オーバーロード 不死王と超不死のまったり世界征服   作:ガババババ

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第4話 悲劇の前日

 

 

 

 冒険者のモモンとナーベは、チーム”漆黒の剣“の食卓から離れ、糸を張ったエリアの隅に座って食事を始めたように振る舞っていた。

 宗教を理由にして、離れた彼ら──モモンガ改め、アインズ・ウール・ゴウンとナーベラル・ガンマは、冒険者に扮して現在ナザリック外で活動中である。その目的は外の世界を冒険したいというアインズの我儘ではあったが。

 

(そういえば・・・マトメルさんと出会ったのって、こんな月明かりの真下だったなぁ)

 

 夕日が沈み、雲掛かった月明かりを見上げながらアインズは想いに耽る。思い出すのはサービス終了まで会話した懐かしい旧友との思い出だ。

 

 マトメルが始めて出会ったのは、アインズたちがまだギルドを立ち上げる前の、《九人の自殺点(ナインズ・オウン・ゴール)》のメンバーであった時代だ。

 強力な悪魔龍や、ぬいぐるみ系アンデッドが集う場所──魔狼月下城というダンジョンで、アインズたちが現地のラスボスだと勘違いして、初手で袋叩きにしてしまったのが始まりだった。

 

(その後ブチギレたマトメルさんが・・・たっちさんと相打ちになって退場して、その後もしばらくよく襲撃してきた。いやぁ・・・今考えても、よくあの最悪の初対面で仲良くなれたよなぁ)

 

 マトメルというプレイヤーはソロ専だった。ギルドに所属しない代わりに得られるバフ効果を利用して、気儘に世界を回って観光を楽しむタイプの放浪系であった。

 ユグドラシルがスタートしてから真っ先にプレイしていた古参でもあり、プレイヤーランキングでも上位に食い込む実力者。彼の初見殺しや不意打ちを含めれば更に登り詰めるだろう。

 

 仲良くなってからギルドに勧誘してみたが、彼の称号の問題で、結局はマトメルがアインズ・ウール・ゴウンに入ることはなかった。皆の総意で特例メンバーとして、至高の四十一人の番外として数えられてはいたが。

 かつての1500人の討伐隊がアインズ・ウール・ゴウンに乗り込んできた時は不干渉であったが、時々レアアイテムの交換や新天地の情報共有は行い、ナザリック内に招待することもあった。ギルドに所属した正式メンバーではないにせよ、確かに彼も皆の仲間であった。

 

(でも、常に仲間のいない感覚。マトメルさんは、こんな感じでユグドラシルをずっとプレイしていたのかな・・・)

 

 仲間と創り上げたナザリックこそが財産であり、それをずっと守ってきたアインズと違って、冒険者モモンのように自由に世界を回ろうとしていたマトメルは、果たして寂しくなかったのか。

 無粋な考えと思いつつ、アインズはぼんやりとそう思うのであった。

 

 

 

▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 夜が明けた城塞都市エ・ランテルでは、昨日に引き続いていつもの日常が送られていた。当たり前の日々を各々が送り、時間が過ぎている。

 賑やかな喧騒に交わらない、どこか離れた空気を纏う黒いローブの美女──クレマンティーヌは、フラフラと買い出しに出かけていた。既に昨日見たことある人々はあまり気を止めずだが、彼女をじっと見ている影たちが確かにいる。

 

(本当なのか分からないけど、マトメルが言うんだから「いる」んだろう・・・やっぱり私を怪しんでいるから?仮に善意であっても・・・心臓に悪すぎる。ブラフであったとしても下手な動きはできない)

 

 彼女が視線を後ろに向けても、その姿は視認できない。

 完全不可視を掛けたゴーストたち・・・孤独の影(ロンリー・ウォーカー)魔幻の影(エターナル・クライ)が、クレマンティーヌを遠巻きに見ているらしい。

 彼らはマトメルが追われる身であるクレマンティーヌを思っての善意から用意した警護である。しかし、クレマンティーヌには最悪の見張りであった。

 

 今もマトメルは共同墓地にて実験をしている。死の宝珠の自立可動計画や、よく使う魔法の試し撃ち、死の騎士(デス・ナイト)を超えるモンスターの召喚、手元から生み出した不気味なアイテムの効果が使用できるかなど。クレマンティーヌはその光景を実際に目にしたが、どれも恐ろしいモノだった。

