私とホワイトルームを罰する方法(旧題:君のことをもっと教えて)   作:花音ゆず

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第11話

 カフェで時間を過ごしたあとの私たちはカラオケに向かい、お店を出た頃には、夕暮れの柔らかな光があたりを包み込んでいた。鳥のさえずりが遠くから聞こえ、肌を撫でるように優しい風が通り過ぎてゆく。

 ケヤキモールから寮に向けての帰り道では遊び尽くした生徒たちがゆったりと歩いていて、どこか名残惜しさを感じさせる1日の終わりを印象付けていた。

 

 今日は本当に楽しかった。いつもの仕事は今日だけは免除されていて、代わりに綾小路くんと接触して距離を縮めるという大事な仕事があったけど、それは実際にはほとんど遊びのようなものだったから。

 いつぶりだろう。こんなに楽しく遊べたのは。

 お姉ちゃんが自殺を図ってから私は仕事を始め、この学校に入学するまでは、片時たりとも気を休めることができなかった。そんな私にとっては今日が非日常で、今日が終わって欲しくないと心が叫んでいる。

 

 でもみんなにとっては今日のような日は日常で、だから、終わりかたは呆気なかった。寮にたどり着くとすぐに私たちはエレベーターに乗り込む。

 ロビーで喋ることはなかった。そんな必要はないのだろう。もう友達なんだし、遊ぼうと思えばいつでもできる。それが普通の人の感覚なのかもしれない。

 

「……綾小路くん、今日は楽しめた?」

 

 私はふと、そんなことを彼に聞いた。

 

「ああ、おかげさまでな。楽しいとこんなにも時間が経つのが早いのだと体感することができた」

「ふふ、それなら良かった」

 

 綾小路くんは満足そうな表情をしている。

 私はそれで嬉しくなって、けれど寂しくなった。

 ホワイトルーム生の彼にとって今日は非日常だっただろうけど、今後3年間ある学生生活の過程で、それはいつしか日常に変わるのだろうと気付いたから。

 

 だけど人前で表情を歪めることは私はしない。

 

 エレベーター内でも努めて笑顔で振る舞い、下のほうの階に部屋がある男子たちを見送り、それからすぐに別々の階の櫛田さんとも別れる。廊下は暗く静かで、私ひとり分の足音だけが小さく反響していた。

 

(……もう終わっちゃった)

 

 名残惜しい。楽しさが一瞬で霧散してしまったような喪失感が、私の心にかげを落とす。

 足取りも重く、自分の部屋に入って洗面台に向かうと、鏡の中の私はお化粧を少し崩してしまっていた。

 

「あはは……。私、何がしたいんだろ」

 

 空虚な笑い声に応えてくれるものはない。

 明日からはまた日常が再開する。仕事が中心の生活に戻る。それは決して誰かに強制されたことじゃなくて、自ら望んだ生き方であるはずなのに、この非日常を日常にしていきたいと私も思わずにいられない。

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