トリニティ総合学園にある庭園。
薔薇や季節の花々が綺麗に咲いた庭園の一角にある、お茶会用のテーブル。
私とイロハは案内されて庭園までやってくると、ヒフミに椅子まで促され、慣れない雰囲気の椅子に各々座った。
対面にヒフミが座ると、落ち着くように息をつき、話始めた。
「では改めまして、トリニティ総合学園臨時ティーパーティー代表、阿慈谷ヒフミです。本日は来てくださりありがとうございます」
「これはご丁寧に。私はゲヘナ万魔殿議員、棗イロハです」
「…アイです」
いいなみんな。なんか肩書あって。
もう私シャーレ勤務じゃないしなぁ。
「では早速お話なのですが…」
「あっ…すみません少し待ってもらってもいいですか?もう少しで…」
「はい?」
そう言ってヒフミが少し遠くに目をやると向こうから歩いて、こちらに向かってくる人物。
お淑やかな佇まい、ピンクの長くストレートな髪、物腰柔らかそうな雰囲気。
その人物はゆっくりとこちらに近づき、ヒフミに声を掛ける。
「お待たせしました。ヒフミちゃん」
「ハナコちゃん!みなさん待ってますよ!」
「ええすみません。少し仕事を片づけていたので」
現れたのは、トリニティの才女浦和ハナコであった。
浦和ハナコであったのだが……。
「あら、こちらお客様ですね。こんにちわはじめまして。ティーパーティー補佐浦和ハナコです」
「こちらこそはじめまして。棗イロハです。こちらは…」
「……わ…」
「アイ?」
「うえあっっっ!?」
「アイ!?」
「どうしたんですかアイさん!?」
ハナコを見て思わず出てしまった驚きの声。だってしょうがない。
私の中のハナコは大人びた微笑を浮かべつつも、子供のような顔をのぞかせるお茶目な女の子であったが、今の彼女はその面影はなく。
ただ貼りつけたような笑顔をしている氷のような雰囲気の少女だった。
……これハナコ相当無理してるわ。
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その後慌ててイロハが場を取りなしてくれなんとかごまかすことができた。
ちなみに小声で、
「トリニティでは余計な事を言う口にはロールケーキをぶち込むらしいですが、ゲヘナでは鉛球を使うんですよ。何言ってるかわかりますね?」
という、オメェマジ黙ってろよ?と遠回しに言われたので、今私はイロハの隣でシュンとしている。
驚いて思わず口に出ちゃったのは悪かったけどさ…。
「では…あの…それで今回、イロハさんにトリニティでの頼み事をお願いしたいのですけれど、本当に大丈夫なのでしょうか?今はゲヘナ学園でも問題が起こっていると思いますが…」
「お気遣いありがとうございます。しかし問題ありません。こちらの問題はほとんど解決しましたので。後は以前と違った治安がましなゲヘナになるでしょう」
「そうなんですね!それは良かったです!ではこちらも頼み事をするにあたって今のトリニティのことを…」
「それなら私からお話します」
「ハナコさん…」
「お二人はこの庭園に案内されたときに十分見たと思いますが、今トリニティでは原因不明の災害によって校舎のほとんどが破壊されています」
「あはは…災害というか………………人災というか…」
「ヒフミちゃん♥」
「はい!話の続きをお願いしますハナコちゃん!」
「校舎の立て直しを図って、色々な業者を呼んで試みているのですが…イロハさん、駅からこの学園まで来るのに不良のような生徒に絡まれませんでしたか?」
「それはもう何度も」
「ですよね…。どうやら最近ブラックマーケットやトリニティで幅を広げていた不良のリーダー的生徒が急にいなくなってしまったようで…」
「そういえばそんな生徒がいることが万魔殿の調査でチラッと見たような…」
「引退か活動拠点を移しただけかとか、様々な説が不良たちの中にありますがまだ詳しいことはわかっていません」
ブラックマーケット、リーダー的な生徒。
私は思い当たる節しかない彼女をチラッと見てみる。
「あはは……」
ヒフミさん、めっちゃ冷や汗流れてますよ。
「そしてその生徒の引退を期に、今は二つの不良組織がここらで幅を広げているのですが、その名前がニカイアガスメット連合団、そして放課後スイーツ団です」
「まって」
「なんですかアイ、話の途中ですよ」
「いや本当に待って?ごめん名前もう一回教えてくれる?」
「はぁ…ええと、ニカイア…」
「ごめんそっちじゃない」
「放課後スイーツ団の方ですか?」
