ブーンというゲーム機特有の電子音につられて私は目を覚ます。
縁側へと繋ぐ襖の障子から眩い陽光が差し込んでいるのを感じ、今が昼過ぎなのだとわかる。
どうやらゲームをやっていて寝落ちたようで、昨日の明け方までやっていたゲーム画面は、私の負けを知らせていた。
長く起動してたせいで熱くなったゲーム機の電源を切り、しばらく何をするでもなくボーっとする。
この半年、すっかり昼夜逆転の生活を送ってしまっているが、そうだな……これも死んでしまった先生のせいだろう。
先生が律儀に約束を守ってここに来ていた時は、まだ人並みの……最低限の人とした生活は送れていた。
先生が来るたびに私の自堕落な生活にケチをつけるからだ。
睡眠時間は?ちゃんとした食事は取ってるの?とかまるで親のように言ってきていた。
……自分が1番出来ていないくせに。
だけど今は言ってくれる先生はいない。
そう……先生はいない。
ちょっとのことで褒めてくれる先生も、私が負けた時に死ぬほど煽る先生も。
帰る間際に必ず『また来るよ』と約束してくれる先生も、もういない。
私を、私自身を見てくれる人が見ないから私はこうして自堕落な生活を送っている。
「…………はぁ」
わかってる。
そんな自分勝手なことを思っても先生は帰ってこないことは。
「……これからどうするかなぁ」
我ながら弱くなったものだ。
たった1人。自分を認めてくれる人がいなくなっただけで、こんなにも暗い気持ち拭えなくなるなんて。
いや、最初からか。
他人の期待に応え続け仮面を被り続けたのも、黄昏の力に酔い百鬼夜行を混乱に陥れたのも、こうして引きこもり誰も寄せ付けず否定するのも。
全部全部私の弱さのせい。
こんなんじゃ先生に顔向けできないなあ。
…………私もそろそろ変わらないといけないのかな。
「でもそれは今じゃない!」
私はそう言うと布団を抱きしめ、現実から逃げるように横になった。
「だいたい……死んじゃった人間に顔向けも何もないでしょ」
いままで誰かの為にと鍛錬を頑張ってきた私が、今こうしてニートに近い気楽な生活を手放すのは惜しい。
いいよいいよ。皆私に迷惑かけてきたんだし。
先生だって「え?いいんじゃない?今まで頑張ってきたんでしょ。充電期間ってことでさ。あ、でも過充電には気を付けてね」って言うよ。
……本当に言うなあの人なら。生徒に甘いから。
だからいつも面倒な生徒に目をつけられるんだよ。
「……はぁ~あ」
この生活ですっかり増えたため息をしていると、廊下に面した襖を軽く叩く音が聞こえた。
……そういえばまだいたな。こんな私に構ってくる奴が。
私はとりあえず身体を起し、身体をそちらに向ける。
『アヤメ……起きてる……?』
襖の向こうから聞こえるか細い声。いつぞやに私を倒した奴の声。
そいつは襖を開けずに私に喋りかけた。
「……寝てる」
『起きてるのねアヤメ。……ご飯ここに置いとくね』
「…………」
出たよ。御稜ナグサ。
私との継承戦に勝ち、正式に百花繚乱調停委員会の委員長の座についた女。
私が起きた後も、こうしてご飯を持ってきてくれたりと、生活に必要な世話をしてくれるが。
『ねえ……?たまにはみんなと一緒に食べてみない……?』
「やだ」
『あ……そう。なら一緒に近くをお散歩しない?……アヤメ、しばらくお外に出てないでしょ?』
「なんであんたと散歩なんかに行かなきゃなんないの。行くわけないでしょ」
『……グス。……お願いそろそろ出てきて顔を見せてアヤメ』
「泣かないでよ。湿っぽくなるじゃない」
…………なんだこの会話は。
反抗期の親子か。
いやさせてるのは私だけどさ。
『グスグス……。アヤメ……』
「噓泣きは止めてよ。本当は泣いてないんでしょ」
『…………』(スン)
うわっ怖あ!?本当に嘘泣きだったよ!?
