私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第8話

 

 

 

 

 

 

「……と、いうわけなんです」

 

 Cクラス内であったこと。それらを具体的に話し終えると、金田くんは力尽きたように肩を落とした。

 龍園くんによる独断専行。

 逆らう生徒への威圧。

 そして、気に入らなければ平然と暴力すら振るう支配体制。

 

 それらは未だに変わってないようだった。

 須藤くんの件があってから生徒会も先生も目は光らせているけど、ここ無人島では、監視の目を全ての場所に行き届かせるというのは物理的に難しい。

 小宮くんと石崎くん、近藤くんは大丈夫だろうかと不安になる。もしまた他の人が逃げてくるようなら、その人たちもこちらで匿うことを検討しないと。

 

「改めて確認だけど、リタイアはしないんだよね?」

「リタイアしたことはクラスに伝わりますから。啖呵を切って離反した以上、そのようにクラスに対して不義理を働けば龍園氏に後で何をされるか……」

「もし私が受け入れを拒んだらどうする?」

「その場合は、他のクラスにも伺います。それでも無理だったら……僕1人で、頑張ってみようかな、とは」

 

 それがどれだけ難しいことか分からない子じゃないだろう。だけどやらないといけない、そんな様子だ。

 

「もう1つ質問。他に離反した子はいる?」

「……ええ、伊吹氏という女子生徒が。最初は彼女と2人でいたのですが、彼女は元々クラスでも1匹狼な性格なのと運動が苦手な僕に比して動けるので、自然と足並みが揃わなくなってしまいまして」

「伊吹―――伊吹澪さんで合ってるかな?」

「はい。もしかしてお知り合いでしたか?」

 

 全く知り合いではないけど、前回、彼女は龍園くんに付き従っていた様子だった。自発的に私を尾行しようとするほどだ。龍園くんへの貢献意識が高いものと勝手に思っていたけど、違うのだろうか。

 だけどこの場では、私はその疑問を一旦飲み込む。

 

「知り合いっていうか、名前と顔が一致してるだけだよ。……まあそれはそれとして、とりあえず事情を説明してくれてありがと。具体的な対応はこの後話し合うけど悪いようにはしないから安心して」

「本当に信じていいのかよ、ひまり」

「敵同士でも、困った時は助け合わなきゃだと思うよ。龍園くんに対しては私も許せない部分あるしね」

 

 その言葉に、須藤くんは不承不承頷く。

 他の子も抱いてるだろう警戒心との折り合いは考えないとだけど、金田くんをたらし込んで寝返らせることもできるかもだし、これはチャンスでもある。

 

「だから1週間よろしくね、金田くん」

「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」

 

 握手を交わしながら、私は頭の中で今後の予定を組む。

 お昼ご飯を食べた後はすぐにCクラスに向かうのがいいだろう。金田くんが説明してくれたことの裏取りと、龍園くんの真意を見極める必要がある。

 

 

 

 

 

 

 予定通り、午後になると私は須藤くんを連れてCクラスの視察に動いた。最初は私1人で行くつもりだったんだけど、須藤くんの希望を受け入れた形だ。

 その間、他のみんなは平田くんの報告で明らかになった水源へと出発する組と探索組に分かれている。

 

「そうだ、龍園に直接会いに行く前に言っておくけどよ、今度は止めんなよひまり」

「止めるって何を?」

 

 私は思い当たる節がないみたいに首を傾げる。

 

「手ぇ出すことをだよ。さっき金田って奴が言ったので分かっただろ。あいつは女だからって躊躇しねえって」

「うーん、まあ、当たり前に殴ってきそうだよね」

 

 須藤くんの事件の時は、教室内で、それに完全にアウェーな状況だというのに圧をかけてきた。

 あの状況を客観的に見れば私は龍園くんに恐怖していることになっていて、私がその実、自らのトラウマを甦らせていたと知ってるのは綾小路くんだけ。

 

 須藤くんが心配するのも無理はないと思う。

 だけど今更、あの時の恐怖の表情は演技でした!なんて言っても強がってるだけにしか見えないだろうから、私は悩んだ挙句、須藤くんに上目遣いを送る。

 

「……じゃあ、もしもの時はお願いね?」

「任せとけって。あんな奴、俺にかかれば1発でKOだぜ」

 

 言いながら、須藤くんは殴る構えをしてみせる。

 ……ほんとに殴るつもりなら私が全力で止めよう。

 そう思った瞬間だった。

 

 やがて鬱蒼と茂った木々の合間を抜けると、白いビーチが広がっている。そこでは金田くんの言葉通りに、Cクラスの生徒たちが好き好きに遊んでいた。

 この場所だけまるで無人島試験の外だとでも言うみたいに、楽しげな声がビーチを飛び交い続けている。

 

「うわ、これは酷いね」

「ま、俺らからしたら自滅してくれてラッキーって感じだぜ。もうポイントも残ってねえんじゃねえの?」

 

 須藤くんの推理はたぶん当たっている。

 バーベキューをしていたり、ビーチバレーをしていたり、あるいは海を泳いでいたり。

 娯楽のための設備にどんだけポイントが必要かは覚えてないけど、こんだけ大盤振る舞いに遊んでいれば、300ptなんて湯水のように無くなっていくはず。

 

「そりゃあ金田くんみたいに離反する人もいるよね。悲しいかな、もう0になってたら意味ないけど……」

 

