私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第21話

 

 

 

 

 

 

 

 試験も残すところあと3日。

 いちばんの山場を越えた私は、これまで同様に須藤くんたちと拠点の更新を続けながら、未だ見つかっていない拠点を確保すべく探索を続ける方針だ。

 

 龍園くんはまた何か企んでいるということで油断はできないけど、これからできることは限られている。

 おそらくまだ、試験の抜け穴に気付いていない、AクラスとBクラスのリーダーを当てるつもりだろう。

 

 本来ならリスクの高い行為だけど、龍園くんは初日にポイントを使い果たすことで外した際のペナルティを実質無いものにしている。それが良いことなのか悪いことなのかは考え方によるから難しいけど、最悪、勘で他クラスにマイナス50ptのペナルティを押し付けられるのだから相手は堪ったものじゃない。

 

 とは言え、龍園くんと手を組んだつもりで気が緩んでいるAクラスはともかく、Bクラスには神崎くん経由で警戒をしてもらっているからリーダーの候補者を絞ることさえそう簡単にはいかないはずだ。

 手が空いた際に、金田くんがDクラスへ送り込まれたスパイだったことを一之瀬さんと神崎くんに共有しておけばBクラスは手堅い結果を残すと思われる。

 

 私たちDクラスは―――私が最終的にリタイアすることでマイナス30ptのペナルティを負うものの、それによって、リーダー当てのリスクを完全に回避。

 スポットの占有によるボーナスポイントが潤沢にあるから、これまた良い着地ができそうだと私は思う。

 

「あとは残り1箇所のスポットを早いうちに見つけて占有できたら……うん、少しは胸を張れる結果かな」

 

 朝起きてすぐの私は、洞窟の外で軽く体をほぐしながら独り言つ。まだ6時前。みんなが起きてくる時間じゃない。だから私は、完全に油断していた。

 

「少しどころか自慢してもいいんだぞ」

「わっ……?! だ、誰?!」

「すまない、オレだ。起きて洞窟から出ようとしたら、嬉野が独り言をこぼしていたのが聞こえたんだ」

 

 姿を現して私に近付いてくる綾小路くん。

 私は動悸を落ち着かせながらため息をつく。

 

「……相変わらず、朝が早いね。ほんとに起きたばかりなの? 少しも眠そうに見えないんだけど」

 

 これまで綾小路くんが欠伸をしてたり、うつらうつらしてたり、瞼を擦ってるところを見たことがない。

 

「朝には強いんだ。それに早いのは嬉野も同じじゃないか? 一応聞くが昨夜の疲れは取れたのか?」

「体力はそれなりに回復したけど、龍園くんに本気で蹴られたお腹がまだ違和感。酷いんだよ龍園くん! 冗談じゃなくてほんとに女子にも容赦なくて」

「そうなのか。そう言えば、昨夜の詳細をまだ聞けていなかったな。その後は結局なにがあったんだ?」

「あー、えっとね、どこから話せばいいかな……」

 

 私は少し思案し、龍園くんの作戦の概要と、私が昨夜どんな戦いをしたのかを順序立てて説明していく。

 全てを話し終えると感心した様子の綾小路くん。

 

「かなり頭が切れる生徒のようだな」

「ほんと、これからも気が抜けないよ」

 

 これが例えば、この前の葛城くんとの接触がなかったら、私が龍園くんの意図に気付くのは遅れてた。

 完璧に攻撃を捌いてたのに全然諦めないのもすごく予想外だったし、何かが少しでも違ってたら、私は龍園くんの誘導に乗って金田くんをリーダーとして指名していた。そう考えると今でもゾッとする。

 

「まあ今後も、困ったことがあればオレに言ってくれ。クラスメイトとして出来る協力はするつもりだ」

「ありがと、正直すごく助かるよ」

「ああ。それより気になったんだが……」

 

 綾小路くんはひと呼吸置き、また口を開く。

 

「嬉野はいつ鍛えてたんだ? 龍園は喧嘩慣れしている相手、それも男だ。その攻撃を、女子が余裕を持って防ぎ続けるのは普通じゃないだろ」

「そんなに余裕があったわけじゃないよ? 実際、肉弾戦に関しては龍園くんに軍配があがったしさ」

「それは嬉野から攻撃しなかったからだろう」

「……ん、まあそれはそうだけど」

 

 私のほうに最初から躊躇の心がなかったら、伊吹さんも一手で大人しくなってたと思うし、龍園くんに対しても危なげなく気絶させるぐらいはできた。

 それを評価されたことに、私は内心嬉しくなる。

 

「でも特別なことをしてたわけじゃないよ。半分はたぶん才能。残りのもう半分は、強いて言うなら8歳の頃から死にものぐるいで努力したから。なにせ仕事柄、いろいろ恨みを買ってるのは明らかだし」

 

 綾小路くんのお父さんにとっては目の上のたんこぶ。当然、ホワイトルームを支援、期待している人たちからしたら私とお父さんは揃って邪魔者扱いだ。

 表向き日本で命が脅かされることは無さそうに思えるけど、事実として、ホワイトルームは大場組という暴力団との繋がりを持っている。自分の身をある程度自分で守れるようにする必要性は大きかった。

 

「……なるほど。普通とは程遠い理由だな」

「ほんと、嫌な世の中だよね」

「まったくだな」

 

 身の回りの酷さに、綾小路くんさえ苦笑いする。

 私も思わず少しだけ笑った。

 今日は雨もあがり、日差しが眩しい。目を細めた私のむき出しの腕を、心地いい朝の風がさらりと撫でる。

 

 それから、私たちの間には沈黙が降りた。

 綾小路くんはあまり自分から話さない。

 私は喉を鳴らし、乾きかけた唇を湿らせる。

 

