君のことをもっと教えて   作:花音ゆず

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第2話

 須藤くんの真意は分からないけど、苛立ちを募らせているのは誰の目にも明らかだ。

 

(……そもそも別に自己紹介を強要してはいなかったと思うけど。同調圧力のようなものはあったとは言え、周りに流されるタイプでもなさそうだけど)

 

 何かしら事情があるのかもしれないけど、ちょっと今は判断材料が足りなさすぎる。

 こういうときは事態の推移を見守るのもひとつの手だ。私が沈黙を保っていると、今度は平田くんが、他の誰よりも先んじて収拾に動く。

 

「ごめん、自己紹介はやりたくなかったかな? 確かに同調圧力みたいなものはあったかもしれない。不快にさせたなら、まずはそれを謝らせて欲しい」

「……俺は別に、仲良しこよしするために来たんじゃねえ。自己紹介すんなら後にしろよ」

 

 強がった口調とは裏腹に、目だけが一瞬、迷ったように伏せられる。

 やってしまった―――。

 そんな表情を、須藤くんはした。

 

 だけどそれはほとんど人の目には映らない。

 むしろ平田くんの謝罪が引き金となり、周囲にいた女子たちが憤慨の声をあげる。

 

「何よ自己紹介くらい良いじゃない!」

「そうよ! そうよ!」

「むしろそこで逆ギレの方がダサくない?」

「少しくらい周りに合わせようとか思わないわけ?」

 

 彼女たちからしたら平田くんを擁護する声であったそれは、皮肉なことに、事態の収拾を妨げる。そのことに気付いた彼は表情を暗くし、須藤くんは須藤くんで、再度舌打ちをして睨みを効かせる。

 

「……るせえな。クソが」

 

 そう言って、須藤くんは教室を後にする。

 その足取りは口調の荒さに反して重い。

 さすがに後を追うべきだろう。このまま見送るのはあまりに後味が悪い。

 

「平田くん、ちょっと私も席外すね。彼のことは気にしないで。自己紹介進めてて欲しいな」

「え? あ、ああ……」

 

 平田くんの返事を待たずして廊下に出る。

 すぐには須藤くんに話しかけない。私は慎重に後を追い、彼が校舎を出て近くにあったベンチに座ったのを見て、彼の名前を呼んでから近付いた。

 

「須藤くん」

「あ? ……何しにきたんだよ」

「別に。須藤くんに説教するつもりもないし、無理矢理、教室に戻って欲しいって言うつもりもないよ」

 

 ただ、と私は言葉を続けた。

 

「私は須藤くんと仲良くなりたいし、友達の須藤くんが、クラスのみんなとギスギスしてるのはいたたまれない。だからもし、もし、須藤くんがみんなと仲直りする気が1ミリでもあるなら考え直して欲しいな」

「……それを言うためだけに着いてきたのか?」

「そうだね。須藤くんが謝るなら私も一緒に謝ったげるし、謝るのが嫌なら、それとなくお互いの関係を取り持ってあげてもいい。須藤くんはどうしたい?」

 

 教室では素直になれないことも多いだろう。

 ここには、私と須藤くんしかいない。

 

「俺は―――」

 

 だけど須藤くんには、まだ迷いが見えた。

 あれだけの啖呵を切っておいて、今更やっぱり仲良くして欲しいなんて、そう簡単には言えないだろう。

 

「須藤くん、さっき支給されたスマホ出せる?」

「あ? これのことか?」

「うん、ちょっとだけ借りるね!」

 

 いたずらっぽく笑って、須藤くんが取り出した端末を私は受け取る。そのまま手間取ることなく連絡先を交換し終え、ありがとうと言ってそれを彼に返す。

 

「はい! これで私とは友達! 今すぐに答えを出してなんて言わないから、なんかあったらいつでも連絡欲しいな。私はいつでも大歓迎だからね。あ、でもお風呂入ってるときとかはすぐは返事できないよ?」

 

 会話はテンポが大事だ。

 変に話を長引かせても意味ないから、すぐに返事が来ないのを見た私はそのまま言葉を続ける。

 

「今言いたいのはそれだけかな。じゃ、明日また学校でね。私はとりあえず教室に戻るから」

 

 笑顔で手を振りながら、私は須藤くんの元を離れる。どんなストレスが彼を蝕んでいたのかは分からないけど、彼なら、明日には仲直りできると信じてる。

 

 

 

 

 

 

 私が教室に戻ると、自己紹介は割とつつがなく進んでいた。平田くんの表情は芳しくない様子だけど、クラスとしては、そこまでギスギスした空気じゃない。

 私はほっと胸を撫で下ろしながら席に戻る。

 

「安心して良いよ平田くん。さっき、須藤くんとはちょっと話をしてね、本人もちゃんと反省してるみたいだったから。そんなに気にしないでね」

「……そっか、それは良かった。正直、真っ先に謝ったのは失敗だったなって―――少し後悔してたんだ。でも彼がちゃんと話を聞いてくれたのなら安心だ」

「平田くんはなにも間違ったことしてないよ。むしろ偉くない? 自分は悪くないのに、彼のために誰よりも先に動いたんだもん。みんなもそう思うよね?」

 

 私は教室内を見回した。

 すぐに、平田くんの周りの女子たちが、平田くんを擁護する声をあげる。ただ今度は、須藤くんを下げるような発言をした子は1人もいなかった。

 

「ありがとう。えっと……、ごめん、そういえば君の順番は飛ばして自己紹介進めちゃってて、なんて呼んだらいいかな?」

「あ、もう流れで私の自己紹介やっちゃう感じ?」

「別にいいけど」私はにこっと笑った。教室に入ったときは、ちょうど誰かと誰かの自己紹介の合間だったから、他の人に迷惑をかけるわけでもない。

 

「じゃあ失礼して。私の名前は嬉野ひまりです。人と喋るの好きなので、ぜひみんなと友達にならせてください! あとさっきまで自己紹介してくれてた子には申し訳ないけど、途中で退席して聞けてないから、あとで名前教えてね。3年間よろしくお願いします」

 

 拍手が教室内に響き、よろしくという声が飛び交う。一時はどうなることかと思ってたけど、なんとか悪い空気は払拭されたみたいだった。

 

「改めてありがとう、嬉野さん。それじゃあ次の人―――うん、そこの君だ。お願いできるかな?」

 

 自己紹介は続く。私はその合間合間にリアクションをしながら、学生らしい時間を過ごした。

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