「ようやく来ましたか……私の糧になる存在、アイ。初めまして……私の名前はベアトリーチェ」
そう言って、ベアトリーチェは手術台を模した椅子に腰を深くかけながらこちらに声を掛けた。
ベアトリーチェ。
長い背と黒髪、赤い肌を持ち、目がついている羽で埋め尽くされた異形の頭の人物。
アリウス分校を統治していたゲマトリア。性格は傲慢であり、他者を自分の目的を達成させるための道具と思い、切り捨てることもいとわない。
一度はサオリ達、アリウススクワッドと共に倒したが、いまだアリウス分校では彼女の影響が残るほどだ。
その彼女がなぜここに……?
「なに?私のことを知ってるの?いろんな学校でやらかしてる自覚はあるけど。もしかしてストーカー?ナースとタイプライター愛好家だけで十分なんだが」
「随分とおしゃべりですね…。ケセドの力で盗み見していたことは認めましょう。ですが、それには理由があるのです」
ベアトリーチェはそう言うと片手を掲げる。その腕には入院患者のように管がいくつも繋がれ、彼女の座っている椅子へと伸びていた。
「これを見てどう思いますか?……以前は、私を理解しない者達に夢半ばでやられてしまいましたが、幸運なことに私は再びこうして地上に戻ってこれた。ですが……恥ずかしいことに、まだ不完全な状態でしてね。これをつけて周りから、少しずつ神秘を取り入れないと完全な私に戻れないのです」
「なので私は、気に入らないアイツらの研究をあさり、ミレニアムをハックし神秘の情報を集め……少しでも早く完全体へと目指していた時、そんな時にアイ、あなたを見つけたのです」
ベアトリーチェはギラッとした目つきでこちらを見る。
「ミレニアムの屋上で大量の神秘をまき散らすあなたを!あの黒服が執着した暁のホルス以来の上質な神秘の結晶!アイ…あなたを取り込めばこんなちまちまとしたことをしなくても、私は以前のような姿に……!さぁアイ、私の糧になりなさいッ!」
演説のように高らかに言うベアトリーチェは最後にこちらに手を伸ばし、締めくくった。
「……アイ」「……旦那様」
私の後ろにいるイロハとトキは、私がベアトリーチェの問いかけにどう答えるの気になり不安げに私へ回答を促す。
当然私の回答はこうだ。
「…………椅子とお茶は?」
「……はい?」
「だから椅子とお茶。こんっっなくだらない話を長々とする前に、まずお茶と椅子を出すべきでしょ。アリウスでも来客のおもてなしは出来てたぞ?」
銃弾のだけど。
「まぁでもまずセリカのよく行ってるセミナーよりもつまらない話の答えをしようか。お前に協力する気も、なんなら糧なんぞになってやる気もない」
「そうですねアイ。私としてもアイをあのようなのに取られる訳にはいきません」
「その通りです。旦那様は私の物です」
「それも違うけど…。コホンっ。それにミレニアムやアビドスだけじゃない。トリニティもお前の仕業だろ?逆にこれ以上学園に迷惑かけないなら見逃してあげてもいいけど?」
「……そうですか、交渉は決裂。ですがこれを見ても同じことが言えますか?」
ベアトリーチェは手元で何やらいじると、壁に掛けてあるディスプレイが1つ光る。
「……これは?」
「ふふふ……これはグレゴリオ、そしてケセドのいる部屋の映像です」
「……それがどうしたの?ついに人工物にまでストーカーするようになった?」
「……減らず口を。あの二つはこの私自らが再現し、改造した者。……あれと対峙したあなたのお仲間はどうなっていますかね?」
「「どうもなっていませんよ」」
怪しく笑みを浮かべるベアトリーチェに反論しようとするが、先にイロハとトキによってさえぎられる。
「あなたは、あのオルガンの化け物を高く買っているのでしょうけど、あんなのにネル先輩が負けることなんてありえません」
「こちらの風紀委員長も同じです。あんなデバフを掛けないと倒せない人なんて、あの人以外知りません」
「……お仲間までお喋りなんですね。しかし所詮は子供の力。この映像を映像を見ても同じこと言えますか!?」
イロハとトキの反論に対し、少し興奮したベアトリーチェはディスプレイを操作していく。
ザザ……ザ……。
やがてディスプレイは、私たちが通ったあの劇場を映し出し、
『なんか…弱かったな…』
『そうですね…。消化不良でしたね…』
無残に散るグレゴリオ。そしてそれを足蹴にする美甘ネルを映し出した。
ピッと無言で場面を切り替えるベアトリーチェ。
「えっと…なんだったっけ?お仲間が~、なんだっけ?」
「……あんな木偶の研究などあてにするんじゃなかったわ。だが…預言者デカグラマトンなら」
ベアトリーチェはぶつぶつと言い、再び映像を捜査していく。そして今度は機械や電線が張り巡らされた大きな間が映し出される。
『へぇ……なかなかやるじゃんね』
『まさか…ここまでやるとわね』
「ふふふ……!!どうです!?これから映し出されるのは無様にも蹂躙される光景……」
『じゃぁいくよ!!……プレイボール☆』
「……は?」
『いつでも来なさい。ライトまで飛ばしてやるわ』
映し出された映像はミカとヒナが野球をしている姿だった。
なぜ野球?
