私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第13話

 

 

 

 

 

 

 

 午後になると私はBクラスの拠点に足を運ぶ。

 昨日のAクラスへの偵察で感じた違和感―――特にテントの数について、一之瀬さんに共有するためだ。

 賑やかに談笑するBクラスの子たちに囲まれながら、私たちは日差しを避ける形で、横並びに大木に背を預ける。お尻の下に敷いたビニール袋越しの、少し湿った土のひんやりした感触が心地良い。

 

「それは確かに、ちょっと変かもね」

 

 報告を聞いた一之瀬さん、その真剣な眼差しを向けられて、私は彼女なりの推理に期待を寄せる。

 

「葛城くんのことだから、理由もなくそんなことはしないよね。考えられるのは2つに分けられると思う。1つは、Aクラスで揉め事があってそれを解決するために致し方なく……っていう可能性。もう1つは、テントの購入も含めて何らかの作戦である可能性」

 

 その端的な整理に納得し、私は相槌をうつ。

 一之瀬さんはそのまま言葉を続ける。

 

「前者は例えば、テントが足りない問題だよね。最初に支給される分だけでも足りないことはないけど、実際過ごしてて、やっぱり窮屈だもん。それで不満が出たのを収束するためとも考えられるかな」

「でも私たちDクラスや一之瀬さんのクラスは我慢できてるよね。学校の言葉を信じれば、一番優秀なAクラスがそんな些細なことで言い争うの?って、疑問だな。それとも王者の余裕っていうやつ?」

 

 その言葉に、一之瀬さんは首を横に振った。

 

「私の知る葛城くんは、堅実なタイプ。余裕があるからって安易なことはしないよ。考えられるとしたら―――嬉野さん、Aクラスの内部事情は知ってる?」

「内部事情?」

「うん、実を言うと、Aクラスのリーダーは葛城くんだけじゃないんだ。もう1人坂柳さんっていう女の子がいて、クラスがほぼほぼ二分されてるんだよ。その子は今回の試験は欠席してるんだけどね」

 

 初めて聞いた話に、私は目を丸くする。

 やっぱり一之瀬さんに最初に話を持ってきてよかった。他クラスとの交友関係も強い彼女のことだから、相談を受けてその事情を知るケースは多そうだ。

 

 そして同時に、合点がいったことがある。

 昨日の偵察―――その際に葛城くんが口にしていた『裏切り』の言葉の真意はここにあったのだ、と。

 それを確かめるように私は質問を口にする。

 

「聞きたいんだけど、長めの金髪を後ろで束ねた男子生徒って、Aクラスの誰くんか分からない?」

「金髪っていうと橋本くんじゃないかな?」

 

 橋本くん―――その名前を私は反芻する。

 

「この子はクラスでどういう立ち位置なの?」

「えっとね、さっき名前を挙げた坂柳さんを支持してて、その中でもかなり強い影響力がある生徒かな」

 

 ……葛城くんのあの警戒度合いも納得だ。

 その坂柳さんが欠席している以上、今回の試験で指揮をとっているのは実質、葛城くん。それは同時にクラスを勝たせる責任があるということでもある。

 仮に坂柳さん派が今回の試験で利敵行為を行い、結果的にAクラスが破れたとしても、その証拠が見つからなければ葛城くんは不利な立場に追い込まれる。

 

 もっとも、―――自クラスのポイントを落としてまで内部の派閥争いにうつつを抜かすとは思えないけど、警戒しておくに越したことはないということ。

 葛城くんの慎重さがよく現れている。

 

「ありがとう。話を戻すと―――Aクラスは一枚岩じゃないから、意見の相違が生まれやすいってことかな」

「うん、そういうことだね。特に居住空間ってなると、坂柳さん派も葛城さん派も完全に別れたいんじゃないかな? お互いに嫌い合ってる状況だからさ」

「……理解に苦しむな。いくら派閥が違うって言ったって、それで争って負けたら意味がないと思う」

「私も同じ気持ちだよ。だからこそ、もしかしたらそれだけじゃないのかもって、勘繰りたくなるよね」

 

 さっきも言ったように何か意図がある可能性。

 

「でもこっちは推理するには情報が足りないかな。当てずっぽうで良かったら、テントの中になにか隠したいものがあるとかかな?」

「隠したいもの?」

「あはは、これは本気に捉えなくていいよ? 本当に、たった今、私が咄嗟に思い付いただけのことだから」

 

 一之瀬さんは顔の前で手を振り、笑った。

 だけどそれ以外でなにか思い付きがあるわけでもなくて、私は顎に人差し指を当て、再度思案する。

 