心配されてるといえば聞こえはいいが、こんなか細い幽霊みたいな声に毎日ひたすら外に出るように懇願されていては、気がめいって逆に出たくなくなるというもの。
うん、私が外に出ないのはナグサのせいでもあるね。本当に。
私は責任の一端をナグサに押し付け、再び寝転がる。
ナグサはその後もしばらく喋っていたが無視した。
そんな時だった。
『あれ……誰、あなたたち?』
私に一方的に話しかけていたナグサだったが、誰かが来たのかナグサはそちらに話しかける。
『あ、お邪魔してます~。陰陽部から来たアイです~』
『同じく旦那様のパーフェクトメイド、トキです』
『あぁ……あなたたちが……。事情はキキョウから聞いてる。どうしたの…こっちまで来て?』
『実はこうゆう造りの建築が好きでね?連れに会議を押しつけ……任せて今探検してるの。一応参謀さんには許可は貰ってるんだけど』
『問題ないよ。見られて困ることは無いし。……あ、紹介が遅れた。私は百花繚乱の委員長御稜ナグサ』
『よろしくねナッグ』
『旦那様をよろしくお願いいたします。ナギー』
『……せめて呼び方は統一して』
……うるさいなぁ。私の部屋の前で騒がないでよ。
『ナッグはここで…………襖の前で独りで喋ってたけど何してたの?』
『……独り?私はアヤメと二人で楽しくお喋りしてたけど』
そんなことはない。お前はどこのPだ。
ナグサの勝手な言い分に思わず、部屋の隅にある自分の銃に手が伸びそうになる。
『……んー?アヤメってもしかしてナッグにしか見えない人じゃないよね?』
『何言ってるの?アヤメは私のハニーよ』
銃を手に取った。
『じゃぁ私はそろそろ見回りの時間だから……。ゆっくりしていってね』
あ!クソ!!ここ数ヶ月使ってないから、装弾中に逃げられる!?
次来たらあの真っ白い脳天に撃ち込んでやる……。
私は行ってしまったナグサに鉛球を撃ち込むことを諦め、手に持った銃をまた部屋の隅に置いた。
「……はぁ」
私はイライラを抑えるように手を頭にやっていると、また襖が軽く叩かれた。
「……なに?」
ナグサが去って多分時間的にそこまで経ってないから、襖を叩いたのはさっきの生徒だろう。
私はたしかアイ…?って生徒は知らないし面識もない。
なのでいきなり初対面の人物の部屋に不躾にノックする奴に私は警戒しながら応えた。
『アーヤメちゃん、あーそーぼ』
すると返ってきたのやたら元気な声と無邪気そうな提案。
「やだ」
私はそれを秒で断る。
なんで私が見ず知らずの生徒と遊ばなきゃいけないのだ。
あの時の仮面を被っていた時期ならいざ知らず、ここでは仮面を被る必要もないし、被りたくもない。
『アヤメん、そう言わずうちの旦那様と遊んでくださいませんか?』
「幼稚園の子供じゃあるまいし、私が相手する必要も無いでしょ」
『アヤメん遊ぼうよ』
「次アヤメんって言ったらこっち側から撃ちぬくよ」
『……ゲームしようぜ、アヤメ』
「…………………………」
私は渋々と襖を開ける。
襖の向こうには、あのアホと同じ白く長い髪の生徒が、法被をなびかせ笑顔を浮かべ私を見ていた。
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アヤメの部屋に快く入れてもらった私とトキは、入って早々にアヤメの部屋にあった箱型ゲーム機をいじり始める。
「なにやる?なにやる?トキ氏?」
「やはりこの人数ならスマ〇ラでしょう旦那様」
「あんたら初対面の人の部屋でよくやれるね」
私たちの様子を呆れた感じで見ているアヤメだが、いつの間にか自分のコントローラーを1Pコントローラーとして用意していた。
ゲーム準備は終わり各々が、コントローラーを握ってゲームが始まった。
そしてものの数分でトキが床に沈んだ。
理由としては、トキが勝利し1位になった際に。
「ふふ、最初の勝利者はこの私、トキがいただきました。ピースピースピース。客人に接待はすれどゲームに関しては手加減はしませんとも。ピースピスピース」
と、しばらく私たちを煽っていた時だったが、あんまりにもイラついたのか気付いた時にはアヤメの拳がトキにクリーンヒットして、トキは音もなく床に沈んでしまった。
流石ブランクがあっても百鬼夜行の1か2を争う実力の存在。
トキがやられるのも仕方ない。
私は沈んでしまったトキを部屋の端に転がし、掛け布団を全身が隠れるようにかけてあげた。
トキよ安らかに眠れ。……全力で煽った君が悪い。
トキも寝かせたことで私もゲームに戻る。
「じゃ続きやろっか」
