私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第6話

 Bクラスとは協力すると堀北さんに言ったものの、直接会うのは夜中、人目を避けてになる。

 そのため午後は各グループの様子や困ったことがないかどうかを聞いて回り、もうすぐ次の話し合いが始まるという時間。今朝と同じ集合場所に向けて廊下を進んでいた私の元に、電話がかかってきた。

 

「もしもし、幸村くん?」

 

 私は歩きながら相手の名前を呼ぶ。

 幸村くんは何やら少し言い淀んだあと、意を決した様子で、大きく息を吸ったのが端末越しに聞こえた。

 

「その、嬉野に相談したいことがあるんだが……」

「もうすぐ次の話し合いが始まっちゃうから中途半端になっちゃうかもしれないけど、それでも大丈夫?」

「あ、ああ、悪い。さすがに直前すぎたか」

「や、勘違いさせちゃったらごめんね。相談自体は全然大歓迎だから是非話して欲しいな。ただその内容によっては私も考え込むから、申し訳ないけど、すぐには答えを出せないかもっていう意味だった」

 

 その返事に、幸村くんは少しほっとした様子。

 

「助かる。……相談というのも、大したことじゃないんだ。ただ偶然、金田と同じグループになったからな。嬉野ならどう接するのがいいと思う?」

「幸村くんは金田くんと仲良くしたいんだよね?」

「それは当然だ。だが……少し、気まずい気持ちもある。クラスが違う以上仕方ないことは、頭では分かってるつもりだ。だがスパイだったと知って、俺が見てきた金田はどこまでが本心だったのか……」

 

 私は相槌をうちながら、その告白に耳を傾ける。

 他クラスとの生徒との接し方。その在り方は1つだけじゃなくて、これといった正解があるわけじゃない。

 だからこそ今の短時間で言えることはシンプルだ。

 

「仲良くしたいなら、前と同じように話しかけてみることだよ。ぎこちなくても全然いい。大事なのは気持ちだと私は思うかな。気まずいながらも、また話したいって、その気持ちが伝われば十分だと思う」

「……そんなのでいいのか?」

「そんなのだからいいんだよ。真面目な話を切り出してもう一度仲良くなろうっていうのもいいけど、堅苦しくなっちゃうでしょ。もっとリラックスして今までみたいに話してみた方がきっと喜ばれるよ」

「……嬉野が言うと、本当にそう思えてくるのが不思議だな。参考になった」

「勇気が出たならよかったよ。もし何かあったらまた連絡してね。今度はもっとたっぷり時間をとってあげられるし、2人の間に入ることもできるよ」

 

 とは言え、それは杞憂だと私は感じた。

 幸村くんの声には最初より力がこもっている。

 

「感謝する」

「うん、それじゃあまたね。特別試験の話し合いも大変だと思うから、そっちも困ったら相談するんだよ」

「ああ、分かってる」

 

 それで電話を切り、私は足を早める。

 そのまま時間ギリギリに部屋にたどり着くと、もう他のみんなは集まっていて和気藹々とした様子だった。

 

「ごめん、待たせちゃったかな」

「いや、気にするな。集合時間までまだ少しある」

「まあでも、嬉野も来たことだしさっさと話し合いを始めようぜ。それともまたトランプでもするか?」

 

 最下位確定のな、と服部くんが付け加えた。

 

「もう! 次やる時は絶対負かすからね!」

「ははは、これほど危機感を覚えない宣言もないな」

 

 その返しに私はぐうと唸った。

 それからまた少し盛り上がりかけるグループだけど、神崎くんの冷静な声によって本来の目的に立ち戻る。

 

「話を遮って悪いが、そろそろ話を進めないか? 嬉野、なにか案はあるか?」

「……うーん、そうだね。いきなり議論を交わすっていうのもなんだしさ、まずは私が結果1を目指したいなって思った理由を聞いてもらえるかな?」

「確かにそれは気になるところだぜ。今でこそ仲良くやってるが、極論、俺らは敵同士だからな。クラスポイントの増減がない結果ってのはどうにも」

 

 橋本くんの指摘は、他の人も思うところ。

 私は櫛田さんたちにも事前に伝えたことを明かす。

 

「そうだね、クラス間競争っていう観点から離れてるかもしれない。……ただ、どうにも不安なことがあるの」

「なにが不安なんだ?」

「新しい制度としてrpが導入されたでしょ? 私は生徒会役員だからこの学校の過去のこともある程度知ってるんだけど、これまでそんなにいきなり、退学周りの制度に手入れが入ったことはないんだよ」

「それがどうかしたのか?」

「うん、大事なのはここから。この学校は国が運営してるのは周知のことだと思うんだけど……、つまり政府の意向がこの意思決定に反映されてるはず」

 

