私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第3話

 船内に戻ってから3日目の午後7時。

 早めの夜ご飯を食べ終えて部屋に戻った私たちの携帯が一斉に振動し、甲高い音を部屋中に響かせる。

 

 通知をオフにしても鳴り響く通知音。それはこの連絡が、学校側から送られたものである証拠だった。

 

「……やっぱり」

 

 私はそれを確認する前に小さく独り言つ。

 思い起こされる、坂柳さんの発言。

 それから坂柳理事長が私に伝えてくれたこと。

 

「これ―――また特別試験って書いてる」

 

 ひと足先にメールを見た櫛田さんが愕然と呟く。

 

「……そうみたいだね。午後8時、あと1時間後に集合してくださいって書いてる」

「えっ? ひまちゃん、午後8時ってほんと?」

「ん? 別にほんとだけど……」

 

 困惑を浮かべたここちゃん。

 私の頭にも疑問が浮かび、そのメールを覗き見る。

 そこには私とほとんど同じ文面のものが1通。ただし指定されている時間と集合場所だけが違っていた。

 

「櫛田さんとみーちゃんは集合時間いつなの?」

「えっと、私は午後8時ってなってるね。集合場所も嬉野さんと一緒みたい」

「私は7時40分……時間は井の頭さんと同じだけど、集合場所は違うかな。これってどういうことなの?」

 

 みーちゃんが疑問に思ってくれたことをすぐに聞いてくれたけど、私もすぐには理解ができていない状況。

 通常、試験開始時にはまずルール説明がある。

 それを抜きにして始まることは無い気がするけど、説明するならするで一括でした方がずっと効率的だ。

 

 それをわざわざ時間と場所で区別している。

 少人数の方が質疑応答はしやすそうだけど……。

 

「……や、まださっぱり。ただもしかするとクラス単位の試験じゃなくてグループ単位の試験なのかも」

「なるほど、さすが嬉野さんは理解が早いねっ」

「あはは、これは別に、何か根拠があるわけじゃないただの勘だからね? そんなにアテにしないでよ?」

 

 信頼されてるのは気持ちがいいしクラスメイトとして団結する上で必要だけど、盲信は毒になりかねない。

 私は今後のことを考えて少し釘を指しておく。

 

「でも憂鬱だな……。せっかくのんびりしてたのに」

 

 ここちゃんは静かに息を吐いた。

 この学校の不意打ちにもそろそろ慣れてきた頃合いだけど、せっかくのバカンスだ。残念感は否めない。

 

「なんにせよ詳細が分からないんじゃ作戦の立てようがないから、集合時間まではゆっくりしてよっか」

 

 他のみんなも混乱しているみたいで、Dクラスのチャットはひっきりなしにこの話題で埋め尽くされる。

 私はその話に時折り参加しながら、試験の詳細が明らかにればまた改めて話す機会を設けたいと伝えてからは、同室の3人との話に花を咲かせた。

 

 

 

 

 

 

 それから時間が経ち、午後7時50分。

 もう船内で迷うことはないけど、念のため、櫛田さんと一緒に早く出た私は一番乗りで集合場所に到着した。

 

 入った部屋はそれほど広くなく、だいたい20人も入ってしまうとかなり窮屈な印象を受ける程度だ。

 中には4つの椅子が横に並べられていて、その正面の椅子に座っていた面識のない先生から、私たちはひとまずこの4つのどれかに着席してと促される。

 

 残った座席はあと2つ。

 左に詰めるように座った私と櫛田さんは、まだ空いたままの座席を見てから、きょとんと顔を見合わせた。

 

「やっぱりグループ別の試験なのかな」

「その可能性が高そうだね。船内だし動き回るスペースはそんなにないから、頭を使うような感じかも?」

 

 それが何かは不明だけど想像するのは自由だ。

 やがて集合時間ギリギリになって、慌てた様子で、2人の男子生徒がドアを開けた。片方は少しぽっちゃりとした鬼塚くんと、もう1人は吹石くんという、ほとんど喋った記憶のない大人しめの男の子。

 

「集まったようですね。それではこれより、明日から始まる特別試験の説明を始めさせていただきます」

 

 その言葉が続く前に、手を挙げたのは鬼塚くん。

 

「あの、なんで4人なんですか?」

「質問は最後に受け付けます。まずはお聞きください」

 

 そう言われてしまっては何も口を挟めない。

 

 私たちが静かに聞く構えを見せると先生はすぐに資料を手渡してきて、自身もまた手元に資料を準備し、その中身を噛み砕くように説明し始める。

 

「試験内容は至極単純です。人狼ゲームは皆さんご存知かと思います。グループの中に紛れた人狼を話し合いベースに考え、探し出すゲームのことです」

 

 私もやったことはないけど理解はしている。

 全員が頷くと、先生はまた口を開く。

 

「今回の試験は、人狼ゲームのようなものだと思ってください。具体的にはクラス混合の各グループの中で1人だけ優待者という役職を学校側が指定します。ただし人狼ゲームとは違って、この役職には占いができるだとか、特別なスキルは全くありません」

「ク、クラス混合?」

「そうです。あなたたちDクラスだけでなく、AからDクラスまで混合のグループを複数作っています。2ページ目にその名簿を載せたのでご覧ください」

 

 促されるままにページを捲る私たち。

 そこに記載があるのは私たちのグループだけ。

 全員で13名。各クラスの人数が均等に割り振られてるのではなく、1クラスから3名あるいは4名が選ばれている。また欠席している坂柳さんを除くと1学年は159人。13で綺麗に割り切れないことから、いくつかのグループは14人で構成されていそうだ。