まぁそれはいい。平和でいいからね。
しかし、
「ミカさんがボール代わりにしてるデカい球って、あれケセドなのでは?」
そう彼女らはケセドをボール代わりにして、自分の銃で打つというスポーツに興じていたのだ。
「なんですか?あの強者しか出来ないようなスポーツは」
「うわぁ。ヒナ、めっちゃデストロイヤー振り回してる」
『えい☆』
『ふんっ!』
ドゴォッ!!
ミカが投げたケセドをヒナが打つと、映像越しなのに鈍い音がよく聞こえた。
『ファールかしら。……横にそれたわね』
『次は私が打つ番ね!!ヘイヘイ!ピッチャービビってる!!』
『……いいわ。ゲヘナのフォーシームを見せてあげる』
ヒナはズシッとケセドを背負うと、勢いよくミカに向かって投げる。
『えいっ☆』
勢いに負けずミカもQuis ut Deusを振り抜きケセドにぶち当てる。
カッ!!
するとヒナとミカの衝撃に勝てなかったのか、ケセドは一瞬眩く光り爆破した。
爆風でしばらく何も見えなくなったが、だんだんと煙が晴れていき、たたずむ2人が映し出される。
『……ボール、なくなっちゃったわね』
『……ね』
ピッ
あ、映像変えた。
「……役立たず共めッ!!」
なんだろう、ちょっと哀れに思えてきた。
「……まだ…まだだ!ならば…これならどうだ!!」
ベアトリーチェが性懲りもなく映像を切り替える。
「なるべくこれは使いたくなかったのですがね……」
映像が切り替わると、画面いっぱいに砂の山が映し出された。
「ここは…砂漠か?」
先ほどの映像のように部屋を映すように固定されているものではなく。人が動くようにカメラの視界が動きどこかへ向かっているのがわかる。
「……ッ!!アイ、ここは私たちが虎丸に乗ったあたりでは!?」
「……つまりアビドス砂祭り会場の近く、ですか」
「その通り……。この映像はケセドが生み出した機械兵の映像です」
「ですが私達が来る間に見かけませんでしたが……」
「あたりまえです。私があの機械兵に命令を出したのは、あなた達がこちらに入った後。砂漠や天候に左右されずに向かっていったあの機械兵は、これからアビドスを襲うのです」
だんだんと見えていくアビドスの街並み。
「機械兵の数はざっと千を超える!アイ、あなたが私のものにならないのならばアビドスは壊滅!おとなしく私の糧に……!」
「これはピンチだね……」
しかし機械兵の映像は同時に1人の少女も映し出す。
「だけど、ピンチにはヒーローが現れるものさ」
桃色の後ろにまとめた長い髪。ボディアーマーを身にまとい、数多の武装で大量の機械兵相手でも1歩も引く様子を見せず毅然と立つ。
『大丈夫だよ、みんな。ここからは誰も通さないから』
アビドス、曇りの守護者。小鳥遊ホシノの登場である。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
人とは成長する生き物である。
人とは学習する生き物である。
ならば私は人間ではないのだろう。
ユメ先輩との関係を間違え、先生と最初に出会った時の事件でも間違え、雷帝の遺産の時も間違え、そして先生が死んだ時も間違えた。
あれは私たちが対策委員会で、いつものように会議とは名ばかりのお話をしてた時。
みんなの携帯が何かの通知を受け取り、全員で携帯を見た。
通知を見た私たちは、先ほどまでの穏やかな空気は一変し、誰もが青白い顔になる。
もちろん私もそのうちの1人。そりゃ当然だ。
先生の訃報の知らせを聞いたのだから。
その後はアヤネちゃんとノノミちゃんが各方面に連絡し、この通知の真実を探った。
シロコちゃんはいつもの冷静な態度を崩し、先生の元へ行こうとしていて、セリカちゃんはシロコちゃんを止めようと必死になっていた。
私だけだ。
私だけがその場で動けずに、現実を受け止められずに、立ち尽くしていた。
対策委員会のみんなが先生を思う中、私はこう思っていた。
また私は大事な人を守れなかったと。
私だけが私だけを考えていた。
そんな私だからこそ、この時も間違えたんだ。
先生がなくなってしまった日から数日後の深夜。
私はこっそりと例のロッカーの前で装備を整える。
ショットガン、ベレッタ、弾薬と手榴弾、ボディアーマー、そしてシールド。
装備を身にまとった私は隣の姿見で漏れがないか確かめる。
「……はは。ひどい顔」
何日も寝てないせいか、目に光はなくクマがこびりついている。
