『名港ウィンドFSC 狼嵜光さん 128.98 総合得点 204.19 現在の順位は1位です』
1位 名港ウィンドFSC 狼嵜光 総合得点 204.19
2位 愛西ライドFSC 岡崎いるか 総合得点 202.2
3位 ルクス東山FSC 潔唯 総合得点 198.73
4位 岡山ティナFSC 烏羽ダリア 総合得点 197.27
5位 名港ウィンドFSC 申川りんな 総合得点 190.08
6位 蓮華茶FSC 紅熊寧々子 総合得点 186.42
7位 福岡パークスFSC 高井原麒乃 総合得点 185.89
結果を認識すると同時に2人が歯を食いしばった。唯と光が周、りの目も気にせず吠えそうになるのをなんとか我慢している。
「潔選手はともかく、なんで狼嵜選手まであんな感じなんだ?」
「あー私にはなんとなく分かるよ」
様子を見ていた五里が疑問を上げると、2位に収まったいるかが呟く。
「唯の方はまあ見たまんま。喰われることを良しとしても、負けるのが悔しいってのはそりゃそうだって話。光の方はあれだ、総合得点では勝ってるけど、フリーの結果だけみれば僅かに負けてんだよ。フリーの唯の演技を喰いに行ったのに負けたから悔しがってるんじゃなかな」
そう言ういるかは、あっけらかんとしていた。
「結果の捉え方にも年季ってもんがある。ああやって感情を表に出せるのは若さだけど、それはそれでいいと思うな」
いるかとて、悔しさを感じている。それを表に出さないのは、ジュニアで培った感情のコントロール故のものだった。
「ま、次は負けないよ」
――――――
((負けた……!))
キスクラから降りた光と、無意識に光の方へと歩みを進めていた唯が対面する。
「いやいや、おかしいでしょ」
「何が?」
光の表情を見て、思わず口をついて出た言葉がそれだった。
「悔しそうな顔、不満そうな顔。私に勝っといて、金メダル獲っといて、失礼っていうか。ムカつく」
「金メダル……は確かに一番大事だけど、こと今回に至っては唯ちゃんに勝つことも大事だったんだ」
「勝ったじゃん」
「総合得点はね、フリーは負けてる。唯ちゃんの最高を私は喰いきれなかった」
飽くなき向上心、他の選手から見れば不遜に見えるその態度も光がやるとなぜか忖度なく映る。
光のスケートへの想いを知っているからこそ、説得力があると思えるのだろうか。
「ふうん」
しかし、それを聞いて唯が納得するかと言われると、また別問題だろう。
「ま、いいよ。私も演技の完成度に課題があるって気づけたから。次は総合力で光に勝つ」
「そう」
光は少し、下から唯の瞳を見つめ、その奥を透かすように目を細める。
「私に負けたのは、演技の枠を作りきれずに、PCSが落ちたから。今度は感性全振りの演技を上手くスケールに載せる方法を見つけて、完成度を底上げする。勿論、自分の個性を殺さないように、感情は振りまいたままって感じかな?」
「な」
「なら、私が喰うポイントは感性のスケール設計かな?でも、枠に収めようとするとそれこそ唯ちゃんの強みが死ぬけど、その辺はどうするんだろうね」
光が語っているのは、今後あり得る唯の進化だ。
未だ整理しきれていない唯の心の内を読み取り、その行く先にいる唯を既に取り込もうとしている。
見透かすように、光は二手先にいる自分の姿を夢想した。ならば、その先にある唯の姿は。
「その辺のヒントを私から獲得するのかな。でも、もっと『天才』の土俵で戦わないと私に勝てないよ……なんて、ね。全部私の想像だけど」
光は妖しく笑った。
唯はようやく、自分が叩き起こした獣の恐ろしさを自覚する。
『適応能力の天才』、目の前にいる自分から、その先の姿、さらにその先にいる進化を予測している。
「ああ、それでこそだ」
そんな存在を認めて、唯も笑った。
前に立ちはだかって、自分を喰いにきて、自分の餌になってくれる極上の宿敵。
「殺しがいがある」
――――――
激闘を終えて数日、ルクス東山では果敢にスケーティング練習に励むいのりの姿があった。
「いのりちゃん、なんだか落ち着いたみたいでほんとによかったわね」
「そうですね、あの大会からどうなるか気がかりではありましたけど、持ち直したようで良かったです」
大会まではどこか殺伐としていて、自分を追い込みたくて仕方なかったいのりだが、全日本ジュニアを経て、自身の行動を省みた。リンクの上ではエゴイストであるべきだ、しかしそれは自分を支えてくれている誰かを蔑ろにしていい理由にはならない。そんな当たり前の事実を認識したことで、ようやく自分を客観視できるようになった。
今は憑き物が落ちたように、懸命に練習に励んでいる。
「そういえば、洸平くんからの返事はどうでした?」
「ああ、それねぇ」
メディカルトレーナーを探すために、司は一時的にクラブを離れようとしていた。そのタイミングもあって、洸平にルクス東山にこないかと誘いをかけていた。
