君のことをもっと教えて   作:花音ゆず

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長らくお待たせいたしました!


第7話

 放課後は例の如く仕事があるから、私が動き始めたのは翌日の昼休みだ。生徒会役員という責任ある立場にいるというのもあるけど、他学年の階に足を踏み入れるのはやっぱり緊張感が強い。廊下を歩きながら、気持ちを切り替えるように私は深く息を吸った。

 

 そこで思いがけない人物が私の前に現れる。

 

「ご無沙汰してます、南雲副会長」

 

 私が声をかけると、南雲先輩は以前のように飄々とした笑みを浮かべながら近付いてくる。

 隣には1人の女子生徒を連れていた。

 

「誰かと思えばひまりじゃないか。こんな場所で何してるんだ?って、―――聞くまでもないことだな」

 

 お互いに短いやり取りだけで意図が通じるのは、南雲副会長もこの件を把握しているからだろう。

 私の用件を察したように先輩は少し肩を竦めた。

 

「例の件で伺おうとしたところです」

「だろうな。だが1人でやっているのか?」

「はい。堀北会長はまず3年生から聞き込みをされるとおっしゃっていたので、仕事を分担して、私は2年の先輩方の元を訪れるのが効率的かなと思いました」

「そうかもしれないな。だが1人でやるには荷が重い仕事だろ。俺が先輩として手伝ってやろうか?」

 

 その言葉とは反対に、瞳に心配の色はない。

 

「ありがたいお言葉ですが、いいのですか?」

 

 私は南雲副会長の隣の女子生徒に視線を向ける。

 知らない顔だから、たぶん先輩だろう。

 茶髪は腰あたりまで伸びたストレートで、頭部の右側にひまわりを模した髪飾りをつけている。

 少し見た限りでは親密な様子だったけど……

 

「俺となずなは、ひまりが想像しているような関係じゃないぜ。だから気にする必要はない。だろ?」

「……え〜、雅は気にした方がいいと思うけど?」

 

 なずなと呼ばれた女子生徒は、本気で怒った風ではないけど、ぷくっと頬を膨らませて反論する。

 対する南雲副会長はすぐに白旗をあげた。

 

「分かった分かった。埋め合わせは後でしてやる。それでいいか?」

「はあ、仕方ないなあ。約束だからね?」

「ああ、俺に二言はないぜ」

 

 いつもやってそうな軽いやり取りを終え、なずな先輩が立ち去ると、南雲副会長は私に向き直る。

 

「―――さて、これで問題ないよな?」

「ええっと、まあ、先輩方がそれでよかったなら」

 

 残った空気感に若干の申し訳なさを覚えながらも、助力を断れるはずもなく私は小さく頷いた。

 

「それじゃあ移動しようぜ。良かったな、俺は2年生全体に顔が効くんだ。仕事が早く終わりそうだろ」

「ありがとうございます。心強いです」

 

 副会長の目的が私への手助けとは別のところにあるにせよ、その言葉が頼もしいものであるのに変わりはない。私は素直に、感謝の気持ちで頭を下げた。

 その後、私たちはまず、南雲先輩の所属する2年Aクラスから回ることにした。すぐに教室の前までたどり着くと、南雲副会長はためらいなくドアを開ける。

 

「お前ら少しいいか? 少し話がある」

 

 その言葉に、教室に残っていた全員がこちらを見た。統率がとれているというのはこういうことを言うんだろう。南雲副会長が少し声をかけるだけで、教室全体がひとつの生き物であるかのような動きだ。

 

「こいつは俺の可愛い後輩でな、新しく生徒会に入ることになった1年生だ。それで早速、生徒会の仕事絡みでお前らに聞きたいことがあるらしいぜ」

 

 副会長は私の肩に手を置いて紹介をする。すると何人かの女子生徒から嫉妬混じりの視線が飛んでくる。

 私はそれを居心地悪く感じたけど、南雲副会長のおかげでスムーズに話を進められそうなのは間違いないから、その目線を知らないふりをして口を開いた。

 

「初めまして、1年生の嬉野ひまりです。生徒会役員としてこの場をお借りさせていただこうと思います」

 

