君のことをもっと教えて   作:花音ゆず

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更新遅くなってごめんなさい…!
体調不良のため寝込んでおりました(泣)


第5話

 昼休みになると、多くの1年生は友達同士で食堂へと向かう。中にはコンビニで済ませようとする生徒も数名見かけたし、クラスには1人だけ自作の弁当を持ってきていた女子生徒もいたけど、逆に言えばそれ以外の生徒は全員、一斉に食堂へと流れ込む。

 結果として、それなりにキャパシティのあるはずの食堂は、それは見事に生徒たちでごった返していた。

 

 とは言っても、食券はもう、2時間目と3時間目の間の休憩時間中に私は購入している。一応返金対応も可能だろうけど、こちらの都合で働いている人の仕事を増やすのは忍びなく、私たちは長い列に並んだ。

 

「嬉野さんは何にしたの?」

 

 みーちゃんが私に聞く。

 ちなみにみーちゃんとは、王美雨さんのことだ。幼少期からそう呼ばれてたみたいで、それに倣って呼ぶようにしてる。距離がぐっと縮まった感じがする。

 

「山菜定食だね。0円だったから気になって」

「え……?! 嬉野さんあれ買ったの?!」

「うん、ちょっと冒険心が出ちゃった。山菜って普通に買ったら高いのに、ご飯とお味噌汁もついて0円なんて、どんな訳あり定食なんだろうって思って」

「……確かに、気になりはしたけど…………」

「ポジティブに考えよ。普通に美味しいご飯と普通に美味しいお味噌汁に、山菜までセットで付けてくれてる。そう考えるとなんだかいけそうじゃない?」

「た、確かに……?!」

 

 私の口先に騙された井の頭さんが力強く同調してくれた。私もなんだかお得な買い物した気分になる。

 そんな風に、しばらくとりとめのない話をしていると、だいたい10分ほどで私たちの順番が回ってくる。私は食券と引き換えに山菜定食を受け取った。湯気の立つお味噌汁と、普通のご飯と、何の変哲もない山菜の炒め物。全然写真通りで、私の期待感が高まる。

 

「わ、意外と普通だね。……まあ味気ないけど」

「主菜らしい主菜じゃないからね。美味しかったらちょっと分けてあげるよ。ちょっとだけ」

 

 私たちはちょうど空いたテーブルに腰を下ろす。

 ちょうどその時、何気なく辺りを見回していた私は―――遠くの席で、1人静かに食事をとってる綾小路くんを見つけた。心なしか哀愁が漂っている。

 

「な〜に見てるの?」

「ん、ちょっとね。綾小路くん1人でかわいそうだなあって」

「……綾小路くん?って誰だったっけ?」

「顔見たらなんとなく思い出すと思うけど」

「んん〜?」

 

 石倉さんが私のほうに身を乗り出して、私が指差した方向を見る。

 

「あ、確かに見たことある気がする。イケメンなのに喋らないの、もったいないことしてるよね」

「人見知りなんだろうね。今度話しかけてみようかな」

「え? 嬉野さんってああいうのがタイプ?」

「そういうのじゃないけど、せっかく同じクラスなんだからみんなと喋りたいもん。相手がそういうの歓迎しない様子なら無理には話しかけないけど」

 

 そう言いながら、私は山菜を箸でつまんだ。

 食欲をそそられるような匂いはしないけど、実は美味しいかもしれない。何の根拠もなく期待に胸を膨らませ、山菜の炒め物を咀嚼し、飲み込む。

 

(……これは、すごい、山菜そのままだね)

 

 私は微妙な顔で箸を動かす。

 決して不味いなんてことはない。けど、塩胡椒やポン酢などによる味付けは一切されてない。純度100%、山菜の味に全幅の信頼を寄せているような味がする。

 これならお浸しにしたほうがいいと私は思った。

 

 

 

 

 

 

 食事を終え、Dクラスの教室へと戻ると、まだ人は少ないながらも教室内ははっきりグループに分かれていた。

 私は一度みーちゃんや井の頭さんと別行動をとり、自分の席につくと、隣席の須藤くんに話しかける。

 もうほとんどの生徒は昨日の件をあまり気にしてないとは言っても、仲良しこよししに来たわけじゃねえと強い口調で言われた手前、彼に話しかける人はいない。だから彼はスマホを見て時間潰しをしていた。

 

「やっほ、須藤くん。今朝からあまり話しかけられなくてごめんね。昨日のことだけど、もう気持ちの整理はついたかな? 須藤くんなら大丈夫だろうけど」

 

 私は自分の机にぐでっと身を預けて、須藤くんの顔を下から覗き込む。

 須藤くんはすぐにスマホを置いた。

 

「……まあ、そうだな。1日経てば頭も冷えるってもんだぜ。昨日の俺は正直どうかしてた。ただ……、なんつーか、その、謝るってのが上手くいかなくてよ」

「そんなことだろうと思った。でも安心して? 今の時代便利でさ、それにみんないい子ばっかりだから、無理して対面で謝らなくてもチャット使えば良いんだよね。細かい誤解は私のほうで解いておくからね」

 

 本来、こうしたチャットアプリは、誠意が相手に伝わらないことから謝罪のためには好まれないツールだ。だけど謝罪をする相手によっては、そして間を取りなす人によってはその点は問題なくなる。

 