「なんでも少し待って欲しいみたいで」
「待って欲しい……断られたわけではないんですよね」
「ええ、気持ちの問題だとか言ってたけれど、前向きな返事には違いなかったわ」
「何かあったんでしょうか」
リンクの閉鎖をきっかけに、チームあひるは解散した。
確かに、ショックな出来事だとは思うが、それで停滞を選ぶほど洸平が弱い人間ではないことを司は知っている。
それでも、本人が気持ちの問題だと言う以上、こちら側から踏み込むことは難しい。
「じゃあ、洸平くんが来たらすぐにコーチ探しに取り掛かれるようにいっぱい調べておきますね!」
「そうね、それが良いと思うわ」
「そういえば、唯さんは今日休みなんですよね」
「珍しいけれど、サッカー観戦に行くと言っていたわ」
――――――
「よ・い・ち!よ・い・ち!フウ!」
スタジアムの歓声の中で、人目をはばかることなくブルーロックのサポーターユニフォームを着て兄の名を叫ぶ。
「世一のゴールが見たーい!見たーい!見たーい!世一のゴールが見たーいラララララーララーラァ―」
世一☆と書かれたハチマキと自作の旗を掲げながら、聞いたことなのあるメローディーの替え歌を大声で叫ぶ。
「唯ちゃん、楽しそうね」
「な、俺もサッカーのことはよくわからんけど、見てるだけでなんか楽しくなってくる」
試合は終盤、スコアは3対3で次の1点が勝負を分けると言ってもいい。
「なあ唯、今どうなんだ。世一のチームが優勢なのか?」
「うーん」
父の問いに、唯が喉を唸らせる。
「まず、この勝負の鍵はやっぱり糸師冴にある。お兄ちゃんは最高の選手だけど、糸師冴はトップクラス。技術のパロメータが別格なんだよね」
フィールドを見ながら、唯は冷静に分析していた。
「ブルーロックは全員がフォワードで構成されている。それが、ディフェンス陣に定評のある代表チームには刺さってる。けど、同時に糸師冴にボールが渡ったらこっちのディフェンスは一気に戦力不足に追い込まれる」
単純な戦力比較、ブルーロックの性質上、ディフェンス能力に悩みが出来るのは当然だった。
「ディフェンスで一番重要な要素って何だと思う?」
「うーん、パワーとか?」
「勿論、大事だけど……私はやっぱり経験だと思う」
唯は父にドリンクを持たせて、自分と母のドリンクを両手に持ち、三角形を作る。
「ディフェンスはポジショニングが命!こんな風に、相手が前にいるとき、相手がボールを持った瞬間を狙えて、かつ間延びしないようなポジショニングをしなくちゃいけない!」
ドリンクを左右に振りながら、ポジショニングの重要性を説く。
「例えば、もし相手のマークに気を取られてサイドに寄り過ぎたら、一番重要な中央のスペースを使われる。それはどの場面でも一緒!だから、ディフェンスは常に適切な距離を取る必要があるの!」
その上でボールホルダーに対して何の対策もしないわけにはいかない。
誰かが当たりにいけば、そのスペースを誰かがカバーする。その時、個人でなく、チーム全体で動きを統一して動かなければならない。
「ディフェンス全体で意思を統一しながら、適切な距離間。タイミング。そしてチャレンジアンドカバーの関係をその場で構築する。この感覚はディフェンスをしないと培えないもの。その点でディフェンス経験のないブルーロックは明確に不利。1か月やそこらの練習で、代表クラスの攻撃に耐えられる連携が身につくとは考えにくいから」
「じゃあ、どうやってディフェンスしてるんだい?」
「うーん、あのDMF烏旅人って選手のおかげかな?」
唯は、そこで烏をピックアップした。
「ディフェンスをあの烏って選手が統一してる。烏選手がこまめに動くことで、ディフェンス陣の重心を決めてるんだ」
「へえ~」
「ディフェンスをまとめて、さらにディフェンスから攻撃へとスイッチする起点にもなってる。縁の下だけど、超重要ポイント」
「じゃあ、よっちゃんはどんな役割してるの?」
そう聞かれ時、唯はにんまりと笑った。
「兄さん、兄さんはね!逆にオフェンス陣を取りまとめてる!あらゆるプレーに干渉して、個性が強すぎてちぐはぐのオフェンス陣の攻撃に形を与えている」
その上で、と唯は続ける。
「でも、兄さんはサポート役に収まる気なんて全然ない!混沌と化しているフィールドを読み切って、自分がゴールを狙える瞬間を虎視眈々と狙っている」
これこそ、これこそが唯の見たかった兄の姿である。
――――――
世一はブルーロックの中でたくさんの事を学んだ。
それはエゴであったり、他者を喰うカラクリであったり、能力の引き出し方であったりと、精神面のところは多々ある。
技術的な面で挙げれば、目の使い方や、ポジショニングであろうか。
加えるなら、もう一つ。花開いた技術がある。
(重心の方向を見分ける目!)
