私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第5話

 

 

 

 

「おや、驚かせてしまったかね嬉野ガール」

 

 驚かせたどころの話じゃない。

 私は心臓が口から飛び出さないように胸元を押さえながら、逆さま状態の高円寺くんを呆然と見上げる。

 

「……いや、どういう状況?」

 

 理解が追いつかずに漏れたツッコミ。

 それを一笑に付すと、彼は垂れ下がった長い金髪をかきあげる。あちこちに飛び散る水飛沫。それは私の顔にも当然降りかかり、私はつい口調が尖る。

 

「とりあえず降りてきてよ高円寺くん」

「ふむ、なぜ苛立っているのか理解に苦しむが……凡人と目線を合わせるのも私の務めかもしれないねえ」

 

 その言葉通り、軽やかに飛び降りた高円寺くんは危なげなく私の目の前に着地する。そしてまるで1人でいるかのように、鼻歌交じりに髪の毛を整え始めた。

 

「……とりあえず、色々聞きたいことはあるけど」

 

 さっきまで何をしてたの?とか、洞窟の上って別に屋根みたいになってなくて断崖絶壁なのに、どうやって逆さになってあそこから顔を出してたの?とか。

 諸々の疑問を呑み込み、私は嘆息する。

 本当に自由な人だ。天上天下唯我独尊という言葉は彼のためにあるんじゃないかと思ってしまうほどに。

 

「私が何を言っても聞かないんだろうけど、このままリタイアするとか、そういうの辞めてよね?」

 

 この試験は正当な理由があればリタイアできる。

 例えば体調が悪いだの言えば、個々人の判断で試験を放棄することが可能。だけどそうなると30ptのマイナスだ。みんなの士気にも大きく関わってくる。

 

「チッチッチッ、実にナンセンスな要望だねえ。君は体調を崩したクラスメイトに無理をさせるのかい?」

「まさか。ほんとに体調悪いなら仕方ないよ」

「フッ、仲間思いの君ならそう言ってくれると思っていたさ。その言葉、ぜひ常に胸に刻んでおきたまえ」

「……もし仮病だったら引き留めるからね」

 

 これ以上は何を言っても無駄だろう。少なくともこれで、私は引き留めようとしたという体裁は保てる。

 そう思って私はすぐに話題を変える。

 

「それで、どうしてこんな場所にいるの?」

「おや、クラスメイトとしてベースキャンプにいるのは当然のことじゃないかね?」

「これまでクラスメイトらしい協力のひとつもしてこなかったのに白々しい……。こほん、クラスメイトだって自認があるなら少しは頑張ってみないかな?」

「それは無理な相談だねえ。私がここに来たのは単なる気まぐれさ。君に少し、大切な話があってね」

 

 と言う割に、すごく関心がある様子じゃない。

 本当に何を考えているのかさっぱりだ。

 高円寺くんの言うことは適当に右から左へと流しておこうと思いながらも、私は少し、耳を傾けてみる。

 

「というのも、嬉野ガールは凡人の中ではマシに見えてね。真っ先にこの拠点を抑えたのがその象徴さ」

「はあ……」

 

 いきなり何の話をするのかと身構える。

 そんな私の態度を気にもかけず、高円寺くんはペラペラと饒舌に話し始める。

 

「だがいささか、君は思い切りが良すぎるようだ」

「……というと?」

「君はこの拠点に辿り着いてすぐに占有した。もちろん周囲への警戒を怠ってはいなかっただろうが―――君たちが拠点を占有する瞬間、私もそこにいたのさ」

 

 それを証明するように、高円寺くんは、私と5人の男子がどんな順番で装置を囲っていたか当ててみせる。

 私は背中に、つーと冷や汗が垂れるのを感じた。

 慢心はなかったはず。高円寺くんの言う通り、周囲の警戒を怠ったつもりはない。だけど見られていたのは今のやり取りだけでほぼ確定と言っていい。

 

「……ビーチの方面に行ったんじゃ」

「最初はね、だが途中で追いかけてみようと思ったのさ。足手纏いを連れていた君に追いつくことなど造作もない。気取られずにあの場に潜むこともね」

「……参ったな。気配に全然気付かなかったよ」

 

 私はぐったりと項垂れる。

 これまで全く関わってこなかった高円寺くん、その実力は、私の想定をはるかに上回っていたらしい。

 

「もっとも、誰がキーカードを翳したかまでは見えなかったがね。とは言えリーダー候補は6人に絞られる。私が他クラスの生徒だったらどうなっていたことか」

「……それを忠告にきてくれたの?」

「先行投資のようなものさ。この言葉がプライベートポイントとして返ってくることを期待しているよ」

 

 あくまで協力はしないスタンスらしい。

 

