転生先生、嘯く   作:あまいろ+

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沈黙の覚悟、好みの気付き

 

 

「数年ぶりの砂祭りの復活なので内部、外部問わず来客数は多くなると思うので、警備の方はいくらいても助かるのですが…」

 

「無理言ってごめんね?よろしくアヤネ」

 

暴走したカヨコの願望を叶えるため、アヤネに相談をしに来た私たちは再び対策委員会本部にやって来ていた。

 

「じゃぁアイ。私は当日ライブの警備に務めるから」

 

「いいかいカヨコ?君の当日の任務は砂祭りの警備だからね?本音が漏れてるんだよなぁ」

 

「アヤネ、警備するにあたって護衛対象の情報が欲しいんだけど。セリカのプロフィールとかない?」

 

「ほーらカヨコ。また我が出てるよ~?よしよししてあげるね~」

 

「ちょっと…!やめてアイ。下あごをさすらないで…!……悪くないかな」

 

「あはは…。なんかカヨコさん。雰囲気というか、キャラが変わりました…?」

 

「あー。お腹すいてるからかな」

 

「そんなスニッカーズみたいな仕様なんですか?」

 

私は暴走気味のカヨコを宥めるため、カヨコを猫のように撫でる。

 

そんな様子をアヤネは苦い顔で見ていた。

 

「それにしても当日の砂祭りはアイさんたちは参加できないんですね」

 

「残念ながらそうだね…。狙いがどうやら私らしいからね。せっかくの砂祭りに何かあったらいけないから」

 

「気にしないで参加して下さい……とは言えないのが現状ですね。こうしてまた砂祭りが行えるのは良いことなのですが、まだアビドスではビナーなどの脅威もありますから」

 

「あ、でもステージは見たよ!凄い大きかったね!」

 

「ありがとうございます。生徒のみなさんが力を合わせて作ってくれましたから。今回はアビドスが芸能学校に変わってから半年、その半年の集大成とお披露目がメインのお祭りなんです。なので当日は盛り上がること間違いなしですよ!」

 

いきて~。

 

なにそれ超見たいじゃん。

 

私も警備にまわろうかな。

 

そんな私の表情を見てかアヤネは、あはは…と困ったように笑った。

 

「だけどステージとか、そのほかの音量機器とか見たけど大丈夫なの?アビドスって借金が凄いんじゃなかったっけ?」

 

「あ、カヨコ復活したんだ」

 

ずっと撫でまわしていたカヨコの目にはいつの間にか光が宿り、いつものキュートな彼女に戻っていた。

 

そして彼女の疑問は、当然私も気になっていた疑問である。

 

「あー……そうでしたよね。便利屋のみなさんは私たちの事情を知っているんでしたね」

 

「うん。以前の私たちよりも借金の額がヤバかったから記憶にある」

 

「そうですね…。う~……まぁカヨコさんたちになら…」

 

「言いずらいことなら無理に聞かないけど…」

 

「言いずらくはあるんですが……実は………み…し……ました」

 

アヤネは本当に言いずらそうに言いごもる。

 

「なんて?」

 

「えっと……実は……………借金は、踏み倒しました」

 

「なかーま」「ようこそアウトローへ」

 

「ち…違うんです!!これにはきちんとした事情があって!!」

 

「事情があって踏み倒すのはヤの付く職業だけなんだよアヤネ?」

 

「いつかはあなたはこっちの世界に来ると思ってた」

 

「私カヨコさんにそんな風に思われてたんですか!?」

 

まさか私の他にも踏み倒し仲間が増えるとは思わなかった。

 

「半年前、カイザーに討ち入りしたじゃないですか!?……その時に契約書とか私たちに関することを抹消しただけで」

 

「ちゃっかりしてんなぁ」

 

「それで色々とあって…ノノミ先輩が支援をするからアイドル活動しましょうと言い出しまして…」

 

「通っちゃったんだ?」

 

