君のことをもっと教えて   作:花音ゆず

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第6話

 3日目ともなると、昨日でガイダンスを終えたいくつかの授業は、早速本格的な内容へと入っていく。

 まずは数学と、次に英語だ。どちらも最初は中学校で習ったことの復習から入っていくわけだけど、私は中学に通ってない。自主的に勉強してた、なんてこともなかったから、勉強は正直かなり苦手だった。

 

 それでも学生として生活するからには、ある程度は自分で学習を進めていこうとなったのがだいたい1ヶ月ほど前。当然だけどそれじゃあ付け焼き刃でしかなくて、授業終了間際、私の頭はもうパンパンだった。

 

「―――さて、今日の授業はこれで終わりにしよう。次の授業までには課題プリントを終わらせるように」

 

 4時間目、英語の授業が終わると同時にチャイムが鳴り、担当の真嶋先生が教室を出ていく。

 私は思わずため息を漏らした。

 

「ずいぶんでっけえため息だな、ひまり」

「……勉強は苦手でね。須藤くんは英語得意なの?」

「英語どころか勉強自体からっきしだけどよ、俺は別にいいと思ってるぜ。そもそも使わねえしな、こんなの。苦手なもんに時間使うくらいなら他のことした方がマシだぜ」

「まあ、ほとんどは確かに将来役に立たなそうだよね。でも英語はやらないとなって思ってる……」

 

 今の時代、英語が話せると、それだけで職業の選択の幅が広がると聞く。

 

 今でこそ私は、元ホワイトルーム生のカウンセリングという大事な仕事を任せられているけど、それは()()があったからこそ成り立っているものだ。

 例えばホワイトルーム自体が潰れたら、いずれは需要が無くなり、私は仕事を失う。それは何年も、あるいは十何年も先、私が少なくとも成人した後のことだろうけど、早い内に想定しておくのが賢いと思う。

 

「真面目なんだな。けど意外だぜ、ひまりが―――」

「お〜い須藤!」

 

 須藤くんが何か言いかけたところ、それに気づかず、陽気な声が後方から聞こえてくる。

 

「なんだよ池」

「俺らこれから食堂行くんだけどよ、須藤も一緒に行かね? てか行くだろ?」

「あ、ああ」

 

 須藤くんは困ったような表情で頷いた。

 私はふっと微笑む。

 

「私のことは気にせず、行っておいで?」

「悪いな」そう言って須藤くんは席を立つ。池寛治くんに山内春樹くん。真っ先にできた友達らしい。2人は男子の中でも比較的発言力が強いおかげか、須藤くんがクラスに馴染むのも早かった。私はそんな2人に心の中で感謝をしつつ、ちょっと不貞腐れて独り言つ。

 

「ど〜せ、私は見た目に反してばかですよ〜だ」

 

 本当に小さな声は誰にも聞かれずに消える。

 この時、私はもっと勉強頑張ろうと心に決めた。

 

 

 

 

 

 

「なあ、須藤ってやっぱひまりちゃん狙いか?」

 

 廊下に出ると、池はそんなことを須藤に聞いた。

 

「違えよ。ひまりはあれだ、ただのダチだぜ」

「いやいや恥ずかしならなくていいって須藤。ひまりちゃん可愛いじゃん? 優しくされたら好きにもなるよな」山内は馴れ馴れしく須藤の手に肩を置いた。

「……そういうお前はどうなんだよ、山内」

 

 須藤は、完全には否定できなかった。

 

「え? 俺? そんなのもう桔梗ちゃん一択っしょ! 顔も可愛いし、それに胸もでっけえし!!」

 

 鼻息荒く、胸の大きさを主張する山内。

 須藤は少し顔を顰める。須藤健という生徒は、その恵まれた体躯と赤く染め上げられた髪、鋭い眼光から近寄りがたくはあるが、反面、純情な男だった。

 ちなみに池は山内側だ。山内ほどではないが。

 

「はあ?! お前も桔梗ちゃん狙いなのかよ山内!」

「お前こそだ! くそ、桔梗ちゃんの水着姿を最初に拝むのは俺だからな池! 分かったか?!」

「あー聞こえねえ! 全っ然聞こえねえ!」

「おいお前ら―――」

 

 脇目も振らずに言い争いを始める2人を前に、須藤はため息をついた。誰が想像していただろう。まさか彼が、苦労人ポジションに落ち着くだなんて。

 ちなみに、彼らが水着姿がどうこうと言い争いしているのは、5時間目の体育が水泳の授業だからだった。その影響はすさまじく、2人のヒートアップは、苦労人須藤を他所にして昼休み中ずっと続いた―――。

 

 

 

 

 

 

 昼休みが終わると、私たちは担任の茶柱先生に連れられて更衣室に向かった。一部の男子たちは何やら興奮していたようだったけど、女子のテンションは低い。それもそのはず、5時間目の水泳の授業はなんとこのご時世に、男女混合で行われるためだ。

 私を含めて、女子の多くは、普段から制服のスカートの裾を折ったりなどして肌を露出させているわけだけど、それはあくまでオシャレの一環。決して、露出させること自体が目的じゃない。それに……。

 

「……先生、このスク水って前世代的ですよ」

 

 女子生徒に水着が行き渡ったことを確認し、ダンボールを畳む先生に、私は思わず恨み節をぶつけた。

 

「言いたいことは分かる。上には一応、時代に合った水着を取り寄せるようお願いしておくが、改善されるには時間がかかるだろう。色々言いたいことはあるのだろうがしばらくはそれで我慢してくれ」

 

 そう言われてしまっては、ひとまず着るしかない。

 私は渋々といった表情を作りながら、渡されたスクール水着(いわゆるスク水)をちょっと睨んでみる。

 

「どうしても嫌というのであれば、欠席しても構わない。教師としては嫌がる生徒を強要はしないぞ」

「……大丈夫です。ちゃんと出席します」

「そうか。嬉野はこう言っているが、他に休みたい人がいるなら好きに休むと良い。だが学校側はあくまで欠席として扱う。それは留意しておくんだな」

 

 評定に響く、みたいなことかな。

 必要なことを言い終えると、茶柱先生はすぐさま女子更衣室をあとにする。昼休みが終わるまで、つまり5時間目が始まるまで残り10分弱でのことだった。

 

「え〜どうしよ、面倒だし休んじゃう?」

「でも成績に響きそうじゃない? それは嫌だなあ」

「そもそもこの学校って普通の評定システムなんだっけ。確か希望先への就職率、進学率100%が売りだったよね。それなら真面目に授業受けなくても―――」

 

 女子の一部は真面目にそんなことを話し合う。

 その傍ら、着替えようとする私による影があった。

 

「……大丈夫? 嬉野さん」

「大丈夫だよ。まあ、なんというか、自意識過剰かもしれないもんね。お気遣いありがと、みーちゃん」

「ううん気にしないで。無理だけはしないでね」

 

 友達からの気遣いをありがたく受け止めつつ、私は気乗りしないのを無理に切り替えて着替え始めた。




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