「うぐ…えぐ…ひぐ……ウェッ!!」
「……ミチルさん、まずは落ち着いてください」
「……うん」
百鬼夜行の旧校舎の一室。
忍術研究部の部室で、放心しているミチルと出会って泣きつかれた私たちは、泣きわめく彼女をなんとか宥めるとパイプ椅子に座らせた。
私たちも長机をはさんだ対面の椅子に座り、気持ちを落ち着かせる。
「それで、こんなところで白くなっていましたが、どうしたのですかミチルさん?」
「こんなところって、私たちの部室なんだけど……。私たちの部活がぁ…その…活動停止になっちゃってぇ」
「活動停止、ですか?なにか理由が?」
「そうなの……。だけど理由は言えないんだけどさ……」
「それは私たちが部外者だからですか?」
「うっ!?そうじゃなくて!?いや……そうなんだけど……でもそうじゃくてぇ…」
忍術研究部の活動停止の理由を聞かれても口ごもるミチル。
ゲヘナでのイオリのように戒厳令でも敷かれてるのだろう。
そしてそんな戒厳令を敷ける人物の心当たりは自然とつくわけで。
それでもキヴォトスの忍者のはしくれ千鳥ミチル。
みすみすと上官の通達を破るわけはないだろう。
なので私は別の手段から切り込んでみる。
「そういえば、さっき商店街でイズナを見かけたんだけど」
「え!?イズナが!?どこにいたの!?」
「第七商店街の方かな。でもすぐに姿を消しちゃったからもういないかも…」
「あっ……そっか」
私の言葉を聞いて思わず立ち上がってイズナの居場所を聞こうとしたミチルだったが、言葉の続きを聞くと、再び力なく座りこんでしまった。
「……あれ?そういえばその子は誰?イロハ殿の友達?」
「ん?紹介がまだだったね。私はアイ。ミレニアム在籍の……ん~」
「アイは……私の仲間です。今どこの学園もデリカシーが欠如した大人がいなくなったことによって荒れてるでしょう?なのでアイを中心に各学園の問題を解決して回っているんですよ」
「イロハ殿…そんなすごい任務を任されてるの?」
「ええ、私とアイ。それと数人の仲間で各学園を周っています。百鬼夜行もその一環で来たんですよ」
いまだミレニアムに在籍しているとはいえ自分の身分の説明が難しい身だが、そんな私を察してかイロハがフォローに回ってくれる。
なんか余計な言葉も追加されていた気がするけど。
「……そして百鬼夜行の問題を調べるうちに泥棒の情報も掴んできました」
「…………」
「ミチルさん、教えてください。今この学園に起こっていることを」
イロハと私はミチルに頭を下げる。
頭を下げられたミチルは、私たちの様子に冷や汗をかくと戸惑いや不安を表情に浮かべた後、観念したように机に視線を落とす。
「そうだね……。二人とも泥棒の正体はうすうす感じてるよね?だったら話してもいいかな……」
そうしてミチルは話し始めた。イズナが、最後にこの部室に来た時のことを。
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空は雨雲で真っ黒。
部室の窓から外を見るとザーザーとバケツをひっくり返したようなの雨が降ってる。
「うおー…すごい雨だねツクヨー」
「……そうですね部長」
「これじゃぁ外で忍術の練習は出来そうにないかなぁ~」
「……ええ」
「あ!でもこんな雨のなかなら水遁の術の練習とかできそう!」
「……風邪、引いてしまいますよ」
「…あ~そっか~。それは心配だなぁ。そういえば水遁の術といぇばねぇ~。トリニティで調達した新種の術が…………」
電気がついてても薄暗い部室。
部屋には明るく私だけの声が響いた。
先生殿が亡くなってからツクヨとイズナの2人は、目に見えて元気がなくなってしまった。
イズナはあの天真爛漫な姿が嘘のように沈みきってしまって、私たちの見えないところでは『主殿…』と言い、涙を流している。
ツクヨは元から口数が多いほうでは無かったけど、先生殿の一件でさらに口数が減ってしまって見るからに悲しそうだ。
「その術がさぁ~」
だからこそ私は明るく振舞う。
私だって先生殿が突然いなくなって寂しい。不安だし悲しいけれど、後輩2人の前ではそんなことは言わない。
だって私は忍術研究部の部長なんだから。可愛い後輩達を導かなきゃいけない存在にならなきゃいけないから。
今もツクヨに明るく話しかける。ウザがられてもいい。
それでも大事な後輩が少しでも元気になればと。
そうして慣れないながらも一方的に話していると、突然バンッと部室の扉が開かれる。