「それであれよあれよと人気になってしまって…」

 

「そういえば衣装係の子が様付けでアヤネのこと呼んでたけど…」

 

「……はい。実は私この学校のトップアイドルなんです」

 

アヤネは今までのことを思い出したのか何でこんなことに…と言って顔を覆ってしまった。

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

日も落ちかけ、アビドス芸能学校より少し歩いたところ。

 

今私たちは一件の小さな平屋の家屋の前にいた。

 

「ここがアビドスで泊まる宿ですか?」

 

「宿って言うか民泊みたいな感じなのかな?」

 

「今はほとんど使ってない空き家だって。アヤネがアビドスにいる間はここ使っていいって言ってくれたんだ。掃除はされてるし、家具とインフラは整ってるって」

 

「じゃあ遠慮なく使わせてもらおっか」

 

カヨコの言葉通り遠慮なく玄関の引き戸を開けると、外見通り中は狭かったがそれでも手入れは行き届いており、普通に泊まる分には問題なかった。

 

私たちが部屋を把握するために家内を歩くと、この家は和室のリビングとフローリングの部屋、そしてキッチンがついてと、どうやら2LDKの家であった(風呂トイレ別)。

 

一通り見終えると、私たちは自然と畳のリビングに集まった。

 

「わ~畳だぁ☆」

 

「畳でだらけるお嬢様か…」

 

ミカはリビングに着くなり寝転がり、それに続いてイロハとカヨコも座ってくつろぎ始める。

 

やはり日本人は畳が大好きだよね。

 

……日本人?

 

「畳…いつかの休憩室を思い出すねイロハ」

 

私もくつろごうと思い、イロハの近くに腰をおろした。

 

「…そうですね。思えば大変な旅をしているせいかあの部屋が恋しいですね」

 

「あー!2人しかわからない話してるー!」

 

イロハが懐かしむ時間もそこそこに、ミカが話に割って入ってきた。

 

「…ミカさん、もう少し情緒というものをですね」

 

「イロハちゃんと先生が私にわからない話をしてるのが悪い!」

 

「女王かな?」

 

「だったら私も私と先生にしかわからない話するもん!」

 

「ミカ…どこで対抗心燃やしてるの?」

 

カヨコが少し呆れながら聞くが、ミカは気にしない感じでなにかあったかなーと考え込む。

 

私は可愛い嫉妬だなぐらいにしか思わず、成り行きを見守った。

 

だが私はこの行動を後悔する。

 

「え…えっと、先生…あの日私の部屋で2人で一晩過ごした時はドキドキしたね…?」

 

「入力と出力もどっちもイカレてるね!?ミレニアムに戻って直してもらいなさい!」

 

くそう止めるべきだった!?

 

流石トリニティ決戦兵器の擬人化。爆弾を落とすのが上手い。

 

「「先生」」

 

「………わーお」

 

ミカの言葉を聞いてイロハとカヨコがこっちを見る。笑顔で。

 

しかし冷たい目をしていた。

 

「誤解なんだよ2人とも。ミカの言ったことは8割本当だってだけで…」

 

「はぁ…言い訳するならせめて4割切ってくださいよおばか」

 

「はぁ…どうせミカの無茶なお願いを聞いただけなんでしょ…?」

 

「流石2人とも…。先生に詳しいね」

 

ため息をつかれながらだが、ありがたいことに割りと簡単に誤解は解けてくれた。

 

「じゃぁカヨコちゃんはないの!?先生との危ない思い出は!?」

 

「え?いつから危ない思い出を語ろうの会になったの?」

 

そしてなんで普段から私が生徒相手に危ないことをしている前提で話すのか。

 

「私…?」

 

「カヨコとの危ない思い出って聞くとあれ思い出すなぁ。オペラの時のさ」

 

「あったね…。あれは危ないの意味合いが違う気がするけど」

 

