須藤くんとCクラスの3人との間で起きた喧嘩。
それに対し、Dクラスとしてまず取った方針は、全員で解決策を出し合うというものだった。また目撃者探しや怪我を負った生徒との接触等については、堀北さんと櫛田さん、平田くんが主に動くことになる。
じゃあ私は何をするのかというところだけど……
「嬉野さんは私と一緒に目撃者を探しましょう。あなたは事件の当事者に因縁を付けられた身だもの。当事者との接触がうまくいくとはちょっと思えないわ」
昼休み。早速といった様子で、私に話しかけてくれた堀北さんに対して、私は気まずくて目を泳がせた。
「あ〜、えっと、ごめん。ちょっと……」
「何か都合の悪いことでもあるのかしら?」
「う、ん……。実は、ちょっと前に生徒会に入ったんだ。それで、生徒会って基本、中立の立場でしょ? だから、生徒会役員としてどこまでクラスのために動いていいのか、正直まだ分かっていなくて……」
この前は綾小路くんと一緒に事件現場を確認したけど、それは、事件がまだ明るみに出ていない上に、目立つ行動ではなかったからこそ出来たことだ。
今回のように大々的に動くとなると勝手が違う。
「―――。あなた、生徒会に入っていたの?」
「うん。生徒会長が推薦してくれてね。ほら、中間考査の過去問もポイントも会長から貰ったんだよ」
そう言うと、側で会話を聞いていた櫛田さんに平田くんも、驚きを露わに身を乗り出してくる。
「ええっ?! 嬉野さんそれ本当?!」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「僕も全部初耳だね。どっちも先輩から貰ったんだとは言っていたけど、そういうことだったんだ」
……そういえば、そのことは言ってなかったかもしれない。生徒会役員になったなんて、わざわざ話すほどのことじゃないと思ってたから。
「先輩からもらった」と言ったのも、別に隠し事をしたかったわけじゃない。うっかりしてた。
「えっと、ごめん、もっと前に言っておくべきだったかも。だけどそういうわけだから、申し訳ないんだけど先に進めといてもらってもいいかな? 私はとりあえず生徒会長に確認してからじゃないと―――」
そう言おうとしたところ、私のスマホが着信音を奏でる。見ると相手は堀北会長だ。噂をすればと思いながら、私は3人に断りを入れて、その電話に応じる。
「もしもし」
『突然の電話で悪いな、嬉野。すでに1年全体で情報は共有されていると思うが、お前のクラスの須藤という生徒とCクラスの男子3人が起こした喧嘩について、話したいことがある。今は時間大丈夫か?』
「はい! ちょうど、その件で会長に連絡入れようと思っていたところですから、全然大丈夫です!」
『ほう? それなら話が早い。これから俺が話す内容は、お前が気にしていることに繋がっているだろう』
見透かすような声に、私はごくりと息を呑んだ。
『嬉野の目の前には今、2つの選択肢がある。Dクラスの生徒として須藤を擁護するか、あるいは、生徒会役員として審議の場に出席するか。そのどちらかだ』
「選べるんですね。ちなみに、後者の立場になるなら、須藤くんを助けるために動くというのは……」
『悪いが極力、慎んでもらうことになるだろう。生徒会の中立性を損なわないために必要なことになる』
やっぱり、そうなるよね……。
私は頭を悩ませる。須藤くんを助けたいなら、肌感覚としては、前者の立場を選ぶべきだ。だけど目撃者探し自体は相談箱にも関連してくるから、後者の立場に立っても仕事の一環としてすることができる。
それに、わざわざこの話をするってことは
「会長はどうしたら良いと思いますか?」
『どうするのが良いかはお前が決めることだが、俺としては生徒会役員として審議の場に出席して欲しいと思っている。こうした仕事は頻繁にはないからこそ、この機会に経験を積んでもらいたいところだ』
会長は私に期待を寄せてくれている。
そうなると、どちらを選ぶかは、そう簡単には決められそうになかった。
「……分かりました。ひとまず友達の考えも聞きたいので、後で折り返しお電話しても大丈夫ですか?」