だけど問題はない。
試しに弾倉が空のショットガンにリロードをしてみる。
1発2発3発……。
うん、滑りはない。
用意を終えた私は部屋を出て、校門に向かい学校外に出る。
「うへ…どうしたの、いい子はもう寝る時間だよ」
しかしそれは叶わなかった。
なぜなら対策委員会のみんなが校門前にいて私を通さないように塞いでいたからだ。
「どこ行くんですかホシノ先輩」
「どこって……ただの見回りだよアヤネちゃん。ほら…先生がいなくなってから治安も悪くなっちゃったしさ」
「ん。ホシノ先輩嘘ついてる。正直に言うべき」
「本当はカイザーの所に行くんでしょ!?先生の……敵を取りに……」
「なら私たちもついて行きます」
「うへぇ……ダメだよ……。これはおじさん1人でやらなくちゃいけないことなんだから」
「また1人で突っ走る気ですか!?またあの時のことを繰り返すんですか!?」
「うん……ごめんね……。でも……」
私はショットガンを みんなに向ける。
「でも……許してね……?」
「……ホシノ先輩」
「ごめんねみんな。ダメな先輩でごめん。……でももう止めらんないんだ。あの日みんなが止めてくれても無駄だったように。でも今度こそ迷惑かけないから」
「だったらホシノ先輩。あの時と同じように勝負……」
「いえ、シロコ先輩」
シロコちゃんが銃を構えようとしたのを、アヤネちゃんが止める。
「私達でホシノ先輩と勝負します」
「……いいよ。私は問題ないから」
みんな強くなった。
だけどまだみんな相手でも戦える。
「じゃぁ始めようか」
「……そうですね」
私は素早くショットガンを構え、近づいてくるみんなに標準を合わせる。
不思議な点はアヤネちゃんが雨雲号を呼ばない点。
珍しくアヤネちゃんはハンドガンを構えてこちらに向かってくる。
侮るわけではないが、これで苦労せずに倒せる。
「一気に倒す……よ…?」ガシ
ショットガンを撃とうとするが、銃身のすぐ横から黒い靄が現れると、そこから出てきた腕が私の銃身を掴んだ。
「え?ちょっと待って。これってもう1人のシロ……あ、やば……」
銃身に伸びる腕に気を取られ、すぐ近くまで近づいていたアヤネちゃんに気付くのが遅れ、綺麗な右ストレートを顔面に受けてしまい私は派手に吹っ飛んだ。
「いたた……。まさかもう1人のシロコちゃんまで関わってるなんて……あ……」
地面に転がった身体を起こそうとすると、吹っ飛んだ先にはすでにシロコちゃんとノノミちゃんが待機していて。
「ん。ホシノ先輩。覚悟するべき」
「ホシノせんぱ~い。おはなし、しましょうね?」
そこからはアヤネちゃんと、セリカちゃんも合流し素手でひたすらにボコボコにされた。
・
・
・
「はぁまったく。苦労掛けさせないでください」
「とりあえずこれで私たちが勝ったんだから大人しくしててよね!?」
「動けないように縛っておきましょうか~」
「弱ホシノは私達の言うことを聞くべき」
「みんな強くなったね……」
私はみんなからの私刑によって体中に青たんを作りながら地面に大の字で倒れていた。
「ん……本当にみんな強くなった」
「あ…もう1人のシロコちゃん」
あっちのシロコちゃんもいるんじゃ大丈夫かな。
「だから……私がいなくても大丈夫だよね……?」
「……まだそんなこと言ってるんですか」
「ホシノ先輩、もう私たちは守られてるだけの後輩じゃないんですよ」
「違うんだよノノミちゃん。確かにね…まだみんなを守らなくっちゃって思いは消えてないよ。だけど……今回私が1人で行こうとしたのは、ただのわがままなんだ」
「わがまま?」
「うん……。私はね…みんなに光の中を歩いて行って欲しいんだ」
「光の…中…?」
「今回、私と一緒に先生の敵討ちをしたら多分、戻れなくなる」
「戻れなくなるって何がよ…?」
「私はカイザーに行ったらまずその場にいる者を全員殺しちゃうと思うんだ」
「「「「……ッ!?」」」」
「これでもノノミちゃんが来るまで、裏でいろいろとやってたからね。もう私は良いんだ。だけど」
私は力をふり絞りよろよろと立ち上がる。
「だけど……みんなはダメなんだよ。こっちに来ちゃいけないんだ」
そう。私のようになっちゃいけない。
「いつもみたいにみんなで会議して、バイトして、卒業したらどこかホワイトなところに務めてさ。いつかは好きな人が出来て結婚とかするんだろうな。そんな幸せで……明るい道を歩いて行って欲しいんだ……」
