転生先生、嘯く   作:あまいろ+

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イロづきが染まる背中

「合言葉を決めよう」

 

例の休憩スペース。

 

今日もまんまと私の策略に溺れ、床で寝転がりながら本を読む先生が突然言った。

 

同じく壁にもたれて本を読んでいた私は、追っていた文から目を離し、栞を挟んでから疑問の視線を先生に向ける。

 

先生はゴロゴロと体勢を変えて、こちらに読んでいた本をひらひらと掲げる。

 

手に持っていた本は所謂ライトノベルと言われているものだった。

 

先生は乱読だ。

 

哲学、経営書、恋愛小説、オカルト、レシピ本とそのほかにも多岐にわたる。

 

そしてそれにはブームがあり、そして先生はそれに影響されやすい。

 

経営書がブームの時は、便利屋に熱心にかよい、一時であるが便利屋の経営を赤字から黒字に変えた。

 

オカルトがブームの時はわざわざこの休憩室までやって来て「イロハ、イエティを探そう!」と誘ってきたこともあった。その時は丁重に断り、罵倒を2・3言、言って追い払ったがなぜ私が誘いに乗ると思ったのか?

 

恋愛小説に影響されたときはここで「青春して~」と何度も言っていた為、思わず強制的に青春させてやろうと思ったが、私の理性がブレーキをベタ踏みしてくれたおかげで、踏みとどまることができた。

 

そして今回は、

 

「今回は転生ものですか」

 

「そうなんだよイロハ…」

 

「私はあまり読まないジャンルですね。面白いんですか?」

 

「これが結構面白くてね。読み終わると思わず、続きが気になっちゃうんだよ」

 

「そう思えるのはいい本である証ですね。それで?合言葉とは?」

 

「そうそう!これのね主人公が、前の仲間に自分ですよって伝えるために生前よく言っていた言葉を、相手にそれとなく伝えるんだ。」

 

「ふーん熱い展開じゃないですか」

 

「だから私ももし転生することになっても、私だってわかるように合言葉を決めよう」

 

「……縁起でもないこと言わないでください」

 

私は視線を呆れから、非難めいた視線へと変える。

 

先生が転生する。すなわち死んでしまうということだ。

 

先生には冗談でもそんなことを言ってほしくない。

 

…想像するだけで胸が痛くなってしまうから。

 

「…ごめんイロハ。少しデリカシーがなかったね」

 

私の視線を感じてか、先生は謝ってくれる。

 

「いいです…。先生のデリカシーのなさは知っていますから」

 

「私ってイロハにデリカシーがないって思われてるの?イロハだけだよね?」

 

「言っておきますけど、ゲヘナでデリカシーがないって思われてる先生でも、死んだらギヴォトスは大変なことになりますからね」

 

「ゲヘナ全体で私デリカシーないって思われてるんだ…。悲しい…」

 

「悲しいのはこっちですよ。なにが悲しくて先生の死んだ後の保険を考えなくちゃいけないんですか」

 

「保険は保険でも文字通り死亡保険だけどね」

 

「そんなこと言ってるから、ギヴォトスでデリカシーがないって言われるんですよ」

 

「どんどん範囲が拡大してる!?」

 

「はぁ…こんな話、早く切り上げたいので早く合言葉でもなんでも考えちゃってください」

 

「なんだかんだ文句を言いつつ付き合ってくれるイロハ好き」

 

「………だからデリカシーがないって言われるんですよ」

 

「え?これも?マジで?」

 

先生のデリカシーのなさに呆れつつ、しばらくうーん、と唸る先生をなんとなく眺める。

 

しんけんに悩む姿を見てまるで子供みたいだと思った。

 

そんな先生の姿に飽きた私は、読んでいた本の続きを読もうと本を開き、栞を外した。

 

「それだ」

 

先生の声で、顔を向けると先生はこちらに指を指している。

 

「なんですか?」

 

「それだよ、それ」

 

「ああ、これですか」

 

私は、持っていた栞を自分の目線まで掲げる。

 

「それ使ってくれてたんだね」

 

「ええ、せっかくの贈り物ですし、大切に使わせてもらっていますよ」

 

私の持っている栞。これは私が先生から貰った栞だ。

 

どうやら先生の自作らしく両面に真っ赤な彼岸花が描かれている。

 

「その栞の花って色々な呼び名があるんだよ」

 