妹、唯のフィギュアスケートを応援する中で世一自身スケートについてよく調べた。その過程で、重心の取り方というものに感心した覚えがある。
不安定な氷の上を、細いブレードで巧みに移動する。その技術で、ごく自然に用いられている重心移動。
基礎であり、何気ないようでいて、一番大事な要素である。
世一は色んな演技を見る中で、今その人の重心がどこかを見分けられるようになった。その結果、ジャンプの成否を踏切りの段階で見極められるほどに。
(見える!分かる!お前らの重心!その方向!)
その重心に方向という要素を組み合わせることで、一手先で相手がどこに動くか分かる。それが、世一が新しく身に着けた技術だ。
「行かせねぇ!」
「見えてんだよ……」
サイドからボールを受け取ろうと中央に切り込む中で、ディフェンスが付いてくる。
僅かに、左を気にする素振りを見せると、相手の重心がそちらに向く。
(まだ、浅いな)
さらに、一歩踏み込む。相手は確信したように、世一の動きの先手を取ろうと姿勢を落とした。
(その逆!)
「なっ!」
ディフェンスが、進路を塞ごうと動くと同時に、空いたスペースに入り込む。
ボールが舞い込んでくる。
「やっぱ良い眼の付け所してやがる」
「なっ!糸師冴!」
その世一の動きをさらに読んだかのように、冴がブロックに入る。
ボールを弾かれて、世一が表情をゆがめた。
「せっかくいい眼してんのに、体の使い方はお粗末だな」
捨て台詞のように吐いた冴の言葉に世一が目を見開く。
「体の……使い方……」
――――――
試合も終わりを告げる間際のことだ。
凛の暴走、破壊的なフットボールによって、フィールドは荒れた。ボール糸師冴の元に渡り、なんとか食い止めねばという盤面。
凛と冴のマッチアップの最中、全選手が後退する。
ただ、世一だけが凛の勝利を信じていた。
冴の持つボールを凛が弾いたとき、世一はゴールが狙えるポジションを陣取っていた。
『運』をつかみ取ろうとする中で、その『運』の歪みを感じた。
(狙える!でも、少し遠い!)
何より、ボールから2歩というあまりに絶妙な距離に守護神、愛空がいた。
視界の端から消えたボールの位置を愛空は正確には把握できない。しかし、向かって来る世一の姿は捉えられた。
背後に流れるボールに対して、世一の動きから予測地点を認識すると共に、肉体を無理やり翻し、突貫する。
(11番……お前の狙いは分かってる!ダイレクトシュートだろ!)
