オーバーロード 不死王と超不死のまったり世界征服   作:ガババババ

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ごめん、仕事忙しすぎて時間かかった
たぶんヘロヘロさんと同じぐらいこなしてる。

カジッちゃん生存フラグ・・・?


第3話 動き出す者たち

 

 

 

 エ・ランテルに広がる共同墓地を、人知れず人影が通り抜け、やがて最奥に聳えるへ霊廟と2人の人物が辿り着いた。

 都市の西側地区のほとんどがこの墓地で、衛兵隊や冒険者が毎夜巡回し、発生する弱いアンデッドのうちに退治している。この霊廟は古くから眠れる死者たちの安寧を願うために建造された建物ではあったが、今やその目的は正反対の隠れ家として使われていた。

 

「ふふふーん、ここ引っ張ると開く仕組みなんだー」

「おぉー、すごいねー」

「はいるよ〜!カジッちゃーん、いるー?」

 

 霊廟内の地下神殿に繋がる道は、霊長の一部の石棺にに取付けられた隠しレバーが引かれれば、たちまち現れ始める。偽装された棺桶の隠し通路に彼らは進む。

 串焼の肉を片手に頬張りながら、死臭が漂う空間を全く緊張感なくやってきたのは、勿論マトメルとクレマンティーヌである。

 

「んぐっ、冷めてもうまいなぁ。串肉って」

「ねー。硬いけど歯応えがあっていいかんじー」

「全く失礼や奴らじゃ・・・儂の神聖な場所に知らせもなく、あげく肉を食らいながら足を踏み入れおって・・・!」

 

 警戒なく2人に、柱の影からまるで血のような黒い赤のローブを纏った男が迎えた。ギロリと鋭い視線が侵入者に向けられる。

 頭髪も睫毛も眉毛も体毛らしいものは一切ない。目はくぼみ、体は痩せ細り、生きていることが不思議なほどに顔色は悪く、その肌は土気色という言葉が相応しい。

 小動物の頭蓋骨をつなげたネックレスを首に、骨と皮しかないような腕の先で、黄色の汚い爪の生えた手がで黒い杖を握っている。

 

 人間というよりアンデッドモンスターのような人物こそ、秘密結社ズーラーノーンの『十二高弟』の1人に名を連ねる、死霊系魔法詠唱者(マジック・キャスター)──カジット・デイル・バダンテールであった。

 

「あれがカジッちゃん?だいぶ御年配みたいだね」

「そーそー。結構なお爺ちゃんに見えるけど、実はそんなに歳いってないんだってー。久し振りだねー、元気してたー?あ、コレはお土産だから後で使ってねー」

 

 マトメルとクレマンティーヌが肩に紐で引き摺っていた、それなりの重量を持つ麻袋が数個、カジットの前に投げ出された。大きさと地面に転がる音からその中身を、普段からアンデッドの儀式魔法を行っているカジットには分かった。

 媒体となる死体提供は助かるが、その殺しの痕跡を残してないかと心配が昇ってくる。が、それよりも気になることをまず質問する。

 

「クレマンティーヌよ、隣にいる男は誰だ?・・・いや、アンデッド・・・か?」

「さっすがカジッちゃん。伊達に死霊系を収めてないねー」

「見た目でなんとなく分かるわい。して、何者だ?ズーラーノーンの新入りか?」

 

 杖を強く握り直しながら、クレマンティーヌの隣にいるミイラ男へカジットは視線を動かした。背丈は子供のようだが、背中から生えた蝙蝠の翼に、爬虫類のような頭蓋骨を頭に被った、金と紫のマフラーを巻いた赤い目の男。

 只者ではない得体の知れぬ気配。カジットはその男を訝しみながら、いざとなれば真下にいる強力な配下のアンデッドを動かそうと構える。

 

「始めまして、僕はマトメルと言うアンデッドです。相棒のクレマンティーヌから色々とあなたのことや、ズーラーノーンのことは聞いてますよ」

 

 串肉を食べ終わり、どこか虚空に串をしまい込んだミイラのアンデッドは、カジットに向けて頭を下げて自己紹介した。

 アンデッドモンスターが抱える、生者に対する憎しみの波長が全く感じられない。礼儀ある振る舞いを見せるマトメルという男は、カジットにより警戒を強めさせた。

 

