私とホワイトルームを罰する方法(旧題:君のことをもっと教えて)   作:花音ゆず

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第2話

 その翌日は土曜日、休みだった。

 そのため私は、仕事のお昼休みの時間を利用して、綾小路くんの部屋に押しかけていた。

 

「というわけで、良かったら意見が欲しいな」

 

 須藤くんとCクラスの3人。彼らによる喧嘩の顛末を語ると、綾小路くんは少し不満そうに私を見る。

 

「……なぜその話をオレに?」

「だって、綾小路くん頭良いもん。ホワイトルーム生の中でも突出してたって話だったでしょ? それなら私があれこれ考えるより聞いた方が早いなって」

「確かにそれはそうかもしれないが―――」

 

 綾小路くんは言い淀んだ。

 ちょっと面倒くさいと思っているみたい。

 

「綾小路くんは須藤くんのこと嫌い? 最初に友達になってくれた3人のうち1人だったと思うけど」

「……まあ、嫌いではない」

「だったらお願いしたいな。それに、須藤くんが停学になることでcpは下がる。そうなったら貰えるプライベートポイントも下がって綾小路くんも損するよ」

「オレは別にポイントには困ってないぞ」

「そうじゃなくて」

 

 私はこれみよがしにため息を吐く。

 少しくらい協力してくれたっていいのに。

 

「今の立場分かってるよね? 綾小路くんはホワイトルームからしてみれば脱走者なの。ホワイトルームは今後、君を連れ戻すために色々仕掛けてくると思う。どんな手を使ってくるか分からないけど、連れ戻すためには、綾小路くんを退学させる必要がある」

「そうだな。それもこの学校のルール上で」

「うん、そしてそうなった時のために2,000万ppを貯めたいなって思うのは自然なことだよね。そのためにはcpも高い水準で保っておく必要があると思う」

 

 もし須藤くんが今回の件で停学にでもなれば、またガクッとクラスの評価は下がる。退学するとマイナス100cpという話だったからそこまではいかないはずだけど、だとしてもそれは、クラスの40人全員に配られるppの総額を計算すれば無視できないマイナスだ。

 

「だからお願いしたいの。綾小路くんを守るために、綾小路くんの力を借りるだなんて滑稽なことは分かってる。でも私より綾小路くんの方がずっと賢い。それなら私は外聞を気にせずに知恵を借りたいな」

 

 見栄もへったくりもない。

 相手を守るためなら私はプライドを捨てられる。

 

「―――そうだな。駄々をこねて悪い。実はオレとしては、その言葉を直接聞きたかったんだ」

「その言葉?」

「ああ。色々オレのために動いてくれているのに申し訳ないとは思うが、あの施設での経験は、他人を信じるという行為を拒んでくる。それが嬉野のように、ホワイトルームに関わりのある人間なら尚更な」

 

 それはそうだろうと私は思う。

 綾小路くんはホワイトルームを脱走した身。脱走した先で、存在自体が公になっていないホワイトルームを知ってる人がいるだなんて、私が綾小路くんなら気味悪く感じる。自分を連れ戻しに来たのか、それとも監視役か、と疑心暗鬼に駆られることだろう。

 

「だからお前が、どういう本意で今回オレに頼ってきたのか、接触してきたのかを知りたかったんだ」

「……そういうこと」

 

 少しくらい協力してくれたらいいのに、だなんて思っちゃってごめんと、私は心の中で謝った。

 

「それで、私のことは信頼してくれる?」

「すぐには無理だろう。だが信じてみたいとは思う。これもあの施設ではできなかったことだからな」

「そうだね。じゃあ私も頑張らないとね。綾小路くんが人を信頼できるように。私だけじゃなくて、須藤くんや池くん、山内くんとか、平田くんに櫛田さん、堀北さんとかも、みんなのことを信じられるように」

 

 悪性腫瘍は全部取り除く。

 ホワイトルームのせいで人を信じれなくなったというのなら、それを元に戻すのが私の仕事だ。

 

「ああ。そんな日が来るといいな。それで、話を本題に移すが―――須藤の窮地をどうやって救うかだな。これはまず事件のあった現場を見てみないことには始まらないんじゃないか? 喧嘩の流れは分かったが、具体的にどういう状況かはまだ不明確だからな」

「確かに。じゃあ今日にでも見てくるよ、私」

 

 土日も校舎自体は解放されている。

 理科室や多目的室は施錠されていて入れないかもしれないけど、不幸中の幸い、須藤くんは特別棟を3階まで階段で上がってすぐの開けた場所で喧嘩をしたらしい。特別棟はあまり使われないことから人気がないとは言え、どうして目立つ場所で喧嘩をしたのかと思わずにはいられないけど、この際それは仕方ない。

 

「乗りかかった船だ。オレも同行しよう」

「え、そこまで協力してくれなくても……」

「今日は特に予定がなくて暇なんだ。それが、事件の調査目的であっても友達と居られるなら悪くない」

「ふふ、そうだね。分かった。そしたら綾小路くんにも一緒に来てもらおうかな。私じゃ見て取れないようなことでも、綾小路くんなら分かるかもだし」

 

 買い被りすぎだ、と綾小路くんは謙遜する。

 けど事実だと思う。認めたくはないけど、ホワイトルームの教育は確かに人並外れた能力を開花させる。学力や身体能力は言うに及ばず、思考力、発想力など、どれをとっても私なんて足元にも及ばない。

 