「何から何まで助かるぜ、嬉野。けどなんでそこまでして俺なんかの助けをしてくれるんだ?」

「私のことは気兼ねなくひまりって呼んで。別に理由なんてないよ? 須藤くんは大事な友達の1人だもん。このくらいの協力はやって当たり前じゃない?」

「……そうなのか。なんだ、その、ありがとな」

 

 須藤くんは照れ臭そうにそう言った。

 耳まで赤くなっているのが見えたけれど、彼の自尊心のために、そこは触れないで話を進める。

 

「気にしないで。ひとまず須藤くんはクラスチャットに招待しておくね。個別に謝るか、それともこのグループで謝るかは須藤くんに任せるよ」

「ああ。どっちでも謝らないといけねえな」

「うん、できるならそれが一番だと思うよ」

 

 それから手っ取り早く、私はクラスチャットへの招待を須藤くんに送る。すぐに須藤くんはそれを受け入れると、簡素だけども、謝罪の意図はしっかりと伝わるだろうメッセージをグループに送った。

 1つ、また1つと既読がついていく。まだ返信はない。こういうのは最初に反応するハードルが高いものだ。誰かしらが返信すれば、変わってくるのだけど。

 

 しばらくそのまま画面を見ていると、3分ほどして、1人の生徒が返信をする。櫛田桔梗さんだ。

 

『わざわざありがとう! でも気にしないで。須藤くんにもなにか事情があってのことなんだろうし。もうすぐ教室に戻るから、これから仲良くしようね』

 

 その後は好意的なメッセージが次々と送られてくる。返信をしてない人も、その多くは須藤くんが送ったチャットに良いねを付けているようだった。

 須藤くんがクラスに受け入れられた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 学生としての1日が終わり、私はちょっとスーパーに寄って食材を買ってから帰路についた。

 

 ここからは昨日と同じように仕事の時間だけど、今日は特別に仕事がある。それは、昨日カウンセリングをした際に雪が伝えてきた『学校に通いたい』というお願いを叶えること。それは普通はカウンセラーの仕事じゃないけど、私にとっては、これは私の仕事だ。私がしたいことだって言い換えてもいいかもね。

 さて、今日入れてあるカウンセリングの予定は全部で5件。1人目は16時からの予定だから、寮に着くと私はすぐに準備を行う。その後2人目のカウンセリングを終えると、時刻は18時をちょうど過ぎた頃だった。

 

 19時には次のカウンセリングの予定がある。

 そのため、私は適当に料理をして夕食を済ませると、時間がある内に、ある人に電話をかけた。

 

「―――もしもし、お忙しいところ恐れ入ります。雪さんのカウンセリングに携わっております、嬉野ひまりと申します。今お時間よろしいでしょうか?」

 

 すぐに快い返事をいただいて、私は少し安心する。

 

「ありがとうございます。もしかすると彼女からすでにお聞きしているかもしれませんが、昨日、雪さんのカウンセリングをしたところ、妹さんと一緒の学校に行きたいとおっしゃっておりまして―――」

『本当ですか?! それは、雪が、自分で……?』

 

 電話越しに、大きな息遣いが聞こえてくる。

 声にならない喜びが滲んでいた。

 

「はい。最初は私のいる高校に入りたいと伝えてくれたのですが、それでは雪さんのためにならないからとお断りしたところ、それならせめてというかたちではありましたが……雪さん自身の言葉で私に伝えてくださいました。ご家族としてはどうされますか?」

『それはもう、雪の気持ちを尊重したいと思います……! 妹は来年度に高校生になりますが、まだ志望校も固まっていないようで、一度このことも踏まえた上で妻とも2人のことを考えていこうと思います』

 

 妹さんが来年度に高校生になるということは、雪はそれに合わせて、入試の勉強を1年間で終わらせないといけないということ。普通なら入れる高校の選択肢は多くないけど、皮肉にも彼女は元ホワイトルーム生で、施設内でも上位の成績を収め続けていたから、学力面での心配をする必要性は無さそうだ。

 

「そうですね、それがいいと私も思います。上には許諾を取るため私から連絡させていただきます。おそらく大丈夫だろうとは思っていましたが、その前に、雪さんのお父様のご意向を伺えて安心しました」

『何から何まで本当にありがとうございます……! また日を改めて、妻共々、直接お礼させてください』

「いえ、お気持ちだけありがたくいただきます。私としてもまたお会いしたい気持ちはあるのですが、一応今は高度育成学校の学生という立場ではあるので、残念ながら、在学中では敷地外に出られないようで」

 

 分かっていたことだけど、この制約は私の仕事にかなり響く。カウンセリングは通常、対面で行いたいものだ。対面なら把握できる相手の細かい仕草、例えば手足など末端の動き、それは画面だと把握しにくい。

 だから学校がない土日とか、敷地外に出れるチャンスがあるならいつでも出たいのだけど、入学前に坂柳理事長と交渉した限りだとそれは難しいようだった。

 

『そうでした、ご入学おめでとうございます先生』

「ありがとうございます。……では、そろそろ次のカウンセリングが控えておりますので、勝手ながら失礼させていただいてもよろしいでしょうか」

『もちろんです。本日はお忙しい中、ご連絡いただきありがとうございました』

「こちらこそありがとうございました」

 

 そう言って電話を切ると7時が迫っている。私はすぐにパソコンに向かった。

 ―――さて、ここからはいつも通り仕事の時間だ。

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