私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第6話

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼前、話し合いを終えたオレたちは、4人9グループと3人1グループに分かれて無人島の探索を開始した。

 荷物は直前に購入した飲み物が1本のみ。

 戻れなくなったら元も子もないため無理はするなという指示の元、食べ物や水源を見つけに足を動かす。

 

 オレのいるグループは水源を見つける役割だ。

 嬉野によるとこの島は北側が崖になっており、南側が平地となっている。つまり順当に考えれば北側のどこからか染み出した水が南に流れ出しているだろう。

 となると水源を探し出すには基本的にはまず南に向かい、川と海の合流地点から遡る方法が効果的だ。

 だが嬉野によるとそれらしい場所は見えなかったということで、北から南に流れた水のほとんどは、海に合流する前に地下に染み込んでいる可能性が高い。

 

 その場合、短時間に水源を見つけるには上に登って谷になっている場所を探す程度。とは言えこの規模の島でそれらしい場所が見つかるかは正直懐疑的だ。

 

 そのため、最終的にオレたちは、上に登りたくない軽井沢の鶴の一声でがむしゃらに探す作戦に出た。

 しかし目を凝らしてみても、耳を澄ませてみても、水源の痕跡はない。むしろ灼熱の中、オレたち人間の水分は汗という形で徐々に奪われていっている。

 

「これは……まずいな……」

 

 まだ出発して20分弱だが、既にペットボトルの水は尽きかけだ。もうすぐ集合時間なのもあり、これ以上思考力が落ちる前に戻るべきかもしれない。

 

「あーもう! なんで全く見つからないわけ!?」

 

 軽井沢も汗を滲ませ、現状を嘆き叫ぶ。

 悲しいことに暴れる体力さえ残っていない。

 

「佐倉は、大丈夫か?」

「は、はい……。暑いですけど手ぶらで帰るのは、って。クラスの皆さんに顔向けできませんし……」

「そこは大丈夫だろ。少なくとも嬉野は、それで怒るような奴じゃないからな。むしろ無理して怪我でもした方が怒る。それはまるで般若のようにな」

 

 その言葉に、佐倉はくすっと笑って同意した。

 確か佐倉は実際に怒られたんだったな。

 須藤の暴力沙汰が解決した後の出来事を、オレは一応、嬉野から軽く報告されている。あいつは佐倉に対して感情的になったことを悔いている様子だった。

 

「……ふう、確かにそろそろ戻った方がいいかもね」

「さんせー! もうこれ以上は無理!」

 

 平田の提案に、真っ先に頷く軽井沢。

 さすがはカップルだな。平田は時々オレたちのことを気にかけているようだったが、なにせ軽井沢が平田にべったりだったため、オレと佐倉はほぼ空気だ。

 軽井沢が同意するとオレたちはすぐ右に倣え。

 すぐに来た道を戻ろうとしたその時、不自然に湿った風が頬を撫でた。オレは立ち止まり、遠くを見る。

 

「……なにか聞こえないか?」

 

 それは本当にわずかで、残された神経を全集中させてようやく拾えるような、しかし確かに水のせせらぎ。

 

「えっ? どこから、ですか?」

「あっちの方からだが……まさか、幻聴か?」

「本当かい? それなら確認しに行かないと」

「えー、まだ進むのー? 私もう疲れたんだけど」

 

 軽井沢は不服そうに口を尖らせた。

 彼女の名誉のために言っておくが、本当によくやってくれている方だ。最初、女子の中ではポイント節約に賛成な立場であったこともあるが、口では文句を言いつつも、駄々をこねずに動き続けている。

 まあそれを言えば佐倉は文句も言わず黙々と着いてきてくれているのだが、軽井沢は最初の印象がいわゆるギャルだったからな。ギャップというやつだ。

 

「軽井沢に悪いしオレ1人でもいいんだぞ」

「それはだめだよ。綾小路くんなら道に迷わないだろうけど、だからって任せきりにするわけにはいかない」

 

 平田はさっきの嬉野みたいなことを言う。

 いや、それよりなんだそのオレに対する圧倒的信頼は。オレは平田の前で特に何もしてない一般人だぞ。

 

「……そこまで言うなら止めないが」

 

 オレは軽井沢の様子をそれとなく窺う。

 こんなことで恨みを買いたくないのが本心だ。

 それはともかく、平田の言葉なら軽井沢は割と素直に受け入れ、なし崩し的にもう少し奧へと進むことが決まる。

 こうなってくると一番心配なのは佐倉だな。

 

「悪いな、佐倉ももう少し頑張れるか?」

「う、うん、大丈夫……! 全然平気です!」

 

 そうは言うものの、足取りは軽くない。

 オレは佐倉が転んで怪我しないようにだけ注意を払いながら、音の聞こえる方向にゆっくり進んでいく。

 音の出所に近づくにつれ、それはより明瞭になる。どうやら平田たちにも聞こえたようだ。オレたちは頷き合い歩いていくと、急に少し視界が開けた。

 

「わ! 水だ!」

 

 ようやく見つけられた水源に軽井沢が近づく。

 その足取りは心なしか先ほどより軽やかだった。

 

「よかった。これでみんなに良い報告ができるね」

「そうだな。来た甲斐があったというものだ」

 