「……うーん」

 

 キーカード、ではないだろう。

 それならテントを増やさなくても管理できる。

 何か―――テントの中に収まるようなサイズで、かつ、クラスの勝利に繋がるようなアイテム―――。

 

(そんな都合の良いものが転がってるわけ……)

 

 少なくともポイントで買える物の中にはない。

 そう考え、他に何か無いかと迷走し始めた思考の端で、ちりっと脳に電流が走ったような感覚があった。

 

「……思えば、特別なものである必要は無いね」

「嬉野さん?」

「ごめん。一旦考えを整理したいんだけど、Aクラスが勝つための道具を何か隠してると仮定して、そんなすごい物あったっけ?なんて最初に考えるよね」

 

 一之瀬さんはすぐに同意してくれる。

 

「そう―――だからこそ、私にはそれが何なのか想像もつかなかった。でも考える方向性を変えれば、勝つために必要なのが何かなんて分かりきってる」

 

 1つはポイントを上手くやり繰りすること。

 2つ目に、拠点を多く得ること。

 3つ目に、他クラスのリーダーを当てること。

 私は指を順番に折り曲げてその3つを挙げる。

 

「葛城くんは慎重なタイプって言ってたよね。だったらAクラスが勝つために重視してるのは、リスクの高い2つ目3つ目じゃなくて1つ目。そのためには上手く節約する以外に、もう1つだけ方法がある」

「もう1つの方法……?」

「そう。気付けば簡単な話だよ、他クラスに物資を融通して貰うこと。それこそ一之瀬さんが、私たちDクラスに対して井戸の水を分けてくれたみたいに」

「……でも、BクラスもDクラスも協力してないよ? Cクラスだってすぐにリタイアして―――まさか」

 

 私と同じ発想に至った一之瀬さんが、大きく目を見開く。

 私は口の渇きを実感し、水をひと口含む。

 

「そう、Cクラスはリタイアしてる。逆に考えれば初日に購入した300pt相当の物資はもう使わない」

「だからAクラスに譲渡した……」

「合ってるか確証は無いけど、考えてみれば簡単な絡繰りだよね。テントが支給された数の2倍あるのだってそう。あれは葛城くんが買ったんじゃない、Cクラスからそのまま譲り受けたんじゃないかな」

 

 これでCクラスの奇想天外な行動にも説明がつく。

 Cクラスはは初日に300ptを使い切り、龍園くんは私に対してリタイアを宣言した。

 その言葉を鵜呑みにすれば勝負を最初から捨てていたということだったけど、実際にはそれはブラフ。最初からAクラスへと物資を譲り、代わりに何かしらの対価を受け取るという明確な意図があった。

 

 それを裏付ける証拠が1つだけある。

 それは昨日、つまり試験2日目の朝。須藤くんたちを引き連れて浜辺に出た私たちが見た光景そのものだ。

 Cクラスが遊ぶだけ遊んだ跡地にはゴミが散乱していた一方で、ポイントで購入したはずのものは既になかった。私はそれを既に学校に返却したものとばかり思っていたけど、ゴミを捨て置いたままなのにそれ以外は律儀に返却済みというのはおかしな話。

 

「そうすれば……、Aクラスは確かに、私たちより遥かに簡単にポイントをやり繰りできるね」

「そうだね。実質的に、Aクラスだけ最初の持ち点が他クラスの二倍近くあるようなものだから」

 

 そう言うと、私はグッと伸びをした。

 龍園くんの意図が読めないことがずっと不安要素だった。

 それがようやくすっきりした気分だ。

 

 一之瀬さんも同様に安堵を見せる。

 詳しい事情は知らないけど、私たちDクラスが須藤くんの件で追い込まれかけたように、Bクラスもその前にちょっかいをかけられてたと聞いている。

 だからこそ、今まで警戒していたのだろう。

 

 だけど全部が解決したわけじゃない。

 ともするなら、私の次の行動は限られてくる。

 

「とりあえずだけど、後日改めてAクラスに行ってみるよ。昨日は葛城くんと直接話せなかったから。それで得られるものもあるんじゃないかなと思う」

「確かに、まだこれは推理の段階だもんね。確証が得られたわけじゃないから確かめる必要はあるよね」

 

 そういうことだ。

 これについて、一之瀬さんから同行する提案があったけど、私はありがたく思いながらもその申し出を断る。

 

 昨日と同じくここちゃんと一緒に行くためだ。

 少なくとも今の、不安定なここちゃんには、何かしら特別な役目を持ってもらうのが大事だと考えている。

 

 

 

 

 

 

 

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