「いいの?あれ放っておいて」
「自分でやったよね?」
「だってウザかったから……」
トキは丈夫だから問題ないだろう。私たちは再びゲームに戻り、キャラ選択から開始する。
「……それで最近どうだ?」
「は?なに反抗期の娘を持つ父親みたいな話の振り方してんの?」
「いや……ナグサの言い方もあったし、引きこもってるしで反抗期の娘のにしか見えなくて」
「反抗期なんて……うん…その自覚はあるけど。いいんだよ、今まで期待に応えて来たししばらくは反抗するつもり。てゆうか何?よその事情に顔突っ込まないで。文句あんの?」
「え?いいんじゃない?聞く限りなんか今まで頑張ってきたんでしょ。充電期間ってことでさ」
私がそう言うと、ゲーム画面のアヤメの動かしていたキャラが動きを止めた。
アヤメが気になってアヤメの方に顔を向けると、アヤメはこちらにポカンとした気の抜けた顔を向けていた。
「あ、でも過充電には気を付けてね。休みすぎると、身体動かす時辛くなるし」
「……先生みたいなこと言うんだね」
「そういう子をたくさん見てきたからね。何かを変えるために頑張りすぎちゃう子、何かを守るために自分を犠牲にする子。……ようはガス抜きが下手なんだよ」
君たちに言ってるんだよ、ホシヒナの二人。
「ガス抜きって…その子たちも力抜いてる暇が無いんじゃないの?周りから期待されて、羨望されて、そんな自分を手放せなくて…………そして潰れていく」
「いいんだよ。そんな時はもうやーめた、で」
「馬鹿じゃないの!?無責任すぎるでしょ!?」
「むしろ1人でそんな責任を背負ってることがおかしいんだよ。社会って言うのは案外ザルだからねぇ……誰か1人ぐらい抜けても全然回るんだよ」
「……そんな適当でいいわけ無いじゃない」
「ふむ適当はダメか。……だったら本気ならいいわけだね?」
そう言う私にアヤメは怪訝な表情を向ける。
「何をするにも力が入っちゃうなら、力を抜くのにも力を入れなきゃね」
「……何言ってるの?」
「休む時も力を抜くときも、サボる時も本気でやんなきゃねって話。クッションを吟味し、お菓子をたくさん買い、好きな作家の新作を手に取って、自分だけの隠れ家で休む。うん、最高のサボり方だ」
「……そんな簡単に出来るわけないでしょ」
「だったら一緒にサボってくれる共犯者でも見つけな。私でいいならいつでもサボりに付き合ってあげるよ。だいたい知らないの?なにごとも本気ってのは面白いもんだぜ?ゲームだって本気の方が面白いでしょ」
私は持っていたコントローラーを掲げて言った。
「あんた……」
「まぁ私もサボりの師匠に教えてもらったことだけどね!」
「……ねぇそれって、さ。どこかの生徒だったりする?」
「え、そうだよ?百花繚乱にはいないけど、今一緒に旅してる子だね」
「はぁ~~~~~~~~~~」
話し終えるとなぜか盛大なため息をするアヤメ。
なぜ?解せぬ。
「アイ」
「あ、はい」
アヤメは呆れた顔で私を呼ぶと、私に頭の方に向かって手を伸ばす。
「ばか」
「いったい!?」
アヤメが私のおでこをはじくと、こぎみいい音と共に鋭い痛みがやってきた。
「痛い!?デコピンでやっていい痛さじゃない!?」
「まったく……。あんたが馬鹿だからよ。さっき言ってたことは全部私にとっては理想論。そんなこと誰もかしこがやってたら、それこそ社会が成り立たないよ」
「まぁそれもそうだけど。だったら週休5日にすれば解決するんじゃない?そうだそうしよう。休暇万歳!」
「何言ってるんだか本当に。…ばーか」
そう言うとアヤメは私がここに来てから初めて笑い、笑顔を見せた。
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やっほ~ミカだよ☆
ながいながーい面倒な作戦会議が終わって。
私が大変な時にゲームで盛り上がっていたアイちゃんと、なぜか同じ部屋に転がってたトキちゃんを回収して。
イロハちゃんに連絡したあと、合流したみんなに作戦の説明して。
「何で今日の夜からなの~?」
「急すぎやしませんか?ちょっとサボ…休みたいんですが」
「私もまだ満足にゲームできていません。あの部屋に戻ってもいいですか?」
ってほざくみんなを電柱を拳で折ることで黙らせて。
作戦決行の夜に部室棟で人員の配置をして。
人員配置のことであっちの参謀さんにネチネチ言われて。
それでせっかく人員配置をしたのに、今…まさに今!アイちゃんが!行方不明になった!……聖園ミカだよ!ねえ!!イロハちゃん!!」
「…はい、…はい。本当にお疲れさまでした。ミカさん」
