百鬼夜行連合学院。
昔、数多くの自治区に分かれ争っていたが、いつしかその争いは調停され、今ではお祭りや観光産業を中心に発展している自治区だ。
「やっと着いた~☆」
「こちらが百鬼夜行連合学院……。興味深いところですね」
朝早くアビドスから出発した私たちは、正午をまたぐ前に百鬼夜行自治区まで着くことが出来た。
自治区の駐車場に虎丸を駐車した私は、運転で疲れた目頭を揉みながら虎丸から降りる。
私が下車すると先に降りたメンバーが思い思いに過ごしており、ミカはずっと座っていた身体をほぐすように伸びをし、トキは物珍しさの為かキョロキョロと町並みを観察していた。
百鬼夜行に来るのは修学旅行以来か。
私もあの時の思い出を懐かしむように周りを見渡す。
風情を感じさせる家屋、目の前で綺麗に散っていく桜の花。
そして
「ケヒャァァァア………」
「あのさ、…さっきからツルギちゃんいる?」
人語を忘れたアイ。
「あの……旦那様が百鬼夜行に近づくにつれ、だんだんと獣のような鳴き声を出しているのですが……」
「問題ありません。アビドスで参加できなかったお祭りを目の前にして、暴走しかけてるだけです」
アイ、先生はお祭りが大好きだ。
それこそ百鬼夜行からお祭りの誘いがあれば、当番の生徒と連れだって参加するし、トリニティの謝肉祭などの別の学園のお祭りにもウキウキで参加していた。
まぁその後のことを考えないで参加するので、次の日の当番の生徒が、そのしわ寄せを受けるのですが。
「アビドスで砂祭りに参加できなかったことが、ショックだったのでしょう。屋台で買ったりんご飴でも与えとけばとりあえずは落ち着きます」
「キシャァァァア……オレ……リンゴアメ……喰ウ……」
「わーお……アイちゃんが改造された悲しいサイボーグみたいになってる。屋台で1、2品買ってどこかで休もっか」
「そうですね。なら私は皆さんが休めそうな場所を探してまいります」
「うん。お願いねトキちゃん」
「カァァァアァァ……ヤキソバモ……ヨロシク……」
「この状態でもリクエストは出せるのですね」
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ペロペロ
「りんご飴おいし~」
「おや…やっと人語を取り戻せたようですね。アイ、人間に戻れた感想は?」
「お祭りサイコ~」
私たちは屋台で買物した後、トキの探してくれた自然公園のベンチに座って飲み食いする。
「アイちゃん楽しそうだね!」
「祭りには夢が詰まってるからね」
「まったく。ここに来た目的を忘れてませんよね?」
「……なんだっけ?全屋台制覇だっけ?」
「忘れてしまったのですか?しょうがありませんね。ではその脳髄に直接刻みつけてあげますので大人しくしててください」ガチャン
「うそうそ冗談だよイロハ!?覚えてるから銃しまって!?泥棒探しでしょ!?」
「はぁ……しっかりしてください」
私たちがアビドスを出発する直前で、クロレラ部が教えてくれた現百鬼夜行の話。
「たしか、人の思い出を盗む泥棒だったよね?」
「思い出って…記憶のことなのかな?」
そう。私たちは今百鬼夜行が抱えている問題を知らない。知っているのは先ほどのクロレラ部の生徒が言っていた泥棒案件のみ。
まずはこれを調べ、問題の本質を探っていこうというのだ。
「正しくは人の思い出の品を盗む泥棒ですね旦那様」
「あれ?もしかして詳しい、トキ?」
「はい。クロレラ部の部員はよくヒマリ部長の拠点に来ていましたので。その時にたまに話をしていました」
トキは食べていた唐揚げを租借しながら説明する。
「百鬼夜行を騒がせてる泥棒。どうやら結構な腕前らしく、生徒会……ここでは陰陽部がその役割でしたね。その陰陽部が犯人を捕まえるのにだいぶ苦労しているそうですよ」
「ニヤ、ちゃんと働いてるんやね……」
「被害は多く有名なところでは、お祭り運営委員会、修行部……百花繚乱紛争調停委員会」
「え!?百花繚乱に泥棒!?」
「はい。やはり有名どころの被害となると、伝わるのが速いらしく、生徒間では噂で持ちきりらしいですね」
実力者だらけの百花繚乱に盗みに入って、出てこれるってどんだけ化け物なの?