「といってもねぇ。カヨコとは健全に……いや他の生徒とも健全に過ごしてるけど」

 

「ダウト☆」

 

「嘘つかないでください先生」

 

「嘘じゃないよ!?…と言ってもカヨコとは本当に適切な距離感だと思ってるよ?朝晩メールしたりとか」

 

「カヨコさん朝晩メールしてたんですか?」

 

「うん。大体おはようとか、おやすみ、とかだけど」

 

「…先生」

 

「雨が降りそうな時とかも傘用意した方がいいよとか送ってくれてさ。あの時は凄い助かったよ」

 

「…マメなんだねカヨコちゃん」

 

「先生」

 

「その他もお互いファンのバンドの新曲が出た時なんかは一緒に買いに行ったり、そういえば初詣も2人で行ったよね」

 

「……先生!」

 

「カヨコちゃん、思ったよりも卑しいんだね……」

 

「だからカヨコとの距離感も健全なんだよ!」

 

「先生、距離感の概念破壊されてますよ」

 

なぜかわからないがその後、今日のアヤネに引き続きカヨコも顔を覆ってしまった。

 

「あぁ蹲ってしまいましたね…。先生、カヨコさんの復活はこちらでしますので、夕飯の買い出しをお願いしてもいいですか?」

 

「ん?いいよ。私も丁度電話しに行きたかったし」

 

イロハがそう言ってくれた為、カヨコのことを任せ私は出かける用意をする。

 

「じゃぁ行ってくるけど何食べたい?」

 

「鍋がいい!」

 

「…モツ鍋にするか」

 

準備も終わり、ミカのリクエストの材料を買いに、いざ出かけようと私は廊下に続く部屋の扉を開けようとする。

 

「いってきまー…」

 

ガララ。

 

部屋の扉を開け、いざ出ようと1歩踏み出そうとしたとき。

 

「……………」

 

「すっ!?うわぁっ!?」

 

扉を開いたらなぜか0距離でブロンド美人メイド。

 

つまり飛鳥馬トキが目の前にいた。

 

「びっっっくりしたぁ……。え?どうしたの?」

 

「アヤネに頼まれて、皆様にお布団を届けにまいりました」

 

トキの傍らには人数分の布団。

 

そう聞いて私は振り返り部屋を軽く確認する。

 

「あぁ布団なかったんだ。ありがとうトキ」

 

「いえ」

 

突然の来客(というよりいつまにか家の中に入っていたため侵入者の方が近い)に後ろの2人も戸惑いを隠しきれずにいたが、そのうちミカがありがとー☆と言って布団を受け取ってくれる。

 

そして。

 

「………」

 

「………」

 

お互い無言で見つめあう時間が続いた。

 

私が出ようにもトキが目の前に陣取っているため外へ続く廊下へと出れない。

 

もともとポーカーフェイスのトキであるため、彼女が何を思い黙っているのかがわからなかった。

 

この後も見つめ合いが続いたが、この状況に誰よりも早くしびれを切らしたのは私たちよりもイロハで、

 

「もう2人で買出しに行ってきてください」

 

と言われ、私たちは仲良く追い出された。

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

「あ、もしもし?オレオレ。オレだって。実はアビドスで事故っちゃってさぁ。至急金が必要なんだけど……。あっ!?ごめんって!?冗談だから!?電話切らないで!?」

 

アビドスから車で10分。私たちは少し大きなスーパーに向かうため車に乗って向かっていた(トキ運転)。

 

私はトキに断りを入れた後に、助手席で決戦の仲間を集めるために電話をしていた。

 

「………そうそう。明後日。行ける?。お、ありがと~。じゃあ詳しいことが決まったら逐一メールするね。うん当日よろしくね」

 

ミレニアムの関係でリオ、ネル。そしてあと一人。

 

そんな電話をする私をちらちらとトキは伺っていたが、電話中なのを気にしてか私に話しかけることはしなかった。

 

