとポケットの中を探る。
カツ
内ポケットに手を掛けた際に何かが当たった。
そうか。ここにいつも入れていたのは。
私はそれを取り出す。
『万魔殿式制圧拳銃』
「そういえばいつもここに入れていましたね」
やることのない私は手慰みのようにそれを弄る。
無気力にマガジンを取り出し、残弾を確認し、マガジンを装填し、スライドを引く。
それを何度もただ行い、動作の確認をする。
そして動作の確認が終わった拳銃を、
自分に向けた
この私のモノクロの世界はもう終わってしまいました。
このまま生きていても何もないでしょう。
それならいっそ私もそちらに…。
先生は怒るでしょうか…?
先生の怒った姿は見たことありませんが、…でも怒るでしょうね。
でも、それでも私はあなたの傍に…今…。
拳銃を自分のこめかみに向け、目を閉じる。恐怖はない。先生はどうだったのでしょうか。
最後に引き金を引い……
コンコン
扉に控えめのノックの音。
「はい…どうぞ」
私はこめかみから銃を離し訪問者を中に招く。
「……イロハ先輩」
「……イブキ」
突然の訪問者はイブキだった。
「どうしたのですか?」
「あのねイロハ…先輩!?」
初めは所在無さげにもじもじとしていたイブキは私の手に握られている拳銃を見て言葉を失う。
すると泣きそうな声で私に尋ねた。
「……………イロハ先輩」
「…はい」
「イロハ先輩は……」
「…はい」
「イロハ先輩はどこにも行かないよね……?」
「……ッ」
イブキは聡い子だ。私が握っている拳銃を見て、何かに気付いてしまったんだろう。
次第に涙を浮かべてこちらを見るイブキを見て思う。
私はこの子を残していこうとしていたのか。
今ここで私がいなくなって、私までいなくなってしまったらこの子はどれだけ傷つくだろう。
「イロハ先輩…」
「いいえ私はどこにも行きませんよ」
「ほんとうに…?」
「ええ本当です」
私は拳銃を離し、手を広げる。
「おいでイブキ」
「イロハ先輩…!!」
私の腕の中でわんわん泣くイブキを見ていとおしく思う。
その日は夜まで二人で過ごし、翌日から私は仕事に復帰した。
マコト先輩に今まですみませんと謝罪すると、「まぁ、いい」とお咎めなしなのは驚いた。
なんとかパンデモニウムのメンバーは勢ぞろいし今日もまた忙しくもめんどくさい一日が始まる。
しかし先生。
私はこのイロを失った世界で、ここまでして生きる価値があるのでしょうか?
転生先生、嘯く 2話目
地続きの連載をしたことないので
文字の量がわからぬ!
1話3000くらいのほうがいいのかしら…