私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第11話

 

 Bクラスの拠点を後にした私たちは、その足で周辺の探索を続けた。

 まだ試験2日目。踏みならされてない地帯は探索が済んでない証拠だ。こういう経験は私もしたことがなかったものの、勘を頼りに道なき道を進んでいくと、古びた物置のような小屋が目の前に現れる。

 

「あれ、スポットじゃね?!」

「そうみたいだね」

 

 テンションを上げて小屋に近寄る池くん。

 屋根の高さは彼より少し高い程度で、人が住むための建物として設計されているわけじゃなさそうだ。

 木造で、かつ周りには蔦や苔が這い回っており、遠目では分からなかった。これが夜なら幽霊でも出そうな雰囲気の佇まいで、恐る恐る中を見てみる。

 

「……なんもない、ね」

「つまらねーな。けど占有はするんだろ?」

「うん、私たちDクラスは少しでもptを稼がないとだから。周りに人がいなければすぐ占有するよ」

 

 私に倣い、全方位を見回す3人。

 特に人影は見当たらない。

 私たちは頷き合い、念には念を入れてお互いの体で隠し合う形で、2つ目のスポットの占有に成功する。

 

「それじゃあ、すぐに離脱しよっか」

 

 その時、木々の合間を風がびゅっと吹き抜ける。

 ざわざわ。ざわざわと揺れ動く茂み。

 私はもう一度確認のために辺りを見回して、須藤くんたちを引き連れる形で気味の悪い場所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 その後は特に目立った収穫もなく、私たちは集合時間とほとんど違わずに洞窟に着いた。

 それから少ししてクラス全員が集まると、みんなは得た収穫を披露する。私たちからは占有したスポットのことと、Bクラスとの協力を打ち明けた。

 

「だから明日から順番順番に釣り行く人を募りたいんだけど―――」

「え! 私行きたい!」

「俺も俺も! 頼む嬉野さん!」

「み、みんな落ち着け俺もよろしくお願いします」

 

 我先にと私に向かって身を乗り出すみんな。

 元気があるのは良いことだ。

 私はひとつ、咳払いをした。

 

「―――こほん。みんな落ち着いて? これについては明日までにちゃんと話し合って決めてね。5日間あるし希望者はなるべく行けるようにするからさ」

 

 まだ時間はたくさんある。

 そう言うと、みんなはようやく姿勢を戻す。

 そうして静かになったのを見計らい、汗を拭ってからメガネを掛け直した幸村くんが口を開く。

 

「さすがは嬉野だな。これで無人島での生活もずいぶん楽になりそうだ」

「お礼ならBクラスの人たちに言ってあげてね。私はたまたま神崎くんと会えただけで何もしてないよ」

 

 その後もみんなの報告は続いていく。

 中でも大きかったのはやっぱり新たなスポットの報告だ。

 私は午後に向かうことを約束し、全員の報告が終わると洞窟の外で待ってくれた金田くんを呼びに向かう。

 

「お待たせ金田くん。もう大丈夫だよ」

「おや、意外と早かったですね」

 

 金田くんは立ち上がると、ふうと息を吐いた。

 その汗ばんだ額を見て私は申し訳ない気持ちになる。

 

「あんまりこれといった情報はなかったからね。でもごめんね、わざわざ外で待ってもらっちゃって。ほんとは金田くんを追い出すようなことしたくないんだけど……」

「仕方ありませんよ。むしろ当然だと思います」

「そう言ってくれるのはありがたいな。何か困ったことがあれば何でも言ってね。できる限り力になるから」

 

 頷き、洞窟の中に入っていくと、そのまま幸村くんの元へと近付いていく金田くん。

 2人とも理知的で、少し寡黙なタイプ。

 きっと通じ合うところも多いのだろう。

 

 

 

 

 

 

 お昼ご飯を食べ終わると、ひまちゃんはすぐに立ち上がる。男子たちと一緒に新しく見つかったスポットを占有するのと、Aクラスに行くらしかった。

 櫛田さんやみーちゃんたちとお昼休憩をとっていた私は、その横顔をつい目で追って、視界に映り込んだ須藤くんの楽しげな顔に思わず目を伏せる。

 

「心?」

「へっ? な、なに?」

「や、話しかけても聞こえてないみたいだったから」

 

 どうかした?と東さんは私に尋ねてくる。

 私は焦ってぶんぶんと首を大きく横に振った。

 

「う、ううんなんでもない!」

 

 言えるはずもない。

 ひまちゃんと楽しそうにしてる須藤くんを見て、思わず……その、嫉妬したなんてみっともないことを言うのは、ちっぽけなプライドが許さなかった。

 

「そう?」

 

 東さんはその返事を気にした様子もなく、みんなと話を続ける。私はそこに、たまに相槌を打ちながらひまちゃんを見ると、ふと目が合って視線を逸らす。

 洞窟の床を踏み締める音。近付く気配。

 ひまちゃんが私のすぐ側に近付いてきたことが見なくても分かって、私はびくりと体を縮こまらせる。

 

「お話し中ごめんね、みんな。ちょっとここちゃん借りてもいい?」

「嬉野さん? うん、全然いいけど……」

「ありがと。ここちゃんも少し時間もらうね」

「え、あ、うん―――」

 

 突然のことに頭が追いつかないまま返事をすると、ひまちゃんは私の手をとって洞窟から離れていく。

 簡単に振り解けるぐらい、優しい掴み方だ。

 だけどこの手を振り解いてしまうのは憚られて、私はひまちゃんに、すぐ近くの木陰まで連れていかれる。

 

「ひ、ひまちゃん? どうしたの?」

 

 困惑した私に向けられる、ひまちゃんの真剣な表情。全てを見透かすような黄金色の瞳に私は息を呑む。

 

