『生徒の皆様にお知らせいたします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まりください。間もなく島が見えて参ります。しばらくの間、非常に意義ある景色をご覧いただけることでしょう』
時計の大きな針が11を指した頃、突如として船内に、そんなアナウンスが流れてくる。
予定されていた時刻とは大きく違わない。
船は順調に進み、もうすぐ目的地に着くらしい。
そのことに生徒の期待は最高潮に達し、AクラスからDクラス、総勢160名近い人が、一気に流れ込むようにデッキへと向かう。私とここちゃんは今朝行った場所だけど、島が見えるならと立ち上がった。
そうして生徒が集まった船の前甲板は、いかに豪華客船と言えど少し手狭だ。女子ということもあって見えるように前の方を譲ってもらい、私は前方を見る。
前から迫ってくる無人島はかなり巨大だ。
そのほとんどが緑に覆われ、人工物は見られない。
事前の学校側の説明では、これから1週間はこの無人島のペンションで過ごすはず。それなら島を周遊し始めた船のデッキから見えてもおかしくないけど、見えたのは整えられたビーチや洞窟程度だ。
(……見えないところに建っているのかな?)
1学年を収容できるスペースとなるとそれなりに大きいはずだけど、死角でもあったのだろうか。
そう考えてみるものの、ここにきて、私の心の中で違和感が前面に出る。これは―――そう、入学してからちょうど1ヶ月が経った、あの時と同じ胸騒ぎ。
その後、船が停泊し、再度アナウンスが流れる。
どうやらこれからジャージに着替え、必要な荷物を持ってからクラスごとに集合する流れのようだ。
私はもう一度、無人島に視線を向ける。
「ひまちゃん? 何してるの?」
「……ううん、なんでもない」
強いて、良かったことを言うとするなら。
休まずこの旅行に参加して正解かもしれなかった。
*
各々準備が終わると、私たちはクラスごとに再度、デッキに集合する。
停泊したこともあって先ほどまで感じられた風も小さくなり、ギラギラと照り付ける太陽の光が、私たち生徒の体力を少しずつ奪っていく。ものの数分で額に汗が滲む猛暑日。一刻も早く涼しい場所に移りたいけど、Aクラスから順番に、とのことだった。
「……大丈夫? 暑いの、苦手だった?」
たまたま近くにいた堀北さん。
その様子はいつもと同じくクールなように見えて、だけど私の目はそこに彼女の余裕の無さを感じ取る。
「別に、このくらい問題ないわ」
「……体調悪かったら言った方がいいと思うけど」
「ちょっと、人の話を聞いているの? 私は問題ないと言っているじゃない。それに、さっきから少し、嫌な予感がしているの。あなたもそうじゃないかしら?」
「不安が的中しないことを祈ってるところだよ」
そう言うと、堀北さんはやっぱりと口にする。
堀北さんは強情だ。本来なら体調悪い人を無理させられないけど、ここで押し問答しても無意味だから、話を逸らされたのは気付かなかったことにした。
その後は堀北さんの元を離れ、暑さに不満をこぼす須藤くんを宥めたり、みーちゃんやここちゃんたちと喋っているとようやくDクラスの順が回ってくる。
「携帯はこちらに預けるように」
船を降りたところで、言われた通りに携帯を渡す。
茶柱先生の表情はどこか真剣だ。
もし先ほどから違和感を全く感じていなければ生徒の命を預かる仕事だからということで流していたところだけど、私はそこに致命的なデジャヴを感じる。
「ペンションで過ごすというのに、どうして携帯を預かるんでしょうね」
すれ違い様放った言葉に、先生は答えない。
だけどそれが答え合わせだった。
―――これから始まるのは休暇ではなく、私の想像もつかないような、スケールの大きな試験なのだと。
Dクラスの最後の1人が無人島に降り立ち、クラスごとに2列に並ぶとメガホンを持った男性教師が前に出る。
「あーもう、さっさとしろよな」
そう愚痴るのは山内くん。
だけど男性教師は険しい表情を保ったまま、逸る心を抑えられずざわつく生徒たちを見つめていた。遠方では他の大人たちがテントや長机を設置しており、その上にパソコンなどの小道具を置いている。
その異質な様子に、少しずつ鎮まる1年生。
なんか思っていたのと違うぞと誰もが気付いたのも束の間、やっと男性教師がメガホンを口に近付ける。
「―――これより、無人島特別試験を開始する」
「は? 試験、って……なんだそれ」
気付いたときにはもう遅い。
生徒たちはまだザワザワと喋り始め、だけどすぐに、それを諌めるような先生の視線を前に静かになる。
そしてまた話を再開する男性教師。
その口から紡がれるのは、試験内容の説明。
無慈悲な戦いが幕を開けようとしていた。
区切りの関係で、普段より短めでお送りしました。