 私は軽く会釈をし、早速、持ってきた資料を片手に話し始める。詳細な日時、事件の概要、目撃情報の必要性。それらを丁寧に、けれど簡潔に伝える。

 それを受けて、先輩方はお互い顔を見合わせた。

 そう簡単に見つかるはずもない……ね。

 

「残念、俺のクラスには目撃者はいないな」

「……そうみたいですね。でもまだ次があります」

 

 私は小さく微笑んで答えると、深々と頭を下げ、教室を後にした。心の中では落胆してるけど仕方ない。相談箱に寄せられていた内容からして目撃者がいるのは確実だから、地道にやっていくしかないだろう。

 そう意気込んで、私は南雲副会長の先導につき従うようにして、2年生の他クラスにも聞いて回る。ただ結局はどこも空振りで、今日の収穫はゼロに終わった。

 

 

 

 

 

 

 残った昼休みの時間で、私は南雲副会長と一緒に食堂に向かった。多くの生徒は昼休みになってすぐに食堂へと向かい、食べ終わると教室に戻るから、私たちは難なく食事を受け取ったあと空いてる席に座る。

 

「でも良かったんですか? 学食が奢りだなんて」

「……お前、礼儀正しい割に、意外と大胆だよな。スペシャル定食頼んだあとに言うことか? それは」

 

 会長のツッコミに、私はくすりと笑った。

 

「副会長が相手ですから。わざわざ奢ってくれるって言うのに、遠慮する方が失礼じゃないですか」

「確かに俺は遠慮されるのは好きじゃないな」

「ですよね。南雲副会長が気前のいい先輩でよかったです。こう見えて私、食い意地張ってるんですよ」

 

 いただきます。そう言って箸を手に取った私は、豚カツをひと切れ口元に運ぶ。サクッとした食感と、噛む度じゅわっと溢れる肉汁。作り置きとは思えないその美味しさに、ほっぺたが落ちそうになる。

 

「まったく、美味しそうに食べるな。そこまで喜んでもらえるなら奢った甲斐があったってもんだ」

 

 南雲副会長はそう言って控えめに笑った。

 そうして和やかムードになり、私と会長は談笑を交えながら箸を進める。それは例えば、趣味の話や、学校で楽しかったこと、それから異性のタイプだとか、そういう、本当に些細でとりとめのない話題だ。

 

 だけどそんな平和な時間も長くは続かない。

 ちょうど、お互いに食べ終えた頃、南雲副会長はふと真剣な表情になって私を見つめる。ここからが本題なのだと私は直感した。そもそも今日、副会長が私に着いてきたのは手助けをするためじゃない―――

 

「そろそろ昼休みも終わるから、最後に真面目な話をするぜ。ひまりのクラスは今割と窮地だろ? そもそもポイントが少なかった上に、Cクラスが謀ったことかは知らないが、1人の停学か退学がかかっている」

「そうですね……。目撃者も見つかってません」

「ああ。そこでだ、お前たちDクラスを手助けしてやってもいいんだぜ。その方法はすでに頭の中にある」

 

 南雲副会長は自信をあらわに、指先で自らのこめかみをとんとんと叩いた。

 藁にも縋る思いの私はつい身を乗り出す。

 

「え、それは本当ですか?!」

「単純な話だ。目撃者をでっち上げればいい。目撃者が1人しかいないだなんてことはないからな」

 

 確かに、その方法は私も考えたことがある。

 でもリスキーだ。目撃者をでっち上げたことが明るみに出れば、どんな罰則が待っているか分からない。そんな私の思いを見透かしたように、南雲副会長は口の端を吊り上げる。私は思わずドキリとした。

 

「もちろんリスクはある。が、俺が協力すればその恐れは最低限度に抑えられる」

「……どういうことですか?」

「それを教えてやってもいいが、何の対価もなしにっていうのはいくらなんでも甘い話じゃないか?」

 