「本当にね!参謀さんにさっきネチネチ言われたのもそのせいだしね!」
「……はい。わかりましたから、無線越しに大きな声を出さないでください。……耳が」
私は無線のイヤホンのマイクに直接口を近づけ、陰陽部にいるイロハちゃんにまくしたてる。
流石に作戦実行前なので、部室棟潜入寸前のトキちゃんには出来ない。
「お疲れのミカさんには、申し訳ありませんがこのまま現場でも頑張ってもらいたいです」
「いいよ!!イロハちゃんも陰陽部で部長さんと一緒に指揮とかお願いね!!」
「はい……わかりました。……みみ」
多少満足したためイロハちゃんとの通信が切ると、すぐさま連絡を受信した。
「ミカ、こちら部室棟に潜入できました。このまま潜入を続け、別口で潜入した百花繚乱と合流でいいんですよね?」
「トキちゃん。そう、今百花繚乱の委員長さん、レンゲちゃん、ユカリちゃんも別々で潜入してると思う。廃校舎って言ってもなかなか広いから、合流する前に泥棒を見つけたら、対応しながら誰か呼んで。他の人の潜入経路とかは覚えてるよね?」
「はい頭に入ってます。了解しました」
「私と百花繚乱の参謀さんは部室棟から離れた所で部室棟を見張ってるから、そっちは任せるよ」
私はそう言って通信を切る。
今回の作戦、イロハちゃん、陰陽部は総指揮として陰陽部部室。
トキちゃん、参謀を除いた百花繚乱は現場の部室棟に全員別々で潜行。
私たちアイちゃん組は、ミレニアムで貰ったイヤホンでお互いのやり取りは出来るけど。
百花繚乱は潜行中の意思疎通は難しそう。
まぁお互い気心知れた関係だろうし大丈夫かな。
そして私と百花繚乱の参謀さんは、部室棟から少し離れた所で潜伏中。
何かあったり、泥棒が逃げた時にすぐに追えるように。
一応参謀さんとは連絡先を交換したけど、そのせいでさっき電話口でネチネチ言われちゃった……。
修行部って子たちがいるようだけど、その子たちには市内をパトロールしてもらってる。
これが百花繚乱と私が考えた陣形だ。
そして、アイちゃんが行方不明っと。
「もーーー!!アイちゃんどこ行ったのーーー!!」
本当なら部室棟と、私たちの中間あたりを捜査してもらう役目なのに全然連絡取れないし!!
はぁ~この作戦考えるの本当にめんどくさかったんだけどなぁ。
「………………最悪、いざとなったら部室棟ぶっ壊しちゃえばいいかな」
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
百花繚乱。
ギシギシと足音が鳴る廊下を歩き、目的の修練場にたどり着く。
今や関係者は全員現場付近にいるため、警戒することはない。
わざわざこんなところで落ち合おうなんて、物好きな者だ。
しかしここにはこれから起すことに必要な物がある。
修練場の奥まで進み、目的の物を回収しようと、飾ってある掛け軸の前まで移動する。
その時、外からの風が頬を撫でた。
「あれ?今は皆現場に出張ってるのに、こんなところまで忘れ物かい?」
聞こえてくるはずのない声に驚くが、ここまで来てしまった以上、焦っても意味はない。
ゆっくりと声の聞こえた修練場の縁側の方に振り向く。
風になびく白い髪、暗い中でも月明りで見える彼岸花が描かれた法被、右手でもてあそんでいる十手。
早瀬アイが縁側に座りながら、こちらを見ていた。
「私がここにいるのが不思議みたいだね?いや…ね。疑ってたわけじゃないんだ。君と話していて気になったことがあっただけ」
「…………」
「なにか事情があるのかなって思ってたんけど、もうそんな段階じゃないみたいだね」
アイは雰囲気を見ると悟ったのか、悲しそうな顔をして立ち上がった。
「イズナの共犯者。……犯人は…君だね?」
アイは指さす。
……この罪にまみれた己を。
転生先生、嘯く 31話
5章百鬼夜行編ノ5
26/08/01 09:45:24
この時間がわかるだろうか?
1人、きっと1人、たぶん1人?わかる人がいるだろう
この時間は……誰かがこの作品『転生先生、嘯く』を広めてくれた日だ〜☆
✧◝(⁰▿⁰)◜✧ふぅ〜〜!!✧◝(⁰▿⁰)◜✧
…どういうことかというと、あにまんという電子掲示板に私の作品をおすすめしてくれた方がいるんですよ
認知されてるという嬉しみを感じる
ありがとう!
他にもおすすめしてくれてるかもしれない人もありがとう!
ネット音痴だからほとんど気づけてないけどありがとう!
ふぅ〜…
では拙き作品ゆえよろしくお願いいたします
あ、次回からの百鬼夜行編後半戦です