「この性格破綻者の相棒、か・・・随分と流暢に人語を話せるのを見ると、かなり高位のアンデッドと見たぞ・・・!・・・して、何の用だクレマンティーヌよ。もしや其奴と共に儂を殺しに、十二高弟の席でも開けさせに来たか?」

 

 手持ちの軍勢と師弟たちを使えば、クレマンティーヌには勝てるかも知れないが、このアンデッドの強さが未知数のため分が悪いだろう。しかも相棒と言い放ったのだ、少なくとも彼女に次ぐ実力者である可能性は高い。

 じっとりとした汗を背中に這わせるカジット。すると懐にあったアイテムがカタカタと震え出し、彼のローブから勢い良く飛び出した。

 

「な・・・!?儂の死の宝珠が・・・!む・・・!?もう用済みだハゲ頭、じゃと・・・!うぉおおお!?」

「おっ、なんだ?」

 

 カジットから独りでに離れて浮かび飛んできたそれは、マトメルの手の平にストンと落ち着いた。

 黒い鉄のような輝きを持つ無骨な珠。磨かれてもいないし形も整っていない、河原にでも行けば似たようなものがありそうなほどで、到底価値があるようには見えないが・・・

 

 ──偉大なる”死の王”よ。私の絶対の忠誠をお受け取りください。私は、あなた様に仕えるために生まれたのです。貴方様の忠実なるシモベとして、並べていただけますようお願いします

「うわ!アイテムが喋った!?すっげ・・・!こんなの初めてだ!ってか絶対の忠誠って・・・僕、別に何もしてないんだけどいいの?」

 ──あなた様の絶対なる”死”の気配に敬意と崇拝を。死を纏め上げる真の死の御方よ、崇高なる御身に出会えたことを、この世界に存在する全ての死に感謝します

「ふふふふ、一応鑑定するね。〈道具上位鑑定(オール・アブレイザル・マジックアイテム)〉・・・へぇ。インテリジェンス・アイテムねぇ。効果もまぁ合って困るもんじゃないか」

 

 マトメルの頭に語り掛ける、死の宝珠からのメッセージ。ユグドラシルには存在しない「知性あるアイテム(インテリジェンス・アイテム)」という存在にマトメルは目を輝かせる。

 反対に、自らが何年も使い続けたアイテムにハゲ頭と吐き捨てられて捨てられたカジットは、怒りに目を見開いて奥歯をギリッと鳴らす。

 

「あはははは。カジッちゃん、死の宝珠にフラれちゃってやんのー!マーちゃんに即寝取られちゃってかわいそー!」

「ふざけるな!マトメルとやら、早くそれを儂に返せ!その宝珠にわしがどれほどの年月と心血を賭して負のエネルギーを注ぎ込んだか!」

「あー、カジッちゃんさぁ。あんまり無礼な口を叩かない方がいいよ?マーちゃんは優しいけど、ズーラーノーンのトップを下剋上できるかもしれないマジの化け物だから」

「・・・は?」

 

 

 

▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 これは2日前・・・プレイヤー「マトメル」がこの世界に転移してきた、その瞬間の出来事。鼻先で突如生じた邪悪なる空気の流れの変化に、ツァインドルクス=ヴァイシオンは眠りから目覚めた。

 (ドラゴン)の鋭敏な知覚能力は人間を遥かに凌ぎ、仮に相手が不可視化を行っていようとも、幻術で騙そうとも、驚くほど長距離の気配にも彼は即座に感じ取れる。

 

「・・・・・・この感覚は──」

 

 覚醒した意識を占めたのは驚き。そして、恐怖に通じる忌避感か。『百年の揺り返し』なるプレイヤーの出現を警戒していた彼は、首を動かして見つめる。

 しかし、この感覚はなんだ?禍々しいモノが現れたかと思えば、すぐに消えてしまった。彼ですら探知できない高度な遮断によって。

 

 先ほど味わったこの感覚は覚えがある。数百年前に突然空を切り裂いて現れた化物の一体。世界を滅ぼすほどの力を持っていたが、竜王(ドラゴンロード)達によって結局全て倒され、封印されたはずの存在。