しかし電話でいろいろと説明していると10分なんてあっという間ということで、電話をしている最中にスーパーに着いてしまった。

 

結局トキとほとんど会話することはなかったが、ここでまた見つめ合ってもしょうがないため、車を下りて駐車場からスーパーに向かう。

 

籠を腕にかけトキと一緒にスーパー内を練り歩く。

 

「お、モツあった~」

 

精肉コーナーでモツを籠に入れた私は、次に鍋の素を探すため移動する。

 

その様子をトキは後ろから何を言うでもなく見つめ続けていた。

 

「鍋の素も発見。えーっとどれにしようかな…」

 

「こちらのスーパーにはモツ鍋の素という商品が2つありますね」

 

「わぁっ…喋った…」

 

「当然です」

 

当然も何もさっきからずっと喋らなかったじゃん…。

 

「醤油ベースと味噌ベースがございますが、どちらにしますかアイ?」

 

「当然モツ鍋は味噌1択。…とゆうかトキも食べるでしょ?味噌でいい?」

 

「え?……はい。ではご一緒します。そしたら私が調理しますのでアイは具材を自由に選んでいいですよ」

 

「本当?助かるよ。じゃぁ次は…」

 

こうして私たちは、

 

「鍋には根菜類はたくさん入れたいよね」

 

「大根に、人参に、ごぼうですか。健康でいいと思います」

 

青果コーナーで、野菜を入れ。

 

「お米…ですか?」

 

「うん。流石にいろんなところ周ってるからパックだけどね。あ、ここのメーカーのご飯美味しいんだよ」

 

米を入れ、

 

「よろしければ、食後にお茶を淹れますよ。紅茶とコーヒー、どちらがよろしいですか?」

 

「紅茶かなぁ。ヒマリのとこで飲んだ紅茶も美味しかったよ」

 

「ありがとうございます。茶葉は…?」

 

「アールグレイでよろしく」

 

紅茶を入れ、レジに向かった。

 

この時間のレジは混んでいてちょっとした行列になっていたため、私たちも行列の最後尾に並び会計を待つ。

 

行列も順調に進んでいたが、待っている間に籠の中身を確認した私は買い忘れに気付いた。

 

「あ、化粧水忘れた」

 

「化粧水?アイ、化粧水塗るんですか?」

 

「いや私じゃなくてイロハがね。昨日切らしたって言ってから」

 

確かこのスーパーにはドラッグストアみたいなコーナーがあったはず。

 

「ごめんねトキ。急いで取ってくるから並んで待っていてくれる?」

 

申し訳ないがトキに籠を渡し、列から離れようとするもクイっと肘あたりの裾をつままれた為、私は動きを止めた。

 

「ん?トキ?」

 

「あ……すみません。どうぞ行ってきてください。私は並んで待ってますので」

 

トキは慌ててつまんでいた手を離すと、うっすら顔に戸惑いの表情を見せた。

 

さっきまでポーカーフェイスだったのにと思って見てると、私はヒマリとの会話を思い出した。

 

『もともと寂しがりのきらいはありましたが、誰かとくっつくと安心するようで…』

 

あぁほとんど初対面でも急に離れようとしたから寂しくなっちゃったのかな?

 

しょうがないなぁ。

 

私はそんな彼女のことを可愛く思うと、トキの頭の上に手を置き、グリグリと撫でる。

 

「すぐ帰ってくるから、 いい子で待っててね ?」

 

「………はい、わかりました」

 

彼女の返事を貰った私は、手をどけ急いで化粧水を取りに走った。

 

そしてその私の姿をトキがずっと目で追っていたことを、私は気付かなかった。

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

アビドス砂祭りも目前に迫り、対策委員会は皆バタバタとしている。

 

そのような中アヤネから依頼、というよりもお願いに近いがアイたちの所に布団を持って行って欲しいと頼まれた。

 