恐らく自身と同種類の才能を持っていることを愛空は見抜いていた。それと同時に、今までのプレーから世一の得意とするプレーを看破する。
ボールの位置を見失った以上、それを探すために目を配るのは致命的なタイムロスだ。しかし、一目見るだけでその位置を認識できる相手はいる。
狙うはボールではなく、フィニッシャー。
ファールギリギリ、しかしそれを取られない塩梅を愛空は知っている。
ボールが流れるよりも一瞬早く、愛空は世一へプレスをかけた。
(体を当てちまえば、軸はぶれる。ダイレクトシュートは死ぬ)
奇しくも、冴にシュートを破られたときと、同じ状況だった。冴ほどの絶妙な当て方が出来なくとも、愛空と世一の体格差を考えれば、まず世一に勝ち目はない。
「だろうな、パワーじゃまず勝てない」
その上で、世一は自ら愛空にぶつかっていった。
「な、俺とパワー勝負!」
「パワーじゃない。
(体の使い方……重心の当て方……下から斜めに相手の重心を持ち上げる感覚で……)
冴が呟いた言葉から、世一はヒントを得ていた。
重心の発想の元が、フィギュアスケートであったため、無意識に除外していた。
地面という圧倒的支え。
(重心は下にあるほど、安定するんだよ!)
(こいつ、ぶれねえ!)
しかし、シュートを撃つには愛空が障害となるのは変わらない。
世一は、当てた重心をそのままスライドするように、愛空の体に沿って反転する。
(位置を入れ替えた!でも、その位置からじゃボールが高ぇだろ!)
足元ではなく、頭ほどの高さのボール。
世一は愛空に体を預けて、支えにして、空中へと身を放り投げた。
(俺を支えに、ダイビングボレー!)
「いい重心だ、守護神」
決勝ゴールは劇的に決まった。
――――――
「凄い、凄い、ほんとに凄かった!」
世一が家に帰ってきた夕食時、唯は興奮冷めやらぬといった調子で話していた。
「唯ちゃんずっとこの話してるのよ」
「な、試合の録画なんて何回見たか分からないぞ。あのインタビューだって、鬼リピートしてその度に飛び跳ねてる」
「褒めすぎだって」
照れた様子の世一がそう言うが、どこか誇らしげで嬉しそうな表情を隠せていなかった。
「唯の方はどうなんだよ」
「私?」
「結果は聞いたけどさ、内容とかはまだあんま聞いてねぇし」
「楽しかったよ。それと同時に無茶苦茶悔しかったし、得たものや気づいたこともいっぱいあった」
才能の話、適性の話、自分のエゴやジュニアの層の厚さ。
ライバルたちの強さの秘訣。唯は楽し気に雄弁に語っていた。
「なるほどな、能力や気質、才能のカテゴライズか……俺も結構使えそうだな」
「お兄ちゃんはどうだったの?」
「え?」
「ブルーロック、中で何やったの?」
「ああ、それはなだな……」
自分が持ち帰ったもの、感じたこと。2人は夜通し語り合っていた。
自分の気づきと、相手の気づき。さらには、自分の話の中からも、新たな着眼点を生み出してくる。
何より、強くなるために貪欲な兄の瞳が唯には宝石のように映った。
――――――
新幹線の揺れは思ったより無かった。
ただ、ホームに降りた時の人の多さに圧倒される。
「行くよ」
呆然としてる自分に一声かけたのは、長身の男だ。どこか陰のある顔からはその胸の内をうかがい知れない。
そう、新天地に足を踏み入れて、浮足だっている場合ではない。ふん、と鼻を鳴らし、男について行く。
その直後、男が入ったのは喫煙所だった。
「ええ」
思わず怪訝な声を出した自分を誰も責めはしないだろう。
子供一人放置して喫煙所に行くなど、普通にありえない。
あるいは、透明なガラス越しじっとこちらを観察するように見つめているのは、気を遣っているつもりだろうか。だとしても、目的地まで我慢できないモノだろうか。周囲に煙草を吸う人間がいなかったからそこのところの感覚はよくわからない。
「……はあ」
思わずため息をついた自分を自覚してブンブンと首を振った。
いけない、ちょっとした時間が出来るとつい故郷のことを思いだしてセンチメンタルになってしまう。
自分で選んだことだ。差し伸ばされたその糸を掴んだのは自分で、勝手に裏切ったような気分になっているのも自分だ。誰も責める人などいないと言うのに。
「行くよ」
自分で選んだこととはいえ、煙臭さを漂わせたまま、待たせた相手に謝意の欠片ものない目の前の男をみると一抹の不安はよぎる。
「はい、コーチ」
覚悟を決めて、目の前の男を師と仰ぐ。
亜昼美玖は長野から旅立ち、東京へ足を踏み入れた。
自分自由型
潔唯 紅熊寧々子
自分不自由型
烏羽ダリア 申川りんな 結束いのり
世界自由型
狼嵜光
世界不自由型
岡崎いるか 高井原麒乃
のイメージでした