私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第7話

 

 約束していた集合時間から30分ほど。

 

 洞窟の入り口へ向けられる視線は、時間が経つごとに増えていた。

 誰もそれを口には出さない。

 だけど、綾小路くんたちがまだ戻らないでいることに、みんなが不安を覚えているのは明らかだった。

 

 何かしらのアクシデントがあった可能性が高い。

 だからといって焦って探しにいけば、ミイラ取りがミイラになる可能性も高い。だから私たちがここでできるのは、ただ信じて待ち続けることだった。

 

 だけど手をこまねいて待つばかりじゃない。

 

「……ふう。喋って時間を潰すのもいいけど、そろそろ手を動かすことにしない? きっと綾小路くんたち、帰ってきたら腹ペコだと思うから準備しないと」

「そうね。全員疲れも取れてきたでしょうし、何もしないでいるのはもったいないわ。ひとまず乾いた小枝や葉っぱを集めましょう。あとは火だけれど―――」

「火打ち石があるわけでもないし、棒を使って摩擦でっていうのも現実的じゃないだろうから、さすがにマッチは買いたいかな。みんなもそれでいいかな?」

 

 その声かけをキッカケに、みんなは立ち上がる。

 なにかみんなの不安が和らぐように声をかけるっていうのも良いけど、それは簡単じゃないし時間もかかる。

 こういう時は他のことをして気を紛らすのが一番だ。

 みんなが火種になりそうなものを集めてくれている間、私は近くで居を構えている茶柱先生の元に近づく。

 

「とりあえずマッチ一箱買いたいんですが」

 

 そう言うと、すぐに手渡しされる小さな箱。

 これで私たちがこれまで購入したのは仮設トイレとシャワーがそれぞれ1台に、人数分の飲料水、そして今回のマッチ。ポイントの残額は220ptとなる。

 一見すると初日にしては使いすぎだけど、そのほとんどは仮設トイレとシャワーによるものでこの2つはすぐには消耗されない。定期的に食料と飲料水を確保できれば、十分にポイントが残る見込みだ。

 

「ありがとうございます。すみません、ちょっと質問なんですけど、生徒が遭難した恐れがある場合って学校側としてはどのように動かれるんですか?」

「お前らに最初に支給した腕時計、それは生徒のバイタルだけでなく位置情報等も確認できる優れものでな。それを活用して救出に動くことになるだろう」

「なるほど。その後はどうなるんですか?」

「その後? ……ああ、残念だが容態に関係なくその生徒はリタイアになる。当然だろう? 方位を見失い帰り方が分からなくなるのは生徒の自己責任だ」

 

 学校側は生徒の安全性を鑑みて勝手に動くこともあり、それにより当該クラスに不利益が生じたとしても甘んじて受け入れなければならないと先生は言う。

 

「……なるほど、確かにおっしゃる通りかもしれません。場合によっては学校の責任問題になりますしね」

「そういうことだ」

「それなら参考までに教えていただきたいんですが、先生が勝手に動く条件っていうのはあるんですか?」

 

 その質問に、茶柱先生は私の意図を図るように目を細める。

 

「……今のところ、平田たちが集合時間に遅れてから30分ほどだったか。これが24時間を過ぎれば基本的には動かざるを得ないだろう。生徒が危険な場所にいると分かればタイムリミットは短くなるがな」

 

 つまりそれまでに帰ってこないようなら、先生たちに先んじて私が探しにいく必要が出てくるかな。

 今回は綾小路くんのグループだからその必要性は薄そう、というか何らかの意図があって戻ってきてないのだと私は思ってるけど、今後同じようなことがあった場合に備え情報を得られたのは大きい。

 

「言っておくが、あまり妙なことは考えるな。ミイラ取りがミイラになればその分我々の労力も増えるんだ」

「ご心配には及びません。もしもの時があった時、みんなを探しに向かわせることはしませんから。私1人で動きますし先生のお手も煩わせませんよ」

 

 その言葉に先生は少し顔を曇らせる。

 何か言いたげな表情だけど、この学校の教師は少し特殊な立場。言いたくても言えないことも多いみたいで、茶柱先生は言葉を飲み込み、ため息をついた。

 

「そう言えば高円寺は先ほどリタイアしたぞ。災難なことだが、どうやら初日から体調不良とのことだ」

「……やっぱり、ですか」

 

 あちゃーと思い、私は額に手を置いて天を仰ぐ。

 

「本当に苦労人だなお前は」

 

 リタイア1人につきマイナス30pt。つまり残額は、先ほど考えてたのから修正して190ptとなったらしい。

 正直言って、幸先があまりに悪すぎる。

 高円寺くんは誰にも制御できない爆弾だし、他にも堀北さんは頑張ってくれてはいるものの、最初から体調が悪そうだったから定期的にフォローしないと。

 

 考えないといけないことが多すぎて胃が痛くなってきた私に、茶柱先生の憐憫の視線が深く突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 問題ばかりの無人島生活1日目。

