私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第4話

 午後10時前。

 クラス全員が試験説明を受け、みんなはもう各々自室に戻っていること。報告を受けた私は電話を繋ぐ。

 

 ここから、まずはクラスの作戦会議の時間だ。

 船内の大部屋を借りることも考えたけど、他クラスに妨害されないとも限らない。大変だけどグループ通話の形で、私や櫛田さん、そして堀北さんと平田くんだけがカメラをオンにしての参加になる。

 

 それに伴って、部屋の防音性は確認済みだ。

 通常の通話の声量程度なら問題なかったため、大声だけはあげないようにと注意だけして私は話を進める。

 

「まずは試験の概要についてだけど、みんな理解はできてるかな? まだ分からないっていう子がいたら、スレッドの方でリアクション送ってほしい」

 

 みんなが好き好きに話すと収拾がつかなくなる。

 対面だったら空気を読んである程度声をあげていい場面か察せられるけど、SNSでは難しい部分がある。

 一方でアプリの最初のバージョンでは、送ったチャットにリアクションのスタンプを貼ることができる。

 今回はそれを活用させてもらった形だ。

 

 少しの間待ってみてもスタンプがつかないのを確認して私は小さく頷き、みんなに向けて再度口を開く。

 

「……質問無さそうかな? もしここじゃ恥ずかしいよって子がいたら、いつでも、私か堀北さんのほうに個別で送ってくれたら対応するから安心してね」

 

 みんなの顔が見えないのがもどかしい。

 かと言って、40人全員の顔を表示するには、学校が支給してくれた携帯端末はあまりに小さすぎた。

 私はまず、みんなを安心させながら話すことができているはずだと自分を納得させながら話を続ける。

 

「それで肝心の明日からの作戦だけど―――残念ながら、無人島試験の時みたいにルールの穴をつくようなものはすぐには思い付きそうにない。とは言っても大まかに目指す方向性があるとやりやすいかな」

「そうね。手元に配布された資料を置いているのだけれど、クラスとしてどの結果を目指すか、くらいは共有してもらえたらやることが明確になるわ」

 

 堀北さんの合いの手に、私はすかさず追従する。

 

「そうだね。当然、クラスとしては勝ちを狙っていきたい。だけど今回、新しくできたリザーブポイントが欲しい子も多いと思う。みんなどうかな?」

 

 スレッドの方には続々と肯定のスタンプが届く。

 そんな中、山内くんの声が通話の静けさを破った。

 

「俺は欲しい! ……いや、別に俺は大丈夫だけど、っぱ友達として? 寛治と健のことは心配だし」

「はあ?! 退学したくないって素直に言えよ春樹!」

「はいはい、池くん叫ばないの。他クラスに聞かれちゃったらまずいとは、最初に説明していたはずだよ」

「わ、悪い……」

 

 しゅんと萎れた声を返す池くん。

 私はなんだか悪いことをしているような気になったものの、ひとまず咳払いをして、強引に話を進める。

 

「山内くん以外にもそういう子は多いんじゃないかなって思ってる。だから必ずしも勝つこと―――つまり結果3の優待者当てを狙うべきとは思わない」

 

 外せば−50cpに加え、相手に+50cp。

 これが3年生の終盤の試験だったらリスクを承知で攻める必要性も高かっただろうけど、私たちはまだ入って間もない。せっかく得たばかりのクラスポイントをここでまた吐き出すのは大きなマイナス。

 

「だから―――。うん、私としては、無闇にはクラスポイントを追わないってのをクラスの方向性にしたいかな。実際に結果1を狙うか結果3を狙うかは、まずはみんなの自主性に任せても大丈夫かな?」

「僕は賛成だよ。最初に片方だけに絞ってしまうと、もう片方の結果を狙いたい子を無視してしまうから」

 

 平田くんの賛同に、櫛田さんも同意した。

 ただそこに、堀北さんが少し待ったをかける。

 

「方向性はそれで良いと思うわ。けれどそれは優待者にならなかった生徒の戦い方よね?」

「そうだね。確か、明日の朝にまたメールが送られてきて、そこで優待者かどうか分かるんだよね? うん、送られてきてからグループで話し合いがあるまで少し時間があるはずだし、優待者だった子は、なるべく早く私に連絡もらえたらありがたいな」

「あなたには優待者だと明かすということね?」

「ちょっと気になることもあるし、可能ならそうして欲しい。その上でどういう方向性で戦うかはその子の意思を尊重しながらフォローさせてもらうよ」

 

 具体的な作戦までは今はなんとも言えない。

 それでも困ったことがあれば私が補助に入ることを強調して、私はひとまずみんなの懸念を取り除く。

 

 その後は特に議題があがることもなく話が纏まり、この場はお開きになる。次々とみんなは通話から退出し、やがて私と堀北さんの2人きりになった。

 尤も、自室から通話してるので、ここちゃんと櫛田さん、みーちゃんの3人は今も隣にいるんだけど。

 

「お疲れ様堀北さん。最後まで抜けずにいるってことは、私に話したいことがある感じかな?」

「ええ、あなたにお願いがあるのよ」

「ちょっと待ってね。今これ、スピーカーになってるから。カメラオフの普通の電話に変えよっか」

 

