私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第12話

 

 

 

 

 

 無人島試験、2日目の真夜中。

 ここにきて私は単独行動に出ることにした。

 テントで眠っているみんなを起こさないようそっと抜け出し、支給の懐中電灯を持って夜道を探索する。

 

 もちろん、無茶をするつもりは更々ない。

 自分の中で1時間という制限を設けて、私は暗闇の中を登っていく。

 これから向かうのは私たちDクラスの探索がまだ及んでいないエリア。崖側だ。これまで探索した範囲内で、クラスの誰かが拠点を見落としている可能性もなきにしもあらずだけど、最低でも1ヶ所はこれまで探索してないエリアにあると勘が告げていた。

 

 夜とは言え、この時期はそれなりに蒸し暑い。

 体を冷やさないように定期的に汗をぬぐい、水分補給をしながら、私に可能な範囲で足を早めていく。

 

「……ふう。誰も起きてなきゃいいけど」

 

 慣れない環境下、普段より眠りが浅い子は多い。

 特になにか衝撃を与えなくとも、ふとした瞬間に目が覚めることは多くて、もしその子が私の不在を発見した特には厄介な事態に発展しかねない。

 それでも無理矢理に動いているのは私の戦略故。

 どの道リスクをとって行動するからには、リターンをなるべく大きくしないといけないという考えだ。

 

 それに確かめたいこともあって、寝静まった夜間に私は行動する。

 我ながら、かなり脳筋なやり方だった。

 綾小路くんが聞いたら呆れちゃうかもしれない。

 それでも大真面目に、私は体を動かし続ける。

 

 崖へと続く獣道のような斜面を登り切った頃には、さすがに息が上がっていた。近くの木に手をついて呼吸を整え、それから懐中電灯を前へと向ける。

 

「……ん? 何、あれ?」

 

 つい、口から疑問が漏れ出す。

 光の先にあったのは、不自然な石造りだった。

 近付いてみると―――それは小さな祠。

 苔むした石段に、半ば崩れかけた屋根。長い年月を放置されていたのだろう。蔦が絡み付き、昼間でも見落としてもおかしくない佇まいをしている。

 

 その側には不自然に盛られた小枝と葉っぱ。焦げた跡があり、誰かがいたのかと私は警戒する。

 時間帯が時間帯なのもあって気味が悪い。

 あまり幽霊とかは信じてないものの、さすがに怖くなってきた私は立ち上がる。その直後のことだった。

 

「何をしているのですか?」

「ひっ……?!」

 

 突然降りかかってきた声に、喉が引き攣り、尻もちをつく。

 慌てて声のした方向に懐中電灯を向ける私。

 そこに居たのはジャージ姿の、1人の男性だった。

 

「失礼、脅かすつもりはなかったのですが」

「あっ……え、えっと……」

 

 直前までその気配を感じられなかったのと、変に幽霊を意識していたせいで、咄嗟に言葉が出てこない。

 そんな私の前で、男の人はにっこりと笑った。

 差し出された武骨な手を私はじっと見つめる。

 

「落ち着いてください。私は夜間の見回りをしていただけの教師です。幽霊ではありませんよ」

「そ、そうですよね……すみません……っ」

「ひとまず水を飲みましょうか。それからゆっくり深呼吸をして―――そうです。大丈夫そうですか?」

 

 促されるまま深呼吸を繰り返すと、ようやく落ち着きを見せ始めた鼓動。私はもうひと口だけ水をこくりと飲み、息をゆっくり吐いてやっと立ち上がる。

 

「……すみません、ご心配をおかけしました」

「いえ、これについては構いません。ただ、女子生徒が真夜中に1人で外出というのは、あまり感心できませんね。ルール上は問題ありませんが、生徒の安全を預かる義務が私たち教師にはあるんですよ」

「ごめんなさい。ご迷惑を……」

 

 言いかけて、私はふと疑問を覚える。

 夜間の見回り。それは確かに大切だろうけど、ここは崖近いのもあり各クラスの拠点からは離れている。

 改めて、私は相手の顔をじっと見た。

 私のお父さんより少し歳上だろうか。顔には少しほうれい線ができてるけど、それは衰えているのではなく、むしろ不思議と力強さを感じる貫禄がある。

 

「……なにか、顔についていましたか?」

「あっ、い、いえ……! ただ、今まで見たことない先生だったのでつい……」

「なるほど。失礼、自己紹介がまだでしたね。私はこの学校に新しく着任した月城と申します。きっとこれから、お会いする機会も増えることでしょう」

 

 よろしくお願いしますと言われ、私も礼を返す。

 

「では、そろそろ帰りなさい。意地を張って探索をするならそれを止める権利は私にはありませんが、無理をして怪我をした結果困るのはあなたですよ」

「……そうですね、そうします」

 