 南雲副会長には強い影響力と人脈がある。それは今日、2年Aクラスに限らず、他クラスでも目撃者探しが驚くほどスムーズに進んだことからも明らかだった。

 つまり、副会長には目撃者を装えるほど優秀な生徒に心当たりがあり、その上で橋渡しの役を買って出られる立場にあるということなのかな。そう推測した私は、一切の迷いを見せることなく静かに頷いた。

 

「理解が早くて助かるぜ。それで肝心の条件だが、―――俺の女になるってのはどうだ?」

 

 唐突で、時代錯誤な要求。

 私はそれを聞いても戸惑うことなく、真意を探るために、南雲副会長の様子をつぶさに観察する。

 

 品のないその言葉に反して、下心があるようには見えない。好意を寄せてくれているわけじゃないだろう。もちろん私の身体目当てということもない。

 そもそも、この会話をすることは先輩にとって既定路線だ。それは私の仕事に対して南雲副会長が助力を申し出てくれたときに抱いた印象とも矛盾しない。

 

(……、ということは)

 

 南雲副会長の意図は初対面のときに交わされていた言葉、そこに隠されていると考えるのが自然だ。

 

「どうした? 友達を守るんじゃないのか?」

 

 側から見れば私はその要求に絶句しているように見えるのか、南雲副会長は薄笑いを浮かべて催促する。

 

「……そう、ですね」

 

 だけど急ぐ必要はない。

 適当に相槌だけはうちつつ、私は堀北会長と南雲副会長とが交わしていた言葉を丁寧に思い出す。

 

(ああ、そういうこと―――)

 

 答えはすぐに見つかった。

 簡単な話だ。

 会長と副会長は敵対関係にある。私は堀北会長のお気に入りらしい。そんな私に手出しはしないと言った割に、最後に、また会おうぜと伝えられた。

 

 その上でこの要求内容だ。

 つまり私に手出しをしないというのは全くの嘘。

 

 実力至上主義の学校で、あまた新入生がいる中、堀北会長は私を生徒会役員に選んだ。その価値を副会長が理解してないはずがない。だからこそ―――敵から大事な駒を奪う。南雲副会長の狙いはそこにある。

 

(……要するに、自分で言うのはこそばゆいけど、私は利用価値のある駒だと思われてるんだよね)

 

 でも私がすべきことは変わらない。

 堀北会長からは愛想良くしておけと言われている。

 

「……話を持ち帰る、というのはなしですか?」

「無理だな。今この場で決断することだぜ」

 

 副会長は余裕の笑みだ。一方の私は、悩んだ表情を見せつつ、慎重に言葉を紡いでいく。

 

「それは……、だとすれば頷けません。体を売るぐらいの覚悟はありますが、やっぱりリスクは完全には無くならないはずです。目撃者を見つけられる可能性が残されている現状でその選択肢は選べないです」

「それは残念だな。後悔するかもしれないぜ?」

「……そうかもしれません。でも目撃者を偽ったことが学校にバレても、それはそれで後悔します。それなら私は正当なやり方で後悔したい。そう思います」

 

 胸に手を当て、真剣な眼差しで私は訴えかける。

 南雲副会長は自信家だ。そういう人は、得てして自分に反旗を翻す者を排除しようとする。だけど反対意見を全く聞き入れないわけじゃない。それが真摯な考えであれば受け止める程度の寛容さをも併せ持つ。

 

 だから拒絶されても、副会長は上機嫌に笑った。

 

「それがお前の選択なら仕方ないな」

「先輩のご厚意を断ることになってごめんなさい。でも、……この考えは譲れませんから」

「謝る必要はないぜ。そういう、芯のあるところを堀北会長は気に入ったんだろうな。大人しい子と言ったのは撤回する。なるほど確かに生徒会に相応しい」

 

 手放しの賞賛に私はこそばゆくなり、真面目な表情を一転させて、頬を緩める。それと同時に安心した。

 堀北会長と南雲副会長との間にある敵対感情。

 そこに巻き込まれるのは立場上避けようがないことだけど、私自身はできれば仲良くしたいと思うから。




私事ではありますが、今月から本格的に就活等が始まり忙しくなるため、当初より更新ペースが少し落ちてしまうかもしれません。ご了承ください。
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