 

 大切なのは、おそらくその人数差によって不平等が生まれる試験ではない可能性が高いということ―――。

 

 私は1人、ページを戻しながら顎に手を当てる。

 

「試験説明に戻ります。学校側は干支になぞらえ、生徒を12グループに割り振っています。あなたたち4人は2ページに記載の通り羊グループです。基本的には、この4人で試験に挑んでいただきます」

「さすが嬉野さんっ。予想的中だねっ」

 

 櫛田さんだけでなく、他2人の男子も感心した様子で私を見る。私は気恥ずかしくなって頬をかいた。

 

「ここからが重要な中身です。あなたたちにはこれから3日間、毎日特定の時間に必ずお集まりいただきます。その場で何をするかは基本的には自由ですが暴力行為やその他公序良俗に反する行為が発見された場合には、厳重な処罰を下すことになります」

 

 要は話し合いベースで優待者を見つけろということ。

 監視が穴だらけだった無人島とは異なり、今ここに一台の監視カメラが天井の隅に設置されているのと同様に、話し合いの場も逐一見られてそうだ。

 

「そして最終的に、試験の結果はページ下部に記載の4種類に分かれ、各ポイントに影響を与えます」

 

 その言葉に、私たちは4種類の結果を注視する。

 

 結果1・グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員に50万ppが支給される。

 同時にグループ全員に100万rpが支給される。

 優待者と同じクラスの生徒もそれぞれ同様のポイントを得る。優待者には100万ppが支給される。

 同時に優待者には200万rpが支給される。

 

 結果2・優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、一人でも未解答や不正解があった場合、優待者に50万ppが支給される。

 また同時に、優待者には100万rpが支給される。

 

 結果3・優待者以外の者が試験終了の最終日を待たず答えを学校に告げ正解していた場合、正解者に50万ppが支給される。また同時に正解者に100万rpが支給され、正解者の所属クラスは20cpを得る。

 優待者の所属クラスは50cpを失うことになる。

 

 結果4・優待者以外の者が試験終了の最終日を待たず答えを学校に告げ不正解だった場合、答えを間違えた生徒が所属するクラスは50cp失う。

 同時に優待者には50万ppと150万rpが支給され、また優待者の所属クラスは50cpを得ることになる。

 

「詳細については配布資料を読み込むことです。ひとまずここで、何か質問がある人はいますか?」

 

 私は迷わず手を挙げた。

 

「嬉野さん。質問を許可します」

「ありがとうございます、最後の結果の部分に、聞き慣れない言葉―――rpという記載があったのですが、これは何かまた別のポイントなのでしょうか?」

 

 お金に代わる個人支給のものがプライベートポイントであり、ppと略される。ppの支給額にも関わり、また同時にクラスの査定にも関わってくるものがクラスポイント、略してcpなのは言わずもがな。

 だけどrpという記載はこれまで見た記憶がない。

 恐らくはこれが、私のお父さんが上にかけ合って急遽差し込んでくれた制度なのだと私はあたりをつける。

 

「尤もな質問ですね。こちらのrp、正しくはリザーブポイントは、今回から新たに導入されるポイントです」

「……リザーブ?」

「名詞なら蓄えという意味だ鬼塚」

 

 先生の説明に、吹石くんがそう補足する。

 

「こちらは1rpと1ppが同額の換算になりまして」

「まじかよ?! じゃあ優待者が結果1を狙ったら300万ppってことか! めっちゃ神制度じゃん……!」

「……鬼塚、先生の話を遮るな。たとえ同額の換算であっても同じ扱いをするなら新制度とは言えないだろ」

「吹石くんの指摘通り、こちらはppと同様に、つまり日常生活で使用することはできません。ただしpp同様に個人間でのやり取りは原則自由になっています。そしてここからが、rpの根幹になっています」

 

 続く言葉を、固唾を飲んで待つ私たち。

 これはきっと重要なアイテムなのだと―――そんな予感が、私以外の3人にも同様にある様子に見えた。

 

「このポイントは退学者を救済する際にのみ使用できます。それ以外の使用用途はありません。ただしその際に、ppと併用いただくことは可能です」

「……まじ?」

 

 その説明に、私は思わず素で声をあげた。

 坂柳先生の口ぶりから新制度は退学に関連する何かだと分かってはいたものの、その全貌が明らかになることで、私の心にわずかな余裕が生まれる。

 

(……ありがとう。お父さん)

 

 きっと、かなり無理にかけ合ってくれたはずだ。

 察するにppと違って普段は使えないのがミソ。

 これがppに代わる決済手段なら政府はこの学校に更なる資金を投じないといけないけど、これなら今のウォレットアプリに新たな項目を設けるだけで済む。

 

 とは言えすぐにとはいかないはず。

 恐らくは綾小路先生が手を回すのに先んじて、お父さんは退学者を救済する方法を講じていたのだろう。

 そうすることで今回の試験に間に合わせた。

 知らないところで動いてくれていたことに心の中で再度ありがとうを言いながら、私は小さく息を吐く。

 

 これでも慢心するわけにはいかない。

 今回の試験からではないようだけど、退学者が急増するタイミングがどこかで訪れるのは確実だからだ。

 

 要は今回の試験はモラトリアム。

 お父さんと坂柳先生が用意してくれた猶予。

 この間に、いかにrpを集められるかが肝要になる。

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