私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第4話

 

 ゆっくり着実に山をのぼること、15分程度。

 私たちDクラスはついに占有済みの洞窟へと到着した。

 これまでは鬱蒼と茂った木々や草花に囲まれていたためか、視界が一気に開けた場所にどんと構える洞窟の有り様は都会の建物のようで、安心感を覚える。

 

「めっちゃいいじゃん! これ!」

 

 大興奮といった様子でその中に駆け寄る池くん。

 彼の後に続く形で、主に男子たちが喜びながら洞窟へと吸い込まれていくのを見て私はつい苦笑した。

 洞窟内はつい最近まで手入れされていたのかコウモリなど感染症の媒介になりかねない動物もおらず、1クラス40人が全員入っても狭くならない広さがある。

 

「……これは良いわね。暑さもかなり凌げるわ」

 

 これには堀北さんも小さく唸った。

 褒められた私はにんまりとした笑みを向ける。

 

「でしょ? もしかしたらここより好条件なスポットもあるかもだけど、それは探すのに時間がかかるし。最初に休憩できる場所としては十二分にいいと思う」

「そうね。ちなみにあなたは最初、この場所に目星をつけてたと言っていたけれど……どういう理屈なの?」

 

 その疑問に、ようやく腰を落ち着かせて息を整えていたみんなの視線が私に殺到する。

 私は声がよく聞こえるよう洞窟の真ん中に移った。

 

「大したことじゃないよ。島に上陸前、私たちが乗ってた船は島の周りを1周したでしょ? その時に洞窟があったなって、たまたま記憶に残っていたから」

 

 そう、これは本当に偶然だ。

 どんなペンションで過ごすんだろうと思って島をじっと見てたのが運良く活きたという話でしかない。

 後から振り返ってみればあの時のアナウンスには違和感があった―――意義ある景色とはこのことだったんだろうと思うけど、あの時の私がそれを意識していたかというと、そんなことは全くない。

 

「……なるほど、それは盲点だったわ」

「1学年160人もいるから他に偶然覚えてる人がいても不思議じゃないし、だから急ぎたかったんだよ」

「なんにせよ暑くなくて最高だぜひまり!」

 

 そう言うと、人目を憚らず上裸になる須藤くん。

 周りのことはあまり考えてなさそうだ。

 案の定、一部の女子が須藤くんをキッと睨む。

 

「ちょっと、いきなり脱がないでよ須藤くん!」

「はあ? んだよ、汗かいて気持ちわりいんだよ」

「そんなのこっちも一緒! でもここにいるのは男子だけじゃないわけ! もうちょっと考えてくれる?」

「知らねー、俺は疲れてんだよ。お前らのために洞窟まで走って占有したのを労わって欲しいくらいだぜ」

 

 その言葉に、女子はグッと言葉を詰まらせる。

 このくらいの小競り合いは微笑ましく思って無視してもいいんだけど念のため、私は割って入ることに。

 

「はいはい、須藤くんはよく頑張ってるよ。だけど女子の私より疲れてそうなのは気のせいかな?」

 

 実際には彼の方が体力が余ってるだろうけど、彼はTシャツを脱いで洞窟に寝そべっているのに対して、私はまだ立ったまま。その差に気がついた須藤くんは天井に突き刺さるような勢いで立ち上がる。

 

「こうしちゃいられねーな。早く次の指示をくれよ」

「よろしい、お座り」

 

 そのやり取りに、誰かがプッと噴き出す。

 犬かというツッコミがどこからか聞こえた。

 いかに須藤くんと言えど体力は無尽蔵にはない。さっきはああ言ったけどできるなら今は休むべき時だ。

 

 忠犬が大人しく座り直すと、クラスに弛緩した空気が流れる。その頃合いを見て牧田くんが私に近付く。

 

「あ、報告だね?」

「ああ。嬉野が平田たちを迎えに行ってから少しして、葛城と弥彦って奴がここに来た。他にも数人いたと思うが、言われた通り洞窟の奥を向いたまま振り返らなかったからな。他が誰かまでは分からない」

「なるほど。じゃあその、葛城くんと弥彦くんのことはどうして分かったの? 顔は見てないんだよね?」

「お互いそう呼び合ってたのが聞こえたんだ」

 

 つまり牧田くんは顔も見られてないし声も聞かれてないけど、逆に相手の情報を得ることができた、と。

 それを間抜けさんと判断するのは少し早計かな。

 私が直接、その2人の声音を聞いてない以上、その名前はブラフ……という可能性もなきにしもあらずだ。

 

「ちなみに葛城くんと弥彦くんはどこクラス?」

「2人ともAクラスの生徒だね。葛城くんはリーダーで、弥彦くんは葛城くんの側近みたいな立場だよ」

 

 そう答えてくれたのは櫛田さん。

 思ってたより詳しいクラス事情を聞くことができて、私は内心、彼女の交友関係の広さに舌を巻いた。

 

「……Aクラスかあ。良かった早めに占領できて。ちなみに牧田くん、その2人は何か言ってきた?」

「俺に対して言ったわけじゃないと思うけど、弥彦って奴は少し怒った様子だった。せっかく来たのにだとかDクラスのくせにだとか、散々言っていたよ。それも葛城に嗜められて落ち着いた様子だったが」

「けっ、そのDクラスに先にスポットを取られた間抜けなクラスがよく言うよな。まじでいい気味だぜ」

 

