俺の個性は、他人を救けなきゃ四肢が爆発するらしい   作:おっちょめん

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第2話 呪いの個性

 個性を発現したその日、俺はある種の天啓──そうとでも言える“案”を思いついた。

 

「誰も助けられない状況」に自分を閉じ込めちまえば、

 このクソ個性も反応しようがねぇんじゃねえかって。

 

 本気でそう思ったんだよ、当時の俺は。

 いっそ、誰にも会わなければいいんじゃねぇか? と。

 

 そうだ、最初の逃げ道は“引きこもり”だった。

 

 朝起きて、布団から出ず、カーテンを閉じ、窓を塞ぎ、テレビもスマホもつけない。

 家族とも最低限の会話しかしない。

 周囲の誰かが何かを求めてるかもしれない情報は、すべて遮断した。

 

「誰も助けるべき状況を見ていない」なら、セーフになるだろって。

 

 

 でも──ダメだった。

 

 何もしちゃいないのに、数時間後には全身がバラバラになりそうな激痛に襲われた。

 心拍数は勝手に跳ね上がり、頭の奥では爆音みたいなノイズが鳴りっぱなし。

 視界はチカチカと点滅し、吐き気と下痢と高熱とめまいが一気に襲ってきやがった。

 

 ……は? なにこれ。

 なにもしてねぇのに、なんでこんな罰ゲームみたいな目に遭わなきゃなんねぇんだよ。

 

 理由はひとつ。助けてないから──じゃない。

 

 助け“続けて”いないから、だ。

 

 この個性、《ヒーロー》とやらは、“助ける”だけじゃ足りない。

 助け続けない限り、俺を内側からじわじわと破壊してくる。

 

「このままじゃ死ぬ……!」

 そう思った俺は、慌てて動いた。

 台所で母の足元に転がっていた林檎を拾って差し出した。

 ただそれだけ。それだけで──

 

 痛みは止まった。

 

 まるで、俺の心臓を掴んでいた冷たい手が、スッと離れたかのようだった。

 

 

 俺は無言で台所の床を見つめたまま、動けなかった。

 母は笑顔で「ありがとう」と言った。

 けど俺は、笑えなかった。

 

 この個性は、“善人”になるための装置なんかじゃない。

 俺を“奴隷”に変えるための、呪いのシステムだ。

 

 助けろ? 違ぇよ。

 助け“続けろ”って脅してんだ。

 

 あのクソ神がニヤニヤしながら言ってたセリフを思い出す。

 

『死にたくなかったら、助けろ』

 

 ──でも言ってなかったよな、“何分おきに助けなきゃいけない”のかなんて。

 あいつ、サプライズがあるとか抜かしてたな。

 ……ああ、なるほど。

 たしかにサプライズだったよ。クソみてぇな。

 

 あの神様、いや──あいつは、悪魔だったんじゃねぇか? 

 

 だから、一日もせずに引きこもるのはやめた。

 というより、やめざるを得なかった。

 家の中じゃ誰も困らねぇ。

 誰も倒れねぇし、誰も泣かねぇ。

 だから、俺の身体が“死にたがる”。

 

 結果──俺は外に出るしかなくなった。

 助けを求める人間を探しに、“延命のための善行”を探しに。

 まるで命乞いするみたいに、毎日散歩してんだよ。

 それが、俺の生存ルーティンになった。

 

 そんな日々を続ける中で、いくつか気づいたことがある。

 まず、この個性の名前。《ヒーロー》──皮肉が効きすぎてて笑っちまう。

 表向きは「誰かを助けたら様々な能力を手に入れられる」って強個性だ。

 両親はそんなすごい個性に大喜びしていた。「これでヒーローになれるねって」

 でも、実際には“誰かを助け続けなきゃ死ぬ”っていう拷問装置だ。

 

 しかも、トリガーは“助ける”だけじゃなかった。

 “悪意”にも反応しやがる。

 

 ……この前の話だ。

 

 保育園で、クラスのガキにいたずらに背中を押されて転んで、顔面をぶつけた。

 鼻血が出た。普通なら怒るだろ。

 でも俺は、怒れなかった。

 

 正確には、“怒ろうとした瞬間、死にかけた”。

 

 クソガキが……と拳を握っただけで心臓が締めつけられて、息ができなくなった。

 視界はグニャグニャになって、喉は詰まり、頭の奥で警告音みたいなノイズが響いていた。

 

 ……ただ、“ムカついただけ”だぞ? 

