メダリストはエゴイスト   作:モリブデン42

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補足みたいな話です
全日本ノービスまで展開早めだと思います


強化合宿

 長久手のスケートリンク上にて、唯といのりは全日本ノービスAの出場選手だけが参加できる強化練習に来ていた。少人数でリンクを使うことが出来る上に色んな人の指摘を受けられるこの練習はレベルアップのためのいい機会だ。

 

「げっ」

「あん?」

 

 そこでかち合う唯といるか。

 唯は苦々し気にいるかを見上げ、いるかは苛立ち気に唯を見下ろす。

 

「ちっ、また失礼なやつだな唯ちゃん」

「すいませんでしたね、大体なんでいるんですか?今日はノービスの日ですよ」

「はあ?関係ないだろ?」

「なんで機嫌悪いか知らないですけど、八つ当たりしないでくださいよ」

 

 唯は明け透けに文句を放った。

 

「ほんっとにムカつくクソガキだな」

「そうやって、下に見てられるのも今だけですよ」

 

 開会式の時と異なり、矛を収めず売り言葉に買い言葉の応酬。

 唯といるか両者の関係が窺えるやり取り。加えて元々の関係だけでなく、今の両者の機嫌も言い争いに起因していた。

 機嫌の悪いいるかに対し、機嫌が良いがために唯は好戦的になる。

 心意気が強い時ほど口が悪く、大きくなってしまうのだ。

 

「おーい、二人とも~もうみんな集まってるよ~」

 

 愛花が呼びに来たことでようやく両者は矛を引っ込めた。

 

 

 

 

 

 曲かけ練習はいるか一番手で滑っていた。

 

(つい喧嘩売っちゃったけど、岡崎いるかの技術力は私よりも上・・・勝つためには彼女を勝るジャンプを跳んで、かつ加点を狙う必要がある)

 

「口に反して、ジャンプは綺麗なんだよな・・・」

 

 いるかが空中に描く軌跡を思わず目で追う唯。

 あまり仲は良くないがその実力に関しては認めている。

 

(来年・・・いや全日本ノービスで推薦貰えば来月にでもあれと戦える)

 

 全日本ノービスで入賞すれば、恐らく全日本ジュニアへの推薦がもらえる。そうすればいるかと同じステージで戦える。冷静に考えれば今の自分では勝ち得ないが、それでもより強い相手と戦えるステージというのは胸躍るものがある。

 

(ていうか、勝つし。ジュニアだろうがなんだろうが)

 

 そんな熱い心を胸に秘め、練習を続ける。

 少しでも精度を上げるために、『感覚』を呼び起こしながら、かつそれを更新していくための練習。

 

(おんなじ質で跳び続けてもしょうがない。目指すは『感覚』の一歩先!失敗してでもイメージをつかみ取る)

 

 3回転ルッツ+3回転ループ 着氷

 

(悪くないっ・・・けど)

 

 同じく、3回転ルッツ+3回転ループを跳ぶ光をちらりと見る。

 

 やはり、年季が違うのかあちらの方が綺麗に跳んでる気がする。

 

「光・・・」

 

 唯はここにきてから一度も光と話していなかった。

 別に彼女が嫌いなわけじゃない。むしろこれは単なる自分の一方的なやっかみだ。

 ただそれでも、唯は光を叩き潰すと心に決めた。

 理由もなく煽る気もない。かと言って、仲良くお話という気にもならなかった。

 

(それでいい、仲の良し悪しじゃなく、殺意と敵意の介在するこの状況こそ私たちの健全な関係だ)

 

「唯ちゃん、久しぶりだね」

 

 光にとってはそうではないのだろう、だから彼女は気安く唯に話しかけてきた。

 

「・・・何だよ、練習中でしょ」

 

 問われれば応える。

 唯は光に敵意を抱いているが別に彼女が嫌いなわけでは無い。

 

「気づいてないの?休憩に入ったんだよ」

 