それが私の夢。
ユメ先輩も、先生も私は守れなかった。
あの時に前向きになるって約束したはずなのに無理だったよ。
だから私は、何も守れなかった私は、せめてこの子達が明るい光の中を歩めるように、この子達だけは守り切りたいんだ。
「きっと……先生がいなくなっちゃったからカイザーからの返済は厳しくなる。もう先生っていう後ろ盾はなくなっちゃうんだよ。うへへ、それに……カイザーを潰せば……先生の敵も取れて一石二鳥だ~……」
「…………本当に学ばない人ですね」
「ア…アヤネちゃん?」
「これを見てください」
アヤネちゃんは携帯を取り出すと、あるサイトを見せる。
「……カイザー討ち入りの有志募集?もう……こんなのが出てるんだね」
「ええ。さっき出しましたから」
「「「「え?」」」」
「こちらの有志募集。もうすでにゲヘナやトリニティ、ミレニアムといった大きい学校に伝えてあります。そして広めるようにとも」
「アヤネちゃん!?私聞いてないわよ!?」
「言ってないからね」
「ん、だんだんアヤネが先生に似てきた気がする」
「ん…私もそう思う」
「アヤネちゃん!?こんなことしたら……!」
「ホシノ先輩。私も同じです。先生を守れなかった」
「そんなアヤネちゃんのせいじゃ…!?」
「だけどずっとうじうじしているホシノ先輩とは違います。もう私は誰も失いません」
シロコちゃんの言う通りかもしれない。
「今度こそ誰も失いません!ノノミ先輩も、シロコ先輩も、セリカちゃんも、あっちのシロコ先輩も、このアドビスも!!」
先生に似てきたなぁ。
「私も大事なものを守るためならなんだってします!!光の道なんて甘い世界はいりません!!」
何もかもを掴み取ろうとする決意に満ちた目。
「もちろんその中にはホシノ先輩もいますからね!!戻れなくなるとかどうとか知ったことではありません!!そんなに私達が心配なら!!私達を失うのが怖いなら!!離れないで……ずっとそばで私たちを守りなさい!!」
本当に先生そっくりだ……。
「……そんなあなたを私たちも守りますから」
・
・
・
「うへへ……懐かしいこと思い出しちゃったな。その後もいろいろと暴走してアヤネちゃんに怒られたっけ」
さて、っと思い出にふけるのは1回中止。
前には数えるだけで途方もない程の機械兵。
こんなに機械兵が並んでるとなんか壮観だなぁ~。
チャンバーよし、弾薬よし。おじさんには厳しい戦いになりそうだ。
だけど、
「大丈夫だよ、みんな。ここからは誰も通さないから」
私は手始めに向かってくる機械兵に向かって手榴弾を投げる為にピンを抜く。
ドーン!!
前に、機械兵の大群の1部が爆発で吹き飛んだ。
「あれ……?おじさんまだ何もしてないんだけど……?」
突然の出来事に呆気に取られていると、後ろから猛スピードで走ってきて私の前を通り過ぎる。
「も~ほんとヤダヤダ!アヤネちゃんのライブの時間が近いってのに……カヨコちゃん!アヤネちゃん達の出番まで何分!?」
「私たちが会場を出たのが丁度、砂狼姉妹のアイドルユニット『メインヒロイン』の出番が終わったところだから……。あと12分ぐらい?ここから会場まで全力で走って2分。余裕を持ったら3分は欲しいかな」
「じゃぁあと9分でこいつら片づければいいんだね!?よ~し!ありったけの爆薬使っちゃうぞ~!!」
「セリカのライブのためにとっとと終わらせよう」
あれって便利屋の……?
「ま……待ちなさい。あなた達……」
彼女らの後ろからは、フラフラになりながら陸八魔アルが歩いてくる。
「だ……大丈夫ですか、アル様?」
「ゼー……ゼー……。なんであの子たち…会場から走ってきてあんなに元気なのよ……」
「うへぇ~……便利屋ちゃんたち、いったいどうしたの……?」
「どうしたも何も仕事の真っ最中よ……。会場の警備をしてたらいきなりあの2人が飛び出していったから、慌てて追いかけてきたのだけど…。なんなの……この機械兵たちは?」
ドーンッ!!ガシャーンッ!!
「そうだねぇ……。まぁもう気にしなくてもいいかなぁ……」
どんどんと数を減らしていく機械兵の中心で、鬼神のように暴れているカヨコとムツキの姿を見たホシノは呟いた。
転生先生、嘯く 25話目
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