ひぇっと情けない声が出てしまったけれど、扉の方を見るとそこにはもう1人の後輩、イズナがずぶ濡れの状態で立っていた。
「い…イズナっ!?どうしたのそんなずぶ濡れで!?と…とりあえずタオル…ツクヨ~、タオル~!」
「は、はいっ部長!」
雨具を持って出かけなかったのだろうか、ずぶ濡れのイズナにタオルを渡すべく、ツクヨと一緒に部室内を探す。
私より先に、ツクヨがタオルを見つけると急いでイズナのもとに向かった。
「はい…イズナちゃん」
「…………」
ツクヨはいまだ1言も発さないイズナに違和感を覚えつつも、1枚のタオルをイズナに渡し、もう1枚持っていたタオルでイズナの髪や顔を優しく拭いてあげていた。
「イズナちゃんどうしたの?傘とか持って出かけなかった……」
ツクヨが不意に拭いていた手を止める。
私が気になってツクヨの手元を覗いてみると。
「……イズナちゃん、……どうしたのその怪我?」
イズナを拭いていたタオルの所々に赤い染みが出来ていた。
「い、イズナっ!?け…怪我してるよ!?どこかで転んだの!?ば…ばんそうこう!?」
改めてイズナを確認すると、怪我は頭や顔だけでなく、身体中に出来ていた。
「……ありがとうございます。部長…ツクヨ殿。ですが心配にはございません」
イズナはそう言うと、拭いていてくれたツクヨの手を優しく制す。
「すみません、お2人とも。あまり時間がない故、聞いていただけますか?」
初めて見るイズナの真剣な姿に思わず私たちは息を飲む。
「まことに勝手ながら、イズナは忍術研究部を辞めさせていただきたいと思います」
「辞めっ!?そん…な……」
イズナの急な申し出に言葉をつむげなくなった私に、イズナは懐からところどころ濡れた退部届を差し出してくる。
「イ…イズナちゃん。……ちゃんと説明して」
私と同じように戸惑っていたツクヨが、絞り出すように聞いた。
「……イズナは今、陰陽部に盗みを働いて来ました」
「陰陽部に?なりゆきで盗んじゃったんだよね!?そしたら私も一緒に謝ってあげるから!」
「いえ部長。これはイズナの意思でやったことです」
「……どうして、そんな?」
「…………これはあまり言ってはいけないと言われたのですが……主殿との約束のためです」
「先生、殿?」
「でもイズナちゃん……もう先生は……!!」
「はい。主殿は亡くなってしまわれました。ですが、これがあればもう1度…主殿のお力になることができるのです」
「イズナ!!何言って…るの……」
イズナになにか言おうとするが、私は言えなかった。なぜなら、
「これがあれば!!もう1度主殿のお力に!!今度は貴方のための剣になりましょう!!今度は貴方を守る盾になりましょう!!偵察任務でも戦闘任務でも防衛任務でも!!……必ず約束を守りますから」
イズナの目が、何かに脅迫されたような狂乱の色に染まっていたから。
「……ですが。私のわがままにお二人を巻き込めません、もうじき陰陽部の手先がここに現れるはずです。その時はぜひイズナは辞めた、と。何も知らないと言ってください」
イズナはそう1人で納得すると私に退部届を押しつけ出ていこうとしてしまう。
「……待って!!」
「…………」
出ていこうとするイズナに私はハッとして声をかける。
しかし何も言葉が出てこない。こんな時になんて言えばいいのかわからない。
だけど1秒が何分にも感じられる中、考え出てきたのはこの言葉だった。
「……この退部届、受理しないからっ!!」
それは励ましでもなく怒りでもなくただの宣言。
本当か本当じゃないのかもわからない。
「……お元気で」
私の宣言に何を感じたのかわからないが、イズナは足早に部室を出て行き、そして戻ってこなかった。
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「そのあとは本当に陰陽部の人がうちに来て、尋問に近い感じで色々聞かれて……。ニヤ殿とも話し合って、なんとか廃部はまぬがれたんだけど」
「その代わり活動停止になったんですね?」
「うん…あとチャンネルの削除も…」
「あぁあのチャンネル。イブキが楽しそうに見てましたよ」
「あ!そうなの!よかった~。イロハ殿は見てくれた?」
「チャンネルの削除大変でしたね」
「……なんで答えてくれないのぉ」
いなくなってしまったイズナ。陰陽部での最初の盗み。
そして彼女の言っていた約束。
その約束とやらがイズナの行動を促しているのだろうか?
