試験の説明が終わると、各クラスは距離をとって作戦会議―――もとい、状況理解に努めようとする。
今回、発表された無人島特別試験。
それは端的に言えば1週間のサバイバルだ。
各クラスには最初に300ptが与えられ、それを生きるために必要な食事や飲料、娯楽など様々なことに使えるけど、残ったptはクラスポイントに加算される。
また他に特筆すべきルールとして、この島には8つのスポットがあり、各クラス1名のみ決められるリーダーの権限でその場所を占有すると8時間あたり1pt―――つまり1週間で、計21ptを獲得できる。
ただし最終日、最後の点呼で他クラスにリーダーが見破られた場合、スポットを占有して得たptを全損すると同時に残ったptさえも50引かれるとのこと。
そして見破った側は50ptを追加で獲得する。
一方で指名を外せば逆に50pt引かれるようで、リーダー当てはハイリスクハイリターンになるだろう。
私は何やら男子と女子が揉めているのを認識しつつも思考を続け、最善手をうつために手を高く挙げた。
「みんな、言いたいことは山ほどあると思う。それは私も同じで不安でいっぱいな気持ち。だけど他クラスに勝つなら、どこよりも先んじて動かないといけない」
ちらりと、私は他のクラスに目を遣る。
何を話しているのかは聞こえない。ただ少なくとも、まだ他のクラスも話をまとめ切れてはないみたいだ。
「スポットのことだね?」
私に呼応するように、平田くんが1歩近づく。
私と彼の声はよく通る。つい今まで言い争ってた男女もこの時だけは我慢し、耳を傾けてくれる。色々意見はあっても、目指すところは全員おんなじだ。
「うん、そのこと。そして私は1ヶ所だけスポットの場所に目星がついてる。占有する時にリーダーを見られるリスクがあるのは重々承知だけど、慎重に考えてる間に、そこを先に押さえられるのは痛いよ」
「待ちなさい。目星って、どこで?」
「ごめんだけど、それを説明してる暇はないかな。でも日差しや雨風を確実に凌げる場所なのは保証する。みんな―――どうか、私を信じてくれないかな」
その声にしばらくDクラスは沈黙する。
だけど私には絶対的な味方がいる。
これまでの学校生活で培ってきた、大切な仲間が。
やがて勇気を振り絞り、1人の生徒が声をあげる。
「わ、私はひまちゃんのこと信じるよ!」
ここちゃんの懸命で、信頼のこもった声。
「俺もだぜ。夏休み前に助けてくれた恩がある」
須藤くんも真剣な表情で頷いた。
「私も、嬉野さんのこと信じるよ。これまでのことを振り返って。嬉野さんは真っ先にクラスを纏めようと動いてくれた。そして結果的にいい方向に転んだよね。今回も私は、その判断を信じたいかな」
櫛田さんの同意により、さらに総意は傾く。
ここからすぐに続く賛成の声は無かったけど、反対の声もすぐには出なかった。それを見てとった平田くんが、最後に総括するように言葉を投げかける。
「可能なら話し合って決めたいけど、確かに時間は大切だ。今ここで明確に利がある反対意見が無いなら、僕も嬉野さんを信じて、協力したいと思ってる」
「ありがとう。もしこれで失敗したら、私のことをいくらでも罵ってくれて良いし、次は無いって覚悟してる。その上で、反対の意見は―――無い、かな?」
半ば強引なやり方だと私は思う。
だけど全員の意見を募って、その折衷案を出す形でクラスを導くだけがリーダーシップの在り方じゃない。
時にはこんな風に、積み重ねてきた信頼と、盲信を武器に同調圧力を形成し、無理やり引っ張っていくことも必要だ。一方で、独断で人を動かす以上、失敗した時の責任は自分が負わなければならない。
「なければ、まずは私と一緒に、目的地まで走る人を指名したい。ごめんだけど募っている時間はないから」
そうして、私が指名したのは5名の生徒。
その全員が男子で、中でも身体能力が高いと見込んでる子たち。そこには須藤くんも当然含まれている。
「解決しないといけない不満もあると思う。だから櫛田さんと、平田くんにはそっちをお願いしたい」
「うん、分かった。こっちは任せてっ」
「任されたよ。だけど合流場所はどうしようか」
「ここから見えるあそこの道を上がって、……そうだね、10分くらい登ったあたりで休んでいて欲しい」
「それで合流できるかい?」
「うん、できるよ。スポットの占有を済ませたら私が絶対迎えに行くから。信じて待ってもらえるかな?」
そんなずるい言い方に、櫛田さんと平田くんは頷くしかない。
それを確認した私は指名した5人の生徒を引き連れて、どのクラスの、誰よりも先んじて森の中に入る。
「ペースがキツかったら言ってね。合わせるから」
「い、いやいや、俺らより自分の心配をしようぜひまり。女子が山駆け上がんのはだいぶきついだろ?」