「へぇそうなんですか?ここら辺ではあまり生えていないので知りませんでした」

 

「狐花、剃刀花、蕾花って結構あるんだけどね。その中に今回の合言葉にぴったりの呼び名があってさ。決めた」

 

合言葉は―――

 

 

不意に差し込む光に目を凝らす。

 

その光を確かめるように私はゆっくりと目を開けた。

 

「まぶしい…。どうやら眠っていたようですね」

 

いつもの私の場所。

 

日々の業務の合間の時間。

 

いつものようにサボっていた私は、日の光で目を覚ました。

 

「結構長い間眠っていたようですね」

 

昼頃ここについて、どうやら日が少し傾くまで眠ってしまったようだ。

 

「流石に仕事に戻らないとまずいですね…」

 

ここしばらく急をようする仕事はないが、それでもやらなくてはいけない業務は多少ある。

 

面倒だと思いながらも無気力にパンデモニウムに向かう準備をする。

 

「……にしても随分と懐かしい夢を見ましたね」

 

夢の中で彼に会えた喜びが、もう彼に会えないという絶望を引き立たせる。

 

私はいつまでこの苦しみを、痛みを抱えなきゃいけないのか。

 

忘れられたらどんなに楽か。

 

……わかっている。忘れられる訳がない。

 

この絶望はずっと続くのだろう。

 

彼はいない。世界はまだモノクロのまま。

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

カツカツと靴音を鳴らし、片手に栞の挟まれた本を持ちながら学園の廊下を歩く。

 

先生のくれた栞を持っていると少しばかり安心する。

 

今日の学園内も静かで私の靴音が響くばかりだ。

 

今の暗い気持ちをごまかすような、以前のにぎやかさが少し恋しい。

 

そんな考え事をしているといつの間にかパンデモニウムの執務室に到着していた。

 

小さく息をつきながら扉を開ける。

 

「イブキィーー!私が悪かったあああ!だから…だからこっちを向いてくれええええ!」

 

「知らない!イブキのプリンを勝手に食べちゃうマコト先輩はあっち行って!」

 

どうやらここだけはにぎやかなようだ。

 

「はぁ…今度は何をやらかしたんですか、マコト先輩?」

 

「い、イロハっ!?頼む!お前も一緒にイブキに弁解してくれ!!」

 

「いや…聞いている限りマコト先輩に弁解の余地はなさそうですが」

 

「そんなことはないよなイブキ!?」

 

「イロハ先輩聞いて!イブキがお友達と一緒にプリン食べようと冷蔵庫開けたらプリンがなくてね!マコト先輩が食べちゃってたの!」

 

「やっぱり0、100でマコト先輩が悪いじゃないですか」

 

イブキの方を見ると、見慣れない人物。

 

長く伸びた長髪。派手な羽織り。とがった耳。今言っていたお友達だろうか。

 

この光景に苦笑いを浮かべている。

 

「イブキ!!今街まで行って最高級のプリンを買ってくるから許してくれ!?」

 

「マコト先輩こっち来ないで」

 

「ガハァっ!!?」

 

イブキに心無い言葉を言われて、地面に倒れこむマコト先輩。

 

「イブキ、あんまりそこの面白い人をいじめちゃだめだよ?」

 

「だってぇ…」

 

「一応、そこにいる面白い人はゲヘナの最高責任者なんですが」

 

「ほら、プリンなら作ってあげるから」

 

そう言うと少女はガサッとビニール袋を取り出すと、大量の小箱を取り出した。

 

「ドジャア~ン!プリンの素~。イブキくん、これでなんとたくさんのプリンを作れちゃうんだ~」

 

「え~!?アイちゃんこれ自分でプリン作れるの!?イブキ作りたい!!」

 

「いいよ~。じゃぁボウルと泡だて器持っておいで」

 

「わかった!イブキ持ってくる!」

 

パタパタと調理器具を探しに、部屋から出るイブキ。

 

「何か色々とすいませんね。えっと…アイさん、でしたよね?私はゲヘナで戦車長をやっています、棗イロハです」

 

「よろしくイロッチ」

 

「……まぁどう呼んでも構いませんが、にしても」

 

私はビニール袋に大量に入れられたプリンの素をながし見る。

 

「大量に買っていますが、いつもこんなに持ち歩いてるんですか?」

 

「こんな粉もの大量に持ち歩てたら職質されちゃうよ…。たまたまお土産でいっぱい買ってたのよ」

 