 みんなの前では話さなかったこと。

 だいたいその内容も想像つくし、堀北さんとしては、可能ならここちゃんたちにも聞かれたくないはずだ。

 私は同室の3人に目配せをした後、通話の設定を変更して、画面を耳に押し当てる。そのまま自室の洗面所に入って、さっきよりも小さく口を開けた。

 

「無人島試験のとき、体調が戻ったらって約束したもんね。たぶんそのことだよね?」

「……ええ、そうよ」

 

 堀北さんの声音は真剣そのものだ。

 

「うん。そのことだったら、堀北さんにはいくつか表立って動いて欲しいことがあるんだ。さっき言ったでしょ? 気になってることもあるしって」

「具体的な内容は教えて貰えないのかしら」

「偉そうな言い方になっちゃうけど、無人島の時も言ったように、堀北さんには期待してるの。私の代わりにリーダーを務められるようになってほしい。だからいきなり答えを教える、っていうのもね?」

 

 大切なのはその発想自体じゃなくて、その発想に至るプロセスだ。数学の問題を解いていて解答を斜め読みしても意味が薄いように、そうなんだ、という納得で終わるだけでは次の機会に活かしにくい。

 

「……確かに。私のほうでも考えてみるわ」

「うん、ありがとう。ちなみに明日の予定っていうか、グループ内の話し合いの時間は覚えてるかな?」

「午前10時からと午後5時からの2回ね」

「そうだね。優待者のメールが送られてくるのが確か午前9時頃。最初の話し合いまでの1時間は私はみんなの相談に乗らなきゃだし、答えはその後に堀北さんに伝えるから、そのつもりでいて欲しいかな」

 

 それで納得をもらい、私は通話を終わらせる。

 船上試験のこと。堀北さんのこと。それから政府の意向に、新たに導入されたリザーブポイントのこと。

 今は考えないといけないことがたくさんある。

 私が思考を止めることは許されない。

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 予定通り9時過ぎには、優待者かどうかのメールが送られてきた。学校によると厳正な調整の結果、私は優待者に選ばれなかったらしく、みんなに軽くアドバイスをしてから私は集合場所へと移動する。

 

 同グループの櫛田さんと鬼塚くん、吹石くんとはもう意思疎通を済ませていて、未グループは可能なら結果1に持っていきたいのが私たちの考えだ。

 

「失礼します」

 

 指定された部屋に入ると、中には私たちDクラスより早く到着したAクラスの生徒たちが寛いでいた。

 中には見知った子もいて私は小さく手を挙げる。

 

「おはよう、橋本くん」

「よっ、ひまり。まさかお前と同じグループになるなんてな。まじで今回はお手柔らかにお願いするぜ」

「あはは、そんなに警戒しないでよ。最近ずっと他クラスの子から遠回しに見られてて辛いんだから。私だってできるならみんなと仲良くしたいのに」

 

 私がため息をついたその時、舌打ちが耳に入る。

 そのまま立ち上がり私を睨め付ける1人の男子生徒。その手に押し除けられた橋本くんが小さく抗議する。

 

「おっとと。押すなよ戸塚、危ねえだろ」

 

 その注意は、戸塚くんには聞こえてない様子だった。

 今にも私に掴みかかってきそうな気配。

 ピリッとした一触即発の空気が室内を満たす。

 

「……私、なにかした?」

「お前のせいだ」

「え?」

「お前のせいで、葛城さんは今大変なことになってんだ! ……それが、できればみんなと仲良くしたいだって? ふざけるのも大概にしろよ嬉野!」

 

 その怒りに、私は思わず目を逸らす。

 ポイントのため。そして諦めかけた龍園くんに発破をかけるためとは言え、酷いことをしたのは確か。

 

 先の試験で葛城くんが負ったダメージは、リーダーを続ける上で致命傷に近い。恐らく一番近くで、葛城くんを支持してきた戸塚くんが怒るのも当然だ。

 

「…………ごめん」

「な、謝るならなんであんなこと―――!」

「おいおい、ちょっと待てよ戸塚。先に龍園と結託してDクラスを嵌めようとしたのは葛城だろ。それが嵌め返されたのを怒るのは逆ギレにも程があるぜ。そもそも敵クラスなんだから仕方ないことだろ」

 

 やれやれと、橋本くんは肩を落とした。

 その嘲笑混じりの視線に戸塚くんは息を詰まらせる。

 

「それでも……、ごめんね戸塚くん。さっきの私の発言は軽率だったと思う」

「…………分かればいいんだよ分かれば」

 

 顔を背け、少し離れた場所に座り込む戸塚くん。

 私は申し訳なさに襲われながらその背中を目で追っていたものの、橋本くんの言葉に視線を引き戻される。

 

「全く、悪いな嬉野。初っ端からこうなっちまって」

「……ううん、戸塚くんが怒るのも正当だよ。確かにこの学校のルール上、仲良くっていうのは難しいし。だからといって、他クラスを蹴落とすことに忌避感が拭えない子だって、きっと多いはずだもん」

 

 胸の前で、私はぎゅっと胸を握りしめる。

 

「だからこそ先に私の意思を伝えたいな」

「意思?」

「うん、まあ……、まだグループ全員が集まってないから後でもう一度言い直すつもりだけど―――今回の試験、私は結果1を目指したいなと思っている」

 

 それは唯一、他クラスを蹴落とさずに、全クラスが利益を享受する方法。だけど考え方は人それぞれだ。簡単にはいかない予感もまた私の中にあった。

 

 

 

 

 

 

 




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