メダリストはエゴイスト   作:モリブデン42

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世間への証明

 合宿から月日は過ぎ、気づけば中部選手権が始まる。

 開会式にて、ノービス、ジュニア、シニアが集まる。

 

「おはよう、いのりちゃんもう来てたの?」

「唯ちゃん!おはよう(ムキムキ)」

 

(ムキムキ?)

 

 なんだか変な様子のいのりに疑問を覚えながらも、他の面々に顔を合わせる。

 

「久しぶり・・・って言ってもこないだ長野合宿で会ったっけ」

「うん、久しぶり」

「久しぶり、唯ちゃん」

「久しぶり」

 

 挨拶をしたのは、元クラブメイトである名港ウィンドの面々だ。

 八木夕凪、牛川四葉、申川りんな、名港ウィンドで特に交流の合った三人と言葉を交わす。

 クラブは変わってしまったが特に仲が険悪になるということはない。

 

「で、やっぱ狼嵜光はいないの?」

 

 ちょうどいのりたちがその話をしていたところであったため、空気に緊張感が走る。

 

「ま、ちょうどいい。やっぱあいつは全日本で倒してこそだから」

 

 その無言に何となく察した唯は一人で闘志を燃やす。同時にまるで自分が中部大会を当確で通るかのような口ぶり。腹立たしいと思ったものはいた、しかしそれを否定させないだけの実力を唯は持っている。

 

 会場の入り口からどよめく声が聞こえる。それは中部の強化選手たちがやってきたことを告げていた。

 栗尾根茉莉花、岡崎いるか、鯱城理依奈、世代のトップ層が入室すると一気に部屋の緊張感があがる。

 

「夕凪、四葉どうしたんだ?」

「理依奈ちゃんは聞いてた?光ちゃんのこと」

 

 理依奈がクラブの面々と話そうとする。

 ひとり、トップ層の選手を見たことでボルテージが上がったものがいた。

 

「どうやったら、オリンピックに行けるんですか!?」

 

 あらゆる流れを無視した、いのりの質問はこれからその出場権をかけた勝負をする者たちにとってあまりに不躾だった。しかし、記者にとってはおいしい質問、カメラが二人に向けられ、理依奈の答えに注目が集まる。

 

「ちょうどいい質問をしてくれたと思ってたんだよ。そんなこと普通聞きたくても聞けないからね」

 

 その言葉に反応したのは岡崎いるかだった。

 

「お前誰に向かって聞いてんだよ」

 

 いのりの顔を掴み目を合わせ、にらみつける。

 

「五輪のこと聞けば行ける程度のハードルだと思ってんの?行くために死ぬほど鍛えたうちらのこと煽ってんのか?失礼なお馬鹿さんにはお仕置きしちゃうぞ?」

 

 その言葉で質問したことの意味に気づいたいのりが顔を青ざめさせる。今日の試合はオリンピック出場を決める大事な試合の一次予選だ。その試合の前に聞く質問としてあまりに無神経な質問だった。

 

「ぜひ、私も聞きたいですね」

 

 謝ろうとするいのりを遮って割って入ったのは唯だった。

 

「お久しぶりです、鯱城先輩。オリンピックに出たいから、行った人の話を聞くのは合理的だと思います。答えるかどうかは別として」

 

 理依奈に話しかけ、その後いるかにも視線を向ける。

 

「経験者としての話があるならぜひ聞きたいですね」

 

 唯のその言葉に悪意はない。理依奈とは元々同じクラブに所属していたということもあり、何度も話したが、改めてオリンピック選手としての立場で話を聞いたことはなかったように思う。だから聞きたい。それだけだ。配慮は欠けているかもしれないが、いい機会だと思い質問に乗っかったのだった。

 

「相変わらずスケートが関わるとクソ失礼だな、唯ちゃん」

「敬語は使ってますよ」

「失礼な行動ってもんがあんだよ。この狭い業界じゃガキでも礼儀が出来て当然。そんなんじゃやってけないよ、唯ちゃん」

「・・・そうですね、失礼しました」

 

 必要だと思えば遠慮はしない唯だが、性格がそれほど悪いわけではない。自分から出張っておいてのこのこ引っ込むのは恥ずかしいと思いながらも、失礼だと言われればそうだと引き下がる。

 

「二人の質問も分かるがな、オリンピックに確実に行ける秘訣や練習なんてものは私も分からないんだよ」

 

 二人の間で決着がついたことを察した理依奈が気まずい空間を打ち破る。

 

「でも確実にオリンピックに出る方法なら知ってるよ」

 

 理依奈は立ち上がり宣言する。

 

「オリンピックのある特別な年で全日本選手権に出場することだ!4年前シニアにデビューしたばかりの私を誰もが早いと思った。だが!私はこの魔法の金メダルでオリンピック代表の座を掴んだんだ。私!鯱城理依奈は!今年の全日本選手権で優勝を勝ち取りオリンピック2度目の出場を果たします!」

 

 カメラのフラッシュがたかれる。

 理依奈の宣言に誰もが羨望の眼差しをあげる。その中で結束いのりが、そしてそれに対抗するように潔唯が宣言した。

 

「私もなります・・・!全日本選手権の金メダリストに・・・いつか・・・きっと」

「私のことも忘れないでね。いのりちゃん、世界一の座は私がもらうんだ」

「あはは、いいねワクワクするよね。未来の目標を決めた時って。でも、それを証明するのっていつかじゃなくて今だと思うな」

 

 その言葉にいのりだけでなく、会場中の人間がびくりとする。

 ノービスAのエレメンツはシニアやジュニアのそれより厳しくなっている。難しいジャンプであるルッツ、フリップ、ループの3種を必ず入れなければならない。海外で通用する選手を育成するためのノービスAだけに課せられたルール。ノービスAの出場選手は数年後、日本代表になり得る存在であるという期待の表れ。

 

「今日証明しなよ。君たちがその器足りうる存在だと」

 

 その言葉を誰もが胸に刻んだ。

 

 混沌の大会が始まる。

 

 




本当はいるかちゃんとレスバさせたかった。
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