私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第15話

 

 

 

 

 

 

 無人島試験、4日目。

 

 この日の目覚めは最悪だった。

 昨夜の出来事が尾を引きずって、寝付きが悪かったのが原因だろう。それなりの時間眠っていたはずなのに体が重く、思考と行動の間に大きな断絶がある。だけど一度起きてしまったからには、二度寝するというのは怠惰なようで何やら少し憚られた。

 

「はあ……」

 

 重い瞼を擦りながらテントを出ると、空はどんよりと曇っていた。

 鞭を打つように冷や水を顔にかけ、私は強制的に意識を覚醒させようとする。それで少しだけクリアになった思考の隅で、まずは今の状況を整理する。

 

 現在の保有ポイントだけを見れば、私たちDクラスは順調そのものだ。

 占有したスポットは4ヶ所。

 堅実に積み上げた成果は確かにある。

 

 Bクラスは私たちと同程度の残額に加えて、1ヶ所分の占有ボーナス。まずまずといったところだろう。

 

 そしてAクラス。

 私の予想が正しければ300ptはそのままに、占有ボーナス21ptで、今のところぶっちぎりの1位にいる。

 

 ……問題なのは龍園くん率いるCクラス。

 残額は十中八九、0ptになっている。これはいい。

 けど金田くんの昨日の行動が占有の更新なのか、あるいは昨日初めてなのかでポイントは大きく変わる。

 

 いや―――違うか。

 そんなことはまだ些細な違い。

 私が恐れているのは、金田くんの背後に龍園くんがいるんじゃないか―――そんな根拠のない妄想。

 

 このまま順当にいけば私たちDクラスの勝ちは揺るがないはずなのに、私は龍園くんに嵌められているんじゃないかと、言いようもない不安に襲われる。

 

「早い起床だな、嬉野」

 

 振り返ると綾小路くんが近づいてくる。

 私は立ち上がり、軽く手を挙げた。

 

「綾小路くんこそ早いね。いつもこんな時間に?」

「オレは朝が早いほうだからな。今日は別に寝苦しくもなかったはずだが、なにか不安でもあるのか?」

「あはは、不安? 全然そんなんじゃないよー……って、綾小路くんに嘘つく意味もないか。うん、ちょっとね、今回の試験このままでいいのかなって」

 

 簡潔に、私が思い描いていた作戦と、Cクラスの作戦及び昨夜の出来事について綾小路くんに説明する。

 

「……っていう状況なんだけど」

「なるほど。オレは龍園の人となりを知らないから確かなことは言えないが、ひとまず今の作戦でいいんじゃないか? 堅実な戦い方だとオレは感じた」

「龍園くんの意図はこれだけじゃ分からない?」

「そうだな。強いて言えば、AクラスとCクラスがもし物資とプライベートポイントを交換しているなら、他にも何か協力している可能性がある。まずはそちらに探りを入れることが必要なんじゃないか?」

 

 そのアドバイスに納得し、私は頷く。

 今日はちょうどAクラスに行こうと思っていたところ。探りを入れるにはちょうどいい機会だろう。

 

「ありがと。もうちょっと頑張ってみるよ」

「オレには何も求めないのか?」

「強いて言えば、金田くんから目を離さないで欲しいかな。今日も彼にはBクラスに水汲みに行ってもらうけど、Bクラスには伊吹さんもいる。接触することがないか見計らっていてくれると助かるよ」

 

 その間、私はスポットの占有に動く。

 もし昨夜あのタイミングで金田くんが占有、あるいはその更新をしたのなら、8時間後にそれは切れる。

 そのタイミングでDクラスのものにできれば僥倖。

 すぐにその場を離脱し、他に今日やることは、Dクラスの持つスポットをそれぞれ更新するぐらいか。

 

「了解した。他に悩み事もないなら、そろそろ洞窟に戻るか。曇っているとは言え洞窟の中よりここは暑い」

 

 私たちは揃って曇天を見上げる。

 今日か、あるいは明日には雨が降りそうな気配。

 傘を持っていないから、今日は動ける間に、ある程度まとまった水と食料を確保すべきかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 朝食と、朝8時の点呼を終えると、私は予定通り須藤くんたちを連れて洞窟を出た。

 

 目的地は昨夜発見したスポット。

 金田くんはBクラスに水を汲みに行かせたからこちらには来れない。そろそろ占有状態が切れる。それをそのままDクラスのものにする。単純な仕事だ。

 

 少なくとも私はそう思っていた。

 

「ひまりちゃん、今日こそゆっくり歩かねー?」

 

 出発して十分も経たないうちに池くんがぼやく。

 

「なさけねーな池。俺はまだまだ余裕だぜひまりちゃん」

「なっ、強がってんじゃねえよ山内! お前ひまりちゃんがいないとこで筋肉痛って言ってたじゃんか!」

「い、言ってねーし!」

 