 簡単に跨げるほどの小さな川は、なるほど確かに分かりにくい。魚が棲める深さでもないのが残念だが飲み水の問題はこれで解決か。恐らくここを上に遡っていけば、綺麗な湧き水が見れることだろう。

 

「じゃあ戻るか。集合時間も過ぎている」

 

 嬉野のことだから心配で右往左往してそうだ。

 

「えー、私もう疲れたんだけどー」

「……確かにそうだな。なら平田たちはこの場で休憩してもらっても構わない。戻る方向は分かるだろ? オレは一足先に洞窟に戻って嬉野に報告しておく」

 

 ここも涼しくはないため休憩するには最適とは言い難いが、慣れない道に、普段よりずっと足に負担がかかっている。ここで無理に戻って捻挫でもしたほうが、総合的に考えてマイナスになるだろう。

 

「良いのかい? なら、……お言葉に甘えようかな」

「それがいい。せっかくだから佐倉もここで休憩しておけ。腰を下ろせば足の疲れも少しはとれる」

 

 そう言い、オレはこの場を離れようとする。

 だが軽井沢たちに背を向けたちょうどその時、少し離れた場所から興奮した様子の男の声が聞こえた。

 

「葛城さん! めっちゃいいスポットあったんで見てくださいよ! この川を下ったところにあるんです」

 

 葛城?確か、牧田がその名前を出していたな。

 となると喋っているのは弥彦か?

 葛城の声は小さくて聞こえないが、弥彦は興奮冷めやまない大声だ。平田たちも不審に思い視線を向ける。

 

 やがてその先から姿を現した2つの影。

 

「―――む?」

 

 その片方、スキンヘッドの大柄の男が足を止めた。

 オレたちが2人の姿を認めたのと同時、相手もオレたちの存在に当然気付く。隣の男もすぐ立ち止まる。

 

「平田、それに軽井沢。Dクラスか」

「葛城くんと弥彦くん。久しぶりだね」

「そうだな。島が予想外に大きいせいか、中に入ってから他クラスの生徒に会ったのはお前たちで2回目だ」

 

 となると、牧田が1回目ということになる。

 

「すまない、見たところ休憩中のようだな。邪魔をした」

「全然大丈夫だ。それより葛城……と呼んでいいか? 聞き耳を立てるつもりはなかったんだが、さっき、この小さい川を下った先にスポットがあるとかなんとか言っていたよな。着いていってもいいか?」

「はあ?! そんなの良いわけないだろお前!」

 

 オレの発言に食ってかかるのは弥彦。

 だがすぐに葛城に嗜められ、縮こまる。

 

「俺にそれを止める権利はない。弥彦の声が聞こえていたなら隠すほどのことでもないが、まだAクラスが占有しているスポットでもないからな。見学は好きにすることだ」

「えー、だったら私も着いて行っていい? もしかしたら、リーダーが占有する瞬間を見れるかもだしさ」

 

 さすがにそんな甘いことはないだろうが、オレたちが葛城に動向するのは十二分に意味がある。

 オレたちがその場にいるというだけで、Aクラスはスポットを占有できない。端末のすぐそばにでも居られたらリーダーを看破される恐れがあるからだ。

 

 Aクラスが現時点で1ヶ所のスポットを占有しているか、あるいはまだしていないのかは分からないが、前者なら睨み合いが長引けば退くかもしれない。

 そうなればオレたちDクラスがそのスポットとやらを占有できる可能性もなきにしもあらずだろう。

 

 一方で後者であれば我慢比べになる。

 ようやく見つけたスポット、それをわざわざ手放して他を探すというのはかなりリスクが高いためだ。

 この場合はオレたちの方が不利になる。なにせ手持ちの水が尽きかけているからな。日差しはある程度木々に遮られているが、蒸し暑さは今も容赦なくオレたちを襲い続けている。川の水を煮沸もせずにそのまま飲むわけにもいかずに退くことになる。

 

「構わん。どうせすぐに耐えられなくなるだろう」

 

 そう冷静に言う目の前の葛城という男は、Aクラスのリーダーというだけあって観察眼もかなりのもの。

 オレたちの切羽詰まった状況をすぐに察した。

 この言い方なら、後者の可能性の方が高いかもしれないな。だが断ずるにはまだ早い。そこに居るだけで相手の行動を制限できる機会なんてそう無いしな。

 

「それにこの場は、俺にとっても好都合かもしれん。Dクラスの生徒に会ったら聞きたいことがあったからな」

「聞きたいこと?」

「直接答えてもらえるとは思ってもいないが、お前たちのリーダーについてだ。まさかあの洞窟を俺に先んじて押さえられるとは思ってもみなかった。まずは警戒さえしていなかったことをここで詫びよう」

 

 そう言う葛城の瞳には、確かな警戒が5割と好奇心が5割宿っている。これは面白い展開になってきたな。葛城と平田の腹の探り合いが始まりそうだ。

 だがリーダーとして確かな観察眼を持つ葛城と、穏健で、舌戦は得意ではない平田。介入せずに放置していればどちらに軍配が上がるかは明らかなため、ひとまずオレもこの場に留まることになる。

 

 

 

 

 

 

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