俺の個性は、他人を救けなきゃ四肢が爆発するらしい   作:おっちょめん

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side日色沙映 母の独白

私には、一人息子がいる。

名前は――日色救雄(ひいろ すくお)。

 

彼が初めて私を見つめたときのことを、私は一生忘れない。

生まれたばかりのあの子が、小さな目をこちらに向け、弱々しい声で泣いたその瞬間。

私は、ただ静かに涙を流していた。

 

「この子は、私の命なんだ」

心の底から、そう思った。

 

***

 

救雄は、赤ん坊のころからとても穏やかな子だった。

夜泣きも少なくて、よく眠り、よく笑う。

お風呂が好きで、お湯に浸かるたびに「ふえ〜」と声を漏らして、私の腕の中でぐにゃぐにゃになるのが可愛くてたまらなかった。

 

ほんの少し目を離した隙に、よちよち歩きで部屋の隅っこに向かっていたり、

まだ言葉を話せないのに、私の顔をじっと見ては「うーうー」と何かを伝えようとしたり。

 

まるで、言葉よりも先に“心”で会話してくるような子だった。

 

手を伸ばせばすぐにしがみついてくる。

眠るときには必ず私の指を握っていないと泣き出す。

そんな甘えん坊なところも、私は愛しくて仕方がなかった。

 

抱きしめたときの、体温。

頬をくすぐる髪の毛の感触。

まだ柔らかい骨格と、すべすべの肌。

 

どれもこれも、世界で一番大切なものだった。

 

私は、いつも願っていた。

「この子の未来が、どうか優しいものでありますように」と。

どんな困難があっても、私が盾になって守ってあげられますようにと。

 

***

 

最初に「おかあさん」と呼ばれた日。

私の指を初めて握った日。

ひとりで立った日。

一歩、二歩、三歩と――小さな足が大地を踏みしめて、ふらつきながらも前へ進んだあの日。

 

救雄の“初めて”は、私の宝石箱の中に、ひとつひとつ丁寧にしまってある。

誰にも触れさせたくない。

この記憶だけは、誰にも汚されたくない。

――母親って、そういうものだと思っていた。

 

だって、私にとって救雄は、

この世界のどんな光よりも尊くて、

この手で包み込んでしまいたいくらいに、愛おしい存在だったから。

 

 

それは、ある春の日のことだった。

淡い陽ざしが教室に差し込み、空気はやさしくて、どこか浮き足立つような季節。

救雄が、初めて“誰かを助けた”日でもある。

 

私はその日、職場にいた。

スマートフォンが震え、保育園からの連絡が届いたとき、

「なにか悪いことでもあったのか」と、一瞬だけ心臓が強く脈打ったのを覚えている。

 

けれど、そこで聞かされたのは、

“息子が、別の園児を助けた”という、信じがたい――けれど誇らしい出来事だった。

 

***

 

友達のマナちゃんのお気に入りのおもちゃを取り返したそうだ。

そのとき異変が起きたらしい。

先生の口から語られたのは――

その瞬間、救雄の身体が光に包まれるように見えたという話だった。

まばゆい閃光とともに、まるで“何かが目覚めたような”気配。

けれど、救雄自身はそれについて何も覚えていなかったという。

 

それを聞いて、私は直感した。

ああ――“個性”が発現したのだと。

 

***

 

病院での検査結果が出るまでは不安だったけれど、

医師ははっきりと言った。

 

「日色救雄くんの個性は、分類が難しいですが……おそらく、条件付きの増強型に近いですね。

“誰かを助ける”という意志と行動が引き金になって、身体能力が極端に向上する。

名称は――《ヒーロー》。まさに、そのままです」

 

ヒーロー。

その言葉を聞いた瞬間、私の胸は高鳴った。

 

救雄が助けた子の母親からは感謝の言葉をもらい、

園の先生方にも褒められ、

職場の同僚や近所の人からも「すごい子ね」と言われた。

 

救雄は、はにかんだように笑って、こう言った。

 

「ぼく、また助けるよ。困ってる人がいたら、絶対に」

 

私はその言葉に、胸がいっぱいになった。

――なんて優しい子。なんて誇らしい子。

この子は、きっと“ヒーロー”になるために生まれてきたんだ。

 

まるで神様が、私に与えてくれた贈り物みたいに思えた。

 

***

 

「将来、きっとヒーローになれるね!」

「絶対、すごい人になるよ!」

 

救雄が言われるたびに、私もその隣で微笑んでいた。

誇らしさで胸が張り裂けそうだった。

こんな素敵な子の母親でいられることが、どれだけ幸せなことか。

 

私は、疑わなかった。

この“個性”が、救雄に光を与えてくれると信じていた。

誰かを助ける力を、未来を、誇りを、夢を――。

 

 

あれは、個性が発現した少し後のことだった。

救雄の様子が――変わった。

 

笑顔の数が増えた。

言葉遣いが丁寧になった。

部屋の片付けも、自主的にするようになった。

 

人から見れば、それは“いい子になった”だけ。

でも私には、不気味に見えて仕方がない。

 

***

 

たとえば、以前の救雄は、叱ると泣いた。

本気で怒ると、しゅんとして、言い訳をして、こっそり背中で舌を出すような――

そんな、“子どもらしさ”があった。

 

でも、今は違う。

叱っても、謝っても、笑っている。

 

口元が、同じ角度で、同じように上がる。

どんな感情にも、反応が“均質”で、機械的な整い方をしている。

 

まるで、笑顔というプログラムを起動しているみたいだった。

 

***

 

思い返すと、個性発現の日を境にして、

救雄の“表情の幅”は急激に減った。

 

泣かない。怒らない。

感情の起伏が、ほとんどない。

 