「でも綾小路くん? 実際、ちょっと面倒だなって思ってたでしょ? 誤魔化さないで言ってごらん?」

「……その、心を読むの卑怯じゃないか?」

「私が唯一、綾小路くんに勝てるのがこの分野なんだよね。だからついマウント取りたくなるんだよ」

「分かった。なら俺はこれからは、嬉野と喋るときは顔を合わせないようにしよう。これでフェアだな」

 

 そう言うと綾小路くんは体の向きを変え、私と同じ方向を見た。確かにこれなら顔は見れないけど

 

「……だがこれはこれで面倒だな…………。そもそもこの程度、意地を張るほどのことではないが……」

「待て待て。オレの口調でアテレコをするな。顔を見せなくても心を読まれる運命にあるのか? オレは」

「あはは、だって綾小路くん分かりやすいもん」

 

 なんていうのはさすがに冗談。

 前の文脈から、綾小路くんならどう思っているかを推測したに過ぎない。それが当たったのは、私の中の綾小路くん像が完璧に近付いている証拠だった。

 

 もっとも、綾小路くん以上に分かりやすい子だったら顔を見ずとも気持ちを読み取れる。相手が貧乏揺すりをしていたら私じゃなくても相手の感情を見抜けてしまうように、態度というのは表情の次に有弁だ。

 

「それじゃあ、そろそろ出かける準備しないとね。女の子だからちょっと時間かかるけどいい?」

「ああ。用意ができたら連絡してくれ」

「うん、ゆったりしながら待っててね」

 

 私は綾小路くんの部屋を出ると、軽い足取りで自分の部屋へと向かう。想定していたよりも、綾小路くんとの距離が遠くなくて、少しだけ安堵した―――。

 

 

 

 

 

 

 最近の、気温の上昇幅は著しい。

 まだ6月には入っていない今日だって長袖では暑く、ニュース番組によると、早くも真夏日が来た地域もあるらしい。更に梅雨に向けて少しずつ湿気も多く感じられ、理科室などを除いては特に冷房の設置されていない特別棟は蒸し風呂のように暑苦しかった。

 

 これは死んじゃうと思った私は、長袖を肘までまくり、第2ボタンまで開けてぱたぱたと襟元をあおる。

 そろそろクールビズでいいんじゃないかと私は思わずにいられないけど、この学校は施設は新しいのに、そういう随所に古臭いところがある。時代に追いつけてないのか、まだまだ長袖着用が義務になっている。

 

「それで、綾小路くんはなんか分かった?」

 

 事件現場を一応見回しながら私は聞く。

 少なくとも私には、ここを見回したところで、事件解決の手掛かりになりそうなものは見つからない。

 

「まず監視カメラは設置されていないようだな。これを幸と見るか不幸と見るかは微妙なところだ」

「Cクラスの3人は目立つところに怪我をしちゃったらしいから、不幸じゃないかな。今のところその3人の証言と須藤くんに不利な状況証拠が揃っている」

「そもそも暴行したのは事実だしな」

「……それはそう。だけど私は須藤くんが停学になるのは避けたいよやっぱり。それはcpのためでもあるけど、私のために怒ってくれたのがやっぱり大きい」

 

 具体的にどんなことを言われたのかは分からず仕舞いだったけど、須藤くんが言い淀むのなら、それなりに酷いことを言われてたのだと思う。そのせいで怒ったのなら私にも責任の一端というのはある気がする。

 

「それにしても、どうして私が槍玉にあがったんだろうね。私その3人に恨みを買った覚えはないけど」

「須藤が嬉野のことを好きだからじゃないか?」

「……あ、やっぱりそれ意外と知られてるんだ」

「みんな口には出さないが気付いている奴は多いかもな。例えば堀北相手に須藤が激昂したときがあったが、あれを止めれたのも嬉野だったからこそだろ」

 

 好きな人を中傷して感情を煽る。なるほど、確かに効果的で悪辣な方法だ。だからこそCクラスの3人には嫌悪感が募り、暑さで鈍ってた頭も冴えてくる。

 

「その3人が須藤くんを煽ってたの、結構、確信的というか計画的だったりするかな。こういう、監視カメラがないところを事前に目星つけていたというか」

「その可能性は大いにあるだろう。Aクラスになれば就職や進学の特権を得られるのだから、基本的に他クラスは敵だ。自分より下に位置するクラスを潰しておくというのも1つの手段。そのために学校側が用意する試験外で乱闘を起こすというのは悪くない方法だな」

「私はそういう卑怯なの好きじゃないけどね」

「好むと好まざるとに関わらず、おそらくこうしたやり方は増えていく。早めの心構えが必要だろうな」

 

 人間というのは残酷だ。どんなに優しい人でも、目的のためなら、何かを犠牲にできてしまう。他人を傷付けることを厭わずにできてしまう人もいるし、他人を傷付けるという事実から目を反らす人もいる。

 それは否定したくても否定できない現実だった。

 

「……そう、だね。でも今のところ分かるのはこのくらいかな。解決の糸口には繋がらなかったかも」

「落ち込むことはない。ここで見たもの聞いたものが、今後どこかで役に立つこともある。まずは熱中症にならないよう、ひとまず寮に戻ろうとしよう」

「そうだね。私も仕事あるから戻らなきゃ」

 

 ふう、と息を吐いて私は気持ちを切り替える。

 

「それなんだが、このまま同席しても良いか? 嬉野がしている仕事がどういうものなのか興味がある」

「もちろん! 綾小路くんなら大歓迎だよ」




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