 以前、かつて仲間たちと先に目覚めた分身体を苦戦しつつも倒すことに成功した・・・その封印が解けたのか。白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)は首を振って叫ぶ。

 

「いや、違う!」

 

 もっと邪悪な存在だ。何よりその力はあの魔樹よりも遥かに強大なモノだ。竜の優れた探知でも掻き消されたその片鱗は、もう掴めぬものの、方向とだいたいの位置は覚えた。

 むくりと起き上がったツァインドルクス=ヴァイシオンは、感じ取ったその方向へ体を向き直す。

 

 私が行かねばならないようだ。

 もし話が通じるなら。どうか、どうか願う。

 もしプレイヤーならば、また八欲王の様な、悪しき世界の理を歪める脅威でないことを。「世界を穢す者」出ないことを。

 

 

 

▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 かの竜王が感知した、その翌日──かちゃかちゃ、1人の少女が壁にもたれかかるように、ルビクキューとスレイン法国では呼ばれる、六大神が広めたとされる玩具を弄っていた。

 長めの髪は奇怪なことに左右で色が違い、片側が目が覚めるような白銀でありながら、もう片方は全てを飲み込むような漆黒。同じく瞳の色も左右で異なる。

 十字槍に似た戦鎌(ウォーサイズ)を脇に壁へ立たせた、まだ十代前半にも見えるほど幼い外見であるが、隊長は彼女が実年齢と大きく異なっている、”絶死絶命”という漆黒聖典最強の存在であることを知っている。

 

「一体、何があったの?」

破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の可能性あり、という報告でしたが、それ以上に不味い出来事のようです」

「”占星千里”の占いが外れたの?」

「・・・また報告書を読んでおられないのですね」

「読んでない」

 

 世界に災厄をもたらすとされる伝説の竜王・・・破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)。人類の脅威として、スレイン法国が特にその復活を警戒しており、封印地と目したトブの大森林を調査している。

 しかし、今回の反応はそこからではなかった。正しくは法国の調査範囲ではなく、かの六大神が残したアイテムから。

 

「スルシャーナ様が残された遺物に反応がありました」

「・・・・・・へぇ」

 

 今までこちらを一瞥もしなかった彼女は、初めて隊長に視線を向けた。その顔には笑みはもうなく、覚悟を決めた人類の守り手としての表情だ。

 

「言い伝えによれば、特別な「れいどぼす」なる、『死を束ねる超越者(デスマトメル)』が来た合図であると。勿論、あなたにも出撃命令が」

 

 法国の隠し札が動き出す。

 

 

 

▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 時が戻って──カジットの隠れ家である霊廟の地下遺跡。

 

 クレマンティーヌを常識の無い「何か」だと思っていたカジットは、その認識を改めた。世の中にはもっと常識のタガを外れた存在がいるのだと。

 その力を目の当たりにすれば、どんな馬鹿でも知恵遅れでも理解できる。最初はクレマンティーヌに言われて訝しんだが、今や平身低頭、墓地の地面に額が付いて汚れるのも躊躇わずに頭を垂れる自分がいる。

 

「おぉ・・・偉大なる死の王、マトメル様・・・!どうか、先ほどまでの無礼を・・・お許しください・・・!」

「うわ、ジャンピング土下座なんて初めてみた・・・!」

 

 マトメルというアンデッドが、実際に外で骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を8体、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)を6体。そして死の騎士(デス・ナイト)を4体を一気に目の前に出されては、誰だってビビるしかない。

 むしろ走馬灯が見えて尚、ギリギリ気絶しなかった自分を褒めてやりたいぐらいだ。カジットは死の宝珠の支配から逃れるための精神防御魔法のお陰で留まれたが、彼の師弟たちは全員気絶して失禁しながらぶっ倒れ、そこかしこに転がっている。

 

 聞けばあと死の騎士(デス・ナイト)ぐらいなら19体はいけると言われた。ぐらいってなんだやめてくれ世界が壊れる。

 盛大に盛った話だとしても、既に実際に4体も・・・国が滅ぶ兵力が4つ分も。それは死の宝珠も擦り寄るだろうなとカジットは納得する。

 