代わりに、“適切な反応”だけを返してくる。

まるで、誰かが“この場面で出すべき答え”を事前に暗記させているような。

 

私はある日、ふと聞いてみた。

 

「救雄。いま、楽しい?」

 

彼はにっこり笑って、

 

「うん、楽しいよ。お母さんと話せてうれしい」

 

そう答えた。

 

けれど、その“うれしい”は、

私の胸に、なにも響かなかった。

 

むしろ、寒気すらした。

 

その言葉が、“本心”かどうか、私にはもう判断できなかった。

 

***

 

あの日から――

この子は、“変わった”。

 

自分の感情ではなく、他人が望む反応を優先するようになった。

心で笑うのではなく、誰かの安心のために笑うようになった。

 

それを“やさしさ”と呼ぶのなら、

私は、こんなにも怖がっていないはずだった。

 

それは、“仮面”だった。

他人を安心させるための、不気味なまでに完璧な仮面だった。

 

私は、母親として、それを剥がしてはいけないような気がしている。

でも、同時に――

「あなたは誰なの?」

そう問いかける私がいる。

 

***

 

個性を発現してからというもの、

救雄は――まるで取り憑かれたように、他人を助け続けた。

それは、ただの“やさしさ”ではなかった。

どこか、執念めいたものすら感じさせる熱中ぶりだった。

困っている人を見つけると、すぐに飛び込んでいく。

危険かどうかなんて、考えもしない。

自分のケガや、服の汚れなんて、一切気にしていなかった。

 

***

 

そんなある日だった。

幼稚園から、一本の電話が鳴った。

私は、最初こそ「また救雄が誰かを助けたんだろう」と思っていた。

いつものように、感謝を伝えるための電話かと。

でも――今回は、そんな甘い話じゃなかった。

電話口の先生が、静かに告げた。

 

「救雄くんが……ヴィランに襲われて……救急搬送されました」

 

頭の中が真っ白になった。

言葉がうまく理解できなかった。

でも、身体は勝手に動いていた。

携帯を握ったまま、私は病院へと走っていた。

 

***

 

病院のベッドで、

救雄は、ボロボロの状態で横たわっていた。

顔には擦り傷。

腕には裂傷。

血で染まった包帯が、胸のあたりを何重にも巻かれていた。

それでも命に別状はないと聞かされたとき、

私はその場に崩れ落ちそうになった。

でも、安堵の次にこみ上げてきたのは――

怒りだった。

私は、彼の手を握って叫んでしまった。

 

「なんで、こんなことしたの!」

 

「ヴィランと戦うのは、あなたの役目じゃないのよ!」

 

「そんなの、プロヒーローに任せればよかったのに!」

 

叫びながらも、涙が止まらなかった。

怒鳴っているのに、胸が痛くて仕方なかった。

それなのに――

救雄は、いつもと変わらない薄い笑みを浮かべて、こう言った。

 

「僕が助けなかったら、あの子は攫われていたと思う」

 

「僕は……自分のしたことが悪いことだったなんて思ってない」

 

「当然のことをしたまで、だから」

 

その声は静かで、穏やかだった。

だけど――その瞳の奥にあったのは、“正義”なんかじゃなかった。

狂気だった。

笑っているのに、目だけが笑っていなかった。

その目が、何よりも怖かった。

 

***

 

私は――

自分の息子が、ますます“わからなく”なっていった。

“怖くて仕方がない”と思うようになった。

助けるために命をかけた。

でも、それを“正しいこと”と信じて疑わなかった。

それどころか、救われることのほうが当然じゃないのかとさえ思っているように見えた。

そんな彼を、

私はもう、“息子”として見ることができなくなってきていた。

 

***

 

私は――思ってしまった。

あの笑顔は、もう救雄のものじゃない。

あの行動も、あの言葉も、あの目の奥の光も。

全部、“あの子自身”のものじゃない。

個性が、あの子を乗っ取ったんだ。

そう考えるほうが、まだ気が楽だった。

まだ、「あの子は“あの子”のまま」だと思うほうが、よっぽど苦しかった。

だって、どうしてこんなにも、無理をしてまで助けようとするの。

どうして、自分の体が傷だらけになるまで動き続けるの。

どうして――笑っていられるの。

助けたいから、じゃない。

優しいから、でもない。

それはきっと、“その力”が、そうさせているだけ。

 

もしその力が、救雄の中に巣食っていて。

あの子の心を削り、感情を奪い、言葉を選ばせているのだとしたら――。

私が今まで見ていた笑顔も、

話していた会話も、

差し出される手も、

全部……“個性”が操作していたのかもしれない。

 

***

 

私は、母親として最低なのかもしれない。

あの子が“人間じゃない”ように見えてしまった。

中に別の“何か”がいるようにしか、思えなくなった。

でも、それくらい、おかしい。

異常だった。

 

救雄が私の目を見て話すとき、

それは“私が望む答え”だけを返してくる機械のようだった。

「お母さんが悲しまないように」と、

あらかじめ“設定された反応”を実行しているみたいに。

あの子は、もう自分ではないのかもしれない。

もう、救雄じゃないのかもしれない。

 

***

 

私には、一人息子がいた。

名を、日色救雄という。

でも今、私の前にいるこの子は――誰?

優しい声で話す。

笑顔を向けてくる。

困っている人を、ためらいなく助ける。

……それでも。

その奥に、“あの子の心”が、見えない。

私は、どこかで確信してしまった。

この子は、もう自分の意思で動いていない。

動かしているのは、“個性”のほうだ。

 

ごめんなさい。私はもうあなたを愛してるって胸張って言える自信がない。

 

――貴方は誰なの?

 

主人公の通っている中学校をデクたちが通っていた折寺中学校にしようか迷っていますデクたちの絡み見たいですか?

  • 中学での絡み見たい
  • 高校からでいい
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