「お土産ですか…。こんな大量に…。どこへ行くつもりだったんですか?」

 

「んー風紀委員会」

 

「……風紀委員会ですか?」

 

アイはちゃきちゃきと作る準備をしながらテーブルに粉を並べていく。

 

「そうそう、まぁ門前で追い払われちゃったけど」

 

「いったい何を…」

 

「ただいまー!イブキ戻ってきたよ!」

 

「おかえりー」「おかえりなさい」

 

詳しい理由を聞く前にイブキが帰ってきてしまった。

 

「ちゃんと手も洗ってきたよ!」

 

「偉いね~。じゃぁ早速作りますか!」

 

「うん!」

 

 

執務室の長いテーブルでみんな仲良く横に並び、ボウルをかき混ぜる

 

「…イブキ、アイとはどこで知り合ったんですか」

 

「えっとねー風紀委員会の前でイオリ先輩とお話しているのを見つけてね」

 

「丁度追い返されてる時だねぇ」

 

「そこでイブキが話しかけてー、お花きれーってなってー、それでお友達になったの!ねーアイちゃん?」

 

「ねー」

 

「…仲良さそうですね」

 

ボウルをかき混ぜるのに必死なせいか、説明の雑さが目立つが大体わかった。

 

しかし、今の風紀委員会に用とは。

 

何者なのでしょうか、この人は。

 

イブキと並んでいる姿は、何か思惑がありそうな人ではなさそうですが。

 

「キキキッ…ならこのマコト様が風紀委員会への紹介状を書いてやろう…」

 

「マコト先輩…生き返ったんですか」

 

よろよろと立ち上がりながら、こちらに近づいてくる。

 

…地面に倒れていたのだから埃ぐらいはらって欲しい。一応こちらは調理中なのだ

 

「ああ、致命傷だったがな」

 

「それは嬉しいけどいいの?」

 

「そうですマコト先輩。そんなほいほいと書いていいんですか?」

 

「私がいいと言ったらいいんだ!それに…」

 

「それに?」

 

「……今の風紀委員には多少なりとも喝にはなるだろう」

 

「……はぁ。またいつもの嫌がらせですか」

 

「クククッこのマコト様が風紀委員の為に喝を入れてやってやるのだ!むしろ喜ぶべきだろう」

 

「ありがとう!面白いマコト!」

 

「キキキッ!面白いは余計だ。あと様をつけろ。……だがこの偉大なマコト様がここまでしたんだ、わかるよな?」

 

「マコト先輩…まさか初対面の相手に…」

 

「私も仲間に入れてくれッ!!イブキぃーーーー!!」

 

そう言ってイブキに縋りつく姿は、偉大とはほど遠い小悪党のそれであった。

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

無事にプリンを作り、食べて喜んでいたイブキはいつもよりはしゃいでいたためか、落ち着くとソファで眠ってしまった。

 

「キキキッ!ほら紹介状だ。このマコト様に感謝するといい」

 

「ありがとうマコト」

 

「様をつけろと言ってるだろう」

 

「じゃぁもう行くねマコト」

 

「意地でも付けない気か貴様」

 

「イブキにもよろしくね」

 

「貴様に言われなくても言っておく。…しばらくゲヘナにいるつもりなんだろう?ならまた会う時もあるはずだ」

 

「まぁ…そうだね。気になることもあるし」

 

「キキキッならまた寄るといい。イブキに会いに来てやれ」

 

「わかったよ、じゃあねイブキ」

 

アイはマコト先輩と眠っているイブキに別れを告げる。

 

「イロッチもバイバイ」

 

「…はいさようなら」

 

帰ろうとする彼女は、不意に足を止めジッとこちらを見てくる。

 

「………それ、綺麗だね」

 

「それ?…ああ、こちらの栞ですか」

 

アイはこちらに近づき、私が片手で持っていた本の栞を指さす。

 

「ええ、大事な人から貰ったものです」

 

「その花、私の法被と同じ花だね。彼岸花」

 

「…そうですね。あの人の好きな花でした」

 

「その花って別名があるんだって知ってる?」

 

「知っていますよ。狐花、剃刀花、蕾花と呼び名が多いらしいですね」

 

「他にも、死人花…とかね」

 

「……………は?」

 

「またねイロッチ」

 

そう言うとアイはニコッと笑い、こちらに背を向けて部屋を出ていく。

 