 見ると周囲の人は一度リンクから上がっていた。

 

「そう・・・」

 

 本当に嫌いになったとかそんな訳ではないのだ。ただ光を潰すと決めた以上、建前を使い分けられるほどの冷静でいられないというだけ。

 

「上手くなったね」

 

 リンクから上がり、ベンチに座ると光がそんなことを言って来る。

 

「煽ってんの?光に勝てなきゃ意味ないから」

「うーん、純粋に褒めたんだけどなぁ」

 

 多分光は嫌味のつもりはなく本気で言っているのだろう。それがむしろ腹立たしいのだ。

 

「だとしたら舐めてんだよ、そんな言葉は下に見てる人間にしかでてこない」

「そんなことないよ、凄いと思ったから凄いって言うし、上手くなったと思ったから褒めただけ」

 

 まるで聞き分けのない子供を諭すような口ぶり。

 

(やっぱ舐めてる)

 

「無意識に女王様目線なんだよ・・・まじで・・・けどいつまでも玉座でふんぞり返ってられると思うな・・・」

「え?」

「革命だクソ女王、処刑台に送ってやるから怯えて寝てなよ」

「そう、楽しみにしてるね」

 

 敵意を露わにした唯を見て光は嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 強化練習が終わるとロビーにていのりが唯に話しかける。

 

「唯ちゃん」

「ん、いやどうしたよ」

 

 湯気が出るほどの汗と熱気を放ついのりに思わず変な口調で返してしまう。

 

「いやちょっとジャンプを休まずどれくらいできるのかって・・・」

「何焦ってんのさ・・・」

「そりゃ焦るよ・・・私だけ3回転フリップもルッツ跳べてないんだから・・・」

 

 前回の予選で難易度の低いジャンプの完成度を上げることで大健闘したいのり。結果は勿論素晴らしいがその完成度の裏には高難易度ジャンプへの経験値の少なさがあった。

 

「心配しなくていいよ、司先生もその辺は想定済みっぽいし」

「どういうこと?」

 

 唯は思案するように言葉を選ぶ。

 

「あくまで1位を狙いにいった予選での戦術。結果は私が1位だけど本質は変わらない。予選1位と2位のいるクラブはある程度サポートに融通が効かせられるようになるってこと」

「つまり?」

「・・・この話はここまでにしとく。多分詳しくは司先生が話してくれると思うし」

「え」

 

 急に腰を折られたいのりはおろおろとしながら、唯が何か動画を見ていたことに気づく。

 

「唯ちゃんは何見てるの?」

「これ?あーなんて言ったらいいだろう」

 

 そう言いながら、唯はいのりに画面を見せる。

 

「ブルーロックプロジェクト始動演説?」

「そう、日本サッカーを変えるためにフォワードを集めて、最強のストライカーを作ろうって話」

「なんだかすごいね・・・でもなんでそんな動画・・・サッカー好きなの?」

「お兄ちゃんがこの強化指定選手に選ばれたんだ!」

 

 よくぞ聞いてくれましたと唯がいのりに語る。

 

「凄いじゃん!」

「そう、凄いの。ただ共同生活しながらサバイバルするみたいだからしばらく会えないのは悲しいけど・・・お兄ちゃんならきっと何かやってくれる。今からそれが楽しみで仕方ない」

「お兄さんのこと好きなんだね」

「まあね」

 

 恥ずかしげもなく唯は答えた。

 

「でもそっか、じゃあアスリート兄妹なんだ」

「いのりのとこもそうじゃないの?」

「え?」

 

 唯は記憶を掘り起こしながら尋ねる。

 

「いのりのお姉さん何度か見かけたけど結束実叶でしょ。ノービスBの名古屋ブロックで優勝してた・・・私、ノービスの名古屋ブロックの資料は大体目を通したから、結束ってそんな多い苗字でもないしそうなのかなって」

「うん!そうなんだ!」

 

 姉の話が出ていのりが嬉しそうに反応する。

 

