私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第22話

 

 

 

 

 

 

 

「あいたたたたた……」

「動かないで。診察しづらいでしょう?」

 

 星乃宮先生の触診に、私は思わず呻く。

 無人島試験が終了する直前。

 最後の点呼を終えて一足先にリタイアした私は、帰還した船上の医務室でみぞおちを診てもらっていた。

 

「ここは痛む?」

「……少し」

「この様子だと、怪我したのは昨日か一昨日かしら」

「いや、3日前です」

「よくそれで3日間も動き回ってたわね……」

 

 星乃宮先生は呆れた様子でため息を吐く。

 

「まあいいわ。私は医者じゃないから確かなことは言えないけど、内臓が傷ついてたり、骨が損傷してることは無いと思う。でも無理は禁物よ? 今後数日間も痛みが長引くようなら病院に行ってもらうわ」

「……よかったです。ありがとうございます」

「それよりこの打撲痕、誰かに殴られた―――あるいは蹴られた? よかったら事情を聞いてあげるわよ」

「お気遣いありがとうございます。でも、ちょっとした小競り合いがあっただけなので全然大丈夫ですよ」

 

 向けられるジト目。

 自分でもだいぶ無理がある言い訳だなと思いながらも、龍園くんを売るつもりは毛頭ない。別に退学して欲しいと思ってるわけじゃ決してないからだ。

 

「…………まあいいわ。ひとまず、寝転がったまま待っててくれる? 応急処置の準備をするから」

「アイシングですか?」

「よく知ってるのね。部活でもやってたのかしら? 打撲痕が引いてきたら温めて血行をよくしないといけないけれど、今はまだ冷やす段階。今日から数日は、経過観察のためにこの医務室に来なさいな」

 

 私は素直に頷き、天井を見る。

 そろそろ試験結果の発表がある頃だろうか。

 大丈夫だとは分かっててもウズウズし始めた私を見て、星乃宮先生は私の顔の横にタブレットを置いた。

 

「結果発表なら中継で観れるわよ」

「……ありがとうございます!」

 

 どこかにカメラがあったのか、はたまた単にスマホか何かで撮影してるのか―――たまに映像がブレることがあるからたぶん後者だろうけど、タブレットからは、各クラスが集合している様子が伺える。

 俯瞰映像じゃないから各クラスの人数を数えるのに苦労するけど、数えなくても異様なクラスがひとつ。

 

 当然、Cクラスだ。

 映像に映っているのは伊吹さん1人。

 周囲の他クラスの生徒は、彼女の姿をチラチラと見ながら囁き合い、面白がったり不審がったりしている。

 

(……かわいそうに。龍園くんがリタイアなんだ)

 

 つい不憫な気持ちで私は伊吹さんを見た。

 その矢先のことだった。

 

「邪魔するぜ」

 

 ガラガラっという乱暴な音を立てて、私と先生のみが居た医務室の中に1人の男子生徒が乱入してくる。

 

「ちょっと! ノックぐらいしなさい?」

「よお嬉野。やっぱここにいたかよ」

 

 星乃宮先生の制止の声をスルーする龍園くん。

 いつもは愛らしい笑顔の先生の額に青筋がぴきっと走ったのを、私はとりあえず見なかったことにした。

 

「藪から棒に何? 龍園くん」

「クク、俺もリタイアしたことだ。少しからかいに行こうと思ってな。あン時から残り3日間―――てめぇには散々嫌がらせをしてやったが楽しめたか?」

「……全っ然、楽しくなかったよ?」

 

 そう、残り3日間―――。

 平穏無事に過ごせると思ってた私は甘かった。

 致命的な何かがあったわけじゃない。

 だけど例えば、ようやく見つけられた残り1箇所のスポットは先に龍園くんに抑えられていたり。他にもリーダーを見抜いたとか言って不安を煽りに来たりで、私は事態の収拾に手を焼かされることに。

 

「そうだろうな。俺も少し胸がすく思いだぜ」

「今度からやめてね」

「それは約束できねえ話だ。もし恨むなら、ついうっかり俺を楽しませやがった自分自身を恨むことだな」

 

 今後の学校生活が一層不安になってきた。

 私は諦めて顔を両手で覆う。

 

「それよりせっかくの機会だ。ここで葛城の絶望顔を見届けようぜ」

「私にそんな悪い趣味はないんだけど……」

「ハッ、あんな提案をしたてめぇがよく言うぜ」

 

 笑いながら、星乃宮先生に視線を向ける龍園くん。

 

「だがセンコーがここにいんのは邪魔だな」

「ちょ、ちょっと〜? 龍園くん聞こえてるわよ〜?」

「ああ? 聞こえるように言ったんだぜ」

「……すみません星乃宮先生。龍園くんはどうやら私に用があるみたいで。この埋め合わせはどこかでするので、少し席を外していただけませんか?」

「……分かったわよ。でも嬉野さん、何かあったら大声で助けを呼ぶのよ? 先生部屋の外で待ってるから」

 

 茶柱先生とはこれまた全然違う先生だ。確か保健室の先生であるのと同時に、Bクラスの担任。きっと生徒からの人気も高いんだろうなと思わされる。

 私は心配をおかけして申し訳なく感じながら、体を起こして、部屋を出ていく先生の後ろ姿に頭を下げた。

 

「……ふう。龍園くんその態度どうにかならない?」

「必要な場面じゃ敬意ぐらい払うぜ」

「うん、龍園くんに何を言っても無駄なのは分かったよ」

 

