「以上がここ最近のヒナ委員長の行動です」
勝負に勝利し、その後のびたイオリを、ファイヤーマンズキャリーで医務室に届けた私は、再び風紀委員室に訪れた。
アコは少し不満げだったが、約束通り力を貸してくれるらしく、私たちに今までヒナが起こした事を説明してくれた。
「温泉開発部も捕まったんだ…」
「万魔殿でも聞いています。なかなかしぶとかったようですが、最終的に大泣きしながら連れていかれたようですよ」
「よくご存じで。しかし部長の鬼怒川カスミですが、他の部員の方は清掃活動で見かけますが、カスミ部長と作業班長の下倉メグさんはいまだ確認されていません」
「捕まったままってこと?」
「詳細はわかりませんが恐らく…」
カスミを見かけないか…。なんだかんだ大丈夫だと思うけど…。
あとイロハ、アコが恐らくって言った後、天を見上げるのをやめなさい。
「これで風紀委員が説明できることは全て説明を終えました。何か気になりことがあればどうぞ」
そう言ってアコが机に資料を広げる。試しに1枚資料を取ってみるとそこには、ヒナの目撃情報、犯罪者の捕縛方法、連れ去った方向など、事細かな情報が書かれてた。
「凄くよくできた資料だね」
「……あいにく、それしかできることがなかったので」
ヒナが姿を消してから1ヶ月、イロハから貰ったレコーダーでも言っていたように、ゲヘナ中の犯罪者が大はしゃぎだったらしい。そのせいで風紀委員はヒナがいないなかあっちこっちで、休みなく働いていたようだ。
しかし再びヒナが現れてもう1ヶ月経つと、ヒナのせいか、それともおかげか犯罪率は激減。
それに比例して風紀委員はどんどん仕事が減っていったらしい。
「今では風紀委員は、街や学園の見回り、警護などしか仕事がなく…。それと同時にそれほどまでヒナ委員長に頼っていた私たちが情けなく…」
「げ…元気出して?」
実際ここに来てからアコの元気はない。
いつもの憎まれ口…は仲が良かったから出来ていたにしろ、それでもいつものような覇気がないのは、よほどヒナの退部が心に来ているのだろう。
「委員長…お身体、大丈夫でしょうか…?」
アコのぼやきを傍らに、私はアコの用意してくれた資料と地図を読み込んでいく。
地図にはヒナの現れた場所、資料にはその詳細。
「アイ、何かわかりましたか?」
「んー?……うん、大体わかったかな」
けど、これは……。
「アコ、最後に一番大事なこと聞いてもいい?」
「なんですか?もう説明できることは説明しましたが…」
「資料にもない、ここではアコにしか説明できないことだよ。……ヒナが退部した時の状況を教えて欲しい」
「……………それは、必要なことですか?」
「必要なんだ。ヒナが何を思ってこんなことをしているのか。ヒナを理解したいんだ」
部屋の中に静寂が流れる。それは長い静寂だったが、
「……わかりました」
そうして天雨アコは語りだした。
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「委員長…これは…っ!?」
突然投げ出された封筒、それは退部届だった。
「退部届よ。悪いけど私は辞めるわ」
「嘘だろ委員長!?」
「そうです!こんな急に…どうしてですか!?」
「…急で悪いけど、ごめんなさい。やることが出来たの。……とても大切なことよ」
言い終わるとこちらを一切気にすることなく、踵を返す委員長。
そんな委員長に私は縋りつくように、声を出す。
「やることって何ですか!?そんなに大事なことなら私もついて行きます!!」
「ダメよ」
「私だけじゃありません!イオリも…チナツもきっとついて行きます!」
「そうだ委員長!」「はい!私たちも一緒に…!」
「しつこいわ。貴女達は連れて行けない」
「それ…でも…、それでもっ!役に立ちます!囮でも盾でも!役に立って見せます!だからっ…!!」
私はとうとう、どんどんと出口に行こうとする委員長の服を掴み、力強くで止めようとする。
そんな私の行動に、小さく息を吐き、振り向いた彼女の目は、
「いらないわ。……足手まといはいらない」
「……ッ!!」
凍えるような冷たい目だった。こんな目は…私、知らない。
「貴女達と私、どちらが強いか知っているでしょう。貴女達だけじゃない。私はこのゲヘナを相手どっても勝てるわ。風紀委員、万魔殿、ゲヘナ…どれだけ私を頼ってきたと思っているのかしら。囮でも盾にでもなるって言っていたけど、正直役立たずよ。」
「ヒナ…委員長…」
「それに大丈夫よ。私がいなくなってもね。少しの間忙しくはなると思うけど、いずれ風紀委員の仕事はなくなるわ」