 地獄の門へ引きずり込もうとする悪魔の腕や、輪廻を宿す荒々しい黒龍の銅像に、絢爛豪華な凶器を積んだゴーレム。即死の猛毒を宿す巨大な化けカエルに、ゲタゲタ騒がしく嗤う燭台に書物やダイスなど、目を疑いたくなる代物が山程と。

 

 どれも国を滅ぼすには十分過ぎる忌み物たちだ。否、国だけではなく人類の存亡まで揺るがす事態である。

 

(あんなのが、たまたま生まれたばっかりの自然発生な訳がない・・・!大昔に英雄か、六大神や八欲王クラスの集団に封印された、正真正銘の化け物だと考える方が自然・・・!自然発生のアンデッドなんて絶対に嘘だ!)

 

 マトメルと最初、パートナーとして契約する会話の中で、何かを隠していた感じはした。偶然にも封印から解かれて、今は無害──普通の一般常識や人間との価値観の違いはボロを出しているが──を演出している、小賢しく邪悪な存在に違いない。

 実際はプレイヤーである公言をマトメル本人が控えているだけであるが、何も知らないクレマンティーヌからすれば大魔王の復活にしか思えない。悪いことを考えればその想像は尽きない。彼こそまさに死の王だ。

 

 生者を憎むアンデッドらしく、クレマンティーヌやカジットを利用して更に死を広げるつもりだろう。事実、この町の人間は数日の内に全て殺され、彼の強大なアンデッドの材料になるのは確定事項。

 

(逃げるしか──でも、どこへ?)

 

 一刻も早く逃げるべき。かといって逃げてどうなるか、逃げ場などあるのか。しかし、このままではいつか切り捨てられる。死ぬより恐ろしい目に遭うかもしれない。

 仮にこの街から逃げるにしても、後ろには監視が付いている。彼女はもうマトメルの支配から逃れることなどできない。

 

 甘すぎる認識だった。自分が生き延びられればそれでいい、ぐらいに利用できる存在じゃなかった。

 性格破綻者であるクレマンティーヌ。しかし、望んで世界滅亡を願っているわけでは無い。仮に自分が関わらなくても、あのアンデッドはいずれ問題となっていただろうが、今や彼女が案内し、死の王を誘導する形となってしまっている。

 

 頼れるとすれば、スレイン法国の”絶死絶命”・・・しかし、今の自分がどの面下げて帰還できようか。法国における超大犯罪者として帰った瞬間に殺されるのがオチだ。

 自分の最善策はなんなのか、誰に頼ればいいのか。もう諦めて側に仕えて、死ぬその瞬間まで他人を犠牲に生き延びればいいのか。どれを選んでも最悪な運命が待ち受けているだろうとす思えない。

 

(もう・・・どうすればいいか、分からない)

 

 クレマンティーヌは詰んでいた。このまま自決してしまおうかとも思うほどに、精神を摩耗して疲れ果てていた。

 足を踏み入れた先が、わずかな緑の匂い──なんだかの薬品や潰した植物の物を感じさせる区画に入ったことを、感じ取れなかったぐらいには。

 

「おや、そこの娘よ。随分顔色が悪いね、大丈夫かい?」

「・・・え?」

 

 クレマンティーヌが不意に顔をあげれば、非常に高齢の老婆が店先にいた。改めて彼女は工房が重なったような、大きな建物にたどり着いていたことを認識する。

 老婆の髪は肩のあたりでバッサリと切られており、白髪で真っ白だった。着ている作業着には緑のシミが疎らにあり、濃い草の香りを漂わせていた。遅れてクレマンティーヌの鼻腔を擽りながら、歴戦の強者じみた気配を感じさせた。

 

「リイジー・バレアレ・・・」

「確かに私がそうじゃが・・・あんたの顔色が酷いから思わず声をかけてしまったよ」

 

 クレマンティーヌは囈言のようにその名を呼んだ。

 リイジー・バレアレ、この都市エ・ランテルにおいて最高と言われる薬師であり、同じく有名人ンフィーレア・バレアレの叔母であった。

 

