君のことをもっと教えて   作:花音ゆず

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第13話

「―――本当に愚かだな。お前ら」

 

 その言葉に教室の空気が凍る。

 その状況下では誰もが発言できないでいたけど、それからまもなくして、1人の生徒が高らかに笑った。

 

「ハハハハハ! なるほど、確かにこの教室には愚か者が多いようだ。ここまでヒントを与えているにも関わらず気付けないとは。呆れるのも当然だろう」

 

 長い金髪をオールバックにした彼は尊大な様子で、そして鼻歌でもするような気軽さで説明を始める。

 

「簡単なことだよ。ただの言葉遊びさ。ポイントは確かに振り込まれたと学校側が言っている。であれば私たちには0ポイントが振り込まれたということさ」

「はあ? どうしてだよ。毎月10万ポイント振り込まれるって、せんせーが言ってたんじゃねーのかよ」

「私はそう聞いた覚えはないね。そうだろう?」

 

 先生は重々しく頷いた。

 

「高円寺の言う通りだ。私が入学初日にお前らに伝えたのは、毎月初めにポイントが振り込まれること。それからお前らに支給した端末には10万ポイントがすでに振り込まれているということ。その2つだけだ」

「……そ、そんなのでたらめだ!」

「でたらめ? それは違うな。お前たちは私の説明をまともに聞いていなかった。そして勘違いをしただけだ。記憶にないなら録音したものを流してやろう」

 

 そう言うと茶柱先生は小型の録音機を取り出し、入学初日の説明を再生する。それを聞いて、みるみる内に悪くなっていくみんなの顔色。間違いなくこれはあの日の説明を録音したもので、確かに毎月10万ポイントが振り込まれるなどとはひと言も言ってない。

 

「それからもう1つ悪いニュースだが、振り込まれたポイントが0なのはお前らDクラスだけだ。他のクラスは10万ポイントでこそないが十分な額を貰っている」

 

 そう言って、先生は1枚の紙を黒板に貼る。

 そこにはAクラスからDクラスと縦に並べられ、それぞれの横には振り込まれたポイントが記載されていた。そのポイントはAクラスが940と最も高く、Bが650、Cが490、そしてDが0という順番で段々と低くなっている。これはクラスの成績で、それぞれに100を乗算した値が月初に貰える金額だと先生は説明した。

 

「こ、こんなのあんまりっすよ先生! クラスごとに振り込まれる額が違うなんて不平等だろ!」

「いいや、不平等などではない。振り込まれる額が0ポイントになったのはお前らに落ち度がある。遅刻欠席98回。授業中の私語や携帯を触った回数391回。理解したか? お前らがどんな過ちを犯したのか」

「……授業態度が悪かったのが原因なんですね」

「その通りだが、それだけじゃない。この学校は実力で生徒をはかる。そしてクラスの成績がそのままポイントに反映される仕組みだ。つまりお前らはお前らのせいで潤沢にあったポイントをパーにしたわけだ」

 

 つまりは自業自得。その事実を突きつけられ、反論できる人はいないように思ったけど、一縷の望みにかけて1人の生徒が足掻くように手を挙げた。

 

「どうした? 平田」

「……僕たちはそんなこと説明されていません。あらかじめ説明されていれば、こんなことには―――」

「授業に遅れない、欠席しない、私語をしない。携帯を触らない。全て常識だ。あらかじめ説明されていればだと? 逆にこちらから問わせてもらうが、お前らは当たり前のことを言われなきゃできないのか?」

 

 反論の余地もない正論だった。

 平田くんは言葉に窮し、唇を噛み締める。

 

「ちなみにこの学校は実力順に生徒を振り分ける。優秀な生徒はAクラスへ。ダメな生徒はDクラスへ。その結果がこれだ。Aクラスは最も多くのポイントを残し、お前らはポイントを全て吐き出した。誇るといい。これは歴代のDクラスでもなし得なかったことだぞ」

 

