オーバーロード 不死王と超不死のまったり世界征服   作:ガババババ

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クレマンティーヌさん生存フラグ


第2話 利害一致の契約

 

 

 

「・・・!わ、わたしは・・・・・・いき、てる・・・?」

 

 風が葉を揺らして小さな合唱を奏でる森の中。沼のような微睡みに沈んでいた戦士、クレマンティーヌは目を覚ました。

 ガバッと身を起こそうとするも、肩まで掛かった毛布が柔らかく彼女を押し返し、そうしてあまりにも背中に伝わる癒しが心地よくて二度寝してしまいそうになる。

 

(なにこれ、ベッド?すっごいフカフカ・・・!こんな、気持ちいい包心地は初めて・・・ここの所ずっと走りっぱなしだったから凄い効く。もしかしてあれは、夢だったりして──)

 

 困惑を浮べながらも思わずにへらと笑みを浮べそうになる多幸感。数日休まずに追っ手から逃げ続けていた疲労が、今になってズシリと身体を覆っていた。

 金の装飾が施されたキングベッド、純白の枕に後頭部を埋めるクレマンティーヌが、泡い期待を浮べて首を動かせば、そこには地面に胡座をかいて、手元に見慣れぬ道具をイジっていたミイラ男が1人。

 

「あ、起きた」

「──だよねー、夢なんかじゃないよねぇー・・・あははは、ははは」

 

 乾いた笑いが口から出てくる。

 それは避けられなかった現実であったが、クレマンティーヌが体験したあの恐怖や心の乱れは、嘘のようにすっかり無くなっていた。

 

 

 

▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 クレマンティーヌが起き上がってから数時間。鬱蒼とした森の中で、マトメルは彼女から様々な情報を得ることに成功した。

 この世界の歴史や、点在する国や勢力について。ユグドラシル時代に共通する魔法やモンスター、そしてゲームに存在しなかった武技やタレントという存在など。

 

 そしてクレマンティーヌの所属や目的──法国の特殊部隊であったこと。そして、世界中で暗躍している謎の秘密結社ズーラーノーンの十二高弟の1人であること。詳しい自身の素性や趣向についてまで、全て正直に包みなく語った。

 

「なんか、全部ぶちまけたね・・・ヤバイ人って自分から明かしちゃって大丈夫なの?」

「なんかもうねー、あの時に一度死んじゃったーみたいなもんだからさ。もう取り付くわないくていいかなーって、開き直っちゃったの」

「そんなもんなんだ・・・」

 

 これは、クレマンティーヌにとっての賭けだ。自分が隠さずあっけらかんと情報を話すことで、余計な警戒をされずに信頼を勝ち取るための行動だった。

 笑顔の裏で強かさを見せる。このアンデッドが飢えているのは情報であることを察した彼女は、自分がより役に立つかで売り込むつもりなのだ。

 

 もう既にマトメルに勝てるとは微塵も思えない。

 そこらの大木を素手で軽々引き倒して即席の椅子を作るマトメルと比べれば、柔らかなベッドに座るクレマンティーヌはか弱い乙女だから。

 

(コイツを味方にできれば、私が生き残れる可能性がものすごく上がる・・・!逆にラッキーと捉えた方がよさそう。なんとしても価値を認めてもらわないと・・・)

 

 平身低頭で頭を垂れることはしないクレマンティーヌ。弱者としてアピールしてしまえば逆に興味なしと殺される可能性を考えたからだ。

 相手の警戒を緩ませる馴れ馴れしい態度で接しながら、自己を守るために取り入ろうと画策するクレマンティーヌと対象に、マトメル自身も色々と思案していた。

 

(おもっくそ犯罪者じゃん・・・!やっぱり殺した方がいいのかな?・・・こんなこと普通に考えちゃうあたり、やっぱり俺のやっぱり精神もおかしくなってるなぁ)

 

 躊躇なく、目の前の人間を殺した方がいいかな?なんて軽く思えてしまう思考回路。目の前のクレマンティーヌという人間も、かなり美人なのは分かっても特に何も思わない。

 危険な来歴や性格を聞きながらも虫みたいな感覚しか覚えない。脅威を感じないとでもいうのか、精神性が少し変わってしまっているのをなんとなく自覚するマトメル。

 