「……あのね、前から言おうと思ってたんだけど、クラスのためにとか―――無理することないからね」

「へっ?」

「ここちゃん、思い詰めてるみたいだったから。私とか、須藤くんとか見てて、自分も何かしなきゃって焦ってない? だから言っておこうと思って」

「な、なんで分かるの?!」

「分かるよ。ここちゃんのことなら、何でも」

 

 ふわりと、花のようにひまちゃんは笑った。

 私はすぐに顔がカッと赤くなるのを自覚する。

 

「……私、もっと頑張らなくて良いのかな」

 

 私には、得意なことがあんまりない。

 みーちゃんや堀北さんみたいには勉強できないし、須藤くんみたいに運動もできない。櫛田さんや平田くんみたいなコミュニケーションだってできない。

 どれもすごく悪いかというとそんなことはないと思うけど、突出したものを私は持ってないと分かってる。

 

「十分頑張ってくれてるよ。ここちゃんが取ってきてくれたきゅうり、みずみずしくて美味しかったし」

「……それは別に、私が育てたわけじゃないもん」

「納得できてないっていう顔だね」

 

 ひまちゃんは優しい手つきで、私の頭を撫でる。

 私とそんなに身長は変わらないはずのに、なんだかひまちゃんのほうが、ずっとずっと大きく見えた。

 

「じゃあ私と一緒に頑張ってみよ。これから須藤くんたちとスポットの占有に向かうけど、すぐ帰ってくるから。そしたらAクラスの視察に行かない?」

「Aクラスの視察に……?」

「うん。その役目は、須藤くんたちよりここちゃんのほうが適任かなって。だから一緒に行きたいな」

 

 差し出された手を、思わず掴む。

 

「……いいの?」

「もちろん。だからみんなと喋って待ってて」

 

 その言葉に、私は勢いよく頷く。

 ひまちゃんが私を頼ってくれた。私も役に立てる。そんな考えが、胸の奥の疼痛を少し軽くしてくれた。

 

 

 

 

 

 

 今日だけでDクラスが占有するスポットは3ヶ所に増えた。上々の滑り出し、そう思って差し支えない。

 試算してみたところ初日に確保した洞窟の21ptに、午前中見つけた小屋が18pt、先ほど確保した拠点が17pt。これらが試験終了時に得られるボーナスだ。

 

 Cクラスは拠点を所持しておらず、Bクラスは1拠点のみの手堅い戦略。仮に現時点でAクラスも1拠点のみとすると、残るスポットは島のどこかに3つ。

 明日には少なくとも1ヶ所は増やしたい所だ。

 今晩は単独で動くのも手かもしれない。

 そんなことを考えながら洞窟に戻ると須藤くんたちにはまず休憩してもらい、ここちゃんに手招きする。

 

「じゃあ行こっか」

「じゃあって、……休憩しなくていいの?」

「今のところそんなに疲れてないからね」

 

 見せつけるように、私はその場で軽くジャンプしてみせる。

 これは別に強がりでもなんでもなく、まだ体力には余裕があった。2日目ともなると島を歩き回るのにも慣れてきて、水分補給さえできればまだ問題ない。

 

「というわけなので、早速行くよ」

 

 それでも心配そうに私を見てくるここちゃんを、私は半ば強引な感じに、手を繋いで引っ張っていく。

 頭の中の地図に従い、もう何度も人が通って歩きやすくなった道を優先的に進んでいく。それからおよそ15分。もうすぐAクラスの拠点に着くというところで、前方の2人の生徒の姿に、私は反射的にここちゃんの口元を塞いで近くにあった木影に隠れる。

 

「ったく、いつまで着いてくるんだ葛城」

「ずっとだ。いつ貴様が裏切るかも分からんからな」

「裏切る? 意味が分からないな。Aクラスの生徒である俺がリーダーの葛城を裏切って何になる?」

「白々しい。言われないと分からないか?」

 

 裏切る……?

 その不穏な言葉に、私は眉を顰める。

 

「分からないな。教えてくれよ葛城」

「……意味のない会話に付き合うつもりはない。貴様が散歩をするというのなら監視させてもらう―――」

 

 声は徐々に遠ざかっていく。

 十分な距離が取れたことが確認できたところで、私はようやく、ここちゃんを抱いていた手を解いた。

 

「急にごめんねここちゃん。……ここちゃん?」

「ひゃ、ひゃい……」

 

 驚きのあまり舌が回らなくなったここちゃん。

 なんだか悪いことをしてしまったかもしれない。

 それにしても―――さっきの会話。葛城くんじゃない方の男子生徒の名前は分からないけど、あれを鵜呑みにするなら、Aクラスは一枚岩じゃないらしい。

 

 それから少しの間、私とここちゃんは揃ってここで休憩をし、再度Aクラスの拠点へと歩みを進める。

 そこからはそう時間もかからなかった。

 

「ここがAクラスの拠点、ね」

 

 見回してみても、人影が見当たらない。

 全員が探索に出かけているのだろうか―――そう思ったけど、澄ませた聴力がわずかな声を拾い上げる。

 どうやらテントの中で喋っているらしい。

 直接は陽に当たらないで済むとは言え、この日差しの下だと中は蒸し風呂みたいな感じに思えるけど……。

 

 ―――いや、それよりも気になるのは

 

「なんか、テントが多くない?」

 

 声を潜めたその気付きに、私は頷いた。

 テントは基本的に最初に支給される数で事足りるはずだけど、この場にはその倍の数が建てられている。

 Aクラスのリーダーとして、葛城くんが理由なくポイントを消費するようには思えない。私はこの時、Aクラスの作戦の一端を見たのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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