 そう言われて喜ぶ生徒なんていない。

 茶柱先生の冷徹な言葉が響き渡った教室には沈黙がおり、空気が重くのしかかってくる。心臓の鼓動さえも周囲に聞こえてしまいそうなほどのその静寂。

 多くの生徒は呆然とし、過ちに気付き、後悔し、今更そうしても意味がないと打ちひしがれている。

 

「それから、この学校は進学率・就職率100%を売りにしているが世の中そんな甘い話はない。それが適用されるのはAクラスの生徒だけと言っておこう」

「ええ……?! そ、そんなの詐欺っすよ!」

 

 生徒の憤慨の声なんてどこ吹く風。

 茶柱先生は毅然とした態度を崩さないで、混乱する生徒をよそに、次から次へと情報を開示する。

 

「ああ、そういえば最後に1つ伝えることがある。今日からちょうど3週間後に中間試験がやってくるわけだが、この学校では、中間及び期末試験において赤点をとった生徒は漏れなく退学となる」

「は、はあああああああ?!」

「だがまあ、安心しろ。馬鹿なお前らでも赤点を取らない方法はあると私は確信している。これから3週間もあれば余裕だろう。何か質問のある奴はいるか?」

 

 私は真っ先に手を挙げた。

 さっきから悪いことばかり聞かされてきて、気が滅入る。だからこそ少しでも教室の空気を払拭したい。

 

「なんだ、嬉野」

「中間試験の告知が3週間前なのは少し遅い気もしますが、それでも赤点を取らない方法はあると先生は今言いましたよね。それは試験が簡単だということですか? それとも裏技のようなものがありますか?」

「教えられないな。それは自分で考えることだ」

「なるほど。では他にも質問させていただきますが、赤点は何点ですか? また中間試験で高得点をとった場合にポイントが増えることはありますか?」

 

 それを聞くと、先生は口の端を吊り上げる。

 だけど回答はさっきと同じだ。

 

「それについても私は教えられる立場にない」

 

 否定も肯定も返さない茶柱先生。

 それは暗に、私の質問に対しての肯定の返事なのだと私は受け止めた。状況次第でポイントは増えるものなのだと先生の表情が語っている。

 

「ずいぶんと秘密主義なんですね。赤点が分からないと生徒は安心して試験に臨めないと思います」

「知ったことではない―――と一蹴するのは簡単だが、そうだな。私も悪魔ではない。赤点を直接教えてやることはできないがそのヒントはくれてやろう」

 

 意地悪そうな笑みが私たちに向けられた。

 何か企んでいそうだ。私は思わず身構える。

 

「これは去年の1年Dクラスの英語の成績だ。プライバシーの観点から生徒の名前は伏せているが、40人全員の点数がここに並んでいるだろう。このテストでは31点以下が赤点。つまり2人が退学になった」

 

 茶柱先生は赤ペンを持ち、黒板に張り出した紙、その31点以下を隔てるように線を引いた。

 だけどほとんどの人は、赤点のことよりも2人が退学になったという事実のほうに釘付けだ。それは学力に自信がない人にこそ強烈な重しとなってくる。

 

 だけど私にはひと筋の光明が見えた。

 みんなには楽観的ではいて欲しくないけど、悲観的な空気を直すために私は再度、声をあげる。

 

「なるほど、理解しました。そのテストでは31点以下が赤点。……で、今回の私たちのテストは?」

 

 先生は不敵な笑みを私に向けた。

 表情というのは雄弁だ。それを先生も理解しているのだろう。教師として答えられないのは変わらないから、私の質問に対する答えは返ってこない。その代わりに先生の表情こそが私への返答だった。

 

「まあここまでヒントをやったんだ。当然と言えば当然だが、このクラスもまだ捨てたものではないらしい。試験まであと3週間。お前らが赤点をとらず、退学者を出さずに乗り切ることを期待しておこう」

 

 そう言うと、ついに先生は教室を出ていく。

 依然としてクラスの空気は重たいままだけど、もうみんなを安心させる材料は揃ってきている。

 

 私は席を立ち、教壇の横に立った。




この流れは原作からあまり変えようがないのが難しいところですね(汗
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