「そして私が話を聞いて1番不思議に思ったのが、犯人の情報がまだ陰陽部から出ていないところです」
「それって目星も?」
「ええ。いっさい発表されていないと」
「不思議な話ですね。犯人に対して特に情報がないなんて」
「犯人陰陽部の身内なんじゃない?身内の犯罪隠すなんてトリニティでは結構あるし☆」
「ミカ……今の君の状況ってまんまそれだからね?」
「……たこ焼きおいし~☆」
校舎ぶっ壊したからトリニティの状況が落ち着くまで隠れてろと言われた、まさに身内にかばわれている際中のミカ。
流石渦中の中心にいたミカ先輩の言うことは1味違うっす。
「そしたらまずは聞き込みかな」
「それもそうですね。まずは情報を集めたほうがいいでしょう」
「よし!じゃぁ手分けしたほうがいいね。そしたらイロハは御輿通路、ミカは第七商店街、トキは狸町をお願い」
「わかりました」「おっけ~☆」「承知いたしました」
「私はたこ焼きと、イカ焼き、それとかき氷を担当するね」
「よかったねみんな!アイちゃんが百鬼夜行全域を担当してくれるって!私たちはお茶でもしてよっか☆」
「ごめんなさい。全域はキツイって」
「きちんと北部の大雪原も調べるんですよ」
「聞き込みなんだけど!?あそこ人いないじゃん!?」
「なら旦那様。私と一緒にグルメ交差点あたりで聞き込みをしましょう。屋台も多いですし、屋台が多いということは、人も多いということです。聞き込みにはうってつけでしょう」
「トキ……!!」
「トキさん、あんまりアイを甘やかさないでください」
「トキちゃん、あんまりアイちゃんを甘やかしちゃダメだよ」
「……トキ。私このチームのリーダーなんだぜ」
「……まぁ、旦那様にも悪いところはありましたので」
はい。私が悪うございました。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「はい、お話ありがとうございました」
「ありふぁふぉうごふぁいましふぁ」
公園での話し合い後、とりあえず二手に分かれ聞き込みを行うことにした私たち。
公正なじゃんけんの結果、私・イロハペア、ミカ・トキペアに分かれて聞き込みに向かった。
ミカに引きずられ私から離れていくトキは、雨の日に段ボールに捨てられた子犬のようにうるんでいたが、私は心を鬼にして送り出した。
そんなこんなで私とイロハは公園を出発し、第七商店街で聞き込みを行っていくが流石はゲヘナ戦車長。
サボる時はとことんサボるくせに仕事をする時はてきぱきと動き、来客が多そうなお店をリストアップして聞き込みを開始していく。
私はそんな頼もしいイロハの後ろを、屋台で売っていた落書きせんべいを食べながらついて行った。(イロハの許可済)
※落書きせんべいとは?
大きくて薄いいかせん、又はたこせんに、筆なので水を塗りその上にチョコスプレーをかけ、せんべいに絵を描いていく屋台の定番商品。甘じょっぱくておいしい。
基本どれだけせんべいの上にチョコスプレーを乗せ、満足感を得るかの勝負なので絵などは二の次である。
「どうしたんですか?物思いのふけって」
「え?あぁちょっとこの世の愁いをね」
「世の中ではなくまずは現実を見てください」
イロハは私の様子に呆れながら、いくつかのお店で聞き込みしたことを手元のメモにまとめていく。
「やはり犯人の手がかりはあまり掴めませんでしたね。聞けてもせいぜい噂の範疇を超えないというか」
「そうなの?」
「アイ……貴女私の後ろをついてきてましたよね?」
「ごめん……上に乗っているチョコを落とさないように食べるのに必死で……」
「本当にシャーレの仕事出来てたんですか?イブキでももっと落ち着きありますよ」
「ひいん……」
「はぁ……しょうがない人ですね。話を聞いたところ特にめぼしい話はありませんでした。犯人の特徴よりどこが被害にあったって話の方が多かったですね。……ですがその代わり別の話が聞けましたが」
「別の話?」
「はい。どうやら最近怪しい集団が、街を徘徊していると複数のお店から聞けました。見る限り百鬼夜行の生徒ではないとも言っていましたね」
「他校の生徒ってことか……。何かをやらかす生徒。…………話は変わるんだけどさ」
「はい?」
「ゲヘナの子は元気してる?」
「何が言いたいんですか?まるでゲヘナが犯罪者の巣窟のように言って。その通りですよ」
「1人で完結しないで……」
「ですが今のゲヘナは風紀委員長によって綺麗になっていますからね……。古参の犯罪者はまだ別の地域でのさばっていますが。その他でやらかすような集団といえば……七囚人、とか?」
「……どうだろうねぇ」
彼女らがあまり集団で動くとも考えられない。
そして七囚人の言葉を聞いて思い出すのは、狐面の彼女。
ワカモ元気かな。
「さて、ではもう少し聞き込みを続けますか」
「あ、その前にイカ焼き買ってきていい?」
「………………」
彼女からまだ食べるんですか?みたいな視線を貰う。
「イロハの分も買ってくるから!?」
「…………はぁ……ベビーカステラ買ってきてください」
「ラジャ!!」
許可も貰えたので私はイロハから離れ目的の屋台を探すため駆け出した。
ベビーカステラの屋台を早々と見つけ、カステラを買うと次に私の欲すイカ焼きの屋台を探す。
