零と切磋琢磨する日々を送り、気がつけば中学生になっていた。小学校は勉強する必要はほぼ無かった事で、麻雀のことだけを考えてここまで生きてきたが、結果として友達が居なかった。
前世では何故か俺は避けられて友達は何をしても作れなかったから、零が居るだけまだマシだろう。零は友達何人も居るけど。
中学一年の夏休み。
やる事やって後は麻雀日和にする事を決め、前から決めていた事を今年から実施する。
両親には全国を回り麻雀の修行をして来ると伝えた。強者を求め、そして前世の親友たちを求め。
「じゃ、行ってくる。1週間後に帰ってくるから」
「気をつけろよ。なんかあったらすぐ連絡しろよ。強いやつがいた時とかさ!」
「俺より強いやつがいたらな!」
朝早くから俺は父親に見送られて家を出た。
空は青々とし雲一つない快晴で絶好の修行日和の幕開けを感じさせる。夏の駆け出しでまだ気温はそこまで高くはないが、汗を滲ませるには充分に暑く日陰に沿って最寄り駅に向かった。
前々から麻雀修行自体は計画していた事は両親に伝えてはいたものの、小学生からそれを許される訳がなく、せめて中学生からと言う条件で今回実行に移すことができた。
何よりも両親共に今は別の仕事をしているが、俺が産まれるより前は麻雀のプロをやっていた事から麻雀関連では何かと融通を利かせてくれている。
何故やめたのかは、もう少し経ってから話すと言っていた。改めて伝えようとしているならば何かしら重大な理由でもあるのだろうか。
「……まだ集合時間の20分前だけど、いつから居たんだよ零さんや…」
「今から30分前〜!」
「早すぎて訳が分からないんだが?」
今回の修行の旅は一人じゃない。
赤みがかったショートボブを左右に揺らして、見るからに楽しそうにしている零が、今回の同伴者である。
当初、一人旅の予定を面白そうとか楽しそうとかそんな理由で零が一緒に行きたい、なんて駄々をこねた結果二人で行くことになった。断る気満々だったのに。
男女の中学生二人が一週間の旅行を許されてることに疑問は感じるが、互いの両親の同意の上であるから何も言えない。普通の親って断るとか保護者とか付けるもんじゃないのか? そんなにこの世界って安全なのか?
「そんな早く来て何してたんだよ?」
「え〜? なんにも〜?」
「……まぁいいか。とりあえず改札入ろう」
予定より数十分早いが駅構内に向かう。この駅から目的地までは何度も乗り換えがある。その最終確認にこの時間を当てよう。
到着予定時刻は昼過ぎ。とことん西へと揺られゆく目的地はもう一つの物語の舞台である奈良県に。
そう、阿知賀編の聖地へ。
本編の方に行くのはまたいつか。高1あたりにでも出向こう。どうせ凪咲がわちゃわちゃやってるだろうし、ある程度原作崩壊してから関わりたい。
無論、それだけが理由ではない。むしろこちらの方が本命であり核心的な理由である。外れる確率は30%程と予想して。
親友の中の親友、透也が咲世界に来るとして選びそうな場所を考えた結果、最有力候補として思い浮かぶのがこの地であった。
阿知賀組の中でも鷺森灼推しだったことを考慮して選ばない道理は無いと考えている。キャラと言うよりボウリング好きとして好きとかそんな理由だったし、案外ボウリング場通いになってそうだ。
居なければまた別の候補地を冬休みにでも出向こう。
第一に透也探し、第二に強者、阿知賀こども麻雀クラブのメンツに挑みに。
「あ、紅孔雀〜」
「またかよ」
「イエ~イ。これで今日だけで夜早希に2勝リード〜」
「ローカルあり役満勝負だとそればっかり和了するよなぁ」
「紅一点とかもたまに和了るけどね〜」
「それは緑まみれ過ぎて1、2回しか和了ってるの見たこと無いけど」
長距離移動の暇つぶしにネット麻雀をNPC込で役満縛りで勝負をして数戦。普段からたまにやるルールなだけにそこそこ盛り上がりを見せた。
車内で騒いで迷惑をかけるのを心配していたが、今は長期休みの割に空いていて、3席ほど後ろで20代前半の女性たちがわちゃわちゃやってるくらいで他は異様なほどに誰も居ない。
他の車両も点々と座っているのを確認したが、大半が空席であるあたり殆ど乗客は居ないのであろう。
実はこの車両が幽霊列車だったり……なぁんてことがあったらそれはそれで面白いけど、この世界ならあり得なく無さそうなんだよな。
「ちょっとトイレ〜」
「はいはい」
トテトテと小走りの後ろ姿を見送り、先程の牌譜を研究する。
アレやコレやと自分なりに考察しつつ、大半が運要素の塊だったと気付いてしまい、オカルトが恐ろしいことだと再認識した。
誰だこんな実力もへったくれもあまり無い世界を作ったのは……。しかし、100%運で構成されていないから微量の打ち筋を取り入れるのは己の実力次第だ。
にしても……。
「騒がしいな……」
後ろの方の席がさっきからワーワーキャーキャーしていて落ち着かない。
ふと漏れてしまった心の声が、その騒がしさを貫いて大きく響き、静寂が訪れた。
やってしまった、と後悔するが、直接何かを言われることはなく、何やら小声で会話を始めている。小言でも言われているんだろうか。実害が無いならば放っておこう。赤の他人に気を張る必要はないか。
再び牌譜確認のため、視線を落とすが今度は別のやかましいのが戻って来た。
「ねぇねぇ夜早希〜。あそこにね〜」
「戻ったなら静かにね。リベンジするから」
「はーい。次も負けないよ〜」
何かを言いかけた零を静止して牌譜確認を終わりにし、リベンジマッチをすることを進めた。俺は負け越すのは好きじゃない。
でも、この時ばかりは話を聞けばよかったと後悔することなったのは別の話だ。