ここでのボスからの依頼であるのと同時に、別段断る理由もなかったため私はその依頼を了承し、彼女らの人数分の布団を用意し車を使って運んだ。

 

アイたちのいる家屋に着き、インターフォンを押す。

 

しばらく待ったが、一向に誰かが出てくる気配がない。

 

何度もインターフォンを押すも結果は同じだった。

 

どうやらチャイムが鳴っているのかも怪しい。

 

「…壊れていますね」

 

アビドス高校の方が言うには、ここは客人や生徒の泊まり込みの際にたまに使っている家屋と言っていた。

 

ライフラインの点検や、掃除は定期的にしているらしいが、そもそもあまり使われない施設らしい。

 

後でアヤネに報告することを記憶し、仕方ないため勝手ながら失礼させてもらおう。

 

私は車から布団を取り出すと玄関から中に入った。

 

どうやら家の中にはアイたちはいるようで、部屋の中から談笑する声が聞こえる。

 

私は廊下を進み、ダイニングまでたどり着くと布団を傍らに置き、リビングに続く扉をノックしようとした。

 

『だったら私も私と先生にしかわからない話するもん!』

 

しかしその時、先生という言葉が扉の向こうから聞こえてきて、私の動きは止まった。

 

先生…?

 

悪いと思いながらも聞き耳を立てると、その後も先生と何度も聞こえてきた。

 

それに彼女らの話は思い出話のようではなく、まるで先生がそこにいるような会話だった。

 

一度ヒマリ部長の元に来た彼女らの声は覚えている。

 

さらに注意深く会話を聞くと、先生として会話している生徒はアイと呼ばれていた生徒だとわかった。

 

早瀬アイ。リオ会長の資料を私も目を通したが彼女の経歴だけは書かれていなかった。

 

ユウカの妹だからという配慮なのか、過去が謎に包まれているからなのか。

 

しかしどう考えても、あの生徒がなぜ先生と呼ばれているのかがわからなかった。

 

こういう時に頭が固くなるのは自分の悪癖だと思う。

 

例えばこのような時、モモイはなんて言うのでしょうか。

 

『きっとアイは先生の記憶を埋め込まれた人造人間なんだよ!だけどだんだんとロボットの人格のほうが育ってきて、自分のあり方に悩むアイに別の組織が接触して来て……』

 

…ないですね。

 

モモイが言いそうなことではありますが。

 

ではアリスならなんて言うのでしょうか。

 

『きっと教会に連れて行ったんです!アリス知ってます!教会に連れて行けば毒も治してもらますし、死亡した仲間も生き返るんです!』

 

…アリスはしばらくゲームから離したほうがいいですね。

 

 

 

………生き返る。

 

いえ、そんなまさか。この神秘あふれるキヴォトスでも……。

 

私が扉の前で思案していると、

 

『先生、カヨコさんの復活はこちらでしますので、夕飯の買い出しをお願いしてもいいですか?』

 

どうやらアイが出かけるらしい。

 

どうすれば…?どんな顔で顔を合わせば…。

 

「いってきまー…」

 

ガララ。

 

無常にも考えている間に目の前の扉が開き、アイが出てきた。

 

「……………」

 

「すっ!?うわぁっ!?びっっっくりしたぁ……。え?どうしたの?」

 

「アヤネに頼まれて、皆様にお布団を届けにまいりました」

 

0距離で驚くアイ。ポーカーフェイスのおかげで私の動揺は伝わっていないようだが。

 

アイと2、3会話を交わしながらアイを観察する。

 

長い銀色の髪。金色の瞳。私よりも小さい身長。

 

どこをとっても私の記憶にある先生と似つかない。

 

しばらく観察していると、戦車長のイロハに追い出されてしまい、なりゆきでアイと共に買出しに出かけることになった。

 

車の中でもアイを観察していると私はふとあることを思い出す。

 

ゲームを嗜むようになってからいろんな設定の物に触れてきたが、その中の1つに転生物というジャンルがあった。

 