「私ね、お姉ちゃんに憧れてスケート始めたんだ!」

「え?」

「いつもキラキラしててね!みんなの憧れで・・・私もあんな風に輝きたいって・・・」

 

 その時、いのりの顔を掴み言葉を遮ったものがいた。

 

「うわ、マジじゃん」

 

 いるかはそう言うとまじまじといのりの顔を見つめる。

 

「そういえば結束って苗字モロ被りじゃん」

 

 いのりは急な出来事に反応できず固まっている。

 いるかはそんないのりに顔を近づけ、髪をいじり、くねくねと遊ばせながら感慨深く呟く。

 

「結束実叶の妹・・・そっか、だからこんなに顔が可愛くって、おでこに三つ編みしてて、ジャンプが下手くそなんだね」

 

 チュッといのりのおでこからリップ音が響く。

 しょっぱいと呟くいるかを見ると何をしたかは一目瞭然だろう。

 

「・・・怖い」

 

 反抗心からやたらと対抗していた唯が思わず呟く。

 

「結局ジャンプがウリじゃない子ってすぐやめるんだよな~現実ってこわ~」

 

 軽く言ったいるかのその言葉にはその態度以上の意味が込められてるように見えた。

 しかしその言葉を聞いていのりが立ち去るいるかの服を掴み引き留める。

 

「お姉ちゃんは・・・ジャンプが下手なんかじゃないです・・・」

 

 その目にはいのりの必死が籠っていた。自分の大事なものを否定されてたまるかという義憤。

 

「骨折のせいです・・・骨折したからやめて・・・続けてたらきっと・・・」

 

 いのりは言いながら気づいていた。それは単なる言い訳に過ぎない。そのもしはなく、姉はジャンプを跳べずに引退したのが事実だ。

 

「確率で勝負する世界で『もし何々だったら』とかいうな。お前、負けた時『あの時ジャンプ跳べてたら私が金メダルでした』って言い訳すんの?」

 

 いるかの言葉が正しい。いのりもそれは分かっていた。けど、姉を愚弄させたまま終わらせるわけにはいかない。

 

「しません・・・お姉ちゃんがジャンプ苦手じゃなかったみたいに私もジャンプ苦手じゃないので」

 

 自分が証明するのだ。姉が凄い人だったこと、輝いていたこと。

 

「難しいジャンプも成功させるし、金メダルもとるので・・・必要ないから言い訳なんてしません」

「へ~よく言えるね、そんなこと。なんでそんな強気な訳?」

 

 いるかが挑発的にいのりを見下ろす。

 正直勢いで反論したいのりは言葉を探す。

 難しいジャンプが跳べる理由。司先生が教えてくれるから。司先生といえば筋肉。いるかは腹筋が割れている。自分も腹筋が割れている。

 混乱した思考の中で連想ゲームが始まった。

 

「私も腹筋割れてるからです!だから難しいジャンプ!私も跳びます!」

 

 いのりは言った後で気づく、違うこれじゃない。

 

「ぶふっ、あはははははハハハッ!何それッ!そっかぁ~!腹筋割れてるもんな!出来る出来る!間違いない!あはははハハハッ」

 

 たまらず笑ってしまったいるかを見ていのりは羞恥心に覆われる。

 笑いながら去っていくいるかを止めることは出来ず、心の中で言い訳のようにごちる。

 

(いいもん、結果で示すもん)

 

 いのりを見かねて、唯が話しかける。

 

「気にしなくていいよいのり、あの人ちょっと変なんだ」

「・・・唯ちゃんは唯ちゃんで辛辣だよね・・・いるかちゃんと何かあったの?」

「・・・何もないよ。名港にいたときに愛西との合同合宿でヘタクソって言われたことなんて全然気にしてないから」

 

 唯は顔をしかめながら、複雑そうにしみじみ呟く。

 

「気にしてるじゃん・・・」

「気にしてないって」

 

 




上手く書けなかった・・・
出来次第投稿していきます
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