「ああ…そぅ…ごめん止めちゃって」
「もしかしてお知合いですかアイさん?」
「いやさ、前トリニティで謝肉祭やってたでしょ?その時のバンドと似てるなぁって」
「………そうですか。そこまで知っているなら隠していても仕方ありませんね。そうです放課後スイーツ団、彼女らはそのバンドのメンバーです」
「スキャンダルですっぱ抜かれてない?」
「どうやらあまり目立った活動はしていないようなので、不良の中での話しで収まっているようですね。それにやっていることは不良のそれなので例えスキャンダルされても何も言えません」
杏山カズサァ…なにやってるのあの子。
「話を戻しますね。問題なのはニカイアガスメット連合団。こちらは、リーダー不在で散らばっていた不良を束ね支配している不良たちです。その連合団がトリニティ校舎の倒壊を狙ってこちらへの進行を計画していまして」
「それは早急に対応しなくてはいけない一大事ですね。それで我々に頼みたいこととは?」
「先ほども言ったように校舎の立て直しを依頼したところがですね、何度もそのニカイアガスメット連合団に邪魔をされてしまい難航していまして、なので別の企業へ依頼を変更しようと思っているのですが、その連絡の橋渡しを貴女達に頼みたいのです」
「橋渡しでなぜわざわざ私たちを?」
「その企業がゲヘナ生徒が経営している会社のようでして…」
「ゲヘナ生徒が会社を経営…ですか…?」
「はい!そこの企業の社長さんとは知り合いなのですが…この立場になってしまってから直接会うわけにはいかず、なのでゲヘナ生のイロハさんたちにその企業との橋渡しをお願いしたいんです」
「今その企業のホームページをお見せしますね」
ハナコが端末で操作している最中にイロハと小声で話す。
「アイ、ゲヘナ生で会社を経営している生徒で心当たりのある人物は?」
「奇遇だねイロハ。私も一人しか思いつかないよ」
話しているとハナコが操作を終え、こちらにホームページを出してくれる・
「どうぞ」
「ありがとうございますハナコちゃん。近頃急速に成長している企業なので、依頼を受けてくれるかはわかりませんが、私の名前を出せば会ってくれると思います!」
差し出されたホームページ。
映し出された企業の名は。
『便利屋68』
ホームページのトップには、綺麗なオフィスの外観と半目でこちらにピースをする陸八魔アル社長の画像が乗っていた。
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時刻は夜。
ヒフミたちとの話し合いの後、私たちはトリニティ地区のホテルの一室に案内された。
『本日は移動で疲れたでしょう。部屋を用意していますので、本日は休んで明日便利屋の会社がある、ブラックマーケットまでお願いします』
とはハナコ談。
せっかくホテルのいい部屋に案内されたので、満喫することにしておく。
部屋のアメニティを漁る私に、先ほどから携帯端末を弄るイロハが話しかけてくる。
「どうやら便利屋が急成長しているのは本当のようですね先生。ブラックマーケットの本社の他に支店が二つもあるらしいですよ」
「なんでゲヘナトップの組織が知らないの…」
「もともと便利屋関係は風紀委員の管轄なので知らないんですよ。それに温泉開発部や美食研みたいに要注意ってほどではありませんし」
アメニティを物色し終えた私に、自分も確認しろというようにイロハが端末を渡してくる。
『社員100名以上!』『あなたの個性を活かせる仕事です』
スイスイと端末を操作し会社の概要を読み込んでいくと、そんな明るい文言が飛び込んでくる。
試しに求人サイトで調べてみると、
『明るく、社長も社員を気遣ってくれる最高の会社です!』
『先方ともめた時に社長自ら交渉しに来てくれて、凄い助かりました!一生ついて行きます!』
『社員の方も丁寧に仕事を教えてくれるので安心して続けられました』
とこれまたポジティブのコメントが飛び込んできた。
「イロハ…アウトローって何だっけ?」
「恐らくその会社とは無縁の言葉ですね」
しかし便利屋の面々はこのギヴォトスでも元気に活動しているようだ。
「しかし先生私このホテルで大変なことに気付いてしまいました」
「大変なこと?」
「そう…このホテルで私たち、相部屋なんです」
「……そうだね」
そう、私たちにあてがわれた部屋は1部屋。当然相部屋にはなる。
「また一緒に寝ましょうか先生。いつもみたいに私を抱いてもいいんですよ?」