 とりあえず話したいことがあるなら早く済ませてほしい。

 だけど間が悪いことに、それより早く、タブレットの向こう側では試験結果の発表が始まろうとしていた。

 

 画面越しに感じられるみんなのざわめき。

 これまで私を信じて着いてきてくれたとは言っても、直前になって不安に思うことも出ているのだろう。

 

 だけどそれもすぐに安堵に変わるはず。

 

 改めて、生徒の前の壇上にあがったのは開幕の挨拶もしていた男の先生。Aクラスの担任の真嶋先生だ。

 私は頭の中で各クラスのポイントを予想しながら。

 龍園くんは薄ら笑いを浮かべて話を待つ。

 

「―――これより、結果発表を行う」

 

 ざわめきから、一瞬でしんと鎮まる浜辺。

 真嶋先生は続けて口を開く。

 

「まず4位から。Cクラス、64ポイント」

 

 順当な結果だ。

 多くの生徒の想像よりは多いだろうけど、その順位であることに驚きは少なく、ざわめきは起こらない。

 問題はその次の順位だった。

 

「続いて第3位―――」

 

 一瞬、資料を見た真嶋先生の手が止まる。

 

「……第3位。Aクラス―――70ポイントだ」

 

 その結果に一瞬、時間が止まった気がした。

 想定外も想定外。私の試算より遥かに低い残額。

 

「……龍園くん、何かした?」

「何かしたのはてめぇだろ。どういう絡繰りだ?」

 

 訝しみを帯びた視線が、私に送られる。

 混乱する私たちを他所に結果発表は続いていく。

 

「そして第2位。Bクラス、206ポイント」

 

 Bクラスからは歓声があがった。

 ただそれはすぐに静まり返る。

 すでに第4位から第2位が発表された。それが指し示すこと。不良品と蔑まれたDクラスの試験結果―――

 

「―――最後に、第1位。274ポイントでDクラスだ」

 

 その結果に、誰もが置いていかれていた。

 喜んでいいはずなのに歓声がすぐにあがらない。

 

 そんな中、私はもう一度頭の中で計算をし直す。

 Dクラスは高円寺くんと私のリタイア含めた残額が140ptに、拠点のボーナスが84の計224pt。

 それよりも50pt高い結果。

 

 一方でAクラス。

 残額は坂柳さんの欠席によって270pt。

 龍園くんの策略によってCD両クラスのリーダー当てを失敗し、龍園くんによってリーダーを当てられたとしても、まだ120ptは残っているはずだった。

 それが70……つまり、50pt低い結果。

 

(っ、まさか……!)

 

 恐らく誰よりも先んじて、私は真相に辿り着く。

 頭を鈍器でガンと殴られたかのような衝撃。

 試算から導き出される答えは1つだ―――それは即ち、DクラスがAクラスのリーダーを当てたということ。

 

 私はAクラスのリーダーを見抜けてない。

 そもそもリスクが高くて狙ってもいなかった。

 それを完璧に当ててみせる実力。

 

 思い当たる人物は、私の中に1人しか浮かばない。

 

 綾小路清隆くん。

 恐らくは初日、葛城くんと接触した彼は何かの拍子にAクラスのリーダーを見抜いてみせた。それを知らず、私が綾小路くんに権限を委譲した結果だった。

 

 

 

 

 

 

 ひとまず龍園くんは去り、星乃宮先生による治療を受け終えた私。そんな私の元にはまた来訪があった。

 これまたノックも無しに雪崩れ込んできたのはDクラスのみんな。興奮冷めやまないその表情を見て何かを察した星乃宮先生は、私がなにか言葉を発する前に、空気を読んで医務室を静かに後にする。

 

「ひまり!」

 

 真っ先に飛び込んできたのは須藤くん。

 私は目をぱちくりと瞬かせる。

 

「ちょちょ、須藤くん?」

「最高だぜひまり! 俺らぶっちぎりの1位だぜ!」

「……あ、うん。そうだね」

「どうやったんだよひまりちゃん! そういや、葛城を嵌めたって言ってたよな?! そういうことか?!」

「あ、えっと、それなんだけど……」

 

 綾小路くんがリーダーを当ててくれたんだよ。

 そう言おうとして、視界の端。静かに立っていた綾小路くんが、おもむろに首を横に振ったのを私は見た。

 

 その意図を汲み取れない私じゃない。

 

「ちょっと落ち着こう? 須藤くんも池くんも。嬉野さんも困っちゃってるよ」

「お、あ、悪い……」

「ご、ごめんひまりちゃん……俺興奮しちゃって」

「ううん、気にしないで。私が何をしたかっていうと難しい話になるから、端的に説明してくとね―――」

 

 私は改めてみんなに私の作戦を教える。

 ルールの穴をついたこと。

 それを利用してAクラスにリーダーを外させたこと。

 そして―――最後に、リーダーを当てたこと。

 

「すっご……そんなことまでやってたんだ……」

「本当に、全然気付かなかったわね……」

 

 これで私はよりみんなからの支持を得られる。

 綾小路くんはより裏で動きやすくなる。

 ポイントだってかなり増える。

 

 全ては綾小路くんの、目論み通りに。

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて無人島試験編は終結です!
感想や評価たくさんいただきましてありがとうございました!
たいへん執筆の励みになりました!

次話以降も(葛城くんのお骨を拾いながら)楽しみにしていただけますと幸いです!
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