 確かにそうだなと神崎くんが相槌をうつ。

 もう既に、ここからの話を知っている櫛田さんに鬼塚くん、吹石くんの3人は深刻な表情で話を聞いていた。

 

「その場合このrpの導入は、退学周りの緩和と考えられるよね。でもこれは楽観的に考えた時の話。深読みをするなら、今後、今までより厳しい試験を実施することの前触れだと考えることもできないかな」

 

 坂柳先生から聞いた話を、当然そのままは話せない。でも結論から逆算して、裏事情を知らない人にもある程度の説得力を持たせる推理にするのは可能だ。

 

「……さすがに考えすぎじゃね?」

 

 最初に声をあげたのは橋本くん。

 私の真意を伺うような視線を向けてくる。

 

「杞憂だったらそれが一番いいよ。でもそれを否定する材料だってない。だから私は、将来のための備えとして、今のうちにたくさんのポイントを稼ぎたい」

「―――rp、その正式名称はreserve pointだったな」

「神崎も気付いたか。俺も嬉野の発想に気付かされたんだが、reserve、つまり蓄えという意味の英語が使われているのはその暗示に思えてこないか?」

 

 吹石くんの付け足しに、沈黙に覆われるグループ。

 今のところみんなにとってこれは仮説に過ぎない。

 だけど池くんや山内くんみたいに、それを杞憂だと笑い飛ばせる考え方の持ち主はここにはいなかった。

 

「……そ、それが本当なら、やばくない……?」

 

 Cクラスの女の子が不安に瞳を揺らす。

 

「そう。だから結果1を目指すべきだと私は思う」

「俺も全てが疑わしく思えてきたぜひまり。今ざっと計算してみたんだが、仮に全グループが結果1で終えたとして、学年全体に支払われるppとrpの総額は8600万ってところだ。つまり各クラスが1人は救済できる計算。これは偶然と考えてもいいのか?」

 

 恐らく、これも偶然じゃない。

 たぶん上にかけ合ってくれた私のお父さんが、私ならその結果まで導けると踏んで設定されたポイント。

 

「……でも、簡単じゃなくないか? このグループだけ結果1とかならまだしも、全グループ……。龍園のような奴がいる限り机上の空論に思えるよな」

 

 服部くんの指摘に、確かにと頷く声が複数。

 私もさすがに同意だ。

 例えば服部くんが挙げた龍園くんは、仮にクラスから退学者が出ても気にも留めないだろう。これが優秀な生徒が退学することになるなら違うかもだけど、基本的には、そうでない生徒からあぶれていく。

 

「事情は前にも話した通り、俺らも難しいかもな。だがこの話を葛城に伝えることは全然できるぜ」

「ありがとう。お願いしてもいいかな橋本くん」

「ああ、Cクラスも……あー、龍園に言えるか?」

「もし龍園くんが怖いようだったら、私から頑張ってコンタクトをとってみるけど……。どうしたいかな?」

「……あのっ、それぐらいは、やってみます……!」

 

 その意気込みに、私は重々しく頷いた。

 

「ありがと、お願いね。何かあったら私に相談してくれてもいいから」

「はいっ! あの―――嬉野さん!」

「ん?」

「その、この試験とは全然違う話になっちゃうんですけど、石崎くんが言ってたんです。何かあったら嬉野さんが守ってくれるって。それに、無人島の試験があってから、龍園くんの威圧も前より控えめな気がして……嬉野さんが何かしてくれたんですよね?」

 

 若干の尊敬混じりの瞳に、私は少しのけ反る。

 いつのまにそんな話も広まっていたらしい。

 確かに龍園くんには釘を差したし、実際それ以降は静かなのだと当のCクラスの生徒が言うのなら、私の影響も否めないというか大いにありそうだ。

 

「少し、龍園くんに注意しただけだよ。Cクラスのみんなが少しでも過ごしやすくなってるなら良かった」

「はい! その、ありがとうございます……!」

 

 その感激具合から、逆に、これまではよっぽど酷い空気だったんだろうなというのが容易に想像ついて、私は目頭が熱くなったのを瞬きして誤魔化す。

 そこにニヤニヤ笑いながら、茶々を入れる橋本くん。

 

「よく分からないが、やっぱり番長だったんじゃないか? あの龍園に物申せるなんてな。服部はできるか?」

「……無理だな。嬉野番長ならあるいは……」

「そのいじりやめてね?! 違うからね?!」

 

 私が噛み付くのを2人は笑いながら躱す。

 少し重くなった空気も取り除かれた瞬間だった。

 

 まるで冷や水を浴びせるように、全員分の端末の電子音が、機械的な『結果』を私たちの元に届ける。

 

『申グループの試験が終了しました。申グループの生徒は次回以降の集まりはありません。お疲れ様でした』

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