「ちょっとやらしい雰囲気にしないで!?ゲヘナで一緒の布団で寝ただけでしょ!?」
何を隠そうゲヘナ滞在中、しばらくイロハハウスで生活していたのだ。
寝るときは布団が一枚しかないので、床で寝ると言った私をイロハが強引に布団に引きずり込み、その後もなし崩し的にゲヘナでは一緒に寝ることが通常になってしまった。
だが隣に抱き心地のいいフワフワモコモコな抱き枕があっては、つい抱きしめて寝てしまってもしょうがないわけで…。
「しかも相部屋って言ってもこの部屋ツインだからベッドは二つあるしね」
「そうですか…。いつでも私のベッドに入って来てもいいんですからね?」
「私一応自らイロハと寝に行ったことないんだけど…?」
そんな会話をしつつ、私はそうだと思い出して出かける準備をする。
「お出かけですか先生?」
「うん、ちょっと生徒に会いに行くためにね。いるかどうかわかんないけど」
「私もついて行きますか?」
「イロハは休んでていいよ」
「そうですか。では布団をあっためて待ってますね」
「自分の分だけあっためておきな」
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深夜、トリニティの噴水の中で私は立つ。
膝まで水につかり、吹き出てくる水を身体を冷やすように直接浴びる。
昼間では奇行と呼ばれる行為だが、この時間ならこの私だけの空間なら誰も咎めることはない。
誰も咎めない。
私を見つけた時の『風邪引いちゃうよ!?』の心配の声も。
噴水の中に引きずり込んだ時の『まったくしょうがないなぁ』の呆れの声も。
何もない。
この噴水での貴方と私の時間は私だけの時間になってしまった。
このティーパーティー補佐の職務に務めてから私は、人前で卑猥なことを思わせる仕草や言動をしなくなった。
私一人なら何を言われてもどうでもいいが、流石に友達のヒフミちゃんの評判に携わってしまう。
正直トリニティなんてどうでもいい。家の事情も権力争いも、どうでもいい。
トリニティ学園が破壊される様を見たときは、胸の内がスカッとしたぐらいだ。
だからこそ私の大事な友達を守るため言動を改めた。どうしようもなく不器用な私でも守らなくちゃいけないものはわかるから。
私の行動で友達を貶めるわけにはいかない。
しかしいくら友達のためとはいえ、トリニティの為に尽くすのはとてもストレスがたまる。
だから夜中のこの時間、誰にも見られない貴方と私の場所であった、この夜の噴水でだけは素の自分を出すのだ。
この時間がとても気持ちいい。
だけどもし、まだ…まだ貴方がいたなら。
・
・
・
「風邪引いちゃうよ?」
噴水で自分の世界へ浸っていると、突然の来訪者が訪れた。
白く長い髪、小柄な体躯、派手な法被。
今日の昼間に会合した、アイさん。
しかし、この空間では邪魔な人だ。
「心配ありません。お気になさらず」
私は昼間とは打って変わって冷たく突き放す。
この場所での私は素の私だから。
偽る必要はない。
「冷たくないの?」
「まぁ冷たいですが、気持ちのいいものですよ。ご一緒に浴びますか?」
この夜の噴水で誰かと会うのは久しぶりだ。
だからか、来るわけないと思いつつ水浴びに誘ってみる。
普通の人なら来るわけがない。
誘いを断り、奇異の目で見てくる。
今回も興味深さで声をかけただけだろう。
だから来るはずが…。
「ではお言葉に甘えて……」
そう言うとアイは服や靴を脱がずザブザブと噴水に入って来て、私の隣に並ぶ。
アイは髪をかき分けたり、腕を広げたりと思い思いに噴水の水を浴びていた。
私はアイのまさかの行動に内心驚きつつも、落ち着いて問い掛ける。
「どうですか?水の具合は」
「ちょっと冷たいけど気持ちいね」
アイは本当に気持ちよさそうに水を浴びている。
「だけどさ……」
するとアイは一呼吸置くと私に身体を向け笑顔で言った。
「どうせ濡れるならもっとビッショビショになった方が気持ちいいよね?」
そう言うとアイは私に抱きついたと思うと、後ろに倒れ私を溜まっている水の中に引きずり込んだ。
突然の出来事にもがくと、思いのほかあっさりと腕が解かれる。
「ゴホッゴホッ!!何をするんですか!?」
「ハハハッ!!一度やってみたかったんだよねぇ。それに言うセリフが違うでしょ?こうしてびしょ濡れになった時の台詞は、『たくさん濡れちゃいましたね…ほらこんなに透けちゃってますよ♥』でしょ?」
「それ…は…!?」
その台詞は過去の自分の言葉。
なんでこの子が?