『構わん。だが電話は不要だ。友人ともじっくり相談した後、メッセージを送ってくれればそれで良い』
「ありがとうございます。では、失礼します」
通話が切られると、私はすぐに堀北会長と話した内容を3人に伝える。もちろん、生徒会の仕事としても目撃者について聞き込み調査をできること含めてだ。
すると返ってきたのは好意的な言葉だった。
「いいんじゃないかしら。元々、Cクラスの生徒と接触する役割を担うのは櫛田さんと平田くんなのだし」
「そうだね。どちらにしても、目撃者探しはできるんだろう? それなら堀北さんの負担が増えることもないだろうし、やりたい方をしたらいいと思うかな」
「私も2人の考えに賛成かなっ。須藤くんのために全力で動けなくなるって、負い目を感じる必要は全然ないよ。嬉野さんはもう十分動いてくれてると思うもん」
そう言ってくれると、気が楽になるな。
「……ありがとう、みんな。そしたら私は生徒会の一員として動くことにするよ。ひとまず今日からの3日間、須藤くんとクラスのためにお互い頑張ろうね」
みんなの言葉に背中を押されて、ようやく覚悟が決まった気がした。
私は堀北会長にメッセージを送り、その返事を待つ。既読がつくと同時には歓迎の言葉が届いた。それからすぐに生徒会室に来れるかとお願いされる。
どうやら忙しくなりそうだ。
私は3人に軽く手を振って別れを告げると、生徒会室まで足を運ぶ。中立という厳格な立場。身が引き締まる思いで、私がその重厚なドアを開けると―――
「来たか」
整然とした空気に混じる、いつも以上の緊張感が私を出迎える。堀北会長は書類を手に座っていた。
「今日はお招きいただきありがとうございます」
「ああ。……礼儀正しいのは良いことだが、そう畏る必要はないぞ。お前も生徒会の一員だからな。さて、早速本題に入る前に、昼食はまだだったか?」
「はい。まだお昼ご飯は食べてないです」
「なら良かった。アレルギー体質でないなら、用意しておいたこの弁当を食べながらでも話を聞いてくれ」
と、私の目の前に、食堂で買ったと思われる弁当とお茶が置かれる。弁当の中身はご飯に唐揚げ、キャベツサラダとたくあんだ。定番だけど美味しそうで、私は目を輝かせながらご厚意をありがたく受け取った。
「さて、最初に話すのは審判の段取りについてだが、予定通りなら3日後の昼休みに行われることになっている。本来なら時間が長引くことも見越して放課後に行うのだが、嬉野は放課後時間がとれないということだったからな。教師にお願いした結果そうなった」
「お気遣いありがとうございます。助かります」
「ああ。それで、肝心の仕事内容についてだが、まあ裁判を思い浮かべてもらえれば分かりやすいだろう。あれほどに厳格に進行をするわけではないが、大雑把な枠組みはだいたい一緒だと考えてもらっていい」
それから具体的な説明を受け、私は頷いた。
「ちなみに本当の裁判であれば法律を参照して然るべき罰則を与えるが、ここでは、基本的にはこれまで積み重ねてきた事例を参照することになる」
「……判例、みたいな感じですか?」
「そうだな。そう受け取ってもらって構わん。だからまず、嬉野には過去の事例を把握してもらいたい」
手渡された分厚いファイルは、まるで責任の重大さを象徴するみたいに、ずっしりと重みがある。
「だが安心しろ。これは全てを覚えろということではない。なんとなく雰囲気を理解すればそれでいい」
「分かりました」
「次に、以前相談箱に寄せられていた目撃者の件を覚えているか? あれは今回の件と関係があるだろう。こういった場合、目撃者には任意で審議の場に出席することを求めるのだが、今のところ誰なのか見当がついていないからな。嬉野に探してもらいたい」
「そんな大事なこと任されてもいいんですか?」
「もちろん俺も協力する。が、基本的には別行動で任せることになるだろう。まあこれも心配は要らん」
そのあとは、生徒会役員としての避けるべき言動について、堀北会長が丁寧に教えてくれた。
気がつけば、昼休みが終わる5分前。予鈴が鳴る頃、ようやく私は話の全体像をつかみはじめていた。