 無理をしているつもりは無かったけど、まだ怖さが抜けてない。私もひとまずこの場からは離れたくて、水と懐中電灯を持って改めて立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 翌日―――3日目の午前もまた快晴だった。

 朝の点呼を終えると、私たちDクラスは例の如く、複数のグループに分かれて探索を開始する。ちなみにCクラスの金田くんにはBクラスの井戸に水を汲みに行く役目を与えている。同行するのは綾小路くんと幸村くん、三宅くんの大人しめ男子たちだ。

 

 一方で私はというと、これまた昨日通りに、須藤くんたちを引き連れてある場所へと足早に進んでいた。

 ある場所―――というのは、昨日の夜に発見した祠のこと。あの時は気が動転していたから何か見落としがあったかもしれない。そう思っての行動だ。

 

「そ、そろそろ休もうぜ、ひまりちゃん……」

 

 背後から、息切れした池くんの声が聞こえる。

 私は少し進む速度を緩めた。

 

「情けねえ奴らだな。それでも漢かよ池。それに山内も、さっきから全然喋らねーな?」

「ぜえっ……ぜえっ……も、もう俺ギブ……」

「もうちょっと頑張ろ2人とも。あと1分もしないうちに目的地に着くはずだから、そこでゆっくり休も?」

「あと1分……1分……。うおおおおおお……!」

 

 最後の力を振り絞り、山内くんは吼えた。

 ここまでストイックにやってるのは早く目的地に着いて確認したいというのもあるけど、見たところ、2人が大袈裟に疲れたアピールをしているため。

 あと下品な視線にちょっと嫌気が差したため。

 ……実は、後者の比重の方が大きいのは内緒だ。

 

 いや、やっぱりね?

 同行してて思うんだけど、目の前で露骨に鼻の下を伸ばされたり、あるいは他の女の子にすぐ目移りして……みたいなのはいくら私でも鳥肌が立つ。

 たまにはこうして鬱憤を晴らすのも普通の高校生らしくて悪くない―――と、よく分からない言い訳を心の中でしていると祠は目の前に迫っていた。

 

「はい、到着っ! よく頑張ったね2人とも」

「はあ……はあ……。っし、これで休めるぜ……」

 

 祠の前にどっかりと腰を下ろす2人。

 それはちょっと罰当たりなんじゃないかという気がしないでもないけど、私はひとまず言葉を呑み込む。

 

「てかさー、こんなとこに占有の機械あんの?」

 

 池くんはぐるりと周りを見渡した。

 祠があること以外は何の変哲もない場所だ。これまでと違って、1クラス全員が過ごせるスペースもない。

 

 だけど―――。

 私は直感に従って、昨晩は確認しきれなかった祠の裏や、周囲の木々を周りながら確かめてみる。

 

「……やっぱり。あったよここに」

 

 それは近くの大木、その裏に設置されていた。

 意地の悪い置き方だ。

 洞窟に井戸、小川、そして小屋―――この4拠点は40人が過ごせるスペースが大なり小なりあったけど、昨日占有した場所とここは狭くスポットとしては考え難い。そんな生徒の心理を逆手に取っている。

 この感じだと、Dクラスがこれまで探索してきた範囲に漏れがある可能性が否定できなくなってきた。

 

「まじか! じゃあ早く占有しようぜ!」

「そうだね、占有できたらすぐにまた戻ろっか」

「えー、厳しいって。俺もう疲れたって」

「申し訳ないけどこれもリスクを避けるためだから。代わりに戻ったら何でも1つお願い聞いてあげる」

 

 こう言えばまだ頑張ってくれるだろう。

 そんな私の考えは、ある意味では甘かった。

 唐突に跳ね起きた山内くんと池くんが、私の鼻先にまでぐいと顔を寄せてくる。思わず後退りする私。

 

「今、何でもって言ったよな?!」

「い、言ったけど、常識の範囲内でだよ?」

「じゃあ夏休みプール行くってのはどうだ?」

「……ん、まあ、それなら……?」

「可能なら桔梗ちゃんと帆波ちゃんも誘って欲しい!」

「え、ええ……? 断られるかもしれないよ?」

 

 私はともかく、2人に参加する義理はない。

 それなのに山内くんと池くんは目を輝かせる。

 こんなに嫌な期待のされ方が今まであっただろうか。

 

「ひまり、こいつらの言うこと無視していいんだぜ」

「……そういうわけにもいかないよ。昨日といい今日といい、私都合で連れ回してるんだもん。でも改めて言うけど2人が参加してくれる保証はないよ?」

「それでも全然おっけー。ひまりちゃんは確定だしな」

「それにひまりちゃんの誘いなら断らないって」

 

 ヘラヘラと笑いながら元気を漲らせる2人。

 ここに来るまでで、もう十分懲りただろうと思った私が甘かったらしい。

 

 

 

 

 

 

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