それに…その言葉はいつか噴水にあの人を引きずり込んだ時の…。
「あの時とは立場が逆だねハナコ」
もう聞けないと思った貴方の声。
また聞けるのかと希望に縋りながら問い掛ける。
「せんせい…なのですか…」
「ハナコがらしくないことしてるから戻ってきたよ」
私はの返答を聞いて彼女を思いっきり抱きしめる。
今まで出したことのない強さで、噴水の中で温かさを求めるように。
「ハナコ…もうちょっと力を…」
言いたいことは山ほどある。だけど今は
「もう少し…このままで……」
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「ふふ…先生にたくさん濡らされちゃいました♥」
「間違ってないけど、言い方ぁ!」
ハナコを宥め噴水から出た私たちは、噴水のヘリに腰掛け、タオルで身体の水分を拭っていた。
「しかし可愛くなりましたね先生」
「そうなの、プリティーになっちゃたの私……」
ちなみにハナコには宥めるついでに、今までのことを話ている。
「でも良かったじゃないですか。前々から可愛い女の子になりたいって言ってたじゃないですか」
「生徒の前でそんな性癖を披露した覚えはないよ!?」
昼間とは打って変わってニコニコで私を弄ってくるハナコに安心しつつ、会話を切り出す。
「それでトリニティの何だけど」
「そうですね。ゲヘナでの事件を解決した先生ならトリニティの件を、お任せてもいいかもしれませんね」
「協力はするさハナコの頼みならね」
「…相変わらずですね先生。いいです。おおむね説明できることは昼間に説明したとおりです。」
「トリニティが壊れて、不良が増えてって、進行されてって事だよね?」
「そうですね。ですがあえて伝えなかったことが2つあります」
「2つ?」
「まずは不良たちのことです。ニカイアガスメット連合団ですが、下っ端の構成員の人はブラックマーケットやそこらの不良という認識でいいんですが、幹部の方に注意してください」
「幹部っているんだ」
「各チームのリーダーですかね。幹部の方は他の構成員と違って良いガスマスクをしています」
「少し良いガスマスクって何?いい悪いとかわかんないんだけど?」
「構成員からリーダーと呼ばれている生徒のことなのですが…。まぁ先生なら見たらわかるでしょう」
「本当にわかる?説明めんどくさくなってない?」
「そしてリーダーをまとめる隊長、ニカイアガスメット連合団のトップ。その幹部たちなのですが、どうやら普通の生徒ではないようなのです。戦ってみた正義実現委員会からまるで訓練を終えた兵隊と戦っているようだ、と」
「兵隊…軍隊上がりって感じか…」
「まだ詳しいことは何も…。しかしこれから言えることはこのニカイアガスメット連合団は、ただの不良集団ではなく、どこかの息がかかった団体なのかもしれないということです」
「そうだね。わざわざ戦闘慣れしている奴らが不良を集めるなんて、何か企んでますよって言ってるようなものだからなぁ」
「なので先生にはその調査もお願いしたいです」
「ん、了解。あと一つは?」
「……この校舎なのですが、シスターフッド、正義実現委員会、救護騎士団。図書委員会。いずれの本部も倒壊はしていません。破壊されたのは本校舎などの、政治に関係のない場所のみでした」
「随分意思を持った災害だね?原因は?」
「その本校舎も2割程度しか残っておらず…。トリニティの生徒はも危ないので休学したり、転校をしてしまう生徒が多くなっています」
「大変だね。で、原因は?」
「あの…その…」
「大丈夫だよ。予想は出来てるから」
「……ミカさんが」
「うん。外れなかったわ」
「しかも今行方不明で…」
「ここでも行方不明か」
ゲヘナといい、トリニティといい、腕っぷしの強いヤツは行方不明になる業でも背負っているのだろうか?
転生先生、嘯く 9話目
朝早くからの執筆
みんなみて〜という気持ちで描いてます
拙き作品ですがよろしくお願いします