 それだけで死のカウントが始まる。

 この体は、「その怒りはヴィラン的だ」って判定してやがる。

 

 ふざけんなよ。

 怒りすら許されねぇのかよ? 

 

 殴られても、理不尽を受けても、ニコニコしながら「大丈夫です」って言えってのか? 

 

 ああ、もうわかってるさ。

 この個性は、そういうルールなんだ。

 

 俺は“他人のためにしか動けない”。

 自分を守るために怒ることも、抗うことも、許されない。

 少しでも“利己的”に動いたら、即アウト。

 それが《ヒーロー》の本質だ。

 

「クソが……」

 絞り出すように吐いたその一言だけが、俺に残された唯一の自己主張だった。

 

 

 まとめると、こうだ。

 俺の生存条件は3つ。

 • 他人を助ける

 • 助け続ける

 • 攻撃的・利己的な行動をとらない(他人を守る場合を除く)

 

 これらを守れなきゃ、即死。

 なにそれ。理不尽の三重奏じゃねぇか。

 

 

さらに俺はこの個性――《ヒーロー》について、より深く理解していった。

 

 

 

まず一つ。

 

こいつは“助けた”ことに対して、報酬を寄越してくる。

 

 

 

例えば、ちょっとした怪我人を保健室に運んだとき、なぜかその日の視力が一段階上がった。

 

重い買い物袋を抱えた婆さんを玄関まで運んだ日、やけに耳が冴えて、教室の隅のヒソヒソ話まで聞き取れた。

 

雨の中、転びかけた子供を傘で庇ったとき――一瞬、地面の滑り具合がスローモーションみてぇに見えた。

 

 

 

あのとき気づいた

“ヒーロー的な行動の質”が高ければ高いほど、強い力が得られる。

 

 

 

加えてもう一つ。

 

その瞬間、脳のどこかがスーッと軽くなる。

 

 

 

“助けた”と自分が認識したとき、

ほんのわずかだけ、気持ちよくなるんだ。

 

ドーパミンってやつだろうな。

やったことないけど、たぶん麻薬の類ってこんな感覚だ。前世でつるんでたやつの中に薬にはまってるやつがいたがそいつが言う脳内麻薬がドバドバ出て気持ち良くなる感覚ってやつを身を持って体験してしまった。

 

 

 

 

……あの感覚が、一番ヤベェ。

 

あれに慣れてしまえば、

「助けること=快感」って図式が脳内に刷り込まれていく。

 

そうなれば、もう二度と“善意じゃない行動”が取れなくなる。

 

 

 

報酬があって、制裁がある。

 

“助ければ生き残れて気持ちいい”

“助けなければ死ぬし苦しい”

 

そんな条件下で生きてる俺の体は、すぐに矯正されちまった。

 

 

 

もはや、“助けよう”なんて考える前に、勝手に体が動くようになってきてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かが転びそうになれば、勝手に手が伸びる。

 

 誰かが泣きそうな顔をすれば、脚が動いてそっちに向かう。

 

 ゴミが落ちてれば、拾ってしまってる。

 

 “助けよう”なんて思ってない。ただ、動いてしまってる。

 

 そこに俺の意思はなかった。痛みが俺に命令する、死にたくなかったら俺に従えと。快楽が俺を誘うもういっそ楽になっちまえと。

 

 

 

 もう俺の体は“善意の型”に調教されちまってる。

 仮面なんかじゃねぇ。

 仮面が皮膚に、縫い付けられてんだよ。

 

 

 でも周囲は勝手に勘違いしやがる。

 先生は「優しい子ね」

 ガキどもは「ヒーローみたい!」

 母は「いい子に育ってくれて……」って泣く。

 

 違ぇんだよ。

 俺は優しくなんかねぇんだよ。

 俺は──死にたくねぇだけなんだよ。

 

 一度、死んだことがある俺は知ってる。

 あのときの絶望。

 刺された脇腹。

 冷たい血。

 暗く沈む視界。

 消えていく音。

 

 ……もう二度と、味わいたくねぇ。

 

 どんなに操られてても、どんなに自分が壊れても、俺は、生きたい。

 

 ただ、それだけだ。

 それだけの理由で、俺は“ヒーロー”として生きていく。

 死なないためだけに、助けていく。

 仮面を貼ったまま、腐った心を隠しながら。

 

 それが、俺に課せられた呪いだ。

 そしてそれは──俺の意志で受け入れる地獄なんだ。

 

主人公の通っている中学校をデクたちが通っていた折寺中学校にしようか迷っていますデクたちの絡み見たいですか?

  • 中学での絡み見たい
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