君のことをもっと教えて   作:花音ゆず

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第16話

「それで、私は会長のお眼鏡に適いましたか?」

 

 自分で言うのもなんだけど、私は目が良い。人の感情の機微に敏感だ。だからこそ先生や先輩方がどれだけ言葉を取り繕おうと、だいたいは真偽を見抜ける自信がある。一方で、みんなを安心させるためには客観的な証拠が必要だ。それには言質などが該当する。

 

 ところで、それなら私が会いにいくのは堀北会長である必要性はない。言質を引き出したいなら、むしろ相手が優秀でない方が簡単で、望ましいと言える。

 

 そう―――だから、櫛田さんは勘違いしてたかもだけどさっきまでの会長とのやり取りは茶番だった。

 もちろん私にしてみれば言質を引き出せるに越したことはない。でもそれは今じゃなくてもいい。一方で堀北会長はというと、私という人間を見定めていた。

 だからこそさっきの私の発言に結びついてくる。

 

「ああ、十分なものを見させてもらった。俺の与えたヒントにはすぐに気付くことができたようだな」

「分かりますよ。言い回しが奇妙でしたから」

 

 すぐにでもこの場は話をするに相応しいものになると俺は思っている、と堀北会長は私に言った。

 そんな発言を無視する方が難しいというものだ。

 

「では単刀直入に本題に入るが、嬉野は生徒会に入るつもりはないか? 対価としては、3週間後に迫っている1年1学期の中間考査の過去問を3年分用意しよう。他には無利子でポイントの貸与を行ってもいい」

「話が早いですね。ただちょっと悩みます。生徒会では放課後の時間はどれほど拘束されますか?」

「時期によるな。放課後に時間が取れないのか?」

「……そう、ですね。ちょっと一身上の都合で」

 

 私は言葉を濁した。

 堀北会長なら、ホワイトルームについては伏せた上である程度知ってもらうというのも1つの手だけど、それは会長が求めてきたときでいいと思っている。

 

「一身上の都合か。それなら仕方がない、と言いたいところだが俺としては嬉野のような優秀な生徒は手元に置いておきたい。少し事情があってな」

「褒めていただいて嬉しく思います。ですが私以外にも優秀な生徒ならいるでしょう? 堀北会長からすると私に固執する理由はない気がするのですが……」

「ただ優秀な生徒なら確かに他にも多い。特に今年は、試験結果だけを見れば粒揃いだろう。だがその生徒の人となりはこうして対面で話してみない限り分かるはずもない。現時点で接触できたのは1年生は多くないが、早くに俺の求める人物像と相違ない生徒が目の前に現れたとなれば、惜しみたくもなるだろう」

 

 どうやら相当、私を高く買ってくれているみたい。

 ここまで言われると断るのも申し訳ない。対価も十分にある。ただ本来の仕事も放置できない。

 

「……例えば、生徒会のお仕事は放課後じゃなくて、早朝とか夜間でも大丈夫ならいけると思います」

「本当か? 無理を言ってはいないか?」

「正直なことを言えば、私自身の睡眠や余暇に充てる時間を減らすことにはなると思います。ですが生徒会長に期待いただいてるのにそれに応えないわけにも参りません。それに、対価も魅力的なものですから」

「嬉野がそれで構わないなら歓迎しよう」

 

 その後、私は生徒会加入の書類に必要事項を記入し、代わりにポイントと過去問を受け取る。

 

「い、いいのですか? ここまでいただいて」

「貸したポイントのほとんどはあくまで保険と思え。万が一、クラスメイトの誰かが赤点をとった場合、1点を買うにもある程度の金額を用意する必要がある。もちろん一部は私生活に使ってもらって構わない」

「ありがとうございます。ほんとに助かります。……ところで、会長? ようやく口を滑らせましたね」

 

 そう言って、私はもう1つの携帯端末を取り出す。

 これはさっき綾小路くんから借りたものだ。

 私のスマホは机の上。それを囮にした櫛田さんのスマホは、すでに彼女が持ち帰っている。それを更に囮にした、この場にいない者の端末は想定外だろう。

 

 ……いや、正直、生徒会長なら気付く可能性もあった。おそらく私が生徒会入りを承諾したことで気を緩めたのだろうけど、私は得意げな気持ちになる。

 

「…………本当に用意周到だな。今朝、この学校の概要を聞かされたばかりではなかったか?」

「担任の先生が録音機を使っていたんです。それで重要性が身に沁みて分かりました。言質をとるためにも使えますが、後でお互いの発言を振り返れます」

「いい心構えだな」

「お褒めいただき光栄です。ちなみに、この過去問なのですが、これって3年分のものですよね……?」

「PDF形式で3つ送ったはずだが。違ったか?」

「なんか、見てみたら一緒の問題だったので」

 

 詳しく読めば、3つとも、最初から最後まで一語一句が同じだ。間違えて送られてないかと私は訝しむ。

 

「それなら心配せずともいい。間違えて、同じファイルを3回送ったというわけではないからな」

「……なるほど、そういうことですか」

 

 茶柱先生は私たちが退学者を出さずに乗り切れる方法はあると確信していると言っていた。私はそれに対する解が赤点の算出方法に隠れていると誤解してたけど、どうやらこっちが本命らしい。毎年毎年同じ問題が出るなら、過去問をやってれば心配は要らない。

 

 ただこれも赤点の算出方法についてと同様に、確証がある話じゃない。それに過去問と同じ問題が出るとみんなに伝えたらさすがに空気が弛緩しすぎる。

 

「これは試験前日くらいにみんなに渡します」

「それが賢明だろうな。ちなみに嬉野、俺の言質を求めていた割に、過去問について確認する前に録音を止めてしまうのは詰めが甘いんじゃないか?」

「……む、い、今過去問の問題が3年分とも一緒なことに気付いたんですもん。しょうがないですよ」

 

 私は思いっきし動揺した。

 

「それも含めて詰めが甘いということだ。確認は受け取ってすぐにしろ。少しの油断が命取りになることもあるからな。可愛げがあるのはいいことだが」

「分かりました。心に留め置きます。では会長、私はそろそろお暇させていただきます。今日はお忙しい中お時間とっていただきありがとうございました」

 

 最後に連絡先を交換し、私は生徒会室を出る。

 結果は上々だ。保険としてのポイントも確保できたし、過去問があるから中間考査はほぼ問題ないだろう。生徒会に入ると仕事があるのは痛いけど、会長とのコネクションを持てたのも大きいと私は思う。




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