 ただ、意味がなくても1人で頑張らないといけない、っていう金田くんの立場も大いに理解できる。

 龍園くんとは反対にクラスのためを掲げた手前、すでに0ポイントになっていても、クラスのために動くポーズが必要だ。金田くんは頭も良さそうだったし、龍園くんの暴力による支配を打ち破ることができればクラスの指揮をとることも可能だろう。

 

「じゃ、龍園くんに話しかけに行こっか須藤くん」

 

 まさか龍園くんが楽しく遊んでいるとも思えないから、パラソルが開かれていた場所に一直線に向かう。

 予想に違わず、龍園くんはリクライニングチェアの上で目を閉じ、日光浴をしていた。側にはクーラーボックスがあり、飲み物がキンキンに冷やされている。

 

「やっほー、龍園くん。元気してる?」

「……誰が来たかと思えば嬉野、テメェか。他クラスの陣地に勝手に入んのはルール違反だぜ」

「や、だめなのはスポットの場合だから。ここは別にスポットじゃないでしょ。それより龍園くん、この豪勢な遊びっぷりはいったいどういうことなの?」

 

 私の疑問を龍園くんは鼻で嗤う。

 

「見ての通りだ。俺たちは遊んでんだよ」

「一応これ、試験だよね。クラスポイントをドブに捨てるのは勝手だけどクラスの人がかわいそうだな。現に離反した金田くんって子がうちに来たんだよ」

「あ? 金田の奴、見ねえと思ったら不良品に匿ってもらってたのか。無駄な努力ご苦労様って伝えとけよ」

 

 本当に、どこまでも人を馬鹿にする。

 その態度に須藤くんが食ってかかろうとするけど私はそれを視線で諫め、龍園くんの視界にぐいと入る。

 

「無駄って、もしかしてだけど、ポイントを使い切ったら全員リタイアするって算段かな?」

「クク、よく分かってんじゃねえか。だが1つ訂正するぜ。俺たちCクラスは今日の夜までには全員リタイアだ。1週間も泥に塗れてようやく150ptかそこらだろ? 割に合わねえんだよこの試験は」

 

 そう言い、飲み終えたペットボトルを放り捨てる。

 

「環境汚染はポイント引かれるよ」

「ハッ、お行儀の良いことだな。すでに0ptなのに何が引かれるってンだ? こっからは何をしようとポイントは引かれねえのは確認済みだぜ。例えばここで、テメェの顔面に拳を打ち込んだとしてもな」

「下がれよひまり。ここは俺が1発―――」

「大丈夫だよ須藤くん。ここで暴力を振るってクラスが失格になってもノーダメージかもしれないけど、別の意味で問題になるから。特に今は学校側も生徒会も龍園くんのこと厳しく見張ってるんだから」

 

 もちろんここには先生の姿も見えないけど、前科のようなものがある手前、状況証拠だけでも、龍園くんは一気に不利な立場に追いやられることになる。

 

「随分と余裕だな。―――試してみるか?」

 

 龍園くんは須藤くんを押し除け、立ち上がる。

 私も須藤くんを手で制して真っ正面に立った。

 

「どうぞご自由に」

 

 言い終えた瞬間だった。

 視界の端、龍園くんの右腕がブレる。だらんと脱力した状態から、風を切り裂く音と共に跳ね上がる裏拳。

 

 避けないと―――そう思うより早く、龍園くんの拳が私の目の前へと迫っていた。

 それは鼻先数センチでピタリと止まる。

 遅れた風圧が、私の髪をわずかに揺らす。

 

「ひまりッ!!」

 

 須藤くんが怒鳴る。

 周囲で私たちの様子を伺いながら遊んでいたCクラスの生徒たちも、一瞬だけ、空気を凍らせた。

 だけどそれは私の呑気な反応に砕かれる。

 

「ほら、言ったでしょ? 殴れないじゃん」

「チッ、瞬きさえしやがらねぇか。あン時は俺に恐怖していたお前が、いったいどういう理屈だ?」

「簡単な話。私は龍園くんが怖くないから」

 

 その声は、広いビーチにもよく響いた。

 そろそろ潮時かな。もう十分目的は果たせた。

 

「じゃあね、龍園くん。ポイントを使い切ったなら警戒するまでもないし、私はここいらで退散するよ」

 

 須藤くんを連れ、私は龍園くんの庭を抜ける。

 その間ずっと、私は背後からの視線を感じていた。

 

 

 

 

 

 

「……なあ、ひまり」

 

 帰り道、須藤くんは疲れた様子で口を開いた。

 

「龍園の奴、あそこまで煽る必要あったのかよ?」

「んー……まあね。龍園くんの支配を崩すためにね」

 

 あの状況を見れば、誰でも察する。

 少なくとも私は、龍園くんにそう簡単に屈しないのだと―――さっきのパフォーマンスは、Cクラスの人たちにそう印象付ける上で必要だと判断した。

 特に小宮くん、石崎くん、近藤くんの3名は監視の目が少ないここ無人島において、いつ龍園くんに殴られるか戦々恐々としててもおかしくない。その不安を多少なりとも和らげられたら僥倖だ。

 

「……そうなのか。いや……でもよ、やっぱり危ねえし、なんつーか心臓に悪りいぜアレは」

「……ごめん。次からは事前に伝えておくよ」

「いや、そういうことじゃなくてだな……」

 

 しどろもどろに、須藤くんは気持ちを口にする。

 もちろん言いたいことが分からない私じゃないし、次からはしないよと言うのは簡単だけど、……でも殴る気ないのは最初から明らかだったよ―――と、そう言おうとして、私は途中で口を閉ざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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