(プレイヤー、ね・・・やっぱり俺以外にもいるみたいだな。600年前って、ユグドラシルプレイヤーが転移してきた時間はバラバラなのか?・・・あまりこっちの素性は明かさない方が良さそうかな)

 

 クレマンティーヌから情報を聞きながら、マトメルは自分がプレイヤーとは言わないようにしておくことにした。他プレイヤーが存在しているかもしれない以上、下手に目立つのは悪手だと考える。

 特に厄ネタを抱えまくってそうなクレマンティーヌが、下手に捕まって誰かに喋られては困る。自然発生の特殊なアンデッドとして扱ってもらおうとマトメルは指針を決定した。

 

「まぁーこんな具合に・・・・・・知ってる限りの情報ならなんでも話すし。今後活動していくなら、優秀な案内がいた方が助かると思うよー?ね、役に立つから生かしてくれない?」

「まぁ、別に殺すつもりはないし・・・お互いにウィンウィンな関係でいこう。君は僕の知らないことの手助けをして貰って、代わりに僕が君を敵から守る・・・その関係でいいならよろしくお願いしたいな、クレマンティーヌ」

「・・・!りょーかーい!それじゃ、契約成立ね!」

 

 強者の理論を振りかざすに歩み寄る、圧倒的強者のアンデッドとは思えない柔和な精神性に、クレマンティーヌは内心驚きつつもぐっと拳を握る。

 不安要素はまだあるが、マトメルを味方にできた大きすぎる成果。この関係を崩さないように心血を注ごうと決意した。

 

(一緒に行動するなら、下手な動きをすれば処理すればいい。見たところレベル30ぐらいか。瞬殺できるぐらいだから監視していれば問題ないでしょ)

 

 まだまだ情報が不足している現状で彼女を殺すのは早計だ。それよりも協力できるならそれに越したことはない。むしろ向こうから提案してくれたお陰で助かったかもしれない。

 マトメルは情報を、クレマンティーヌは安全を。お互いの利益が一致した両者は笑みを浮べてお互いに握手を交わした。

 

 報われることもない、クソな現実(リアル)よりずっといい。クレマンティーヌの言うように、一度死んだことにして新しい人生を楽しむのもありだと考えるマトメルだった。

 

 

 

▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 ニグン・グリッド・ルーイン──スレイン法国の特殊工作部隊『六色聖典』が1つ、『陽光聖典』の隊長であり、忠義高き法国の人物。

 顔立ちは華やかな英雄のようではなく、普遍的な、人工物の様な黒い瞳を持つだけの平凡なもの。隆起した肉体は金属糸で編まれた衣類鎧からも分かる。

 

 第四位階までの信仰系魔法を使いこなす優秀な魔法詠唱者であり、類まれなタレントを有する彼は、人類に置いて最高位に近い存在。

 予備役も入れての100人ほどのエリート部隊が加われば、亜人の集落だとしても壊滅まで追い込めるほどの兵力。

 リ・エスティーゼ王国の戦士長、ガゼフ・ストロノーフ抹殺の命令を受け、本来ならつつがなく終わったはずなのに。

 

「あ、あ、あぁ・・・ぁあ・・・?」

 

 夢だ、悪い夢だ。現実であるはすがない。

 こんなことがあってはならない。早く目を覚まさなければ。

 黒い炎が最高位天使を、神が遺した大切な遺物を、焼き尽くして、後には何も残らなかった。

 ニグンと、周囲の部下は引き攣った顔で、声なく笑うしなかった。人類がどれほど藻掻いても届かぬ境地──魔神を超えた存在に、何ができるというのか。

 

 せめて、自分の命だけは。部下を捨ててでも自分の価値をアピールするも、状況と相手が悪すぎた。

 一縷をかけた必死の懇願も、隣に控える全身鎧(フルプレート)の女性から、柔らかく優しげな声が却下する。 

 