「……待ってっ!?」

 

「イロハ」

 

慌ててアイを追いかけようとする私をマコト先輩が止める。

 

「なんですか!?くだらないことなら後で聞きますから!」

 

「仕事だ」

 

有無を言わせぬ短い一言。

 

いつもと違う声に、足を止める。

 

「キキキッ仕事だイロハ。奴がこのゲヘナにいる間、お前はアイツと行動を共にしろ」

 

「それって…」

 

「異論は認めん。…マコト様の勘が正しければ、あのアイと言われる生徒、絶対に何かある。それをお前が見極めてこい。このゲヘナに有用なのか、そうでないかをな」

 

「……わかりました、マコト先輩」

 

「キキキッ!任せたぞイロハ。行くがいい!」

 

私はマコト先輩からの仕事を受け、走りだす。

 

あの赤い花を羽織った少女を追って。

 

 

「アイっ!!」

 

廊下に出てあの赤い花を探す。

 

彼女が行ったであろう道を追いかけ、ようやくその彼女をこの目で捉えた。

 

そしてその背に向かって大声で叫ぶ。

 

呼びかけられた彼女はゆっくりと止まり、こちらに振り向いた。

 

「どうしたのイロッチ」

 

やはりそうだ。あの目だ。あのこちらに向ける優しい目。

 

「アイ…あなたは、……せんせい…なのですか」

 

姿かたちがまったく違う彼女に確かめるように、質問を投げる。

 

間違ってほしくないという願望を。あっていてほしいと希望を込めて。

 

そうして彼女は悪戯っぽく笑いながら言ったのだ。

 

「よく合言葉、覚えていてくれたねイロハ。地獄から帰ってきたぜ」

 

「…………ッ!!」

 

その言葉に私は先生に駆け寄り、抱きしめる。

 

「いったい今まで何やってたんですか!?私…先生が死んだって聞いて…!最初信じられなくて…!でも先生は戻ってこなくて…!!」

 

「うん…ごめんね、イロハ」

 

自分でも何を言っているかわからくなっているが、それでも勝手に口から出てくる言葉を先生にぶつける。

 

そんな私の言葉を先生は、優しく受け止めてくれた。

 

「大体戻って来てもなにのんきにプリンなんて作ってるんですかっ!!ふざけた呼び方もするし!!あとっ…!!あとっ…!!」

 

いつの間にか私の背に両手を回してくれる先生。

 

そんなことをされたら余計に止まらなくなる。止まらなくなるが、

 

「あとっ……!!おかえり……なさい。せんせい」

 

「心配かけてごめんね、ただいまイロハ」

 

これだけは必ず伝えておきたかった。

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

「言っておきますが、まだ怒ってますからね先生」

 

「だからごめんて…」

 

あの後も散々泣きわめき、先生への恨み言を連発した私は、今先生に背負われながら廊下を進んでいた。

 

「まだ言い足りませんから」

 

「ひいん…」

 

「にしても先生。だいぶ可愛くなりましたね」

 

「でしょう?可愛いでしょ私」

 

「なに調子に乗ってるんですか。まだ許してませんよ」

 

「キングオブ理不尽…」

 

「先生の自業自得です」

 

なんと言われようと、知ったことか、先生が悪い。

 

「それでイロハに聞きたいんだけど…」

 

「わかってます。今のゲヘナのことでしょう」

 

「そうそう。なんて言えばいいのかな。閑散としてない?」

 

「そうですね。今のゲヘナでは犯罪率が激減し、おおよそ平和な街になりつつあります」

 

「よかったね?でいいの?」

 

「…まぁ他所から見たらそれでいいですが、そのせいで今のゲヘナ学園ではこの学園を去る者が増えています」

 

「確かにパンデモニウムからすれば大変な騒ぎかぁ。でもマコトはあまり大変そうに見えなかったけど」

 

「あの人は年中あんな調子ですから、人数が減っても統治がしやすいぐらいに思っているのでしょう」

 

「で、こうなった理由は?」

 

「そうですね。まず先生は驚くかもしれませんが聞いてください」

 

「怖いなぁ…どうしたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…空崎ヒナが風紀委員会を辞めました」




転生先生、嘯く 3話目
とりあえず3話目を書いた感想
ムズいでごわす!特に会話が
あとタイトルもムズい
モチベをあげねば…モチベをあげたい!
では、拙き作品ですがよろしくお願いいたします
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