「もう行くの?」

「フッフッフッ、パーフェクトな私を頼りたくなるのは分かるが、私にはすべきことがあるのでねえ」

「すべきこと? やりたいこと、でしょ?」

 

 おそらくこれから、島の散策をある程度楽しんだら、先生に体調不良の申告をしてリタイアするつもりだろう。

 高円寺くんの気まぐれは読みにくいけど、基本的な行動指針は単純明快だ。分かったところで御せる相手じゃないので私は見送ることしかできないけど。

 

 とは言え、やられっぱなしは性に合わない。

 私はこの場を去ろうとする彼の手首を掴む。

 

「なんの真似だい?」

「―――もし高円寺くんがDクラスの生徒じゃなくて、私たちのクラスのリーダーを見抜いたとして。高円寺くんのクラスはマイナス50ポイントになるね」

 

 その言葉に微笑む高円寺くん。

 すぐに手は振り解かれ、そのままとてつもないスピードで去っていく彼を、私は今度は止めなかった。

 

 

 

 

 

 

「おーい! ひまりちゃん見てくれよこれ!」

 

 遠くから聞こえる叫び声は池くんのもの。

 高円寺くんが去ってからというもの、大人しく洞窟内で待機していた私は、その声にすぐ立ち上がる。

 洞窟の外へと出ると、両手いっぱいにとうもろこしを抱えた池くん、山内くん、須藤くんが近付いてきていた。どうやら早々に良い収穫があったらしい。

 

「すごいじゃん! 大金星だよ3人とも!」

 

 それはかなりの量だったから私も持つのを手伝いながら、私は少しでも3人を労おうと笑みを浮かべる。

 すると自慢げに胸を張ってみせる須藤くん。

 

「俺が見つけたんだぜ。美味そうだろ?」

「はあ?! なに嘘ついてんだよ須藤! 見つけたの俺だからな、ひまりちゃんの前だからって良くないぜ」

「いやいやお前ら、カッコつけるなって! 見つけたのは俺だってこと、ひまりちゃんも信じてくれるよな?」

「う、うーん……3人の手柄、じゃダメなの?」

 

 お互い睨み合う、須藤くんに池くん、山内くん。

 私は反応に困りながら地面にとうもろこしを降ろす。

 1つのサイズがどれも立派だし、数もそれなりにある。

 私は綾小路くんと違ってこういうのにも詳しいなんてことは全くないけど、この出来栄えは農家さんが育てたものと遜色がない。となると他にも、この試験のため育てられた作物があってもおかしくない。

 

 これはかなりの安心材料になるんじゃないだろうか。

 まだ1日目の正午、これだけでは全く足りなくて欲を言えばタンパク質を摂れる魚なども欲しいし、あと飲み水も必須だけど、少しずつ形になってきた。

 

 その後しばらくして、他のみんなも少しずつ戻り始める。収穫は必ずしも得られたわけじゃないものの、とうもろこしの他にもいくらか野菜が採れた。

 そうして集合時間にもなると、もうお腹が空いて仕方なくなった池くんたちが一気に色めき立つ。

 

「よっしゃー飯食う準備しようぜほらほら」

「待って。軽井沢さんたちがまだ帰ってきてないよ」

「あれ? ほんとだ、何してんだよあいつら」

 

 櫛田さんの指摘に私も眉を顰める。

 平田くんに綾小路くん、佐倉さん、軽井沢さんのグループだったっけ。平田くんと綾小路くんがいるから安心だと思ってたけど……何かあったのだろうか。

 

「確か、綾小路くんたちは水源を探しにいったのよね」

「そのはずだけど……。ちょっと待って、ひとまずみんなが行った場所をある程度整理させて欲しい」

 

 私は落ちていた小枝を手にとると、事前に見て得られたおおまかな島の外観―――形を、地面に書く。

 その上で私たちの洞窟の場所を置き、ここにいるみんなのだいたいの進路をその上に描いた。今のところ水源の情報は得られてない。逆を言えば水源がある可能性の高い場所は、もう限られてきている。

 

「でもどうしよう、今行ってもミイラ取りがミイラになるっていうか、すれ違いがちょっと怖いよね」

「もう少し待ってみるしかないと思うわ」

 

 堀北さんの提案に、私は同意せざるを得ない。

 周りの、特に女子たちは不安な様子だから、ひとまずは彼女たちを宥めつつこの場に留まるしかないか。

 綾小路くんのことだから帰る方向に迷ったとは思えないし、もし万が一迷ったとしても、水源を辿るなりして海辺に出るぐらいのことはしてそうだけど。

 

 だけど30分経っても4人は帰ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




高円寺らしさ、っていうのが難しい。
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