私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第10話

 

 

 

 

 

 

 Cクラスが残したビーチのゴミ拾いを終えると、私たちは神崎くんに先導されて山の中へと入っていく。

 一見すると他の場所と何も変わらない地帯。

 だけどよく見ると、通る道は頻繁に行き来したためか地面がならされていて、程なくして人の気配を感じる。

 

「ここだ。一之瀬を呼んでくる」

 

 そう言い残し、足早に遠ざかる神崎くん。

 私たちの存在に気付いたBクラスの人たちから遠巻きな視線を感じつつ、私はあたりをぐるりと見渡した。

 大木にはいくつかハンモックがつけられているのと、中心に井戸があること以外は特徴的なものはない。とは言え井戸があることの優位性は大きそうだ。

 

 地面は全体的に軽く湿っており、ここ数日は雨がなかったから打ち水をしたのだと分かる。正直ここまで猛暑だと焼石に水感は否めないけど、厳しい環境下で少しでも快適にしようという工夫が窺えた。

 

 その後すぐに、一之瀬さんが手を挙げてやってくる。なんだか安心する笑顔だ。私もすぐに手を挙げ返す。

 

「やほー! 久しぶりだね、嬉野さん。それと須藤くん池くん山内くんだったかな? 3人は初めましてだね」

「お、俺の名前を知ってるのか?!」

「うん、同じ学年の人はなるべく覚えるようにしてるんだ。これからよろしくね」

「な、なんだ俺だからじゃないのか……」

 

 鼻の下を伸ばしながらガックリ肩を落とす2人。その視線は明らかに一之瀬さんの胸に向かっていて、私の中での2人の評価がどんどん残念なものに。

 逆に須藤くんは露骨な視線を向けることなく普通に握手を交わしていて、私はちょっとホッとした。

 

「こほん、朝から大勢で押しかけちゃってごめんね一之瀬さん。迷惑じゃなかったかな?」

「そんなことないよ。むしろゴミ拾いまで手伝ってくれてありがとう。おかげですぐ終わったって、改めて感謝を伝えといてって神崎くん言ってたよ」

「感謝されるほどのことでもないよ。……それにしても龍園くんのあれ、どういうつもりなんだろうね」

 

 私の疑問に、一之瀬さんは小さく唸る。どうやら一之瀬さんも龍園くんの意図を掴み損ねてるらしい。

 

「初日にリタイア。……私たちからしたらメリットしかないけど、それが逆に不気味だよね」

「最初からクラスポイントが眼中にないとか? ほら、2,000万プライベートポイントでクラス移動できるらしいし。それさえ集めれたらいいのかな」

「それも考えたけど、クラスポイントはクラスの優劣だけじゃなくて毎月振り込まれるプライベートポイントにも関わってくるから。それ以外の理由があるような気がしてならないのが正直なところだよ」

 

 確かに。私が積極的に動いているのも、退学の救済に必要な2,000万プライベートポイントを稼ぐためだ。

 龍園くんはたかが150ptと言ってたけど、金額に換算すればそれは15,000相当。クラス単位で見れば1ヶ月600,000相当だから馬鹿にならない。

 

「……考えても仕方なさそうだね」

「うん、そうだね。それよりせっかくの機会だから、お互いのクラスの話をできたらいいなって思うかな」

 

 私は頷き、何にどんだけポイントを使ったかとか、どこに拠点を構えたかとかを端的に一之瀬さんに話す。

 信頼できる相手と情報交換できる機会は貴重だ。

 

「ただ、うちは飲み水がやっぱり課題かな。量は問題ないんだけど毎回煮沸してって感じだから、労力もかかるし冷やすのにもう一回水源に行かないとで」

「あー、それは確かに大変だね。それなら、良かったらだけど私たちの井戸を使ってもらっても大丈夫だよ」

「え? ……いや、それは悪いよ」

 

 いくら協力関係でも、ゆくゆくは敵。そこまで提供する義理は無いのに、一之瀬さんが気にした様子は無い。私も逆の立場なら同じことをしてたかもだけど。

 

「気にしないで。私たちだけで使い切れる量じゃないから。私たちはもう飲んでるし、安全性も大丈夫」

「……ありがとう。帰ったらクラスのみんなに伝えておくね。でもお水が欲しいってなった時にいきなり押しかけちゃったりして、迷惑じゃないかな?」

 

 無人島では連絡をとる手段は限られる。

 一応、物資購入の欄にトランシーバーがあったけど、それは1機30ptと高額だから実質無いみたいなもの。

 もしBクラスの人たちが探索に出てる時にすれ違う形できてしまったらどうしようと、そんな私の懸念を打ち消すように一之瀬さんは笑顔で首を横に振った。

 

「大丈夫。実はうちのクラスは探索範囲をあまり広げない方針だから。必ず誰か1人は拠点にいるようにしてて、その子に声をかけてくれたらありがたいな」

「分かった。みんなにもそう伝えておくね」

 

 Bクラスの方針はかなり手堅く私は感じる。

 どうやらリスクを避けるためスポットを複数得ることも考えてないみたいで、1箇所に留まりながら、食料のためだけに少し動く方向性で固まっている。

 ちなみに海で釣りもしているらしかった。

 

「釣りは正直、効率悪いんだけどね」

 