 山内くんの慌てぶりに、私は思わず苦笑する。

 

「大丈夫だよ。今日はそんなに急がないから」

「ほんとか?」

「ほんとほんと」

 

 実際、昨日ほど焦ってはいない。

 スポットの場所はとうに割れている。

 計算上、このままのペースでもCクラスの占有権が切れる直前には辿り着く想定だ。だから周囲に少し警戒を払いながらも昨日よりはだいぶゆったりとしたペースで、私たちは揃って獣道を進んでいく。

 

 昨日の夜とほぼ同じ道だ。見慣れた木々の合間を抜け、斜面を下り、やがて目的の大木が視界に入る。

 

「ここだよ」

「え? ここがスポットなのか?」

「うん、びっくりするよね。この大きな木の根本に―――ほら、ちょっと不自然に枯葉と枝が積もってる場所があって、ここをどけたら……ほら、これこれ」

「うお! まじで装置あんじゃん!」

「しー。いつ人が来るかも分からないし静かに」

「わ、わりいわりい」

 

 池くんが焦ったように周囲を見回す。

 幸い、今のところ見える範囲で人はいないし、Cクラスの占有権もちょうど切れたタイミングみたいだ。

 つまり絶好の占有チャンス。

 昨夜、金田くんの手元が見えなかったように周りには密度の濃い藪が広がっており、むしろ胸の高さに装置があったこれまでより見られる危険性は低い。

 

 そのため私たちは難なく5拠点目を獲得する。

 これで私たちが全ての拠点をきちんと更新し続ければ、最終日には合計84のボーナスを得られる計算。

 

(これで残すはあと1ヶ所―――)

 

 ホッと胸を撫で下ろした、その時だった。

 研ぎ澄ませていた神経がわずかな気配を拾い上げる。

 

「みんな、静かに」

 

 声を潜めて須藤くんたちに指示を出す私。

 すぐに意図を汲んだみんなはしゃがんだまま口を閉じ、一気に緊張を顔に浮かべて周囲に目を走らせる。

 

 このまま藪に隠れてやり過ごせればいいけど、事はそう上手く運ばなそうだ。徐々に気配が近づいてくる。相手は喋ってなく、その気配はただ不気味だ。

 それにしても、相手はまるで行く場所が定まっているみたいに私たちがいる方に迷いなく近づいてくる。

 

(誰……?)

 

 幸か不幸か、答え合わせに時間はかからなかった。

 薮を掻き分けて現れたのは2人の男子生徒。

 こうしてしっかり顔を見合わせるのはこれが初めてだ。

 

「おっと、お前ら何してんだここで」

 

 長めの金髪を後ろに束ねた生徒―――Aクラスの橋本くんが、私たちを見て軽薄な笑みを浮かべる。

 

「……ちょっと休憩してたんだよ。この2人が疲れたって言うから。それよりあなたたちは?」

「俺はAクラスの葛城でこっちは橋本だ。なるほど、4人はここで休憩していたのだな。俺はお前たちが拠点でも占有した直後なのではないかと思ったが」

 

 そう言うと、葛城くんは厳しい視線を送ってくる。

 分かりやすい鎌かけに硬直する須藤くんたち。

 それを見た橋本くんは静かに笑った。

 

「こりゃ、分かりやすいことこの上ないな。俺たちは面白い場面に出会したらしいぜ葛城」

「そのようだな。これでDクラスのリーダーはこの4人の中の誰かで確定か」

「は、はあ?! 何勝手なこと言ってんだよ!」

 

 焦った声をあげる池くん。

 私はそれを手で制して立ち上がり、葛城くんの前に歩み出る。

 葛城くんは男子の中でも体格な大きな生徒だ。

 龍園くんとおよそ同じ程度。だけど龍園くんとは違って暴力的な、野生みは感じられず、代わりにAクラスのリーダーであることが納得できる貫禄がある。

 

「……ちょっと嫌な展開だな。みんなは先に戻っておいて。行き方は分かるよね?」

「みすみす帰らせると思うか? 見たところ、3人の男子は表情が豊かなようだ。少し詰問してやればポロッと答えてくれそうな機会を逃すつもりはない」

「悪いけど3人のことは追わせないよ」

「ほう?」

「私もちょうど良かった。今日中には葛城くんに会って、色々と聞きたいことがあったからね。例えば―――AクラスとCクラスが繋がってることとか」

 

 その指摘に葛城くんの視線が険しさを増し、隣の橋本くんは驚いた後、心底面白そうに白い歯を見せる。

 それを横目に去っていく須藤くんたち。

 その後ろ姿を、2人は見ることもなかった。

 

 

 

 

 

 




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