商店街の真ん中ということもあって人が多く、人の合間をぬって進んでいると、
「……っ!!」
「…あっと、すみません」
屋台を探していてあまり前を見ていなかったためか、あちらから歩いてきた人に気付かずぶつかってしまった。
「ごめんね…怪我とかはないかな?」
「いえ…こちらは大丈夫…です…」
ぶつかってしまった女の子は、倒れはしなかったが大きく驚いていた。
身体をすっぽりと覆えるぐらい大きなコートを着ていて、フードも目深に被っていたが、それでもわかるぐらいこちらを警戒している雰囲気を見せている。
「どうしよう……お詫びとかしたいんだけど、カステラ……いる?」
「……お気遣いなく」
彼女は冷たく言うとすぐに私に背を向けて歩き出してしまう。
私はそんな彼女の後ろ姿に声をかけたかったがそれは出来なかった。
だって後ろを向いた時にチラッと見えた横顔がとても暗かったから。
あんなに明るかった目に隈がうかび、濁りよどんでいたから。
感情を表すたびに揺れていたふんわりとした尻尾が、コートの後ろから確認しても一切動かなかったから。
彼女は人ごみにまぎれ姿を消す。
私は、久田イズナに声をかけられなかった。
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「まさか…あのイズナさんが…」
「うん。すごい変わりようでね。事件に関わってるかどうかまだわからないけど、このままにはしておくのは心配でさ」
「それでこれから忍術研究部に?」
「そうだね。……それと百鬼夜行の部活で忍術研究部が一番気になるし。継続的な意味で」
「……わかりますけど」
イズナと会った私はその後すぐにイロハと合流。
合流後は忍術研究部のある旧校舎へと向かう。
「そういえば……、イロハは忍術研究部に会うのはあの時以来?」
「そうですね。あの街中を戦車で爆走した時以来でしょうか。修学旅行では会いませんでしたし」
「あぁ大変だったやつね」
「このキヴォトスで大変じゃないことなんてあまりありませんがね。ですが千鳥ミチルさんの動画は、いつも見させてもらってますよ」
「おぉ!通だね!!」
「イブキが」
「なんで1回自分が見てる風に言ったの?」
イロハとの会話で出たミチルの話を聞いて私は彼女の運営していたチャンネル『少女忍法帳ミチルっち』の存在を思い出す。
生き返ってから一度も彼女のチャンネルを開いたことがなかった……。
一度思い出してしまうと無性に気になってしまった為、私はスマホを起動しミチルっちが投稿されているサイトにアクセスしようとする。
「え~っと、みちるっちっと…………あれ?」
しかし投稿サイトにミチルっちの名前を打ち込んでも引っかからない。
「お世辞にも人気があるとは言えないチャンネルでしたので、正式名称で打ち込んでみてはいかがです?」
「そうしよう。……しょうじょにんぽうちょう、みちるっち…と」
横から見ていたイロハのアドバイス通り正式名称で打ち込んで検索してみる。
「…………あれぇ?」
しかしそれでも一切出てこない。
「…………もしかしてですが……BANとかされてます?」
「BANよりアカウント削除って感じがするけど……いやいやまさか、ね」
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旧校舎の一室。
あまり陽が届かない薄暗い一室の隅で、独り背もたれのない丸椅子に彼女は座っていた。
その姿はさながら死闘を終え、リング上のコーナーで力尽きて座り込み、真っ白な灰のように燃え尽きたボクサーを思わせた。
その灰となった少女、千鳥ミチルの姿を見た私たちはミチルっちのアカウントが削除されたんだと悟ってしまった。
目的の部室までたどり着き、ノックと声かけまでしたが一向に返事がない部室。
中から人気配も感じなかった為、無断だが入らせてもらおうと中へ入ると、すっかり気配が消えた彼女が部屋の隅にいたのだ。
その気配の消し方は、歴戦の忍びにも負けないほどだろう。
彼女の存在に気付いた私たちはびっくりして息を飲むが、私たちに気付いていないのかミチルは、半目半口でひたすらに無をただ見つめたまま動かないでいた。
目に光は無く、完全に沈黙したミチル。
私とイロハはお互いに顔を見合わせると、イロハが意を決したようにミチルに声をかけた。
「…………あの、ミチルさん?」
「………………」
「ミチルさん?おーい……あ…」
「…………」
呼びかけに反応しないミチルを見てイロハがミチルの顔の前で手を仰ぐ。
するとイロハの存在に気付いたのか、ミチルは錆びついたロボットのようにグググ…と顔をイロハの方へゆっくりあげる。
「気付きましたね。ミチルさん、大丈夫ですか?私が見えていますか?」
「………」
まるで重病者の意識を確認するような質問をするイロハ。
ミチルはイロハの顔を見ていても表情1つ変えなかったが、しばらくするとイロハの存在を認知したのか、だんだんと目に虹彩が戻っていく。
「……イロ…ハ…殿」
「はい、棗イロハです。お久しぶりですねミチルさん」
「……イロハ殿……イロハ殿ーーーー!!!」
虹彩の戻ったミチルは涙を大量に流すと、イロハに全力で抱きついた。
転生先生、嘯く 27話目
百鬼夜行編開始!
それと同時にダイエットも決意!
BMIを20まで落とす