「確か・・・・・・無駄な足掻きを止め、そこで大人しく横になれ。せめてもの情に苦痛なく殺してやる」

 

 赤い光を空洞の眼光を光らせ、骸骨の口から発せられた処刑宣告に、ニグンの顔が絶望に染め上げられた。

 

 

 

▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 刻は既に夕暮れだった。

 エ・ランテル・・・帝国、法国との境界に位置するリ・エスティーゼ王国内で、ヴァイセルフ王家が直轄領として治める城塞都市である。

 三重に囲まれた城壁によって中心部から行政・倉庫区画、市民区画、軍の駐屯区画と機能別に分割されており、人類主要国の内三カ国と接している事から交通量は多く、物資・人・金・などの様々なものが行き交い、経済都市としても栄えている。

 

 そんな警備の高い都市を、するりと抜けて入ってきた彼女──クレマンティーヌ。

 法国の上層部では有名人。特に目下追われてる現住は大注目どころか抹殺に追われている彼女は、この地においてはただの麗しい美女だ。鼻歌を歌いながら闊歩しても、ヒューと口笛が帰って来る始末。

 

 黒いローブを被って、軽装鎧をカチャカチャ鳴らしながら彼女は扉を開いて中を進んだ。薄暗いが、多少の明かりがある。

 そこは一階が酒場で、二階三階部分が宿屋という組み合わせの冒険者御用達の店であった。何卓もあるテーブルには客の姿がちらほらと見られ、そのほとんどが男。暴力のそばに身を置いてるに相応しい空気に包まれていた。

 

 それなりに汚い酒場の床を突き進むクレマンティーヌは、値踏みする男たちの視線を無視しながら笑みを浮かべたまま、二階へと上がろうとする。

 

「おっと、お嬢ちゃん。プレートを掛けてないから冒険者じゃねぇのか?もしかして無くしちまったのか?」

「にしても綺麗な顔しているじゃねぇか。どうだい俺たちと今晩──ぶべぇ!」

 

 いやらしい薄笑いを浮かべた男たち。肩に手を伸ばそうとするその1人の男に、クレマンティーヌは無言の笑顔でその鼻柱を殴りつけた。

 連れである立ち上がる冒険者の男たちを、謎の黒ローブ美女は瞬く間に制圧した。英雄級の彼女であれば、鉄プレートの冒険者数人などボコボコにするなど容易いこと。

 

「ごめんねー。悪いけど私、男を待たせちゃっているからー。お兄さんたちじゃ私を満足させられないと思うし、おねんねしててねー」

 

 全員の鼻を砕いてテーブルに突っ伏させたクレマンティーヌは、手をパンパンと払いながら鼻歌を歌って二階へとあがる。その一部始終を値踏みしていた周囲の人間は感嘆の声を漏らした。

 

 女だからと、甘く見てはいけないのが冒険者。かの蒼の薔薇、ガガーランほどまでとは言わないが、荒くれ者に混ざる女性が弱いことは本当に少ない。

 彼女は一体何者なのかというざわめきと、ちょっかいを掛けた男に対する嘲笑を置き去りに、クレマンティーヌは階段を上がって部屋へと入った。

 

「たっだいまー。はーいコレ、この都市の地図と、追加の食料とお酒ねー」

「おかえりー。んぐ、うまっ。うまっ」

 

 小さな机と宝箱が備えられた、粗末な木製寝具がある、どちらかというと倉庫に近い部屋だった。寝具の片方に腰をかけているのは、ただならぬミイラ男のアンデッド・・・マトメル。

 彼の足元には小麦のオートミール、塩漬けにした野菜に干し果実、干し肉、パンやブドウ酒が並び、それらをガッついて食べている光景だった。

 

(ふーん、というか、腐った舌でも味覚あるんだ・・・つくづく変なアンデッド。まー私にとっては扱いやすくなるから結構ですけれどねー)

 

 やっぱりアンデッドらしくないんだよなぁ。彼の食べた食材は果たしてどこへ向かうのか、そんなことを考えてしまう。

 