「だ、大丈夫です・・・」

「そうかい?にしてもそんなフラフラだと倒れてしまいそうだね・・・・・・気分が悪いのなら少し休むかい?倉庫蔵の中なら少しは休んでも構わんよ」

 

 無理に笑顔を作ったクレマンティーヌを気遣って、リイジーはそう促した。赤いポーションの興奮を冷ますために、たまたま外の空気を吸いに外に出たリイジーは、ンフィーレアを送り出して上機嫌だったのもある。

 そう優しさを見せたのは、クレマンティーヌが冒険者に見えたのと、それほど彼女の様子が限界に見えたからだ。老年のお節介さが発動したのもあり、純粋に善意であった。

 

「い・・・え、それほどご厄介には──」

 

 そこまで言いかけて、クレマンティーヌの両目に潤いが取り戻された。

 

「──うぅ、ぐすっ」

 

 クレマンティーヌがずっと背負っていた長い緊張が解けた。とても怖かった、正直限界だった。

 こんなに心から温かい言葉は、英雄級の実力を持ち暗部に身を置いていたクレマンティーヌには久し振りすぎたのだ。膝をついた瞳から溢れる涙が止まらない。

 

「な、なんじゃ!どうした娘よ!・・・やっぱり何かあったのじゃろ。ほら、店に来なさい」

 

 女性が流す涙を、目の前で泣かれて放っていくわけにもいかない。リイジーに手を引かれ言われるがままに連れられたクレマンティーヌは工房の中に入っていく。

 

 本来だったら、マトメルと出会わなければ、『叡者の額冠』のために彼女の孫であるンフィーレアを攫う予定だった。これほど優しい人物を自身の私欲のために利用するつもりだったのだ。

 

(これから、彼女も死ぬんだ・・・私があいつを・・・エ・ランテルに案内したせいで・・・!)

 

 自分が案内しなくてもいずれはそうなっていたかもしれない。どちらにせよ、カジットのアンデッド儀式『市の螺旋』は決行されて・・・それでもその方がマシだったかもしれない。カジットだけの企みなら、彼女ほどの魔法使い(マジック・キャスター)なら生き残れたかもしれない。

 申し訳なさ、そして自分に対する後悔と己への罵倒がクレマンティーヌの内心に渦巻く。しかし、マトメルという大災害が迫っていることを、着いぞクレマンティーヌは吐き出すことはなかった。

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

 ただせめて、これから引き起こされる悲劇に巻き込まれる前に。クレマンティーヌは初めて──否、経験はあるが忘れていた、人を殺すことの胸の痛みを味わいながら・・・己が獲物に手をかけた。

 背を向けたリイジーが、薬草の倉庫蔵へと案内する無防備な彼女へ。嫌な感触がハッキリとその手から全身に拡がった。

 

 ・・・後にリイジー・バレアレは、ポーションを買いに訪れた冒険者たちによって、。脳天を貫かれた以外に外傷無く、午後の時刻に死体となって発見されていた。

 

 

 

▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 エ・ランテルの共同墓地にて。無音と不可視の結界魔法を施された空間が霊廟を包み、カジットの隠れ家ごと他者から見えぬようになった一帯にて、マトメルは実験を行っていた。

 この世界においては第六位階ほどの魔法結界ですら神の所業に近く、昼間にアンデッド掃討のために時折巡廻する衛兵や冒険者に全く悟られることなく、物事は進んでいた。

 

「装着者の自我を封殺する『叡者の額冠』、ねぇ・・・第七位階ぐらいなら別にいらないなぁ。まーこれは取っておこ」

 

 クレマンティーヌから貰ったスレイン法国の秘宝。効果はあまり有能性を示せなかったが、ユグドラシルでは見たことないアイテムであるため、マトメルが一応取っておくことにした。

 本来ならクレマンティーヌがカジットに本来提供するはずだったもの。マトメルという異次元の存在が来た今、不要の産物となったのだ。

 

「着心地はどう?ほぼカッコだけの鎧だから全然重量はないんだけれど、問題なさそうかな」

 ──はい。偉大なる死の王よ、全く問題ありません。このシモベめにこれほどの恩寵と待遇、感謝いたします

 