「須藤くん、心配はありがたいけど、私のことみくびりすぎじゃない? 今から同じこと言えるかな?」
私は脳内で組み立てた立体地図を元に、目的地に辿り着くための最適ルートを迷いなく進んでいく。
そこに寸分たりとも遅延はない。
きつい傾斜や段差もところどころあるけど、私には後ろの男子たちを気にかけながら進める余裕さえある。
「は、はやっ―――!」
そんな声をあげたのは牧田進くん。
私の後を追う形であれば決してついていけない速度じゃないと思うけど、予想外のペースに驚いた形だ。
「……わりい、さっきの言葉取り消すぜ。ひまり」
「言ったでしょ? 須藤くん」
そう言い、もう1段階、私はギアをあげる。
ここからは様子を見ながら調整が必要だ。運動が得意な人の中にも短距離派と長距離派がいて、個々人の体力の消耗具合を見極めながら進むことになる。
*
かなりのペース―――と言っても平地なら早歩きより少し早い程度で進むと、10分ほどで目的地が見えてくる。
「はあっ……はあっ、あそこか……」
「もうちょっとだよ牧田くん。頑張ろうね」
「ふんっ、情け無い奴だぜ。男なのによ」
「須藤くんそんなこと言わない。慣れない道は普段より体力の減りが大きいんだから。私や須藤くんがおかしいだけで、あのペースで進むの疲れて当然だから」
とは言え、私もかなりキツい。
色々あってそれなりに鍛えてるとは言っても性差は確実にあって、須藤くんはまだピンピンとしている一方で、私は牧田くんほどじゃないけど息を切らす。
それでも周囲の警戒を怠ることなく、洞窟に設置された、手の大きさほどの装置の前に辿り着く。
当然だけど私たちが一番乗りみたい。
進みながら、周りに同じように洞窟へと急ぐ姿がないかは確認してたけど、念のため再度辺りを見渡す。
その後は私を含めた6人の中で誰がリーダー権限を得るか決め、小さい半円で装置を囲うように、お互いの体を密着させキーカードをかざす。これで、装置のモニターには占有済みという文字が現れた。
「牧田くんは洞窟の奧で休んでて。もし誰かが来たら、私が帰ってきてからすぐに報告して欲しい。何かを問われても返事はしなくていいし顔も見ないで」
「分かった」
「他の4人はすぐ私と一緒に戻るよ。とりあえず、クラスのみんなを迎えに行かなきゃいけないからね」
みんなもちょうど、私が平田くんにお願いした通りに休んでいる頃だろう。
私がわざわざ時間を指定したのは理由があり、山の中を進む速さを仮定すれば、大まかにどの辺りにいるか推測できる。それは正確にとはいかないけど、合流するために十分なくらい場所を教えてくれる。
「なかなかスパルタだな、嬉野さん……」
そう言うのは、弓道部の三宅くんだ。
「嫌になりそう?」
「いいや、むしろ好感度が上がった。クラスのために動いている感がしてこれはこれで悪くないな」
「それは良かった。じゃあ帰りはもっと厳しくいく?」
「……せめて行きと同じペースにしてくれ」
「あはは、じょーだんだよ。私もこれ以上のペースっていうのはちょっと厳しいし。とりあえずこの場を離脱できたら、あとは無理しない程度に進もうね」
最初に各クラスが集まり、話し合いをした位置から逆算してみれば、もしそのクラスがこの洞窟を目指そうとした時の最短ルートも自ずと見えてくる。
私は先導し、そのルートを避けるように迂回しながら、クラスのみんなが待つ場所へと着実に進んだ。
*
その後、私たち5人と残りのDクラス34人はちゃんと合流できた……かと思いきや、1つだけ問題発生だ。
「高円寺くんがいない?」
「そうなんだ。ここで休んでいる最中、とんでもない速さであっちの方に向かってしまって……。一応、声をかけて止めようとしたんだけど、そのまま……」
平田くんは、その方向を指差す。
確かあっちの方向は……ビーチがあったはずだ。
あちらもあちらでスポットであった可能性を考えてはいたものの、有用性を鑑みてスルーしていた場所。
「……とりあえず、スポットに帰ろうか」
「高円寺くんは追わない判断、ってこと?」
「櫛田さんは心配だろうけど、闇雲に探したところで時間と体力を浪費するだけだから。疲れてると思うし、ひとまずはみんなの体力の回復が優先だよ」
その後も櫛田さんと平田くん、2人に事情を聞きながら、みんなが着いて来れるペースで案内する。
今後の方針―――特に300ptの使い方について話し合うのは洞窟で休憩してからでも遅くない。一方でそろそろ、正午が近づいてくる。食事をどうするかという問題も併せて話し合っていくべきだろう。
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