流石にありえないと私は考える。

 

しかしそんなありえないことでも、それが神に縋るほどの希望だと理解してしまった私は、アイの正体を確かめずにはいられなかった。

 

 

「こちらのスーパーにはモツ鍋の素という商品が2つありますね」

 

メイドたるもの主の好みは完璧に把握している。

 

「醤油ベースと味噌ベースがございますが、どちらにしますかアイ?」

 

(味噌、ですよね)

 

「当然モツ鍋は味噌1択」

 

 

 

(青果コーナー。あなたが取るのは、大根などの根菜類)

 

「鍋には根菜類はたくさん入れたいよね」

 

「大根に、人参に、ごぼうですか。健康でいいと思います」

 

 

 

「お米…ですか?」(先生はあそこのメーカーご飯をよく買っていましたね)

 

「うん。流石にいろんなところ周ってるからパックだけどね。あ、ここのメーカーのご飯美味しいんだよ」

 

 

 

「よろしければ、食後にお茶を淹れますよ。紅茶とコーヒー、どちらがよろしいですか?」

 

(先生はコーヒーよりも紅茶党の人間)

 

「紅茶かなぁ。ヒマリのとこで飲んだ紅茶も美味しかったよ」

 

 

 

全て先生の好みと同じ。

 

買物が続くなかで私の疑問はだんだんと確信へと変わっていく。

 

買いたい物を籠に入れいざレジへ並んでいると、アイは籠の中を見て何かに気付く。

 

「あ、化粧水忘れた」

「ごめんねトキ。急いで取ってくるから並んで待っていてくれる?」

 

どうやら買い忘れがあったようで、私に籠を渡すとアイは列から離れようとする。

 

列から……私から離れようとするアイ。

 

いつかの光景が重なった私は、思わず彼女の裾をつまんでしまった。

 

『じゃぁ行ってくるね』

 

 

いかないで

 

 

こんなスーパーで思うことではないが、アイが…先生が帰ってこなくなるんじゃ、という気持ちが強くなる。

 

「ん?トキ?」

 

「あ……すみません。どうぞ行ってきてください。私は並んで待ってますので」

 

私の行動を不思議に思ったのか、アイがどうしたの?というように私を見てくる。

 

 

はなさないで

 

 

私は迷惑にならないように、慌ててつまんでいた手を離す。

 

もっといい子になりますから。だから、

 

 

おいていかないで

 

 

私はまるで母親に置いていかれた子供のように、彼女に縋ってしまいそうになる。

 

まだ彼女が先生と決まったわけではないのに。

 

けど少しでも、先生なのかもしれないという希望を持ってしまったからこそ。

 

置いていかれるという恐怖に身体が支配され固まってしまう。

 

身体が固まり感覚も鈍く感じた時、ふと彼女の手が私の上に乗せられた。

 

「すぐ帰ってくるから、 いい子で待っててね ?」

 

それは、先生が私をいつも宥めるのに言ってくれた言葉。

 

構ってもらおうと仕事の最中に、先生に突撃する私に決まって先生が言う言葉。

 

私のわがままに困った先生が、しょうがないなあという優しい顔で言う言葉。

 

そして、あの日。私と先生が最後に交わした言葉。

 

「………はい、わかりました」

 

私の返事を受けたアイは、急いで列から離れていった。

 

離れていくアイの姿を私は目で追う。

 

ほんとうに、あなたは先生なのですね。

 

こんな私の元に帰って来てくれた主人。

 

私の主人。

 

ならばメイドにできるのは1つだけ。

 

私はパンっと自分の頬を叩き喝を入れる。

 

先生。今度こそ貴方に仕えきってみせます。

 

貴方のメイドとして……もちろん最後まで。




転生先生、嘯く 23話目
忙しい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
師走もとうに過ぎたのに忙しすぎる!!
分身するっきゃない〜〜〜
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