ヒナ委員長は私の手を払い落とす。
「今の私についてこれるのは、私と対等の存在ぐらいよ。…ゲヘナにはいないでしょうね」
委員長は扉に手をかけ出て行ってしまう。
「邪魔しないでね。…足でまといは、いらないわ」
委員長が、行ってしまう。
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私が語り終えた部屋の中でカチコチと時計の音が響く。
「これがヒナ委員長が去った時の話です」
「そんなことがあったんですね…。やはり私の知る風紀委員長とは随分雰囲気が変わっていしまっていますね…」
「はい…、こうして協力してくれる方が現れたのは嬉しいことなのですが、本当に委員長が戻ってきてくれるのか…不安で…」
自分でも思う。いつもは尊大な態度でいることが多い私でも、今は不安で押しつぶされそうになる。
今もほとんど何も知らなかった人たちに、こうして不安を吐露するぐらいには弱ってしまっているのだ。
「大丈夫でしょ」
しかし、アイと呼ばれた生徒は、弱気になった私の言葉をさえぎるように私に答えた。
「大丈夫って…なぜそんなに簡単に言うことができるんですか!?何も知らないくせに!」
「大丈夫だよ」
激昂する私に、変わらずに大丈夫だと伝えるアイ。そんなアイの言葉にどうしようもない怒りと同時に疑問が生まれた。
なぜ大丈夫なんかと簡単に言えるんだと。
「だから何で…!?」
「大丈夫。私が何とかしてあげる」
「……え?」
『しょうがないなぁ…』
『そこまで言うなら先生が何とかしてあげよう』
それはあの人がよく言っていた台詞。
私が無理難題を押し付けて、口論になった際、最終的に先生が折れて言っていた台詞。
その台詞に私が『なんですかその上から目線は!?』と返すのがいつもの定番だった。
なぜ今先生を思い出すの…?
「本当に大丈夫なんですかアイ?」
「まぁね。まだ確証はないけど大体ヒナの潜伏している所のあたりはついたし、やることも決まったしね」
「やること…?」
「風紀委員と一緒に空崎ヒナを倒す。簡単な話だ。足でまといなんて言われないぐらいに強くなれば、ヒナも文句ないでしょ。そうとなればアコ」
「は、はい。なんですか…?」
「明日、風紀委員を全員集めてくれない?これから私がアコとチナツには戦術を、イオリや他の風紀委員には戦い方を徹底的に教え込む」
「風紀委員全体でってそんなことが可能なのですか!?」
「これでも教えることは得意なんだ。…今は、この身体もあるしね。それにアコ、君は言われっぱなしで満足するような性格じゃないだろう?」
「あたりまえです!……例え委員長が相手でも、足手まといなんて、役立たずなんて言葉、撤回させてやりますよ!」
「ははは!その意気だね。じゃ早速準備するか、イロハも手伝って」
「……その前に1つ聞いてもいいでしょうか?」
「なに、どうしたの?」
「……貴女はいったい何者なのですか?」
「…ただの通りすがりの一生徒さ」
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早速次の日から私による地獄の訓練(自称)を開始した。
どのくらい地獄だったかというと、
「はぁ~訓練ダリ~」「あいつ誰だよめんどくせえなあ」「もうとっとと帰りたいよ」
こうした仕事が無くなりすっかり怠けきった風紀委員達が、
「「「生きててすみませんでした」」」
と言うぐらいには厳しく訓練した。
実際風紀委員の脆弱性はここにある。良くも悪くも戦闘面に関してヒナの一強に頼り切ってしまっているのだ。
そのことによってヒナの名前を出せゲヘナでは逃げ出す輩が多いが、そのせいで後身がまったく育っていないのだ。
その後身も訓練が始まり、3日、4日経つと彼女たちも目を見張る実力に育ってくる。
この調子でもう少し訓練すればだいぶ成長できるだろう。
そんなこんなで訓練を始めて5日目。
今日の訓練は午前中で終わりにし、イロハと一緒に街を偵察しに出かけた。
「やっぱり大分静かになったなぁ」
「ゲヘナは喧嘩っ早い連中が多いですからね。それで、風紀委員長が現れた場所をさっきから周っていますが、なにか考えがあるんですか先生?」
「そうだね。風紀委員が調べた資料はとても優秀でね。日時はもちろん滞在時間、おおまかなパトロールの時間、去っていった方向、連れ去られた生徒なんかが詳細に書かれているんだ」
「何が言いたいんですか。万魔殿の仕事が雑だとでも言いたいんですか?」
「まぁ…うん…」
「せめて否定はしてくださいよ。なにが気になるんですか?」