 だけど幸いにも、それからおよそ15分。洞窟の外から複数の足音と同時に微かな喋り声が聞こえてきた。

 

 その瞬間、洞窟内の空気が一気に緩む。

 誰からともなく立ち上がる音。

 みんな、ずっと気を張っていたんだと思う。

 

「戻ってきた!」

 

 外を見たここちゃんが安堵したように声をあげる。

 やがて洞窟の入り口から姿を見せたのは、綾小路くんたち4人と―――そして、1人の見知らぬ男子生徒。

 

「えっと……」

 

 私は一瞬、状況が飲み込めず言葉に詰まる。

 みんなも大方同じ気持ちだっただろう。

 それを代表して、私に先んじて堀北さんが前に出る。

 

「平田くん、その生徒はどこの誰かしら?」

「ごめん、混乱させてしまっているよね。彼は1年Cクラスの金田悟くん。どうやら龍園くんと揉めて仲間割れしてしまったみたいで、さっき帰り道で1人でいるところを見かけて、連れて来たんだけど……」

 

 紹介された金田くんは申し訳なさそうに会釈した。

 

「……なるほど」

 

 私は短く呟き、金田くんを見る。

 頬には赤く腫れた跡。かなり強く叩かれたのだろう。手には何も持っておらず、水分も補給してないのかもしれない。息も荒く疲弊しているのは明らかだった。

 このままだと熱中症の危険性もかなり高い。

 だというのに金田くんは殊勝な態度を崩さず、そのまま私たちの前に一歩進み出て、深く頭を下げた。

 

「すみません、他クラスの生徒なので警戒されるのは必然だと思います。……たまたま近くを通りかかったところを平田氏に誘っていただいただけですので、お邪魔でしたらすぐにこの場を出ていきます」

 

 確かに、他クラスの生徒―――それも龍園くんのクラスとなると直近の出来事が思い起こされて、警戒せざるを得ない。洞窟にすぐに招き入れるのは難しい。

 

 だけど。

 

「……とりあえず、飲み物飲む? 私の飲みかけでよければだけど」

 

 私は手元のペットボトルを差し出す。

 もちろん警戒すべき相手なのは分かってる。

 だけど今の金田くんの容態はそれ以前の問題だ。クラス間の敵対感情を抜きにして、私は心配になる。

 

「待てって、ひまり」

「須藤くん?」

「なんでお前の飲みかけ渡そうとしてんだよ」

 

 どこか不機嫌そうにそう言うと、須藤くんは自分のペットボトルを金田くんへ押し付けるように差し出した。

 

「おら、飲むならこっちにしろ」

「……いただいてもいいんですか?」

「俺が渡さなくてもひまりが渡すからな、仕方なくだ仕方なく。警戒してねえわけじゃねえから勘違いするんじゃねえぜ」

「いえ、もちろん勘違いはしていません。ですがありがとうございます。この無人島に降り立ってからすぐ仲違いしたもので、一滴も水を飲めてなくて」

 

 どうやら本当にやばい状況だったらしい。

 私は記憶の中の龍園くんを思い切り睨みつける。

 

「……えっと、とりあえずやることがいっぱいだね。綾小路くんたちが集合時間に遅れた理由も知りたいし、金田くんをどうするか決めなきゃいけないし―――」

 

 考えることが多すぎて頭がパンクしそうだ。

 

「なら手分けしましょう、嬉野さん。悪いけれど私は金田くんを信用してないわ。当然、私たちDクラス内の話を聞かせるわけにはいかない。だからどちらかが綾小路くんに事情を聞いてる間に、どちらかが離れた場所で金田くんに事情を聞きましょう」

「分かった。じゃあ私が金田くん担当がいいな!」

 

 どちらも重要だけど、前者は単に話を聞けばいいのに対して、後者は情報を引き出さないといけない。

 それなら私が担当すべきは後者だろう。

 そうして役割が決まると、綾小路くんたちは一旦洞窟の中へと入り、私はすぐ近くの木の下に腰を下ろす。

 

「……ちなみに須藤くんはなんで着いてきてるの?」

「男女で2人っきりにさせるわけにいかないだろ」

 

 大真面目な須藤くん。私は肩を竦めた。

 

「私って須藤くんの中でそんな節操ない女子なの?」

「ばっ、そうじゃねえよ! ……けど心配だろ、さっきみたいなの見たらよ。ひまりは気にしねえかもしれねーけど、か、間接キス……とか、良くないぜ」

 

 間接キス。その言葉に、私は目を瞬かせる。

 少し顔を赤くし、しどろもどろな様子の須藤くんが無性にいじらしい。ギャップというやつかもしれない。

 

「心配してくれてるんだね。ありがとうね」

「……おうよ」

 

 嬉しそうに鼻の下を擦る須藤くん。

 その横では金田くんが神妙な面持ちで、だけどどこか胸焼けした様子で私と須藤くんに視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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