 池くんの文句に、他の子たちも追従する。

 まだ精神が未成熟な高校生。そんな彼らをAクラスからDクラスへと割り振り、あろうことか学校側が、それを実力順だとお墨付きを与えるせいで、Dクラスは他クラスの生徒に見下されることがある。

 その半分は入学1ヶ月でクラスポイントを全部吐き出してしまった私たちにも原因があるとは言っても、クラス間の亀裂はそれで納得できないほど大きい。

 

 私はその、不満を吐き出す行為をあえて遮ることなく、好きに言わせながら牧田くんとの会話を続ける。

 

「葛城くんはなにか言ってた?」

「……あー、なんか、感心したとかなんとか」

「あちゃ、警戒されちゃったかなあ」

「それは仕方ないんじゃないかな? どこよりも先んじて良い立地を獲得するための必要経費だったと思うよ」

「うーん、確かにそうかもしれないけど」

 

 平田くんのフォローをありがたく受け止めつつ、綾小路くんならもっとスマートにやったかなと考える。

 今回、今のところ彼に頼ってないのは、平穏に過ごしたいという綾小路くんの意向を汲んでのものだ。目立たない範囲で助けを乞うことはあるかもしれないけど、基本的には私が梶をとる必要がある。

 

(……まあ、くよくよ悩んでたって仕方ないよね)

 

 今回のようにアグレッシブに動けるのが私の強みだと思いたい。時には振り返りと次に活かす姿勢も大切だけど、今この場で必要なのはたぶんスピード感だ。

 まずはみんなの中で燻ってる問題を解決する。

 

「じゃあ、はい! みんな座ったまま聞いてね。私たちはこれから300ptの使い道―――特に仮設トイレの数とか、そのあたりを話さないといけないけど」

「そういえば、そんな話もあったな」

 

 てっきり忘れてたぜ、と須藤くんは言う。

 男子の多くはそんな感じだ。不安に思わない気持ちが決してないわけじゃないけど、普段の切羽詰まった生活のせいで、クラスポイントが300pt増えるならちょっとは我慢しようぜという考えが伺えた。

 そこには楽観視も混じっていることだろう。

 

「初めに言っておく。私は、仮設トイレはせめて男女に分けてそれぞれ1つずつあった方がいいと思います」

 

 反論が来る前に、私はその理由を説明し始める。

 

 

 

 

 

 

 結論から入ると、今回も無事に話が纏まった。

 お手洗いは男女別。つまり最初に配られた仮設トイレに加えて、もう1つを購入する形だ。これで大丈夫そうならこれ以上の購入はないという方向性になる。

 また仮設シャワーをまず1台。他には飲料水をまずは1人1本。これは水源を見つけるまでの熱中症対策だ。その他、追加の飲み物や軽食などは必要に応じて購入する。

 

 明確にこれが正解というのが無かったから着地点を探るのには苦労したけど、最終的には根性で頑張る派が折れる形で、ある程度の生活水準は保てそうだ。

 ちなみに余談だけど、今回の試験で高順位を残せた暁には、妥協してもらった側が妥協してくれた側に任意でプライベートポイントを融通する提案をして、それは男として面目ないと却下されている。

 

「―――さて、じゃあこれから、いくつかのグループに別れて周りの地形を調査がてら、食べれるものを探そう」

「あとは水源も、だな」

 

 幸村くんの補足に、私は首を縦に振る。

 

「っしゃ! 俺の出番だよな?!」

「頼りにしてるよ須藤くん。でも無理はしないで」

「そ、それを言ったらひまちゃんこそ無理しちゃだめだよ? ここに来てから動きっぱなしなの心配だよ」

「そうだぜひまり。えー、あー、……井の頭! の言う通りだぜ。運動神経が良いのは認めるけどよ、疲れてるだろ。飯なら俺が取ってきてやるから」

 

 何か反論あるか?と須藤くんは周囲に問う。

 反対意見は―――なんでか、無かった。

 

「……いやいやいや、そんな、任せきりは」

「それを言ったらオレたちもひまりに任せきりな側面はある。その点、クラスは持ちつ持たれつだと思うし、それにリーダーに倒れられたら困るからな」

「良いこと言うじゃねえか綾小路ぃ!」

「え、ええー……?」

 

 むしろ賛成の声が続々と集まる始末。

 私は心の中で頭を抱えた。

 もちろん私1人増えたところで、そもそもグループで動くので探索できる範囲はそう変わらないだろうけど、クラスのために何かしてないと落ち着かない。

 

「じゃあ嬉野さん、ここで高円寺くんを待つ役目っていうのはどう? どこにいるか分からないけど、もしかしたら私たちDクラスのスポットを察して帰ってくるかもしれないし。そんな時、嬉野さん1人でも残ってたら高円寺くんも嬉しいと思うよ」

「……分かった。それで手を打とうと思う」

 

 結局は櫛田さんの提案に従い、私はこの場に待機という名の休憩をもらうことに。元気よく出発したみんなの後ろ姿を見送ると、とうとう訪れる暇な時間。

 私は洞窟の入り口に腰を下ろすと、手持ち無沙汰に遠くの空を見つめる。ほんと何をしたらいいんだろう。

 

「まさか、高円寺くんが来るわけないしなあ……」

 

 ―――そう、呟いた矢先のことだった。

 

「呼んだかい?」

「ひゃっ?!」

 

 頭上から降ってきた声に、滴り落ちてくる水。

 長い金髪を垂らした高円寺六助が、洞窟入り口のてっぺんから逆さの向きになって顔だけを出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やけくそ連続更新です。完結までちゃんと頑張りたい。
応援お待ちしてます♩
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