 一之瀬さんは苦笑する。

 それでも何もしないよりかは良いのだろう。

 そこでふと、思いついたことを私は口にする。

 

「もしBクラス側が良かったらなんだけど、明日からその釣りにDクラスも行ってもいいかな? 今後のために交流を深められたらいいなって思って」

「ナイスアイデアだね! 私も賛成だよ。そしたら何時にどこに集合するか、あらかじめ決めないとね」

 

 私は頷き、とんとん拍子で新たな試みが決まった。

 今日も含めると残り試験期間はまだ6日間ある。

 定期的に食べ物と飲み物を補給して、あとはクラスの中だけで喋ったりするだけだと些か単調に感じられる日々も、これで解決するんじゃないだろうか。

 

「楽しみになってきたぜ。ひまり、明日は俺が行っていいよな? 美味え魚取ってきてやるからよ」

「私そこは贔屓しないからね須藤くん。ちゃんとクラスに話を持ち帰って、そこで決めるんだよ?」

 

 釣り竿を買うのも少しポイントがかかる。

 効率があまり良くないという話ならそう何本も買えないから、シフト制で、少人数での行動になる。

 釣りをしたことない人がきっと多いだろうということもあって立候補する子はかなり多くなるはずだし、須藤くんだからといって優遇するのは憚られる。

 

「へっ、須藤フラれてやんの。……あだだだ!」

「ぎゃっ?! なんで俺も?! 殴るのは山内だけにしろって、ギブギブギブひまりちゃん助け―――」

「あはは、賑やかなクラスメイトだね」

「……本当にね。一周回って安心するよ」

 

 正直、須藤くんの喧嘩っ早さは今後なんとかしないといけないと思いつつも、こうして3人がじゃれ合う光景はDクラスの日常にありつつある。

 疲れる度合いがいつもの比じゃない無人島試験。

 能天気な3人に助けられる場面も多いだろう。

 

「あと話は全く変わるんだけど、伊吹さんって子はBクラスに来た? 昨日、龍園くんと仲間割れした金田くんって子がDクラスに来たんだけど」

「伊吹さんならいるよ。まだクラスの雰囲気に慣れないみたいで、朝から1人で散歩に行っちゃったけど」

 

 確か金田くんの話では、伊吹さんはCクラスでも一匹狼―――つまり人と接するのを避けるタイプ。

 過保護とも言えるぐらいに仲間同士の結束が強いBクラスとは反りが合わないのかもしれなかった。

 

「……なるほど。一之瀬さんならそうするかなって思ってたけど、やっぱり伊吹さん来てたんだ」

 

 Dクラスに金田くん、Bクラスに伊吹さん。

 これが龍園くんの作戦だろうかと私はふと考える。内部に潜り込んでリーダーを当てれば、50ptを得ると同時に、相手のポイントも50下がるからだ。

 

(……いや、その線は正直ちょっと薄いかな)

 

 面白いけど、杜撰な作戦だ。

 まずもってリーダーを見つけられる保証が無い。

 確実なのは占有するのに必要なキーカードを直接見ることだけど、さすがにそれだけ貴重なものは厳重に管理してて、触ることすらも難しい。スポットの占有状態を8時間ごとに更新するのもみんなで隠しながらやるから、情報は基本的に得られない。

 

 だけどそうした確実な手段をとれないと、リーダーを当てる側は外してしまうリスクを負うことになる。

 そう考えていくとリーダー当てに全賭けして300ptを初日で消費しちゃうのは賢いやり方とは言い難い。

 

 それにそもそも、リタイアすればするほど、私たち他クラスはリーダーの的を絞ることができてしまう。

 

 総評としては合理的とは程遠い―――。

 だからあり得るとすれば、金田くんと伊吹さんそれぞれが個人の意思でリーダー当てに動くこと。

 2人の足並みがいくら揃わないと言っても、無人島という環境下で別れたという金田くんの説明も気にかかっている。それが2人の作戦だとしたら頷けた。

 

「一之瀬さんなら分かってると思うけど、警戒するんだよ。もしものことがあったら痛いからね」

「そうだね。うん、できる限り見ておくよ」

 

 一之瀬さんは即答してくれたけど、これまで関わり続けてきて、その人となりはある程度分かってる。

 あまり人を疑うことが得意なタイプじゃない。

 もちろんクラスのためなら頑張るだろうけど、あとで神崎くんにも同じことを伝えておこうと私は思う。

 

「あと最後に、私たちDクラスからはBクラスのリーダー当てを行わない。それのお返しってわけじゃないけど、今後とも良い関係を築けたら嬉しいな」

「こちらこそだよ。私たちBクラスもDクラスに対してリーダーを当てるとか、そういう不利益になることをするつもりはないから、安心して欲しいな」

 

 味方が増えて警戒相手も減る。一石二鳥だ。

 私は今日話すことができた内容に満足して、それから少しして、須藤くんたちを連れて拠点を後にする。

 

 あと不明なのはAクラスの方針だけど、幸い、綾小路くんたちのおかげでその拠点の所在は掴めてる。

 遠巻きにその様子を見張りながら、必要に応じて一之瀬さんの協力を仰ぐことも視野に入れておこう。

 

 

 

 

 

 

 

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