 疎かだったアイテム整理しながら、マトメルは傍らで持ち上がる巨体に声を掛けた。数メートルもある重々しい全身鎧(フルプレート)がぎごちなくだが地を踏み締め、荒々しいデザインながら荘厳さある見た目が顕になる。

 錆び付いた銀色の巨大な体躯。しかしその胴体は太い肋骨のみが支えており、下半身はなんと胴体から四方に分かれた四足式であった。

 

「超期間限定のイベントボス、古の暗黒騎士(ザガーン)を元に作ったんだよね。いやぁやっぱりカッコイイなぁ。こういうゴツくてデカいモンスター好きなんだよね」

 

 死の宝珠をがらんどうの鎧に入れて自立で動けるように・・・正確には内部に分裂する骸骨(スケルトン・ディヴィジョン)を、外側をスキル《呪具作成(クリエイト・カース・アイテム)》で作った全身鎧を纏い、中のアンデッドを死の宝珠が動かすことで成り立つ仕組み。

 基本的にアイテムだから動けない死の宝珠を、自立して動かせるかどうかの実験であったが、目論見通りに成功したことでマトメルは上機嫌に頷いた。

 

「あれを使役できないのはちょっと悔しいな。やっぱり取っておくべきだったなぁ、あの職業(クラス)。覇王ビルドは割り振りキツそうだったけどLV1ぐらいはゲットするべきだった」

 

 当時出し渋ってゲットしていなかった、ゲーム時代の失策を後悔しても遅い。とりあえず確認できたことを喜ぼう。

 

「ま、動かせるのは分かったから、次に出番ある時はその装備でお願いしようかな。あと偉大なる死の王って長いからマトメルでいいよ」

 ──かしこまりました。マトメル様

 

 生み出したアンデッドと鎧を消失させたマトメルは、ふわりと落ちてきた死の宝珠を引き寄せて、無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)へと中に収納した。

 やるべきことを片付け終わり、ちらりと霊廟の方へ濁った瞳を向ける。そこではカジットが弟子たちに囲まれて儀式を行っていた。

 

 カジットに負のエネルギーが集中する魔法陣など、ブツブツ呪文を唱えて準備をしている。しかし、あんまり集中できてないのか進みが悪いらしい。

 

 それもそのはず。連中の側には死の騎士(デス・ナイト)死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)とかが体育座りしているのだから。カジットはともかく、彼の師弟たちはずっとビクビクである。

 ちなみに骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は、デカすぎて目立つので地中に潜らせている。流石に邪教の一員に置いても、過剰戦力過ぎるアンデッドの瘴気は堪えるらしい。

 

「死体を材料にしたアンデッドは消滅しない・・・この事実がかなりの成果だったな。これ毎日コツコツやってれば馬鹿にならない戦力ができそうだ」

 

 既に数時間経過しているのにも関わらず、死の騎士(デスナイト)たちは消滅しない。死体から生み出したアンデッドは消えないという発見した事実に、マトメルはほくそ笑む。

 せっかくだからそれぞれ名前付けてあげたらすげぇ喜んでた。考えられる自我もあり、忠誠心も十分に感じられる手勢の獲得は大きい。

 

 他プレイヤー対策に、アンデッド軍団を作り上げて兵力として確保する必要もあるなと考えるマトメル。1日に作れる量には限界は勿論あるが、数カ月続ければ3000体ぐらいも理論上で兵士を作れる計算にはなる。

 

「それには膨大な死体が必要になりそうだが・・・カジットのこの儀式で生まれた犠牲者で賄えるだろう・・・早くまたあの串焼き肉食べたいなぁ。でも帝国の方がもっと美味しいって言ってたな・・・ふふふ」

 

 マトメルは昨日から味わった、この世界の美味しい食べ者を思い浮かべてまた上機嫌になる。肉体はアンデッドであるが、ちゃんと味覚はしっかり感じられる。

 食事の買い出しを自ら買って出てくれたクレマンティーヌに感謝しながら、マトメルはまだかなとワクワクして待つのであった。

 

 

 




リイジーは殺される予定はなかったのですが、クレマンティーヌがかわいそうだったので、大好きな人殺しをさせてあげました(人の心)
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