 ちなみにカジットを捨てた死の宝珠は、その力を目の当たりにして狂喜乱舞してしばらく煩かったためか、マトメルによって虚空のアイテムボックスに投げ込まれてしまっている。

 

「いやー、やっぱり凄いねー。最初見た時は言葉失っちゃったよー。マーちゃんてやっぱり化け物だよね。王国ばかりか世界滅んじゃうよー?」

「え?こんな中途半端な精鋭でこの世界落ちるの?」

「んー、ふふふ。マーちゃんはもうちょっと一般的な常識を学ばなきゃだね・・・」

 

 国家滅亡クラスのアンデッド編成眺めながら、そんな会話ができるクレマンティーヌ。頭を下げるカジットは、あの規格外過ぎるアンデッドに馴れ馴れしい態度を取れるのが逆に怖かった。

 

「ク、クレマンティーヌよ。何故おぬしは・・・その御方を前に・・・平気で立てるのだ・・・?」

「んー?だってー、私とマーちゃんとは対等の関係で契約したからねー。従者じゃなくてパートナーだし」

「そうだね。別にカジッちゃんも協力者になるんなら保護対象だし、そんなにヘコヘコしなくていいよ。なんかそういうの別に求めてないし」

「そ、そうですか・・・では、お、ぉぉ・・・恐れながら」

 

 よろよろと立ち上がりながら、カジットはそう言いつつガタガタ震える恐怖は止まらない。媚び諂う顔でマトメルを見あげながら、内心ではクレマンティーヌに向けて少し視線を向けて吐き出していた。

 

(対等だと・・・!何をふざけたことを!このアンデッドの機嫌で生かされていることに心底から感謝し、頭を垂れることこそ正解ではないのか!?我らが盟主など、この御方の前ではゴミも同然よ!これからどうなって、どうされてしまうんだ・・・!)

 

 カジットはマトメルとの初対面時の態度を猛反省しながら、クレマンティーヌを恨めしく一瞬睨みつけた。よくも巻き込んでくれたと言わんばかりの視線に、クレマンティーヌも睨み返す。

 

(馬鹿が・・・私だって命懸けなんだよ!コイツがそういう性格だからそう振る舞っているだけで、私だっていつ切られるか分からない・・・目標を誘導して、命を長引かせているにすぎねぇんだから・・・!ってゆーかこれ、私が人類滅亡の手を引いてたりしないよね?)

 

 当の彼女自身も、いつ切られるか分からない関係性に鼓動を忙しなくしていて、表情を必死に隠しているが落ち着かない。彼のガイド役としての役目が終わってしまえば、用無しと消されてしまう可能性は十分にありえる。

 死の騎士(デス・ナイト)ほどの兵器を容易く召喚できる人物に、戦闘力で売り込むこともできない。元から規格外のアンデッドだとは知っていたが、想像の10倍以上に規格外だった。今になってクレマンティーヌは背筋の震えを加速させる。

 

(さぁて、こっからどうしよっかな)

 

 マトメルは召喚したアンデッドを順番に眺めながら考える。

 クレマンティーヌたちの反応からして、この世界の人類はユグドラシルと比べてだいぶレベルが低いらしい。英雄級といってたクレマンティーヌでも、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)ですら厳しいらしい。

 まぁゲーム世界の常識を、異世界とはいえ現実世界の常識と同じにしてはいけないよな。あまり目立つ行動は危険だと再反省する。

 

(なんとなくでクレマンティーヌの案内でここまで来たけど、正直言って目的はないんだよなぁ。他のプレイヤー探しはともかく、何をしたいのか定まってない)

 

 マトメル自身、第二の人生を楽しむという行動指針はあるものの、どうやって楽しむかは全く決めていなかった。なんとなくでクレマンティーヌと行動を共に、各地を回ってみるのが当初の行動。

 とりあえずズーラーノーンっていう組織を乗っ取り、せしめた金や資源で地に足をつけて、悠々自適に暮らそうかなーと、そんな楽観的な感覚でしかマトメルは行動していない。

 

(ま、なんとかなるでしょ。とりあえずはユグドラシルしかないアイテムも貰ったし、受けた恩は返さなきゃね)