「問題はヒナが去っていった方向。イロハも見てみ?」
そう言って、私の携帯端末を渡す。
中には画面には地図アプリが映されており、ヒナが去っていった方向が矢印で書き込まれている。
「はぁ~こう見ると風紀委員長は大忙しだったんですね。………先生この矢印の先って…」
「そう。矢印の先は全て同じ場所に向かってるんだよ。つまりヒナの潜伏場所は」
「ゲヘナ学園……」
「灯台下暗し、とはこのことだねぇ」
ゲヘナ学園は管理されていない場所が多い。基本授業が行われておらず、学園内で少しでも道を外れると木々や林など鬱蒼とした場所にぶち当たる。
なので人目につかないという点ではある意味ではうってつけなのかもしれない。
「そしてそれならヒナが消えた後の工事も合点がつく」
「私も先生たちが訓練で忙しくしている間、資料を調べなおしてみたところ、万魔殿や他の部活でさえ工事の依頼をしていないことがわかりました」
「ヒナが私用で頼んでたんだろうね」
「では急いで学園に戻って調査を」
「それだと調査に時間がかかるでしょ?今日中に場所を調べるよ」
「どうやって潜伏先を突き止めるんですか?」
「いい質問だ、まず私がイロハをおぶる」
「は?」
「ほらおいで?」
私は屈み、背中をイロハに差し出す。
「…では失礼します」
よじよじと私の背中にイロハがおぶさる。
「もっとくっついて。隙間ができないぐらいに」
「なんですか?セクハラですか?」
「いや本当に大事なことだとから!」
「……恥ずかしいんですからね」
イロハは私の肩から首周りに腕を回し、しっかりとしがみつく。
「よし、時間的にそろそろかな」
私はイロハをおぶった状態で空を見上げた。
するとそこには、
「やっと見つけた」
見上げた先には猛スピードで空を旋回する黒い翼。白い髪は風でたなびいてバサバサと揺れている。
それはお目当ての人物。空崎ヒナであった。
「じゃあイロハ。しっかりつかまってなよ」
「先生…?何をするつもりで…?」
「これから空崎ヒナを全速力で尾行します」
「え?走ってです…ひゃぁぁぁぁぁっ!!!」
ドンッ!と地面を踏みしめ私は最初からトップスピードで走り出す。できるだけヒナに見つからないように、建物の影や裏路地などを使って追いかけた。
道行く人は通り過ぎる私たちになんだなんだと振り返るが、振り返った先にはもう小さくなった私たちしかその目に映らない。
「先生っ!!速すぎますっ!!もう少しゆっくりっ!!」
「あんまり喋んな!舌噛むぞ!」
時に壁を走り、川を飛び越え、屋根を渡り絶叫マシーンも顔負けのコースでヒナを追いかける。
こんな芸当ができるのは訓練のおかげだ。
イオリと戦った時には、自分の身体がどの程度動くかわからなかったが、風紀委員との訓練をこなすことによって、自分の身体の限界を知ることができた。
自分の力を実感していると、遠くにゲヘナ学園が見えてきた。
「あと少し頑張れイロハ!」
「………」
ついにヒナがゲヘナ学園の敷地に侵入し、私達も少し遅れながら到着する。
「到着したよ。お疲れ様イロハ」
私はイロハをそっと降ろす。
その間イロハは口に手をあて何も喋らなかった。
「…イロハさん?」
「……………ギ………」
「え?」
「………ギブ…」
ギブアップ宣言。
「……なに…何の説明もなしに…なんて経験させやがるんですか…」
「すみません」
「…私は…おいていってください。1人でも大丈夫です…。」
「こんなイロハを1人にしておけないよ…」
「……では言い方を変えます。……至急!早く!遠くに行ってください!…ウッ!」
「了解しました!!」
あまりの迫力に負け、イロハの元から撤退する。彼女の名誉の為にも早く遠くに行ってあげよう。
イロハから離れしばらく、ヒナを探す。
するとある棟の裏側でフワフワな白い毛を見つけた。
急いで追いかけると、そこにはヒナはいなかったが、代わりに新し気な扉があった。
どうやらヒナはこの中に入ったようだ。
しかしこの建物、そしてこの建物を使っている部活を私は知っている。
もしかして彼女達も関わっているのか?
そうここはゲヘナ生徒ならほとんどの生徒が利用する場所。
ゲヘナの食堂。そしてここを管理している部活の名は、
『給食部』
転生先生、嘯く 5話目
今回この話を書くにあたって、アコの絆ストーリーを読み返してみたんですが、ムッズイ!!!
基本ヒスっててメンドクセェナァ!オイ!って感じでした!
そんなわけで拙き作品ですがよろしくお願いします
ちなみにゲヘナでの生活中、先生はイロハの家で寝泊まりしているという裏設定があります。その辺は賭ければ後日