「……あのさ」

「なんだ?」

 

 即答。不思議そうな瞳が私を捉える。

 

「……いや、そんなに身構えなくていいんだけどさ」

「何か緊張することがあるのか?」

「っ、いや、緊張してないよ? ただその……いつまで綾小路くんは私を素っ気ない呼び方するのかなって」

 

 綾小路くんは私の発言に小首を傾げる。

 私は慌てて言葉を付け足す。

 

「だって、いつも私のこと苗字とか、お前呼びじゃん。もうちょっとその、なにか別の呼び方ないの?」

「別の呼び方? ひまりと呼べばいいのか?」

「……うん、それがいい」

 

 言い慣れないからか、綾小路くんは慣らすように、私の下の名前を何度か口にする。それはもう、私が気恥ずかしくなって耳を塞ぎたくなるぐらいに。

 

「ならひまりも、オレを下の名前で呼ぶか? オレだけひまり呼びっていうのも少し変な話だろ」

「え、ええ?! 全然変じゃないよ! 池くんとか山内くんとかとだって、私ずっとそうだし……」

「だが上の名前で呼ぶのは素っ気ないんだろ?」

 

 追い打ちの言葉に、私は口を噤む。

 確かに綾小路くんにそう言ったのは私。なのに私だけ上の名前で呼び続けるのは、変かもしれなかった。

 

「……清隆くん、って呼べばいい? なんかその、付き合ってるみたいになっちゃわないかな……?」

「嫌なのか?」

「や、私はいいけど、綾小路くん迷惑じゃない?」

「問題ない。なら下の名前呼びで決定だな」

 

 綾小路くんは勝手に結論づける。

 そのテンポの早さに私はぐっと息を詰まらせ、それから勇気を振り絞って、お腹の底から声を捻り出す。

 

「……清隆、くん」

「なんだ?」

「昨夜のこと。まだ感謝を伝えれてなかったから。……私のこと、認めてくれてありがとう、って―――」

 

 顔が火照っているのを私は自覚する。

 もしかすると、熱があるのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく経ち、みんなが起き始めたのが7時頃。点呼がある朝8時前には嫌々ながらも全員が起き、私は洞窟の中にいるみんなに呼びかける。

 

「こんな朝っぱらからごめんね、気付いた人もいるかもだけど、私から報告したいことがあります」

「……改まってどうしたんだ?」

 

 幸村くんが最初に反応する。

 その顔には少し、陰りが見られた。

 欠伸を噛み締めてる山内くんたちを横目に、私は真剣な表情を保ったまま、ここちゃんに視線を向ける。

 

「まず1つ目だけど、昨夜、ここちゃんが足を捻っちゃったみたいで。リタイアはしないで頑張ってくれるっていう話なんだけど、あんまり無理はさせたくないこと、みんなに把握しておいて欲しいんだ」

 

 みんなからの視線が殺到し、居心地悪そうにするここちゃん。

 それをすぐに散らすように平田くんが声をあげる。

 

「もちろんだよ。探索も控える方向性になりそうだね」

「そうだね、むしろ安静にしなきゃだよっ」

 

 櫛田さんも同意する。

 女子からの人気が高い平田くんと、男子からの人気が高い櫛田さん。2人が私の発言に乗ることでクラスの方向性が決定づくのが定型になりつつある。

 

「それで2つ目だけど、金田くんはCクラスの龍園くんが送り込んだスパイだったことが判明しました」

「やっぱりかよ。そうだと思ったんだよな」

 

 最初、須藤くんがぶっきらぼうにそう言った。

 だけどその表情はそこまで敵意に満ちていない。

 みんなを見回してみても意外感はそこまで強くない様子。とは言え一部、特に親しくしていた幸村くんや三宅くんなんかは微かに表情を曇らせる。

 

「それはどういう経緯で判明したのかしら?」

「単に問い詰めただけだよ。昨日でもう4日間も一緒に過ごしてきたから呼吸は読めるし、嘘だなって思ったことを伝えたらボロが出てきた感じかな」

「……それで、朝起きたらいなかったのか」

「金田くんもこれ以上ここに居られないと思ったみたい。……ごめんね、私、余計なことしたかな」

「……いや、リーダーとして正しい判断だ」

 

 その返事とは裏腹に口調は重い。

 敵だと心の中で分かってはいても、同年代―――そして話も馬も合えば、仲良くならない方が難しかった。

 それが尾を引いているのは簡単に見て取れる。

 

「金田は何か言ってたか?」

 

 そう問いかけてきたのは三宅くん。

 彼もまた釈然としない表情で私を見る。

 

「騙していてごめんなさいと、仲良くしてくれてありがとうと。それを伝えて欲しいって頼まれたよ」

「……そうか。いや、悪い。気になってな」

「人の交友関係に口出しするようで悪いけど、……私が思うに、いい子だと思う。試験が終わったらもう一度、話しかけにいってもいいんじゃないかな」

 

 金田くんも自覚していた通り、可能なら、気持ちは直接伝えたほうがいい。私なりのアドバイスに幸村くんが頷いたのを見とって、私は話を終わらせる。

 

「結局、Dクラスのリーダーが誰かは見破られてないから、その点は安心して欲しい。私からの話はこれだけかな。なにか、質問ある人はいる?」

 

 洞窟の中を、私はぐるりと見回した。

 特に私の言葉を疑ってる様子はない。この様子なら、残り3日間も普通に過ごすことができそうだった。

 

「それじゃあ、そろそろ点呼の準備に移ろっか。他にも不安なことがあったら私か櫛田さん、平田くんあたりに相談してね。できる限り力になるからさ」

 

 みんなのストレスもそろそろ蓄積が進んでいる頃合い。ここからは特にメンタルケアが大事になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

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