「重要そうな話も聞けたし、次はニヤに話を聞きに行こうか?」
「ね…ねぇ!?」
「どうしましたかミチルさん?」
「私にもイロハ殿の任務を手伝わせて欲しいの!!」
「……私は構いませんが」
ミチルの提案にイロハは、決定を促すように横目で私を見た。
「私はいいけど、理由を聞いてもいいかな?」
「理由……?」
「そう、手伝ってくれる理由。イズナを止めたい。部活を復活させたい。忍者として百鬼夜行を守りたい。ミチルの立場なら色々と理由はあると思うけど、……ミチルはなんの為に私たちを手伝いたいの?」
「そんなの……もちろん全部だよ!!」
「ミチルさん……」
「イズナを止めて、部活も復活させて、百鬼夜行も守る!!私は……ツクヨとイズナの先輩で……忍術研究部の部長なんだから!!」
「……部長なのは特に関係ないのでは?」
「あるよ、イロハ殿!だって…ここで逃げてイロハ殿たちに任せきりにしたらきっと、……私これから2人の先輩だって胸をはって言えなくなると思うの。全部が解決して、百鬼夜行の危機が去って、部活が復活して、イズナが戻ってきても、その時はツクヨやイズナが信じてくれた私じゃなくなってしまうと思うんだ」
先ほどまで不安そうだったミチルとはうってかわって、決意に満ちた表情を浮かべる。
「これは私の理想だけどね、可愛い後輩たちにはいつでも憧れの先輩でありたいんだ……。だから私にも手伝わせて!」
「……もとより手伝って貰う予定だったよ」
「アイ殿!」
「ただ、覚悟を知りたかっただけなんだ」
「……覚悟?」
そう。もともとミチルからの申し出は断る気は無かった。
「うん。これから陰陽部と百花繚乱を回る予定なんだけど、あいにくうちのメンバーにはそっちの伝手が無くてね……。でもミチルの覚悟があれば大丈夫!」
「え?なんか嫌な予感がするんだけど…」
「頼んだぞ、交渉役!きったはったの大立ち回りを期待しているぞ!!」
「……あにょぉ…忍者って基本的に裏方ってゆうかぁ…そんな百鬼夜行の2大部活に私なんかがぁ…荷が重いんだけどぉ」
「要求を押し通しながらこっちの優位性を高めるような交渉でよろしく」
「それは無理ぃ!!」
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部室での出来事を終え、やってきました陰陽部。
交渉役としてミチルを連れてこようとしたが、見たこともない表情で抵抗したため、仕方なくイロハと聞き込みに出かけてもらった。
ミチルの千切っては投げの交渉が見れそうだったが仕方がない。
代わりに書状を書いてもらい、陰陽部の橋渡しをしてもうことにした。
なかなかデカい城のような建物を根城にしている陰陽部。階下の城門にいた陰陽部の部員に「ミチル様の紹介じゃオラァ!」と言って書状を渡すと、怪訝な顔で上と連絡を取った後、無事に通された。
我ながらなぜ通されたのか疑問だったが、通してくれたことはありがたい。
生前の記憶を頼りに部室までの長い階段を上り、陰陽部の部室までたどり着く。
襖を開けようと、手をかけると中から誰かの話声が聞こえた。
先客?ならしばらく待ってるかな。
「たのもーー!!」
私は音を立てながら襖を開け放つと、予想通り中にはびっくりしている2人の人物。
と、ここで少しお話をしよう。
ここキヴォトスでは隠し事をしているときに会うことを推奨されない人物がいる。
1人は尾刀カンナ。彼女の嗅覚は素晴らしく、しかも喰らいついた獲物を離さない。公安局で欠かせない存在だ。以前この話を彼女にしたら渋い顔をされた。
2人目は一之瀬アスナ。アスナの謎の勘の良さは以前体験しているのでわかるだろう。
そして最後に、
「にゃはっ!?誰ですかぁいきなり……せめて静かに開けてくれませんかねぇ~?」
「あっと、失礼。最近1人行動が久しぶりだったからテンション上がっちゃってね」
「はやる気持ちがあるのはわかりましたが、なにぶん…先客がおりますので。……ね?ミモリさん」
「…………………………先生、ですか?」
他を慮り続けた結果、ついに読心術(のような技)を身に着けた水羽ミモリ。
「…………………………チガウヨ?」
いくら転生したといえど、生前の癖というものは抜けようがなく。
顔や姿を変えた程度では彼女は騙せなかったようだ。
「先生ですよね?」
「……違うって」
彼女は否定する私を見て立ち上がる。
「先生ですよね?」
「……違うってば」
否定してもなおもミモリは真っ直ぐに私を見ながら近づいてくる。
そしてその私を見る視線には覚えがあった。
あれは便利屋で体験したカヨコの獲物を捕える目!?