 なんにせよ、彼を煽てられる情報が増えたことにはクレマンティーヌにもプラスだ。マトメルに対して自分の価値を高められれば、生き残れる可能性はぐんとあがる。

 もし彼が性欲にも傾くアンデッドだったら、ちょっと頑張らねばならない。かつて熱い梨礫を注がれた肉体で彼を満足させられたか分からないし・・・実際、若作りしてはいる身であるし。

 

 いずれ手料理の技術も高めた方がよさそうか・・・そう考えながらも、クレマンティーヌはマトメルの隣に腰掛ける。

 

(こんなの、リアル世界じゃ味わったことなかったなぁ・・・自然の食材ってこんなに美味いんだぁ・・・!)

 

 アンデッドの肉体に食事は必要ないし、酒も酔わない。三大欲求のない死んだ肉体であったが、骸骨(スケルトン)系でなく動死体(ゾンビ)系のステータスであるマトメルは、十分に味を感じられていた。

 リアルでは味わったことのない、素材そのままの味。生まれてからずっと工場でクローン生産されたモノしか食べてこなかったマトメルにとって、この世界の食事はとても感動するものだった。

 

「はぁ、生きてて・・・マジでよかった・・・」

「いや、マーちゃんはアンデッドだから死んでるんですけどねー。あ、これつまむね」

「おけー」

 

 行われるゆるい会話。声だけ聞けば、常識外のアンデッドと英雄級の破綻者による会話とは思えないだろう。

 短時間で意外と打ち解けたこの2人は主従関係ではなく、パートナー関係に近い空気に定着している。マトメルはクレマンティーヌと食事を突付きながらも、この世界についてのご教授を再開した。

 

「・・・冒険者、かぁ」

「興味あるの?でもねー、たぶんマーちゃんが思っているほど、そんな華々しいものじゃないよ」

 

 目下の目標として、金を稼がなきゃならなかった。

 クレマンティーヌの手持ち金も──くすねてきたアイテムは破格だが使い道が限られすぎる──潤沢ではない。当面は問題なさそうだが、今後暮らしていくにはいささか不安。

 

 マトメル自身の金貨なども、ユグドラシル最終日を迎える前にほとんど消失している。基本的にアイテムとかお金は全部ハチャメチャに散財して、あとは金に変えられなさそうなモノしか残っていないのだ。

 

「冒険者だけど、身分がギルドで定められるから、私みたいな追われてる身やマーちゃんみたいなアンデッドには危険かも。ズーラーノーンのバックアップはそんなに期待できないし、何か定期収入を考えるとなるとねぇー」

 

 思案するクレマンティーヌ。モグモグと干し肉を握るマトメルに笑みを浮べながら、金の稼ぎ方を教えてくれる。

 

「商いはその土地や人間関係に縛られるし、私たちにそんな開業資金もない。追い剥ぎや盗賊の真似事は慣れてるけど、衛兵に怪しまれるし盗品を裁くのもちょーっと面倒なんだよね」

「やっぱりアウトロー路線かぁ。なんとなくそれしかないだろうなぁとは思ってたけど」

「あとはワーカーや、犯罪組織に与するかだねー。リ・エスティーゼ王国だと、最大規模の八本指ってのがあって」

「へぇー・・・そこも後で詳しく頼むよ」

 

 既に人間の精神性を失っているマトメルにとって、そちらの道に傾こうとも何ら忌避感はなかった。

 むしろ、この世界におけるアンデッドなど異形種、亜人のような存在の扱われ方を考えると、表立って行動するのは難しいようにも思えた。

 

「まぁーとりあえずこれは、カジッちゃんと相談してから決めよっか。そんなに急いでやる必要はないしねー」

「そっか。・・・そのカジッちゃんに会うなら、なんかお土産持参した方がいいかな?」

「別にいらないんじゃなーい?しいていうなら、動死体(ゾンビ)に適した死体かもね。そうそう、さっき下でナンパしてきた男たちがいてねー」

 

 この日を最後に、ある冒険者の男たちが失踪したことに関しては、数日後に起こる事件を過ぎてからは誰にも記憶に残ることはなかったとか。

 

 

 

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