 

 マトメルは恩には恩で返すのを信条としている。正確には死の宝珠は寝取ったみたいなもんだが、お返しに何かカジットに返さねばならない。

 

 クレマンティーヌ曰く、マザコンを拗らせた狂人。

 死んだ母親を蘇生するための研究を30年以上続け、寿命が足りないと知りアンデッドになって更に研究を続けようとしていたらしい。それも、エ・ランテルの人々を殺して発生した負のエネルギーを使って。

 

 間違いなく狂人で極悪人だ。本来ならここでぶっ殺しておくのが人類に取って正解であろうが、この世界でまともに関わった人間はクレマンティーヌとカジットしかいないため、マトメルの優先側はなんとズーラーノーン側である。

 何の思い入れもない人々などマトメルにとっては赤の他人。それも異世界の人間だ。となれば少しでも交流が芽生えた者たちに情は傾くし優先も変わる。

 

「カジッちゃんはアンデッドになりたいんだったね」

「は、はい・・・ですので、死の螺旋を用いて、自身をアンデッド化させる儀式を進めてまいりました・・・!」

「死の螺旋、ねぇ。興味あるなぁ・・・よし、決めたよ」

 

 震えながら話すカジット。恐れながらも、その瞳には悲願達成の希望に縋る思いがあった。

 マトメルとしても、この世界でのクラスチェンジ・・・否、種族の変化。人間種から異形種への変化は気になることだった。ユグドラシルでは滅多に出来ないことが、果たしてこの世界だとどうなるのだろうか。

 

「死の宝珠の御礼と言っちゃなんだけどさ、儀式を手伝ってあげるよ。死の宝珠の代わりになるアイテムも渡そうか。どんな結果になるのか凄い楽しみだ」

 

 これから沢山の人間が死ぬだろう事態を、自ら引き起こそうとするマトメルには、既に罪悪感や忌避感などなかった。

 逆に引き起こされる悲劇や悲壮に関して楽しみを浮かべてしまっている異形の精神性になっていることも、彼には自然になってしまっていた。

 

 

 

▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 再び朝日が昇った翌日の朝。検強固で巨大な門の横手に設置された検閲所は、荷物検査やスパイの発見が主な仕事であり、開門は早朝でこの時間が一番忙しい。

 城壁外周部は軍の駐屯地と隣接しており、軍事系統の設備が整っている。つまりはそれなりの実力者も揃っている。

 

 城塞都市の門を守る門兵たちの会話は、今しがた通り過ぎた人物たちで持ちきりだった。

 

「おい・・・見たか?いまの見事な鎧・・・!」

「あぁ、一緒の女もすげぇ美女だったな」

 

 全身を包む漆黒の鎧を身に纏い、赤いマントを羽織っていた身長2mにも達する巨躯。

 表情を窺う事が出来ない漆黒の兜を被り、150cmはある先端が扇状に広がった両手用のグレートソードを2本も背負う様は、その筋肉が偽物ではないだろうと察せられる。

 

 女性の方は、きめの細かい色白の肌に、切れ長の黒い瞳、異国の者である長い黒髪をポニーテールにしている、お淑やかそうな雰囲気を漂わせた絶世の美女。

 男の方とは違って装備は平凡で、腰元に長剣をぶら下げただけであるが、やはりその美しさは門兵たちの全員の目を引いていた。

 

「どこかの貴族か・・・?じゃないとあれだけ豪華な装備を揃えられないだろう。成金やボンボンではなさそうだったが・・・」

「顔を見たが、普通に年を取った中年だったぞ。女とは全然釣り合わねぇ容姿だったが、本来に何者なんだろうな」

 

 果たしていったい何者なのだろうか。通行料を徴収し、怪しい持ち物もなかったため、一先ず通された流れ者らしき彼らには、検査を待たされている人々も興味を抱いていた。

 

 いずれ”漆黒の英雄”、”美姫”として語り継がれる人物の姿を見送った男たちは、彼らの凄さを実際に、数日後に目にすることになる。

 ・・・エ・ランテルを襲う、後に語られる『死群狂乱』という事件で──

 

 

 

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