絶対に逃がさず、逃がさないと誓った目!?
家庭的であったミモリに対して脳内のアラートが危険だと鳴り響く。
「先生、ですよね?」
本能的な恐怖に動けずにいた私の前についにミモリがやってくる。
「だ…から、ちが」
そして私の言葉が終わる前にミモリが、私に向かって手を伸ばした。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「ハッ!?」
私が気が付くと、世界は横向きに映っていた。
うつろな意識の中、目の前の情報を整理する。
視界の左側に見える畳。右側に見える梁の見える天井。目の前に90°横になったニヤ。
霞がかる頭の中が今自分が横になっているのだと教えてくれる。
なぜ横になっているのだろうか?
私は陰陽部と話に来て…陰陽部に来たらミモリがいて…。
あ…そうだ。ミモリ。
ミモリはいないけどどこだろうか。
私はミモリを探すため反対側に寝返りをする。
なぜかはっきりとしない頭でゆっくりと動き、やっと上を向いたところで探していたミモリと目が合った。
ミモリは私と目が合ったことに気付くと、まるで聖母のような微笑みで私の頭を撫でてくれる。
ここでわかったが私はミモリに膝枕をされているようだ。
2度3度と撫でられるとミモリ………私のお嫁さんの手の感触が心地よくて、また意識がうつろいでいった。
家庭的で気遣いもでき、献身的な私の自慢のお嫁さん。
そんな彼女の膝を占領できるのだったらもう少しこのままでもいいかな……。
私はそう思って、彼女の温かみを感じながらまた目をつぶった。
「…………いやいやいや!?違う!!ミモリはお嫁さんじゃない!?」
「きゃっ!?」
危うくミモリに完全幸福……じゃない、完全降伏しそうになった自分を飛び起きさせる。
そのままミモリの膝から飛び起きた跳ねを利用して彼女から距離を取り、私はニヤの背中に隠れた。
「気をつけろニヤ!私たちは今……スタンド攻撃を受けている!!」
ミモリが私に手を伸ばし、その後膝枕されるまでの記憶が無い……!
まさか……時間が消し飛んだのか!?
「にゃはは……。ミモリさんの言動、そしてこの反応。信じ難いですが本当に先生のようですね~」
いつものように薄い笑みを浮かべるニヤ。
「なんてことありません。ミモリさんは先生の手を掴んだのち目にも止まらぬ速度で膝枕へ移行、撫でやマッサージを利用し極限までリラックスさせたんですよ~。まぁ貴方が落ちるまでほんの5秒程でしたが。えぇえぇなんてこと……ありませんよ~……」
だがその笑みは引きつっていた。
「ちなみに私が膝枕されて何分ぐらい経ってる?」
「まだ20分ほどしか……」
ちなみにその間の記憶も無い。
なんだやっぱりスタンド攻撃だったか。
「先生、驚かせてすみません……。ですから、こちらへ」
「シャーーー!!」
ミモリが慈愛の女神のように膝をポンポンと叩いて私を呼ぶが、それに私は威嚇で返す。
「…………チッ!」
「あれミモリ今舌打ちした?」
「していませんよ♪」
「なんだそうだよね。あのミモリがするわけないよね……」
しかし本当に危なかった。
危うくマジで何もかも忘れて全部投げ出すところだった……。
雨を呼ぶ女、鬼方カヨコで予習してたのが功をそうしたようだ。
もしかしたらこの旅、1番最初に百鬼夜行に来ていたら詰んでいたかもしれない。
「ミモリ…恐ろしい娘……!」
「ここまで警戒されていては仕方ありませんね。先生を堕落させるのは後でにしましょう」
「え?今堕落させるって言った?」
「言ってませんよ♪」
「そっか…よかった…」
「なんで先生はミモリさんの言うことには聞き分けいいんですか?」
転生先生、嘯く 28話目
なんかうちのマンションがだんだんと事故物件化していってるんですけど
季節感大切にしすぎなんですけど